無題



囚人服を着た男が、言った
「私は目に見えるものしか愛せなかった」
どうして、と聞いても
もう一度静かに
「愛せなかった」と呟いた

あなたが愛せなかった目に見えないものを、
誰が本当に愛せているの?


澄んだ目をした幼女は
まりをついて笑っていた
「どうせ、わたしはひとりなんだ」と。

でも、その幼女に犬が駆けよる
そしてその子の笑顔はくしゃくしゃになる

「優しさを知っているから、大丈夫」


切り取られた窓から
ビルだけを見て育つ少年がいた
その間から見える空を信じ、
病気が治ったら空を飛ぶとクレヨンで描く

折れたクレヨンを
見て見ぬふりすることを覚えて


声をからした君は空を仰いだ
息にしかならないうたを歌って

君のくちびるは届かない声を愚かだと叫ぶ


そして、
指先の冷たい私は
君の声が出る日を願ってうたを書く

手すりを握りしめてはうつむいて
五線譜をやぶり
六弦の切れたギターで、涙をふいた。





無題@琉紗

2004.1.17*








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