「公園にて」右葉ごと 98/04/01 22:15

 
 二夜は、泣いた。
 何がなんだか、わからないけど。泣けてきた。

 不幸ではない。
 死ぬのが恐いと思ったことはないけれど、
 死にたいと思ったこともない。
 あたたかい家庭に育った。
 友達も沢山いる。 
  幸せなのだと思う。自分は恵まれていると。

 それなのに、夜の公園で、月をながめると、
  涙が、自分の体のなかのどこからか、
 にじみでてくる。
 
 特に、雨上がりの夜。
 澄み切った空気の中、暗い夜空をながめると、
 それだけで、二夜の目には、幕ができてしまうのだ。

 なんでかな。
 帰り道。公園のブランコに、腰掛けながら、ぼーっと考える。

 星はみている。二夜のことを。

 疲れてるのかもな。
 二夜は考える。でも、きっと考えても答えは出ない。
 こんな、すがすがしい、空気の中では。
 何を考えても、それは、意味のないことなのかもしれない。
 
 
 それでも、ただ一つ確かなのは、月が美しいということだった。

 
 二夜はまた、月をながめた。

 あわい金色の光が月をつつんでいる。  
 
 
 くしゃみが出た。 
 もう帰ろう。寒くなってきた。こんなことをしてても、しょうがないし。
 二夜は、少し、身を震わせる。
 もう帰ろうっと。

 ふと、二夜は、我に返って、公園の脇の道路に目をやった。
 人が来る気配がしたからだ。

 誰かが、道を歩いていた。
 その人の見上げる先には、二夜の見ていた月があった。
 
 その人は、だまって、しばらく月を見ていた。
 そして、靴音を響かせて、立ち去っていった。

 
 二夜もまた、だまって、空を見上げた。
 
 雲が、月を隠そうとしていた。
 
 金色の光に輝く、雲と、空とを、二夜は、しばらく、眺め続けた。
 
 
      
                                幕