やっとの思いで着いたホテルは、茶色を基調としたおしゃれな内装で、重厚な趣がある。
フロントには、ハンサムなフロントマン。
空港での優しい職員もそうだったけど、どうして、欧米人ってハンサムが多いのかしら。
ドキドキしながら、思い切って声をかけた。
桜子の英語力の無さは、空港で証明されている。
しかも後には、"まっそ"もいる。
あ〜、英語が苦手なのが、ばれちゃうよ〜。
かなり、不安。
ちゃんと話せるかしら……。
「エクスキューズミー」(Excuse me)
「Yes」
「マイネーム イズ サクラコ」(My name ia sakurako)
「OK!○×△ ※○☆ ×?」
ヽ(~〜~ )ノ ハテ? 何?
何を言っているの?
わかんない〜〜。
「"まっそ"、何言っているか、わからない」
疲れのせいもあって、桜子の声はほとんど泣き声。
流暢な英語で、"まっそ"が何かを話している。
「桜、ホテルの予約確認書ある?」
「ああっ! 忘れてきた!」
「どこに?」
「……東京」
また、何か英語で、"まっそ"が話している。
そうだ、忘れないようにって言ってたのに、机の上に置きっぱなしで来ちゃった。
確認書が無いと、ダメなの??
どうしよう……。
「桜、ここにサインして」
「う、うん。 大丈夫かな?」
「安心しろよ」
"まっそ"の言葉に安心出来ないのは、ここまでの道のりのせい??
とりあえず、宿泊者名簿にサインした。
書き終えても、フロントマンと"まっそ"のやりとりがわからないから、桜子はぼっとして居るしかなかった。
「ほら、これが部屋の鍵」
209と刻印されたプレートを付けた鍵を渡された。
チェックインが済んだらしい。
「部屋に行こう」
"まっそ"が、バックを持って、先を歩く。
209号室って事は、2階ね。
階段で行った方が早そう。
エレベーター無いし。
「桜、エレベーターで行くよ。 3階だから」
エレベーターなんて、無いじゃん。
"まっそ"は、ドアノブのついた、大きな扉の前に立っている。
ええっ??
これがエレベーター??
確かに、ドアノブの近くに、それらしいボタンがある。
「来たよ」
"まっそ"が、ドアノブに手をかけた。
桜子が、あっと言う間に、ドアを引いた。
「こっちのエレベーターは、引き戸が多いんだ」
ふ〜ん。
何か、変な感じ。
「それにね。 2階から、101、102って部屋番号が付けられるんだ」
だから、209号室は、3階なのね。
エレベーターを降りると、そこには、何もない。
部屋はどこ??
"まっそ"が、また、小さなドアを開けた。
部屋番号が案内されている。
迷路のような廊下を歩いて、部屋の前に着く。
鍵を開け、部屋に入ると、内装とインテリアこそおしゃれだが、小さなベッドと机が一つ。
日本のビジネスホテルを思わせる部屋だ。だけど、やっと着いたって言う安堵感でいっぱいになった。
「改めて。 ようこそ、コペンハーゲンへ」
"まっそ"が笑う。
「少し落ち着いたら、食事に行こう」
そう言えば、お腹が空いている。
飛行機の中で、機内食を食べたきり。
「バックがない」事件や「乗り間違え」事件やらで、あっと言う間に時間が過ぎていったっけ。
「せっかくだから、デンマーク料理の店に行こう」
デンマーク料理って、どんな感じなんだろう。
町の中心部ストロイエは、すっかりクリスマスの感じ。
ロマンチックな気分に浸って歩くのは、良いんだけど、"まっそ"は、また道に迷っている。
内心、不安がいっぱい。
だってさ〜、どこに連れて行かれたって、わかんないじゃん。
頭の中には、また新聞の見出しが浮かぶ。
『日本人中年女性、コペンハーゲンで強盗にあう!』
あはは……考えすぎか(笑)
結局、"まっそ"が良く行く、中央駅にあるちょっと安めのレストランで食事。
日本で言うファミレスを豪華にした感じ。
それでも、雰囲気ばっちり!
ん〜。 ロマンチック……うっとり。
絶品は、レバーのパテと、ブルーチーズ!
チーズ好きの桜子としては、この上ない満足。
北欧は寒いって聞いていたけど、夜風がとても快い。
美味しい食事。
ロマンチックな街並。
恋人だったらと思う程の素敵な男性と夜の街を散歩。
長いフライトの疲れも、ぶっ飛んじゃう。
不夜城東京とは違う夜のムードに酔っていた桜子。
明日からのコペンハーゲンでの珍道中など、思いもせず、更けていく夜に良い続けるのでした。