「片思い」 ビブロス 木原音瀬  ISBN 4-8352-1222-3 
 本体価格850円 


 えー、この出版社名を見ただけでピン!と来る方はさて、どの程度いらっしゃるの
 でしょうか。この出版社から出される本は、実は殆どが同性愛の話を
 扱っているのですね。
 
 私は職業柄勿論ピン!ときました。さて未読・特定ジャンルの作家にもかかわらず、
 なぜこの本を読もうと思ったかというと、この作家の名前をあちこちの書評サイトで
 見かけたからです。かなり印象深い評され方をしてました。
 しかも、共通する特徴はおもしろいことに、まったくその手の本を傾向として
 取り入れていない書評サイトの中でこの作家の名前をよく見かけたのです。
 そこにちょっと惹かれたね。なんか実力派っぽいじゃないですか。
 何しろ藤たまきさんの例もある、ということでさっそく恥じらいながらも図書館で
 借りてみたのですが・・
 (というか、なぜ本書に限って表紙を表出しでリーダーに通すんですか・・>司書さん)

 ・・・・いたぁっ。いたーーーーい!
 この話イタイヨ。あいたたた。さてざっと粗筋を言うと、

 主人公(男。隠れゲイ)が昔から好きだった友人(男・ゲイとカミングアウト済み)が、
 なんと女性と結婚するといきなり宣言。なんじゃそりゃ〜と思った主人公が、
 友人を振り向かせようと取ったある強引な行動とは・・・

 って話なんですが。まあ何しようと思ったかっちうとぶっちゃけ「寝取ろう」としたん
 ですね。自分のカラダを差し出す強引な力技なのです。で、ですねえ、このへんの
 下りってもういくら話が男同士とはいえ、関係ない、誰にでもちょっとは恋愛してたら
 覚えのある虫のいい感情が赤裸々に・・そりゃ克明に描かれてるわけなのですな。
 そら誰にだってプライドというものはあるので、自分に「好き」と言わせるように
 仕向けたいわけです。作戦ねって抱かせて、それでなし崩しに自分と付き合って
 くれたら・・なんて考えてたら翌朝「知らんふり」されるという・・!
 寝たら自分のことを真面目に考えてくれるかと思ったら知らんふり。
 自分には誠実に扱われるだけの価値もない。 
 単に性欲の処理に使われたと。思い上がっていたと。
 主人公は思いっきり吐くほど泣く訳ですね。
 あんなことした自分をコナゴナに破り取って流してしまいたいと。羞恥の中で。

 あいたたたーー。このへんほんと痛かったよ。
 最終的にそういう行為を使うかどうかは別として、
 こんなひっかけって誰でも結構使ったことあるとおもいませんか。
 他人の心を試す汚いひっかけをね。で、当てが外れたとか。
 その辺の不器用さがねぇ・・・あいたた。あー。
 さて、この主人公は最後どうなったかって言うと、
 実はハッピーエンドで終わるわけなのですが、これ、うまくいかんままで終わったら
 もんのすごいイタイ作品やろうなぁ・・。ようこんなん書くよ。ある意味あっぱれや。
 描いてる本人はしんどくないのだろうか。

 で、主人公はほんといやなやつに描かれてますしね。
 なんか、しゃれにならんほどやなやつなんですよ。
 「あ、そこまで書くか」っていうような、
 こんなやつ実際おったら絶対友達になりたくないっていう。
 こんな主人公でこんな話で、でも結果的に読ます、ってのは
 この作家の力量でしょうね。
 筆力があるんだな、という。そうでなかったら目も当てられん。 
 (検索かけてみると、この作家さんはその世界でも相当特殊な位置にいる
 みたいですね。読者に夢を見させないという・・・出てくる人間はやなやつ多くて、
 話は痛いという。)
 いや、ある意味すごい作品を読みました。ふぅ〜。しかし実力派ではあると思う。
 
 余談ですが同時収録の後日談はうってかわってらぶらぶな・・よ・読めん。
 さらに同時収録のもうひとつの話は・・・近親相姦モノでした。
 ・・・ほんと読むの辛かった。近親相姦モノは個人的にはNGなのだ・・。
 (まるで自らに苦役を課しているようだ。)
 まあ、たまにはこんな読書体験もいいかも・・しれません。ん?

 あー、1冊で相当おなかいっぱいです。
 万人にはオススメできない、というしかないです・・・。
 (しかしまあ、書評サイトで見てなかったら
 多分この作品を読むことは一生なかったと思うと不思議なかんじがします。)
 でもほんとイタイ話でした。うぐぅ。
 ここまで言うとかえって読みたい気になってきませんか。ははは。
 読まれた方是非感想聞かせてほしいものです。

 2002.07.06(ほんとは6月半ばに読んだ本です)

 ★更に追記★
 じつはこの本と一緒にこの作家の「FLOWER」という作品も借りたのですが。
 で読んだのですが。
 これこそすごい。というかこっちの方がすごい。主人公が、本当に人間として
 間違っている。お話作る時に脇役をしゃれんならんほど腐った人間にするってのは
 よく見かけますが、これは主人公が救いようがない、という。
 しかもお話の中で改心しません。最後ほんの少しだけ人間らしい心を見せてくれる
 のが少しは救いですが、基本的には純粋に腐ってる人間像です。
 本筋の話も暗いです・・・。
 ピカレスクとかそういう問題じゃありません。というか、こういう書き方をできる
 作家ってちょっと稀ですね。得体が知れないです。
 作品より本人に興味をそそられる作家です。
 私はいま流行りのこの手の本は、ハーレクインと同じようなものだと
 認識してたりするのですが(勿論そうでないのもあると思いますが)、
 この作家の本は全然違いますね。というか何を意図してるのか掴めない。
 なぜこういう書き方をするのか。
 ちょっと怖いな。・・うーん・・かと言って全作読破はできません。
 修行僧じゃないんだから。私はこの2作読むだけで眉間にギャザーが・・。
 でも気になる作家ではあります。一般書でなんか出してくれないかなぁ・・。
 
 (ところで同時収録のお話はとんでもない話でした。度肝抜かれましたよ。
 め・めちゃくちゃや・・・ありえへん。こんな話いやですー。オソロシイ・・
 そしてこの本の表紙こそ借りにくい!何かに試されているような気すら・・)
 




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