世界最速の作品について または、一ゲームマスターとして思う事。 はじめて、この天羅万象・ゼロというシステムを購入し、 プレイングをしてみたときの感想である。 このシステムには、前段階のシステム(天羅万象)とい うものがあり、それの進化版というわけだ。 その前に、天羅万象ってなに? って人のために少し説 明を。 (あくまでも、自分の解釈なのですが) 天羅のぶっちゃけた内容としては、 なにか、強大な組織に管理されているその星で、繰り広 げられる戦国ファンタジーで、ロボット兵器や、生体改造 人間など、魅力ある人々が登場する世界。 基本は、日本の戦国時代に、色々と他のRPGのテクノ ロジーをつめこんだ世界と、うたわれているが、戦国時代 ではなく、一般的ファンタジー世界に、いくらかの未来テ クノロジーが存在していて、そこにいる人々はなぜか和服 のような服装をしている。と言ったほうが、自分としては 解りやすいと思っている。 この世界の人々は、精神的なしがらみによって成長する (モンスターを倒しまくっても成長はしないのだ) システム的にはキャラクターの演出を重視する。精神世 界と世界観を大切にしているゲームだ。 それもその筈『ロールプレイ支援システム』というもの を搭載している新しいジャンルのTRPGなのだ。 私は、この天羅万象という世界観がとても気に入ってい て、前作『天羅万象』が発売された頃なんかは、そのシス テムの事をずっと考えて眠れない日も多かった。私の世界 観に対する説明では少し解り辛いかもしれないが、少年の 頃の自分の心を踊らせるほどの魅力ある世界観だった。 さて、話を戻そうか。 この、ロールプレイ支援システム搭載の最新版物語作成 ツール、天羅万象ゼロは、『世界最速』をうたっているの だ。 はたして、本当に最速なのだろうか? その事を調べる ためにとあるコンベンションでゲームマスターをしたのだ。 結果から言おう。 全員システム初心者ありながらゲーム終了時間は最速を 誇った。おそらく、プレイヤーがキャラの演出をし始める 時間も早かっただろうと思う。かといって、シナリオに手 を抜いたわけでもない。 十分な準備とタイムスケジュールを組んだ筈だ。 確かに、『最速』だった。しかし、 ゲームマスターとしては、少しの疑問を覚えた。 べつにシステムの運用には問題は無く、プレイヤーもあ る程度は満足していたのだが、なにか、喉の奥に刺さった 魚の骨のような感触を覚えたのだ。 何故だろうか・・・ この天羅ゼロというゲームには『ゼロシステム』なるプ レイング方針を固めるシステムがある。 一本のシナリオを、そのシーンごとに区切り、その間で そのシナリオの大まかな筋をプレイヤーに公開し、キャラ クターのプレイング方針を固めさせて、ロールプレイング をしやすい環境を早急に作ってしまうというものだ。 それによって、話の進みを円滑にさせるという意図があ る。 ぶっちゃけて言えば、ゲームマスターの用意したシナリ オに、キャラクターを縛り付け、ロールプレイによっての みで、シナリオを運用させるシステムなのだ。 シナリオ終了時に残ったもやもやした感覚は、これによ って、産まれたのではないだろうか? 確かに、このシステムを運用すればシナリオに、大きな 変更はなく、大概のゲームマスターは(それなりの技量が あればだろうが)『ゼロシステム』の運用に成功するだろ う。 成功すれば、話の展開も高速に進む筈だ。 しかし、それによって失われるものも大きいのではない だろうか? (それとも、私の技量がそこまでに辿り着いていないだけ なのだろうか?) まず、これによって失われるもので最大のものは、 『考える事』だろう。 これを無くす事によって展開の幅は狭められる。その代 わりに安定したシナリオ展開、ゲームマスターの予想の範 疇内の展開が約束される。 『考える事』と言うのは、このゲーム、TRPG全体に とって大変重要な要素だと思っている。これが無くなって しまえば、たちまち 『手数の多くなったコンシュマーRPG』 に成り下がってしまうだろう。 次に『驚き』である。既に展開、結果の知らされている ゆえの代償である。これは、マスターのシナリオメイク時 にどうにか加えられるのだが、展開の先読みをさせるこの システムでは、展開を狂わせる危険極まりない行為になっ てしまう。 つまり、ゲームマスターの与える事の出来る『驚き』が 『与えた展開をくつがえす嘘』などの行為になってしまう のではないだろうか。 どうするにしろ、このシステムでは、シナリオの新鮮さ と言うものを欠いてしまう。 今までのTRPGが、肉や野菜などの素材食品を提供す る市場なのに比べて、『ゼロシステム』は、野菜炒めセッ トや、レトルト食品などを扱うコンビニエンスなのだ。 お客は鮮度など気にせずにそのものを食べなくてはなら ない。 セッション終了後、私はプレイヤー達に対し、罪悪感を 感じていたのだろう。 天羅の世界観を全く知らないと言うプレイヤーに、大ま かな設定と、重要な物品の説明をし、判定法を理解させ、 そして、ロールプレイを強要してしまう形になったのだ。 おそらく、暗闇の中で、手探りをするような感覚になっ ていたに違いない。 システムを買ってもいいとは言っていたが、それが何よ りの証拠だろう。 ロールプレイをするにあたって何か足りないものがあっ たのだろう。 なにより、時間の無いコンベンションでの説明だ。天羅 の世界全て(文字どうり全て)を説明するには至らなかっ たのだろう。 世界を知らないなりのシナリオなら用意は出来るように 感じたが、キャンペーンならまだしも、コンベンションで 行うには少々無理があるかもしれない。 この時点で、このシステムは『条件付の最速』と言う事 になる。 十分に、世界への認識が無ければ、どのような価値でそ の行動が行われたのかとか、その物事、その存在の表現の 際のインパクトが伝わりにくい。暗黙の了解も通用しない のだ。 しっかり説明が理解されたとしても、その意味が、相手 の心を打つように作動するには長い時間がかかるだろう。 そして、何より罪悪感を感じさせたのは『シナリオの公 開』だったのだろう。 予告により公開されたシナリオでは、せっかく用意した 感動も、驚きも、ドブに棄ててしまうようなものだ。 お約束をするのならともかく、その主旨がないシステム では、『ロールプレイしてもらっている』のであって、決 してゲームマスターの技量や、魅力によって引き出したの ではない。 してもらったのでは、マスターとしての喜びも失せてし まうではないか。 『このシステムでの、無理の無いシナリオ運用』が終わ った後だから断言できるが、これじゃあ出来の悪い双六を 作ってコンベンションに持っていったようなものだ。 私は、そこでは『ゲームマスター』ではなかったのだ。 愚かな事に、この時点で初めて、『シナリオ公開は、諸 刃の剣だ』と言う事に、気がついたのだ。 シナリオの運用自体は上手く行ったのだが、それ以外の 大事な要素を根こそぎもって行かれてしまった。 シナリオとしての『深み』も『重さ』も、『プレイヤー に決定させる』事の大切さもである。 なにより、『ゲーム』である必要さえなかった。 そして、ゲームマスターとして学んできた事も、その殆 どが必要の無いものと化してしまった。 ゲームマスターが誰しも持っている必殺技の一つである 『不適な笑み』も使えなかった。 結局、マスターとして楽しめなかったのである。 当初、キャラクターの演技を重要視していた私は、この 『ロールプレイ支援システム』に飛びついた。これがあれ ば、キャラクターの感情の移行も容易だろうと思ったのだ。 そして、システムを駆使すれば、容易にゲームマスター の語る物語に華を添えられると思っていた。 しかし、答えは否だった。 『ゼロシステム』が、効果的に成功するには、十分な世 界の知識と、PCとしてのしっかりとした立場の理解、そ して、それを許容できるほどの人間関係がなくてはならな い。 つまり、デザイナークラスの世界、システム知識を持っ た、知人、または友人同士でしか、『効果のある最速』の 成功はありえないのだ。 そのような条件の人間が、自分の周りに何人居るだろう か? 戯言 (自分に対しての)追記 ゲームマスターは、自分の目指す演出について楽をして はいけない。 PLの心を飲みこむマスタリングは、PLや、その場に いないデザイナーには無理なのだから。 いかに、短い時間の中で早急にPCの人間関係を成立さ せて、物語の渦に巻き込ませる事が出来るかが、課題だろ う。 あくまでも、自分の技でである。 (これを見てしまった製作者への)追記 このような事を書いてしまっているのですが、どうか、 お許し頂きたい。 この手記に書いてある通り、システムの運用については 成功しており、それでもなお、ゲームマスターとして疑問 に思った事ですので。 それを、心にとどめている事は出来なかったのです。 何か、私のマスタリングで『ここはどうだったのか』と か気になる点がございましたら、説明をいたします。