百物語について 


「怖くて不思議な話を聞かせてあげよう・・・・・・」
 
 白石加代子の百物語は常にこの言葉で始まる。
朗読という形をとられたこの舞台。「語り」という形式は最も古典的な芸能のスタイルである。
さしたる装置、舞台設定を必要としないこのスタイルは、その特性ゆえに普遍的なエンタテイメントとなりうる。公の場に限らず、家庭で語られるおばあちゃんの昔話も立派にエンタテイメントになりうるのだから。
 そこに目をつけてスタートしたこの企画は、演劇の基本にたって、「言葉」をどう観客に届かせ、響かせるかを実験の目標にしている。余計なものが一切ないからこそ、物語は観客と役者の間で一定の緊迫感を持って共有される。そこに白石加代子。この実験に欠かせない役者の登場。彼女の見事な口跡によって紡ぎだされる言葉の一つ一つが、私達を物語の世界へといざなう。その恐怖・笑いの世界に興奮させられる。この舞台は、新旧取り混ぜた粒よりの名作を、演出家、役者、原作者、観客とが舞台上にのせて解剖し、咀嚼しなおす作業のようにも思える。それはなんと魅力的な共同作業であることか。
 白石加代子という最上の水先案内人の手により、私たちは新たな世界を体験すること
ができる。

 「百物語」は第十九夜を迎えて68本の物語を語り終えた算段になる。
百話への道のりは折り返し地点を過ぎた。江戸時代、民間で広まった百物語は、皆で持ち寄った行灯の中の百本の灯芯を、一つずつ消していくというもの。百本目を消した暗闇の中に本物の怪異が現れるとのことから通常百話目は語られることはなかったそうだ。
 さて、白石加代子の百物語はどうであろうか?百本目の終焉を迎えたとき、いかなる暗闇の世界が私達を待ち受けているのだろうか・・・。
その答えは私たちで見届けることが出来そうだ。


 



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