と、言う訳で、トイレの入口とロビーへの出口を間違えた桜子は、ロビーに放り出されてしまった。
そこ(当然?)で、バックを受け取るために、中に入る事にした。
でも……。
どこで、誰に何を言えばいいの?
わかんない〜〜。
取りあえず、空港の案内カウンターへ。
「キャン ユー スピーク ジャパニーズ?」( Can you speak Japanese?)
「No!」
「エニワン スピーク ジャパニーズ?」(Anyone speak Japanese?)
「No!」
きゃ〜〜〜、日本語わかる人、いないよ〜!!
ど、どうしよう……。
少し冷静な判断が出来てれば、"まっそ"が空港内にいるはずなんだから、通訳を頼めたはず。
完全にパニック状態の桜子には、そんな事も考えられない。
「アイ ドント ギブ マイ バック」(I don't give my bag)
「Sorry. I can't understand」
ええっ?
理解出来ないって……そんな……(>o<")
でも無理もない。
桜子が話す英語は、めちゃくちゃだもん。
「OK!」(何がOKなんだよ!)
「I want to go in」
中に行きたいってような事を言ってみた。
今度はわかってくれたみたい。
にこやかに、2階を示し、そこが入口だと教えてくれた。
やった〜〜 \(=^‥^=)/
急いで階段を登り、列の最後尾に並ぶ。
多少の不安を感じながら。
「Ticket please」
えっ? チケット?
ここは、出国のためにゲートだ。
「マイ バック イズ イン ゼア」(My bag is in there)
「What?」
「アイ ロスト マイバック」(I lost my bag)
列からつまみ出されるかの様に、脇に寄せられた。
まるで、怪しい人みたい……。
「エニワン アンダースタンド ジャパニーズ?」(Anyone understand Japanese?)
「A little」
若い男性の職員が名乗り出る。
「My bag is there」
ゲートの向こうを指さし、バックが無い事を伝えようとするが、全然通じない。
英会話の本で、それらしい内容の文を探すけど、焦っているから、それも見つからない。
『私のバックがないんだってば……』
心の中の叫びは、誰にも聞こえない。
泣きたくなるけど、泣いても、誰も助けてはくれない。
「マイ ボストンバック」を繰り返すが、埒は明かない。
必死で、ページをめくって、やっと、それらしい文を発見。
その文章を指さし、「I haven't got my baggage yet」
「OK! Come On!」
通じたぁ〜〜〜!
この時、迎えに来ていた"まっそ"の事などすっかり忘れている。
「連いてこい。」と言う職員の後を歩いていた。
従業員の通路から入れてくれると言う。
よかったぁ〜〜♪
階段を降りながら、若者は「よかったね」みたいな英語で話しかける。
きっと、ひきった笑顔で、うなずいていただろうな……私って……。
取りあえず、ほっと胸をなで落した時。
「やあ、桜」
日本語だ。
誰? 私の名前を呼ぶのは?
「どうかしたの?」
若い日本人らしき男がいすから立ち上がった。
"まっそ"……。
それどころじゃない。
「ごめん。 後にして」
初対面の挨拶もそこそこに、従業員通路に走り出す私。
あ〜、恥ずかしい。
広いターンテーブルの上に、私のバックだけ飼い主にはぐれた子犬の様に、寂しく回っている。
「This is my bag」
急いで、バックを受け取り、改めて出口へ。
出口の前で、"まっそ"が待っていた。
「おまたせ」
照れくさくて、そう言うのがやっと……。
「ようこそ、コペンハーゲンへ」
そう言って、荷物を"まっそ" が持ってくれた。
事の転末を聞かれません様に……。
何も無かったように、"まっそ"が歩き始める。
「長旅ご苦労様」
"まっそ"と初めて会った感じはない。
まるで、古くから友人の様で……。
"まっそ"と会った瞬間、デンマークに着いたと実感した。
だけど……"まっそ"と会えたのは、約束の時間から30分以上も過ぎていたのだった。