始めてちゃんと見た色は銀と金。
やさしい、綺麗なおつきさまのイロ。
多分、その時に僕はちゃんと生まれた。

それまで、どう生きてきたのか曖昧で。めちゃくちゃで。
まっくらだった。何にも、なかった。
僕には、なにもなかった。

昔のことはだからあんまり覚えてない。
ずっと色々なところを点々としていた。
いろんなひとが僕を買った。飼った。
血を毎日抜かれていた事も在るし、玩具だったときもある。
身体に触られたり、よく解からないことをいっぱいされた気もするし。
只管毎日ぶたれていたような記憶もある。
左目はその頃に多分潰れた。
金色だった、らしい。不吉だって、潰された。
痛くて熱くて、ヤメテっていったのに。聞いてもらえなかったのは覚えてる。
ぬくもりとかやさしいとかずっと解からなかった。
でもそれがフツウだとおもっていた。他なんて知らなかったから。

最後の"ゴシュジンサマ"は敵の多い人だった。
だからその敵をなんとかするために、買ってきた僕にヒトゴロシを教えた。
他にも何人も同じようにジャマな相手をコロス道具をたくさん飼っていた。
イヤだともおもわなかった。そのときは。
だって、他にいくところなんてなかった。なんにも、知らなかった。
いわれるままに何人殺したか覚えていない。
その頃の記憶は曖昧でぐちゃぐちゃで。
覚えているのは一番最後だけ。

ある冬のこと。とても寒い頃だった。
僕は風邪を引いた。酷い風邪だった。
何日も何日も熱が引かなくて、動けなくて蹲った。
オシゴトもできなくて。そうしたらゴシュジンサマは、「これはもうイラナイ」って云った。
お屋敷から路地裏に捨てられた。
よく働いたからって殺されなかった。どうせ長く生きられないだろうけど、っていわれて。

寒くて寒くて苦しくて。誰も助けてくれないのは知ってた。でも、死にたくなくて必死、だった。
冬だったから虫とかは居なくて草もなくて飢えて乾いたけど、街だったからまだ助かった。
雨水が溜まっているのを啜って、ゴミを漁って食べた。
風邪が治ったのは多分キセキみたいなものだったんだろう。よく、死ななかったとおもう。

その後、すぐに街にもいられなくなった。
ハーフだって知られて、街の人にたたき出された。
いっぱいたたかれて。いっぱい血が出た。死ぬかとおもった。
季節はまだ冬で。外はとても寒くて。
でも苛められたくなかったから人の居ないところへ居ないところへ逃げた。
そのうちたどり着いた。樹がイッパイ茂っているトコロに。其処なら見つからないかとおもった。
道もわからなくて奥に奥に進んで。茂みに隠れたときには限界で。
倒れるみたいに底に隠れて寝転んだ。
寝たらもう起きられないんじゃないかなって気がしていたけど。
死にたくなかったケド、もう苛められないならそれでもいいかなってどこかでおもった。


でも、死ななかった。
ひとに助けて、もらった。初めてだった。助けて、もらったのは。
優しい手。お月様の銀色の髪と金色の瞳。
潰れかけた僕の目に、それでも僕が今まで見たなかで一番綺麗な人だったから。
きっと、昔、ダレかがいってたカミサマなんだって思った。

──その人が、フォルザードサマだった。

フォルザードサマは助けてくれただけじゃなくて、こないかっていってくれた。
だからついてった。やっぱり始めてだった。そんな風に云ってもらったのは。
それはフォルザードサマが差別されてるみんなに、
居場所のない子に云ってくれてるやさしい言葉。魔法の言葉。
それがすごく嬉しかった。ほんとにほんとに嬉しかった。
だからそのときから、フォルザードサマは僕のトクベツ。ナイショだけどね。

それから、今居る集落に連れてってもらった。
集落にはいろんな人が居て、ドラゴニアの人や、苛めないやさしい人間のひと、
おんなじハーフの子とかいてとってもニギヤカだった。
楽園みたいだと思った。こんなところがあるなんて思わなかった。
ユメみたいな世界。やさしい森。
硝子の森グラスヴァルトっていうのはあとで教えてもらったこと。

色々なことを勉強した。
まずは文字と言葉から。
いまではちゃんと喋れると思うし、難しい字はマダだけど読み書きだってできる。
お使いとか、薬になるキノコや草の見分け方も習った。
料理とか裁縫とかむずかしかったケド、できるようになってきた。
掃除は結構トクイ。キレイになるとキモチいい。

まだトクベツなことは何にも出来ないけど。
でもね、いつか恩返しできたらいいなっておもってる。
フォルザードサマに。
硝子の森のミンナに。
だいすきな、ひとたちに。
みんながくれた分だけのシアワセをかえしたい。

そうしたらイラナイっていわれないよね?
ずっとずっといられるよね?

この大切な場所がなくならないでほしい。
大切な人たちにわらっていてほしい。
いっしょに、いたい。
そんな風に、願っている。


ずっと。

 

戻る