砕けた硝子の羽根を掻き集め、翅を創った
血塗れの指で背に重ねて

──空へ

 

空。

 

「何を創っているの」

コンクリートが敷き詰められた地面に座りこんで、
拾ってきた硝子の欠片を繋ぎ合わせ、君はいつも何かを作っていた。

僕はそんな君を見つける度、いつもそうして君に尋ねた。

「翅」

君の答えはいつもまちまち。

飛行機だったり、宇宙船だったり。

共通点は何時も飛べるものだということだった。

「無理だよ、そんな物で飛べる筈が無い」

僕の言葉は決まっている。

君が何処かに言ってしまいそうなのが厭で、つい否定するような事ばかり口にしてしまう。

そう言うといつも君は、決まって、
切ない、儚い、泣き笑いのような、そんな表情をして、こう応えるのだ。

「飛べるよ」

君の答えを聞くたび、僕は何時も泣きたくなった。

 

 

 

 

 

一月経った、春の午後。
じんわりと淀みゆく時の中で、君は死んだ。

 

飛び降り自殺だった。

 

腰だか足から落ちたとかで、君の死に顔はとても綺麗なものだった。

 

 

君の遺品だと、あの翅を渡された。

それは綺麗に組みあがっていて、完全な翅のかたちをしていた。

 

 

君の抜け殻が空へと昇って、僕は家に帰った。

 

 

 

帰り道に見上げた空は青すぎて。

僕の瞳の奥に染み入り、小さな雫を結んだ。

 

 

 

 

 

ねぇ、君は何を見たの。

何を望んで、飛んだの。

 

最後に君が見たのはこの青い空だった?

 

 

 

もう届かない僕の声。

もう返らない君の答え。

 

 

 

 

その日から僕には硝子の欠片を拾う癖がついた。

そうしてそれを繋ぎ組み上げていく癖も。

 

いつか。

そう、いつか。

僕の翅が出来あがったら。

君が最後に見た物を探しに僕も飛び立つよ。

 

 

ひとつ、気づいた事が有る。

僕は、君が好きだった。

 

fin

 

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