明日へ… あとがき

「あした死ぬってのが分かったとしたら、お前なら何する?」
学生時代、バイト先でそんな話題が出たことがありました。
「女を犯しまくる」とか、「死ぬ瞬間まで好きなことをやり続ける」なんてこたえが圧倒的に多かったように覚えてます。
でも、僕ならどうするだろう?
きっと、何もしないんじゃないだろうか。いつもと同じ日々を過ごし、何事もなかったかのように死んでいけたらいいな、って思いました。

その話題が出た日、僕は部屋に帰ってからもずっとそのことばかり考えていました。
バイト仲間が言ってたことがぐるぐると頭の中を駆け巡り、「もし3人が『あした死ぬ』って宣告されたら、その3人はきっとバラバラな生き方をするんだろうな」なんて考えてるうちに、これをネタに小説書いたら面白いんじゃないか、と思ったのが「明日へ…」を書いたきっかけです。

最初は、3人の仲間が「よく当たる」と評判の占い師に「あんたら3人とも、3年後に死ぬ」って宣告されるシーンから書き始めたんですが、ストーリーがちっとも膨らまない。1人は犯罪者に、1人は引きこもって趣味に没頭、1人はいつもと変わらず…って考えてたら、犯罪者になる奴は、すぐに捕まってしまうんじゃないか、そしたら、ちっとも面白くない小説になってしまう、と思ったからです。
んで、確実に死期が分かり、なおかつ犯罪者も捕まらない、という設定を考えてると、タイムマシンに行き着きました。これなら世の中全部がぐちゃぐちゃになるから、殺し放題、犯し放題。その中で普段と変わらぬ生活を送ろうとする主人公がいたらどうなるんだろう? って考えながらあらすじだけを書いてみました。それが書いてるうちに「あらすじ」では済まない長さになってしまい、そのまま「小説」という形で書き上げてしまいました。第一部があっさりしてるのはその名残です。
最初の設定(占い師バージョン)で考えた登場人物3人をそのままもってきて、アキラ、サトル、そして「僕」としました。ちなみに「僕」は最初、「タクヤ」という名前がついてたんですが、結局、最後までその名前が出てくることなく、タイムマシン・バージョンが終わってしまいました。

タイムマシンという設定を思いついたら、あとは物語が勝手に走っていったような感じです。「五年後に世界が崩壊する」という「最終目標」へ向けて、まっしぐらに筆が進みました。第二部の最後で、話のつじつまが合わなくなってしまい、落としどころが分からなくなって困ったりもしましたが、第一部でなんとなく書いた部分が意外な伏線になってて、第二部を書き上げた時、自分でもちょっと驚きを感じました。映画「セブン」のような、救いのないエンディングを書きたいと思ってたところに、ズバッとはまったような感じですね。

第三部を書くのには、かなりの戸惑いがありました。第二部できれいに終わってるんだから、これ以上必要ないだろうと思ったんですが、実は「明日へ…」とは別にあるストーリーを考えてて、それもタイムマシンを重要なファクターにしているので、そのお話に続けるために無理やりくっつけたような感じです。
それと、第二部までを友達に読んでもらった時に「ハッピーエンドの方がいい」って言われたのも一つの大きな理由かな。
いずれにせよ、「明日へ…」だけで完結するなら、かなり余計な内容だし、終わり方が我ながらクサイ。書いててちょっと恥ずかしかった。
んー、でも、この小説で書きたかったことって「人の心」だから、蛇足かもしれないけど、やっぱり第三部があった方が、全体としてまとまりがあるかもしれない。

今までにも何本か短い小説は書いてたんですが、自分の意思とは関係なく話が進んでいったのは、これがはじめてで、書いてる僕自身が読者でもあり、ノートの中で好き勝手に振る舞う登場人物たち、特に主人公の「僕」を見てるとすごく面白かった。書きあがったときは「本当に自分が書いたのだろうか」っていう不思議な感覚に襲われました。作曲するときにも似た感覚で書けた。
多分、今後、これ以上のものは書けないだろうな、と思ってます。

明日へ…index | Novels Index | TopPage