熱夢 中



 「ガシャ———ン!!

 鼓膜を破るかというほどの音が、スネイプの耳に届いた。

 額に手をやり、溜息をつく。何が起きたのかは想像できた。

早足で、ハーマイオニーが倒れているはずの部屋へ行く。

 ——厄介なものを被っていなければいいのだが・・・

 このときスネイプは、ハーマイオニーの身より、その後の散らばった薬品の処理が気がかりだった。

 部屋へ入ってみると、案の定、床にハーマイオニーが倒れていた。その体の上には、棚から落ちた瓶の硝子の破片と、その中に入っていた肝臓、脾臓などが不気味に輝き散らばっている。——スネイプにとっては慣れたものだが。

 「もしも危険な薬品が入っていたら、どうなっていたと思う!」

 一人で不機嫌にブツブツ言いながら、杖を一振りして散らばったものを片付け、もう一振りして担架を作った。

 次にぐったりとしたハーマイオニーを抱きかかえ、担架に乗せる。彼女の息は荒く、意識はまだない。

 ——まったく、よりにもよって我輩の部屋で倒れてくれるとは。いい迷惑だ。

 医務室に連れて行く途中、そんなことばかりを考えていた。悪態をつくことに夢中で、うっかり声に出してしまっていたことにすら気付かなかった。

 「・・・ごめんなさい・・・」

 突然下のほうからか細い声が聞こえ、思わず体がビクッと震えた。

 「・・・気付いていたのか」スネイプは顔を顰めた。

 「はい。・・・迷惑かけてすいません」

 病人に謝られても、あまりいい気はしない。

 「何故無理をしたのだ。迷惑がかかることぐらい、君の頭なら考えることが出来たろうに」

 「はい・・・ごめんなさい」

 あまりにも素直に返ってくるので、スネイプは少し動揺した。これほどまでに気が弱く、素直な彼女は初めて見る。

 「熱があるのだろう。何故授業を休まなかったのだ?」

 我ながら恥ずかしい馬鹿な質問をしてしまった。彼女のことだ。答えは決まっている。

 「宿題を・・・出さなくちゃいけ・・・いと思って・・・」

 予想通りの返事だった。

 「馬鹿にもほどがある」

 「はい・・・」

 ハーマイオニーはうなだれた。その時、タイミングよく医務室に到着だ。

 その後の一切をマダム・ポンフリーに任せ、スネイプは早足でその場を立ち去った。

 ——宿題、か・・・。我輩が原因なのだろうか。・・・まさか。奴が勝手に好きでやったことだ。関係ない。

 そんなことを考えながら歩いていく。地下室に着くまで、ハーマイオニーのことばかりだった。