フラワーギフト 翻訳

* 名も知らない人にMange tak♪ *

誰にでも、心にしまっておきたい思い出があるよね?
もちろん、桜子にもあります。
遠い夏の日の思い出だったり、淡い春の日の思い出だったり。
意外と忘れられないのは、たわいもない思い出なのかもしれない。
道ですれ違っただけで、名前も顔も覚えていない。
そんな人との出会いが、どうしても忘れられない。
そんなこともあるよね?
桜子は仙台に「どうしても行かなくちゃ」、そう思って早20年。
今だに成し遂げていません。
どうして? って。
それは、桜子にとって「心の恩人」が仙台にいるから。
まだ高校生だった桜子が、自転車のカギをなくして、暗い夜道を、重い自転車を押してとぼとぼ歩いた時。
10数人の大学生らしき人達に囲まれた。
「カギ、なくしたのか?」
声かけられたけど、何も答えられなかった。
少し酒臭いのが気になって、何となく怖くて。
気の毒がっているけど、明らかにおもしろがってもいる。
「やだなぁ……」
そう思った。
そんな時、一人の男の人が、あっと言う間にカギを壊してくれたのだ。
お礼を言わなくちゃ。
でも、まだ少しの恐怖感が残っていて、ただ下をむいちゃった。
やっと一言。
「ありがとうございます」
そう言うまでに、すごく時間がかかったと思う。
そばにいた酔っぱらい(?)が、「いいんだよ、こいつ、自転車屋の息子だから」と、一言。
えっ? 本職なの?
(おい! 自転車屋の息子だからって、自転車屋とは限らないだろう!)
でも、工具らしいものがあるわけじゃないし、カギが壊してもらうだけでも、けっこう高い料金取られるんだよ。
そそっかしくて、よくカギをなくしていた桜子は知っている。
いくら本職でも、ただって訳ないし……。
「あ……あの……、お代は?」
高校生のくせに、生意気!(笑)
だけど、その人は笑って言った。
「仙台の駅前に自転車屋があるから、仙台に来ることがあったら、その時に払ってよ」
実は、取替えたばかりのカギをなくして、また母親に叱られると思っていたから、なんとなくホッとして気が抜けた。
(でも、良く考えたら怒られるのは、一緒なんだよね、新しいのを付けるんだから……)
「必ず、お礼に行きます」
勢いで言ってしまった……。
その時から、「仙台」という街が特別な街になった。
あれから20数年。
まだ、仙台に行く機会はない。
まったく、恩知らずなやつだ……(汗)
20年の間に、街の景色も変わった。
人の姿が変わったと言ったほうがいいかな。
あの場所も、今ではキャバクラとかが並んでいて、夜になると客引きのチンピラもどきがうようよしている。
酔っぱらいの質も変わった。
大人数でさわぎ、人の迷惑など意にかえさない。
この街だけではなく、自分のことにしか感心がもてない人間が増えたと思う。
そういう桜子も、そんな人間の一人だ。
困っている人がいたとしても、素通りするに違いない。
仙台の名を耳にする度、あのお兄さんのことを思い出す。
今は、おじさんになっているはず。
もしかしたら、もう自転車屋さんはないかもしれない。
それでも、いつか仙台に行こうと思う。
あのお兄さんのように、人に優しくなれないけど、お兄さんのことは忘れちゃいけないって思うから。
名前も知らないけど、あの時のお兄さんにMange tak♪

(追記)
どなたか、「仙台駅前の自転車屋さん」をご存じの方がいましたら、情報下さい。
あの時のお兄さんは、45歳くらいになっているはずです。

( 2006/10/20 )


(追記の追記)
あれから、仙台に行く機会がありました。
しかし、残念ながら自転車屋さんは見つかりません。
あの時、確か名前を聞いたはずなのに……覚えていなくて。
駅前の自転車屋さんは、すぐわかると言っていました。
数年前に、駅前の再開発があったようなので……今は駅前にないのかな。
どんな情報でもOKです、情報ください<(_ _)>

( 2009/7/13 )

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