「last letter」
貴方は私よりも綺麗で
貴方は私よりも優しい。
そして、悲しい人だと想った。弱く愚かで醜い私が
貴方の為になにが出来るかを考えたとき
綺麗な花を贈れたら良いとそう想った。貴方の心の悲しみが
ほんのひと時でも和らぐように。何時か私が永遠に目覚めない夜を迎えるときには、
花の種を抱いて眠ろうそうしてその種は私の骸に根付き、
私の肉が土となり、骨が形骸ばかりとなって風に鳴る頃
色鮮やかな美しい花を咲かせるだろう。花を貴方に。
綺麗な花を。
色とりどりの花を。
いっぱいの花を。。
花を貴方に、贈ろう。れが私が最後にただひとつだけ、贈れるもの。
風に揺れる優しい花に。
最後のことばを託して、逝く。──あなたが、しあわせに、なれますように。
「夜半の夢」
睡蓮の花の開く夜に、水に映る星の影を掴みにいく。
指先に欠片でも触れられたらいい。
貴方は余りにも遠いから。
貴方は余りにも綺麗だから。
ほんの欠片だけで構わないのです。
それは形のない幻影でも、貴方が手に入るなら。
私は喜んで水の底沈んでいくでしょう。そして、睡蓮の根に絡め取られて、
永遠に幸せな夢に溺れていられる。
閉ざした瞼の奥、最後に映るものが。貴方の瞳思わせる、甘い花の色だと良い。
「廃墟廃園」
形骸だけを骨のように残した焼け跡で、
吹き抜ける風に忘れられた歌を歌う。
それは星に届かない願いの歌。闇の中に蹲って耳を塞いで眠る。
目を深く閉じて。ちいさくなる。
何も聞かなくていいように。
何も見ないように。夢を見るのは痛いから。
傷付かなくていいように。祈りの言葉も忘れてしまった。
口ずさむ歌は何処にも届かない。
幼い指先、白い手のひら。
赤い色だけ、あざやかにしみこむ。避けた咽喉は悲鳴ももう上げられない。
廃墟に咲く赤い彼岸花が。
吹き抜ける風に歌うように揺れている。それは星に届かない祈りの歌。願いの声。
埋葬されたわたしの最後の言葉。あなたはすくい上げて聞いてくれる?
薙ぎ倒された祝いの蝋燭。消えてしまった、遠い幸せ。
届かない昔を思いながら、掠れるように歌を歌う。
それは空に届かない祈りの歌。闇の底で膝を抱えて、高い天を見上げている。
何時も変わらず輝いている、遠い星。
かなわない願いを唱え続けた。
何も見えない夜も、ずっと。崩れ落ちた教会。其処から覗いた空。
瞳に景色は今も焼きついて。
余りに綺麗でなきたくなる。願いの続きは忘れてしまった。
口ずさむ歌は何処にも届かない。
伸ばした指先、凍えた手のひら。
瑕もないのに血を流している。砕けた心で、それでも未だ夢を見ていた。
廃墟に咲く朽ちた彼岸花が。
吹き抜ける風に焦がれるように揺れている。それは空に届かない願いの歌。祈りの声。
立ち竦むわたしの望みの言葉。あなたはすくい上げて聞いてくれる。
あなただけが、聞いてくれる。
「流星」
ながれぼし。
あんなにも綺麗なのに遠くへと流れていってしまう。
願いを叶えるというながれぼし。
誰かの願いのその為に綺羅とひかる身体、燃やし尽くして逝くのだろうか。
一瞬の煌きで空見上げる人にうつくしい希望、ともして。
「やわらかい灰」
けして叶わない願いの花を、育てて。
薄氷のような崩れることの判っている幸せを愛していた。
いとおしいもの、うつくしいもの、やさしいものは。
どんなに確かに掴んでも、喪われて行く事なんて知っていたのに。廃墟に咲いた彼岸花は踏みしだかれて、砕けていく。粉々に。
大切なものは何時も守れないもの。
願いをすくい上げて聞いてくれたあなたにさえ、なにも出来ないで泣いていた。何より綺麗であたたかなひかる星を、誰よりも守りたいと願っていたのに。
奪われていく輝きを見ていることしか出来なかった。解けた糸がまた絡む。手足を、心を縛っていく。
人にも人形にもなりきれないで役に立たないものならば。
欠片もないくらいに壊れて消えてしまえばいい。
醒めないくらいの眠りに落ちて。あなたが思い出させてくれた大切なことひとつひとつ、凍れる炎の底にくべてしまった。
何も返せないわたしにはきっと持つことは許されない。紅く毀れて行く涙と共に崩れ落ちて。灰になって。
それでも最後に、捨てられない、いとしいあなたへの想いだけが、灼け落ちて尚其処に残る。忘れられない祈りの歌を、空の彼方に手向けながら。
夢見るようにずっと。あなただけ、想いつづけている。
「気狂い紅夜」
銀のナイフ。
砕けた紅玉。
壊れた硝子。
消えない狂気。
醜いわたし。
唾棄して埋める。
見えないように。
「花」
わたしは優しくなんてありません。いい人でもありません。
醜く、我侭で、ひどく弱く、とても脆いのです。頭のよわい、駄目な奴です。
だけれど、そんなわたしでもやさしく在れるのだとしたら、それは。
それはきっと、周りのひとがやさしいからなのだとそう、思います。
この小さな手が出来ることなんてたかが知れている。だけれど。せめて、手の届く限りは何か、何かしたいと想うのです。すこしならば、何かできるとおもうのです。
貴方が、皆が、わたしにくれた、温かくやわらかな気持ちの分だけ、お返ししたい。わたしはいま、幸せです。とても、とても幸せです。
悲しいことも、辛いことも、苦しいことも、多いけれど。其の分だけ、わたしは満たされています。世界は楽園には程遠い。争い、痛みに満ちている。
だけれど世界はやさしさにも満ちている。
悪意にかき消されそうになりながら。
それでも。花のように星のように、地を満たしている。これは祈りのようなものです。世界は本当はもっと残酷かもしれない。
だけれど、信じれは信じるだけ、想いは本当になる気がするのです。だから。誰の心にもやさしい花が咲きますように。希望の光が点りますように。
其れを願ってやみません。しあわせに、しあわせに。誰もが望むべき道を。
しあわせに、なれますように。偽善でも構わないのです。祈り続けます。
わたしはたくさんの花を貰いました。だからわたしは今度は誰かに、花を贈りたいのです。
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