ー夜気ー

「……っ……ぁ」
冷たい夜気を揺らせる。
掴んだ髪に慣れた匂いがして思わず相手にしがみつく。
普段、その手に荊を握り静かな声音とは裏腹に凍りつくような残忍さで目の前に立つ邪魔者と認識する者を八つ裂きにするのに。

「そんなふうに自分の体を苛めてばかりじゃ、逆に試合当日に辞退する羽目になりますよ」
「………」
暗闇から突然現れた男に、彼は五月蝿いと言うかのように顔を背けた。
「…お前こそやたらめったら元の姿に戻ってると薬が効かなくなるんじゃないのか」
「あれ、心配してくれるんですか?珍しい」
「……」
小さく笑うのが勘に触ったのか、すっと目を細めた。
「…飛影」
近寄ってきて、隣に座る衣擦れの音。
見せて、と右腕に伸びた白い手指。

——————……傷口を舐める、赤い舌。
「……っ…ふ……」
肌にかかる吐息が。
脱力してしまう自分の体が。
それでも、暗闇に引きずられまいと必死になって掴むのが相手の肩。
「……鴉に好かれたらしい」
「…なに、が・……つっ!」
上がる呼吸を抑え抑え、のけぞらせた首に噛み付かれる。
生温い血の滴り。
「……嫉妬した?」
見下ろしてくる目が笑う。頬に落ちてくる長い髪。
「…………」
睨み付けたのを小さく笑って、鎖骨へ伝い落ちる赤い雫に舌を付けた。
喉の奥で笑うのが癪に障る。
衣擦れの音が五月蝿い。
蒸せ返るような草の匂いに、何故だか自分ばかり、と相手の服を乱暴に引きずり落とした。
「…う……」
塞がれた唇から血の匂いがして顔をしかめる。けれど、次の瞬間には甘い感覚に捕われて目を閉じた。
「……少しは可愛くなったと思えば」
「……ふ、ぁっ……っ」
冷えた指先。
「やっぱり頑固だから」
「…ぁくっ……」
滑り落ちる舌、唇。
「…楽になればいいのに……」
「あ、……っ」
絡みついて覆われる熱に体が跳ねる。
しつこいほど襲いかかる快楽に声が震えた。
見上げてくる目が嫌味なほど艶かしく、そこへと滑り落ちていく相変わらず冷えた指先に苛立つ。
「ふ、……ぁっ———————っ!!!」
強い圧力で導かれた解放に大きくのけぞる。
かと思えば焦らすような指先の愛撫に肌が粟立つ。増えれば悦び、進められると震える体がまるで自分のものではないようで。
「……いい…加減、に…っ・……」
「…雪菜さんが憎らしいと言ったら、貴方はきっと怒るだろうね」
「…なっ・・…に、が・……ふ、・……」
「たまには欲しがってみてもいいのに」
「……貴様…っ……!」
滑りこんで来た体温に息が止まる。
喘いで土を握り締めた手に冷たい指が絡み付いてきた。
視界が揺れる。
耳朶に触れる吐息が熱くて、声にならない声がそれでもその時の二人を快楽の渦へと誘っていく。
肌に残った紅跡。
背中に残った爪跡。
そこにおよそ"愛"だとかいう言葉が存在するのかどうかは謀りかねるとしても。

「—————————っ!!!!」
萎えた時空。
空気を震わせる吐息。

夜気が肌を撫でていく——————
   

                                                                 <了>

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       14歳の時に、これを書いたのが最後でしたね。それ以降は専ら仮面生活の日々(笑)   
       だって、その友達すらあっさりなんかこっち系(笑)から手を引いてしまいましたからねぇ…。   
       しかし、つたない表現力だ…しかもエロくないですよね、あんまり…(泣)                                                  
            

                                                       『帰る』