何はともあれ、どうにか荷物を受け取り、"まっそ"にも会えたし、まずは一安心。
の、はずだったよね〜。
空港から列車に乗って、コペンハーゲンの中央駅まで約20分。
空港からは、どの列車に乗っても、コペンハーゲン中央駅に着く、とガイドブックにも書いてあったはず。
それに、"まっそ"が一緒だからっていう安心感もあったし、"まっそ"の後をついて、列車に乗り込んだ。
窓の外は昼が短い北欧らしく、6時前だと言うのに、すっかり夜になっている。
ネットの友達に会うといつも思うんだけど、その人が目の前にいることが不思議。
文字だけの付き合いが、現実化される。
一緒にいる"まっそ"は、本当は"まっそ"じゃないのかもしれない。
なんて、ボーっと考えていたら……。
「間違えた!!」
えっ? なに、なに?
何を間違えたと言うの?
「列車、乗り間違えた……」
えっ〜〜〜?
どこに行っているの〜〜?
列車は、町の賑やかさとは逆の暗い静かな街を走っている。
ここはどこ? 私はだれ?
そんな感じで、さっきまでの安心感は、どこかに吹っ飛んだ。
「どこに行くの、この列車?」
「俺のアパートのほう」
うそだよね?
自慢じゃないけど、桜子は美人でもないし、金持ちそうにも見えない。
誘拐されたって、何も出てこないぞ!!
あ〜〜、日本の新聞に、『日本人中年女性、デンマークで誘拐!』なんて、出たら、どうしよう……。
頭の中に、色んな事が走馬燈のように浮かぶ。
「次の駅で乗り換えるから」
え〜い!!
もう、こうなったら、"まっそ"の後ろをついて行くしかない。
例え、どこに行っても、"まっそ"を信用するしかないもんね。
着いた駅は、すごく静かな駅だった。
夕方の5時を過ぎたら、日本は、通勤ラッシュでごった返しているのに、この駅は人影も少ない。
"まっそ"の話では、通勤に電車を利用する人が少ないらしい。
なるほど。
取りあえず、納得。
やってきた列車に乗り込み、コペンハーゲン中央駅に改めて向かう事にした。
旅行の初日だと言うのに、色んな事がありすぎる。
列車の中で、ぐったり。
コペンハーゲン中央駅には、あっと言う間に着いた。
一体、今まで何してたんだろう??
宿泊予定の「ホテル・オペラ」には、徒歩でも行けるらしいが、"まっそ"に言われるままにバスに乗り込んだ。
バスで5分。
デンマーク王立劇場の前で下車。
バスの中で、これがどことか説明も受けたけど、桜子の頭の中はパニック状態で、さっぱり。
それでも、すっかり夜の街となったコペンハーゲンの中央にそそり立つ王立劇場には、圧倒された。
ホライズンの深井さんの話では、「ホテル・オペラ」は、王立劇場の裏手に当たるらしい。
だけど、"まっそ"は、反対方向に歩いていく。
まじ??
でも、地元の"まっそ"が行くんだから、間違っているはずないよね?
街の景観とは、似つかわしくない派手なイルミネーションの方へ歩いていく。
ええっ……??
日本のラブホテルじゃないんだからさ……^^;
そこはホテルじゃないでしょう??
不安な気持ちを押し殺して、"まっそ"の後を連いていくけど。
げっ!!
ここって、デパートじゃん。
"まっそ"、本当に大丈夫なの?
ノドまで出そうになる言葉を飲み込む。
地元の言うことに間違いはない。
そもそも、それが間違いなんだよね。
段々、街灯もない方へと歩いていく。
いきなり、襲われても、お金ないよ〜。
そうだ!
ガイドブック、持っていたっけ。
地図で探さないと。
でも、ここはどこ?
わからない……。
地図を見たって、わからない。
恐る恐る、"まっそ"に聞いた。
「オペラ・ハウスの裏手って、反対側じゃないの?」
「ははは。 そうとも言うよね」
ねぇ? 本当に、大丈夫なの?
"まっそ"って、地元だよね?
「もう一度、王立劇場まで戻ろう」
それがいい。
王立劇場の正面から広い道路沿いに、歩いてみる。
建物の壁に、住所表示らしいプレート発見。
「これって、住所表示?」
「そうだよ」
見覚えがある地名。
きっと、ホテルは近いはず。
重かった足どりも、少し軽くなった。
王立劇場の真裏にさしかかった時、路地にホテルらしきものを見つけた。
「あった!!」
まさしく、『ホテル・オペラ』。
ホテルに着いた時には、時計は8時を指していた。
コペンハーゲン空港から40分の道のりに、3時間もかけた、"まっそ"と桜子だった。