Christmas Joke



四人の表情は様々だった。

一人はひたすらに腹を抱えて大爆笑、それに習って、もう一人は、怯えを隠しながらも笑っている。一人は半ば呆れたように苦笑して、一人はバツの悪そうな顔で頭を掻いた。その隣では、少女が右手で額を抑えながら、こう思っていた。

——またバカなことやって・・・

丸いテーブルの丁度反対では、顔色の良くない青年が、ワナワナと震えている。

その時、大広間の入り口から、ダンブルドア校長が入ってきた。

「遅れてすまんの」

そしてその瞳は、まるで吸い寄せられるように、一箇所を向いた。

「おや、セブルス、センスのいい帽子ではないか」

ワナワナと肩を震わせていたのは、セブルス・スネイプ。と言えば、あとはもうお分かりだろう。

この日はクリスマスだった。学校に残っているのは、グリフィンドールから七人、ハッフルパフとレイブンクローからはそれぞれ三人ずつと、スリザリンからは一人だった。

人数が少ないのに四つのテーブルに分かれて座るのは非常に滑稽だということで、ダンブルドアが、大きな円形のテーブルを広間の中央に出しておいた。

四人はもちろんのこと、一番乗りで広間にやってきた。そして、既に出されていた食事に細工を施す。狙いはもちろん、セブルス・スネイプだ。このいたずらを率先して行ったのは、今一番気分の良さそうなシリウスだろう。もっとも、この日に限らず、悪質ないたずらをするのは、いつだってシリウスだった。

そう、今回のいたずらは悪質だった。シリウスにはままごとレベルかもしれないが、少なくともセブルスにとっては、悪質極まりないことだ。

セブルスが、彩られた大広間に、最後から二番目の客人として入ってきたとき、その円形のテーブルの上には、豪華な食事が並んでいた。キツネ色に焼けたチキン、ソーセージやマッシュポテトも、食べ切れるのかというほど、皿に溢れていた。彩りのいいサラダ、フルーツが盛られた銀製の器・・・他にもたくさんの品揃えだ。

そして、テーブルの中央には、二十人ではとても食べきれないほどの、大きなクリスマスケーキ。高さは一メートルくらいになるだろうか、大きなケーキが五段ほど重ねてあって、生クリームで綺麗に模様がつけられている。一番上には砂糖でできた小さなホグワーツの城が載っていて、何もない空気の中から、まるで雪のように、魔法で銀粉が降らせてあった。

しかし、その大きなケーキは今、テーブルの中央には無い。様子を見ていたハッフルパフの大食い四年生シェルティ・ジョイや、レイブンクローのミシェルとホーリーは、大きな溜息を洩らした。その他の生徒は、クスクスと笑わずにはいられないらしい。

四人の左側に座っている先生方は、リリーのように、片手で額を抑えて溜息をついていた。

「ふぉっふぉっふぉ」

そんな明るいのやら重いのやらわからない空気の中を、ダンブルドアは笑いながら、自分の座席へと向かっていく。

「やぁ、セブルス。・・・気分はどうだい?」

ジェームズが申し訳なさそうに、被害を被ったセブルスに話し掛けた。しかし、どう考えても、尋ね方が申し訳なさそうではない。それを聞いて、隣で笑っているシリウスは、さらに笑いの音量を上げた。

「・・・今の私は、気分が良さそうに見えるのかね」

俯いたまま怒りを抑えてセブルスが聞き返す。

「いや・・・」

ジェームズは少し言い訳を考えて、付け足した。

It’s Christmas joke」

シリウスの音量がさらに上がる。そして、セブルスの怒りも、さらに大きくなった。

Christmas joke?そんなもの、貴様らの存在だけで十分だ!」

両手拳で、セブルスはテーブルを叩く。ガシャンと、食器類が音を立てた。

「セブルス、その格好で凄まれても、迫力がないよ?」

追い討ちをかけたのはリーマスだった。彼として、別にセブルスの怒りを引き上げるつもりなど微塵もない。しかし、恐ろしいことをスラリというのが、彼の特徴だった。

「リーマス!」

ジェームズが隣を小突いた。

「もういい!」

セブルスが勢いよく立ち上がる。生クリームの塊が、ホグワーツ城と一緒に床にぼとりと落ちた。

「ああ、もったいない・・・」とシェルティが言ったのを、セブルスは下向きのまま、目玉だけをものすごい形相にして、睨みつけた。

しかし、確かに迫力がない。セブルスより年下の、丸っこく太ったシェルティですら、噴き出さずにはいられなかった。

セブルスの頭の上には、大きな白い塊が載っていた。大広間にやってきて、座席に座ったとたん、何かが弾ける閃光を見た。次の瞬間には、頭に重みを感じたのだ。

フィリバスターの長々花火がケーキの底に仕掛けられていたことに、そうなってから気付いた。セブルスを初め、既に座席についていた先生や生徒も、皆。

絶え間なく、傾いたケーキから、生クリームが床に溜を作っていた。

「これだから貴様らとの食事は嫌なのだ!!」

ケーキにだんだんと呑み込まれてゆく彼の頭。口にクリームたちが入ってこないように気を付けながらセブルスは怒鳴った。しかし、怯えを感じるものは、ただの一人としていなかった。ピーターですら。

「まあ落ち着くのだ、セブルス」

校長がいかにも楽しそうに、セブルスを制す。

「落ち着いていられるわけがありません!」

「何故だね?素晴らしい帽子だとは思わないかね、ん?」

「この甘ったるい塊が、素敵だと?」

その奇妙なやりとりを見て、ひたすら音のボリュームを上げ続けるシリウスを、ジェームズは何とか抑えようとしていた。これでは数秒後には笑い死ぬ。

「では、その帽子は私が引き継ぐとしよう」

と、ダンブルドアが杖を取り出して一振りした。

床に溜まった生クリームは、巻き戻しをされるようにセブルスの頭の上に戻っていった。落ちて砕けたホグワーツの城も、形を取り戻してケーキの頂へと向かう。欠片も残さず、あっという間に元のゴージャスなものに戻ったケーキは、やっとセブルスの頭を離れた。ダンブルドアのほうへ浮き行くケーキを見ていると、底が帽子のように丸く窪まれていくのがわかった。

「さて、パーティーを始めるとするかの」

ケーキ帽子をかぶったダンブルドアが、杖をもう一振りすると、テーブルの中央には別の大きなケーキが現れる。

「セブルス、座ってはどうかね?」

立ち上がったままのセブルスを座らせて、ダンブルドアはクラッカーの紐を引いた。他の先生や生徒も、いつの間にか目の前に置かれていたクラッカーを手に持ち、それに習った。

 

頭のケーキが取り除かれ、ほんの少しだけ落ち着いたセブルスだが、パーティーが終わって寮へ戻るまで、誰の顔も見ようとはしなかった。

 そしてやっと笑いが収まってきたシリウスは、この日から数ヶ月、笑いのネタには困ることがなかったとか。






右下の素敵なイラストは、宙様が描いてくださったものです!
勝手に強奪・・・(幸