「大事なこと」...

 

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2003年9月12日 

大事なこととは?

 

 突然ですが、日本語と英語の違いとは何だと思いますか?

 

 もちろん、日本語と英語の間にはさまざまな違いがあることでしょう。その中のひとつとして、「日本語では大事なことを後で言い、英語では先に言う」ということがよく挙げられます。あなたはこれを信じますか?

 

 昨年私が出会った本の中に、外山滋比古著「英語の発想・日本語の発想」という本がありました。この本はNHKブックスのひとつで、NHKラジオテクスト「英語会話」誌上に連載されたものの一部が盛り込まれています。つまり、日本放送が認めることが書かれているわけですね。この本では、日本語と英語におけるセンテンス(つまり文のことです)の違いについて「日本語はどちらかというと大事なことがあとの方へくるのに対して、英語は大体の方向づけをはじめではっきりさせるようになっている」と述べられています。しかし、これは本当でしょうか?一緒に少し考えてみましょう。

 例えば、仮定表現について。外山氏によると、英語では仮定表現を表すとき、仮定を表わす部分はifではじまるけれども、日本語は「〜ならば」で終わるという具合に、仮定を表わす言葉が最後に来る場合があるといいます。しかし、外山氏は言及しなかっただけかもしれませんが、日本語では常に「〜ならば」までこなければ仮定話と気付かないわけではありませんよね。「もし」を頭に置いてあげればいいのです。特に、日本語で仮定の話をするときに、「仮にの話だ」と強調したい心理が働くときには「もし」を使うことが多いのではないでしょうか?

また疑問文を考えてみましょう。平叙文と異なった語順になるDo you〜やIs/Are〜ではじまる疑問文については、文頭部分が疑問文である事の標識となっているといえますね。日本語では「〜か」にあたると思われるので、なるほど、外山氏の記述に当てはまります。では疑問詞の文を見てみます。英語の文では、疑問詞が文頭に置かれるので、これも異常ないように思われますよね。しかし、日本語だって文頭で疑問文であることをほのめかすことができます。例えば、Where do you live?。この日本語表現はと言いますと、「あなたはどこに住んでいます」ですね。それから、「どこにあなたは住んでいます」と言うこともできます。どうでしょう?「大事なこと」は日本語では後に言うといえるのでしょうか。もう少し進んで受け答えについて考えてみると、Where do you live?に対してI live in Tokyo.ということもできるし、「あなたはどこに住んでいますか」と聞かれて「東京です」ということもできるのです。 もっと言うなら、英語において疑問詞で始まっているからといって必ずしも疑問文ではないこともあります。What is needed is [are] books.(必要なのは本です。)のように。

 

ここで私が思うのは「大事なこと」の定義とは何なのか、ということです。英語を学ぶ上で「英語では大事なことを先に言うのよ」と教えられた覚えはありませんか?私は中高生時代に何度か耳にした覚えがあります。そして、語順を迷ったときに思い出して、また悩むのです。「大事なこと」ってどれかなぁ

 

 何かを伝えようと日本語を使う時に、私たちは何を思っているのでしょうか?その中で「大事なこと」とはどの言葉で表現されますか?それらは後のほうに表現されることが一般的ですか?反例の多さは一般化を阻止するに十分です。

 私たちは言葉をいろいろな形で利用しています。そしてその使用方法は状況に応じて様々です。「大事なこと」も状況や発言者によって同じ一文の中でも異なってきます。言葉とは、発言者の意図により、英語であれ、日本語であれ、はたまたおそらく、中国語であれ、ロシア語であれ、それぞれの言語の文法によるある程度の規制の中で自由に語られるのです。伝えよう、語ろうとする気持ちがなければ、言葉は存在しないのです。「大事なこと」を言い忘れることも、あえて言わないようにすることも我々の世界には起こっているのではないでしょうか?

 一般論として「日本語はどちらかというと大事なことがあとの方へくるのに対して、英語は大体の方向づけをはじめではっきりさせるようになっている」と信じきることは、「大事なこと」自体が非常に曖昧であり、言葉を考える上で大切なことを無視した態度といえるでしょう。

 


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