独裁者。 彼は独裁者。
街の空を見上げると、必ず視界の隅に映る物がある。 この町の空はいつも曇天。重く垂れこめる灰色。 曇天の空と同じ色にそまりながら、鋭く空を突き上げている、それは城だ。 町の中央にそびえ立つ城。 彼はそこに住んでいる。 街を支配する者。国を支配する者。それが彼であり、彼の城へ毎日のように芋を届けるのが私の仕事。 荷車に乗り驢馬に鞭をくれ。 独裁者の食すであろう芋を運ぶ日々。 空の高みに暮らすものが何を考えているのかなど、私のとうてい理解できるところにない。 国がどうなるか、世界がどうなるかなんて。 ただ日々の糧を得るために働くだけ。ねがわくば税がこれ以上に上がらないように祈りながら、生活を送るだけだ。 城の彼が何を思うかなど。考えても仕方がない、別世界のこと。 それでも見上げる、灰色の空。 空に映るは灰色の城。 |
Re: 独裁者(16のお題No1) 2004/07/11(Sun) 22:55
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独裁者。 彼女は独裁者。
ぼくの。
毎朝のように、広場では市場が開かれる。 彼女は毎日芋を仕入れ、野菜を仕入れ、そして城へ運んでいく。 荷車に乗り、驢馬に鞭をくれ。 ぼくは本屋を営んでいる。本屋は広場から少し入ったところにあるから。 開店前に店の前を掃除していると、ちょうど朝市が終わる時刻だ。そのときに、彼女の乗った荷車が。 通りかかる。 彼女は颯爽としていて、とても綺麗な髪をなびかせていく。通りすがりにぼくに笑顔を向ける。 「おはよう」 「おはよう。後で本買いによるわね」 「うん」 彼女は幼なじみ。ぼくの。 本好きな彼女は新しい本が港から入る月初めに必ず店に訪れる。お金がないときには、立ち読みを。ぼくは知っているけど知らんぷりだ。これは先代、ぼくの父が健在だったころから変わらない。 彼女がそれを、ぼくに促したわけではない。でも彼女の希望を、ぼくがかなえないはずがないじゃないか。たとえ言葉にしていなくても。 彼女の笑顔が見られるなら、ぼくはなんだってするだろう。 だって彼女は大事な幼なじみなのだから。 大切な、ぼくの。
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