■□■16のお題□■□

 ・私のことですから(笑)書けるか描けるかなぞ。100は無理でも、16なら・・・というわけで。
 ・挑戦方法は、字板あるいは絵板にて。どうなりますやら。

01.独裁者/02.断絶/03.壊れたオルゴール/04.目隠し/05.追憶の色彩


06.空の水槽/07.動悸/08.悲壮/09.咲き乱れ/10.ドロシーの靴


11.ままごと/12.呼び声/13.残骸/14.トリカゴ/15.麻痺/16.優しい殻



 ・こちらの場所からお借りしました。 ありがとうございました。


独裁者(16のお題No1)
2004/07/11(Sun) 22:39

独裁者。
彼は独裁者。

街の空を見上げると、必ず視界の隅に映る物がある。
この町の空はいつも曇天。重く垂れこめる灰色。
曇天の空と同じ色にそまりながら、鋭く空を突き上げている、それは城だ。
町の中央にそびえ立つ城。
彼はそこに住んでいる。
街を支配する者。国を支配する者。それが彼であり、彼の城へ毎日のように芋を届けるのが私の仕事。
荷車に乗り驢馬に鞭をくれ。
独裁者の食すであろう芋を運ぶ日々。
空の高みに暮らすものが何を考えているのかなど、私のとうてい理解できるところにない。
国がどうなるか、世界がどうなるかなんて。
ただ日々の糧を得るために働くだけ。ねがわくば税がこれ以上に上がらないように祈りながら、生活を送るだけだ。
城の彼が何を思うかなど。考えても仕方がない、別世界のこと。
それでも見上げる、灰色の空。
空に映るは灰色の城。

Re: 独裁者(16のお題No1)
2004/07/11(Sun) 22:55
独裁者。
彼女は独裁者。

ぼくの。

毎朝のように、広場では市場が開かれる。
彼女は毎日芋を仕入れ、野菜を仕入れ、そして城へ運んでいく。
荷車に乗り、驢馬に鞭をくれ。
ぼくは本屋を営んでいる。本屋は広場から少し入ったところにあるから。
開店前に店の前を掃除していると、ちょうど朝市が終わる時刻だ。そのときに、彼女の乗った荷車が。
通りかかる。
彼女は颯爽としていて、とても綺麗な髪をなびかせていく。通りすがりにぼくに笑顔を向ける。
「おはよう」
「おはよう。後で本買いによるわね」
「うん」
彼女は幼なじみ。ぼくの。
本好きな彼女は新しい本が港から入る月初めに必ず店に訪れる。お金がないときには、立ち読みを。ぼくは知っているけど知らんぷりだ。これは先代、ぼくの父が健在だったころから変わらない。
彼女がそれを、ぼくに促したわけではない。でも彼女の希望を、ぼくがかなえないはずがないじゃないか。たとえ言葉にしていなくても。
彼女の笑顔が見られるなら、ぼくはなんだってするだろう。
だって彼女は大事な幼なじみなのだから。
大切な、ぼくの。


断絶(16のお題No2)
2004/07/28(Wed) 00:12

断絶。父との断絶。

さて、ぼくは父の顔をよく覚えていない。
物心ついたころには母はいなかった。
そして父もぼくが幼いころに、いずこかへ去っていってしまった。
父が何故家を出たのか、直接の原因はよく分からない。けれど、きっと祖父との間に何か諍いがあったことだけは確かだ。
祖父は父が出ていってから、一言も父について話さなかった。
若いぼくに、何百年と続く本屋をまかせ、死に旅立つその間際まで。
どんな人で、どんなことをしていて、どこへ行ってしまったのか。
生きているのかさえ。
父の存在は祖父の中で黙殺された。
それでも、ぼくは。どこかで父が生きてるであろうことを確信している。いや感じとっている。
いつか父と出会えたならば。
その時には分かるのだろうか。
父と祖父との断絶の理由が。
そして、その時。ぼくの中にも訪れるのだろうか。

断絶。

Re: 断絶(16のお題No2)
2004/08/03(Tue) 00:12
断絶。

 物心ついたときから、いつも俺は船がつくのを楽しみにしていた。海の商人である父の船。頼もしい兄の乗る船。船が帰るのを今か今かと。
 そして今、父の跡をついで船に乗るのはハナタレ小僧だった俺。船を待つのは老いてなお、口は達者な親父殿。
 もちろん、若すぎる跡取り息子は今のところ名目だけの船長だ。副長について船のイロハ、商売のイロハを学び中。
 今任されているたった一つの仕事は本の取引だ。なぜならつまり本屋は俺の幼なじみなので。そういうことだ。
 俺が学ばなければならないことは山の様にある。その山を早くなんとかしなくてはならない。父が消えてなくなる前に。兄は若くして航海に死に、俺は父が歳をとってからの子だった。そして父はそれなりの年齢にある。
たくましく頼りがいのある船の連中は、しかし名ばかりの跡取りには決してついてこないだろうと、俺は思っている。だから俺は焦るのだ。俺のために。親父の為に。

 本屋へと向かう。書物のつまった箱は、後で運ばせる。まずは挨拶に。お得意さまだからな。
「よう」
「ああ、お帰り。久しぶりだね。今回は3ヶ月ぶりかな」
 本屋は薄暗い店の奥から、穏やかな笑みを見えた。
「まあ、なんとか生きてかえってきたさ。みんなは相変わらずか?」
「ああ、変わらないよ。奥へお入り。今、お茶を入れよう」
「いや」
 俺は腰を上げようとした本屋を制した。
「この後、また回らなきゃならないんだ。また今度ゆっくり来る」
 それは嘘だ。多分、嘘。
「そうか。忙しいんだな」
「まあな。そうだ、後で本を届けさせるけど、お前がほしがってた本、とりあえず先に持ってきたぞ」
「本当?」
「ほら」
 本屋はとたんに嬉しそうな顔を見せる。
「彼女が喜ぶよ」
「なんだ、相変わらず本の虫なのか、あいつは」
 話題の女は、俺たちの幼なじみだ。そう、俺たちの。
 3人で。
 いつも一緒だった。
「相変わらずだよ」
 そう見せた本屋の笑顔。
 俺は。
 これを見るといつも、反吐が出るんだ。
「今度、また3人で集まろうや」
「そうだね。話しておくよ」
「じゃあな。」
 本屋は俺に微笑みかける。穏やかな穏やかな笑みを。

 俺はそれに背を向けた。