「月の繭」
夜の森に
ふわり
落ちる
月光の糸記憶と想い出を
包みこみ
眠る
銀の繭時を切り離し
閉ざされた家で
待っているのは
だあれ鏡のような空の瞳
凍ったぎんいろ
明けない闇の底から
生まれるもの
なあになにげないあの約束を
貴方は永遠に待っていたの
終らない夏休み
蝉時雨おき忘れられた人形は
死の意味を知らないひとり
「月の繭Ⅱ」
帰ってきてください。
ご主人様。
あなたのスキなものを用意して、
家も何より綺麗にして、お待ちして居りますから。だからまた、頭をなでてください。
お前はいい子だと、優しい声を聞かせて欲しいのです。貴方のいないこの家は。
がらんどうの様にからっぽに。何処までも、広い。
「月の繭Ⅲ」
ないている
声がする
あれは遠い残響(こだま)置いて行かれた
子供の声
あれは僕?それとも別の
誰かだろうか曖昧な銀の光と闇の中に
全てが溶けるここは
まるで
繭のなかのように温く、静かそして、
ナニモナイ。
明日も知らずに夢見続けている。泣かないで
泣かないで
ただ泣き声だけ鮮やかだから
僕は遠いぎんいろに
ただそれだけ
呼びかけ続ける遥かな、彼方に。
君は誰?
「月の繭Ⅳ」
降り注ぐ雨は月明かりを受けて銀色の糸のよう
視界を蓋い、先を見せる事がない僕はその中を闇雲に走りまわり
そして、ひとつの屋敷に辿りつく時の彼方 置き忘れられたかのような
古ぼけた西洋屋敷
つたの這う、白い石造りのそれは
夜の闇の中に青褪めて見えるその時だけはまるでいとが解けるように雨が弱まり
館は僕を迎え入れる
そんな風にさえ、見えたおかえりなさい
ずっと貴方を待っていました。そうして、開いた扉の向こう
銀色の人形は静かに微笑む僕はかれを知っている。でも知らない。
矛盾した感覚。
まるで夢の中を歩いているように。僕は繭の中に捕えられる
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