川辺でおつきさまを拾った。
無味乾燥な白黒の世界に、それは大層綺麗なものだった。
ずっとずっと見て居たいとそんなこと、願うくらいに。
ああ、でも。目覚めたならおつきさまは、空に帰ってしまうんだろうか?
光をどんなに掴もうとしても、留めおくことが出来ないように。
7th Moon
暖かな感触に意識が浮上する。
しっとりとした温もりは人の、体温。お姉さんを無くしてから、触れることの久しくなかったもの。
其れが酷く近くにあって嬉しくて、思わず擦り寄りながら、柔らかい眠りに微睡ろむ。
ぬくもりの傍でまたやさしい夢の中に落ちかけて──途中で僕は、はっとなった。
自分が今、どんな状況にあったか、思い出して。
川辺で拾った綺麗な銀の人、治すために血の癒しのちからを使って、それで抱きついたまま昏倒したんだっけ。
慌てて身体を起こす。手首の血はもう既に凝り固まっていた。
血を使ったあと、どれ位寝ていたんだろう。まだ気怠いから、そう、時間は経っていないと想う。
見上げた銀の人はまだ意識が戻ってないみたいだったけれど、傷が、癒えて。
血もすこし戻ったのかな。体温、上がっているみたいだった。顔色も幾分良くなっている。
よかった、と安心した。ハーフであること、そんなに好きじゃないけれど、こういうときばかりは良かったと想う。
助けられる力があって、ほんとうに、良かった。
何時までもおんなじ布団に入ってるのは悪いので、ごそごそと抜け出す。
暖炉の近く、干してあった洋服に触れば、乾いたみたいだ。
でもこれも彼方此方ボロボロで、だから、裁縫道具とってきてちくちくと縫う。
窓を見れば、外は雨が降っていた。止んだら久しぶりに外に行こうかと想う。
森の外どうなってるのか解らないけど、買い物、しないといけないとと想った。
銀の人、怪我治したけどでも、直ぐに起き上がれるとは限らないし、看病するつもりなら入用な物がたくさんある。
包帯も切れてしまっているし、消毒液なんかも欲しい。それから、消化にいい食べもの、新しい服。
殆ど使っていないリピスお姉さんの貯蓄をすこしだけ切り崩させてもらうことにしよう。多分、赦してくれると想う。
困ったことがあったら。必要と想ったら使いなさい、と、そうお姉さんは言っていたから。
暫く考えながら繕っていると、ある程度洋服はマシになった。
裸のままっていうのは流石に問題だと想ったので、直ぐにその服、銀の人に着せて返した。
それからお布団又きちんと整えて、その時に拾ったときよりずっと安らかになった息が聞こえてくるのに安堵する。
これならすこし出かけても大丈夫かなって想った。
少なくとも、出かけてる間にこの人の息が止まってしまうとか、それはないとそう思えた。
だから、外へ、街へ行こうと想ったのだけれど、まだ身体がよろよろする。血、流した後だから仕方ないんだけど。
それでも、必要なもの、買うなら早めにいったほうがいいかと想った。
空気から雨の匂いがする。それから風、嫌な音。
もしかしたらもうすぐ嵐が来るかもしれない。
ちょっと躊躇ったけれど、嵐が来てしまえば街にはとても出られないだろう。
僕はそのまま街に出かけることにした。家には確り鍵をかけて。
僕が出かけている間に眠っているひとの目がさめたら少しだけ困るかもしれないけれど、背に腹は変えられない。
まだまだ外は危険だから。あたりに気を配りながら、街までの少し遠い道を急いだ。