行也君の受難の日々

 

 いつもと同じように教室に一番に着く。

鞄を放り投げ机の中へ教科書を乱暴につっこむと、手に何かが当たった。

なんだこれ・・・封筒みたいだ

そっと取り出すと、「中村行也様」とまぁるい字で書いてある。

も、もしかしてこれって・・・・・ラブレター!?

急いでトイレに駆け込む。硬派で売っている俺がラブレターなんか貰ってニヤけてる所

なんて見られたら大問題だ。

朝早いのでまだトイレにも人はいない。アンモニア臭が漂うこの場所でもラブレターを

貰った、と思うとなんだか気分がよくなる。

個室に入り丁寧に封筒の端を切って中身を取り出す。

やっぱり・・・女の子からだ。小さくて丸くてすこし右上がりの可愛い文字、所々に使

われているハートマーク。あぁ俺にラブレター寄越すなんて!うれしいじゃねぇか!

手紙にはお決まりのようだが、

「あなたが好きです。放課後社会科準備室で待っています。絶対きてください」と書か

れていた。

 それにしても誰だろうな?焦って差出人を確認するのを忘れていた。緊張して手紙を

裏返す。・・・・名無しだ。当選といっちゃー当然か。

まぁ放課後になれば誰かわかる。だけど、やっぱ誰だか気になってしょうがない。こん

な動物の描かれている少女趣味のレターセット使う奴。ウチのクラスで考えられるのは

文芸部の野田 綾、岡崎桃子。陸上部の結城 紗枝。あと委員長の佐藤 桐江だ。ウチ

のクラスだけとは限らないけれど・・・。だけどいつの間に?下駄箱にはまだ誰の靴も入っ

て無かったぞ。

 手紙を封筒に戻し、そっと誰もいないことを確かめてトイレからでる。はぁ、見られ

なかった。ため息を一つ付き教室へ戻ろうとしたそのとき、

「中村君、おはよう」

少しトーンの高い声が後ろから聞こえた。ギクッ。

振り返ると同じクラスの飯島瑞貴が立っていた。俺よりも20センチ程背の低い中世的な

顔立ちの男・・・。

「お、おはよう」

怪しまれないように俺にしてはとびっきりの笑顔で答える。

「なんだか嬉しそうだね、いいことでもあったの?トイレで」

ゲッ、見られてた。いつの間に・・・・?

そう言うとそれじゃあまた後でと言い残し教室の方へ向かっていった。シャンプーの仄か

な残り香を残して・・・・。

なんだ、男のクセにいい匂いさせて。

飯島はその風貌から女子にはすごい人気だったけど、なぜかみんな断っているらしい。噂

ではアイツはホモだという。なんとなく納得出来る話だと思えるから不思議だ。アイツ

なら男だって下手すりゃなびいちまうだろう。

俺はご免だ。抱くならやっぱり柔らかい女の子がいい。

 

 それから放課後まではすごく早く感じた。

6現目の終了のチャイムがなると同時に特別教室がある別棟へダッシュ。クラブ活動の

為、別棟にも沢山人が来る。そいつらになんとか見つからないように行かなければ・・・。

社会科準備室は3階の一番奥だ。かなり呼吸が荒くなってきた。いかん、これでは只の

変態だ。ハァハァハァ・・・少しゆっくり歩いて落ち着かせる。

俺の方が先に着いているだろうか。目の前まで来ると手が震え出した。なんせラブレタ

ーをもらったのは生まれて初めてだ。自分で言うのもおかしいけど、顔も悪くは無いし

背も十分高い。勉強は中の上で、スポーツはできる方だ。なのに一度も女の子と付き合

ったことはない。それはやっぱりみんなのイメージが俺を「手の付けられない奴」だと

認識されているからだろう・・・。中学の頃大分悪いことをやったのは確かだ。オヤジが

ニューハーフのクラブなんて初めて、かなりキレていたからな。同級生の奴等には内緒

にはなっているけど、それでも俺には十分な位の屈辱を味わった。

それでも高校にはいってからは、何とか理解するように努力してきた。店の手伝いも

するしな。バーテンダーとして開店から夜10時まで。手伝いをするようになってから

彼ら(彼女たち)の見方も大分変わった。その辺にいる女共よりずっと女性らしくて

繊細で、綺麗だ。もちろん外見のことではない。内面が、だ。

 そんなわけで、女の子にもてなかった俺だけど、やっと春がきたのかもしれない!

深呼吸をしてドアをあける。ガララララッ・・・・・・居た。もう居るよ、素早い女〜。

俺に背を向けて立っている。サラサラなストレート、短めのスカートから伸びた細く

て白い足。ルーズソックスが妙に似合う。こ、これは結構な上玉に違いない!

 

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