ここに程近い場所にちょうどいい川があった。
「よし、行くか。」
ぼくは迷わずその川へむかった。
何故だか不思議な気持ちがぼくをその川へと引き込んだ。
川なんて、他にも数え切れない位あるのに、その川を選んだのは、「ただ、近かったから。」
なんてたやすい言葉じゃ説明のつかないような何かがはらたいてるように感じた。
そこには小さな看板が立っていた。
【柚乃川】
「なんて読むんだ?ユズノ??ユノガワか!!」
ただ漠然と川の名前が書かれているだけの看板。
華やかさなど全く感じさせず、寂しく、むなしいだけの、さびれた看板。
だけど、、、今のボクにとっては、なんだかとても落ち着く。
むしろなんだか、いとおしくも感じられた。
おかしな話だけど。きっと今の自分に似ているからだろう。
柚乃川という名前を知らしめるための看板。
何も考えず、特別に気にも留めないけれど、
柚乃川という名前を、柚乃川という存在を、唯一知らしめるための看板。
今のぼくにはそんな証がほしいのかもしれないし、
そんな存在になりたいのかもしれない。
とにかくこのさびれた看板に、愛着がわいてしまった。
「とりあえず、歩くか。」
いけるトコまで行ってみよう。
とりあえず、前進しなきゃ。もう、後には引けない。
か細く流れている川。
今はこの川が、ぼくの世界。
ボクのすべてだ。
これから先を決めるのはこの川。
時間を知ってるのはこの川だけ。
ぼくはこの川に沿って歩く。
この川はボクで、ボクはこの川。
流されて、流されて、ただただ前に進んでいく。
まだ、航海ははじまったばかりなのだから。