<内容>
不二新報・網走支局長の江上は、梅津という男が海に落ちて死んだという記事を目にする。その梅津というのは江上が3年前に手がけた“天陵丸沈没事件”の目撃者であった。そのときの事件により、江上は釧路から網走へと飛ばされる羽目になったのである。江上は3年前の“天陵丸沈没事件”にて起きた真実を暴こうと、単独で奔走するのだが・・・・・・
<感想>
2006年に出版された「X橋付近」という高城氏の短編集が話題となり、今年東京創元社から高城高全集が文庫で出版されることとなった。これを機に読んでみようと思い購入し、まず読み始めたのが第1弾となるこの作品。てっきりこの全集は短編集ばかりだと思っていたのだが、本書は長編一編のみの掲載となっており、なんとこの作品は現段階においては高城氏の唯一の長編となる作品とのこと。200ページ強という短めの作品である。
読んだ印象としては、主人公が事件記者ということもあってか、ハードボイルドというよりは、社会派推理小説という感覚のほうが強かった。たぶん比べられることも多いであろう島田一男氏風の作品かなと(例えられるほど島田一男氏の作品を読んじゃいないのだが)。
ただ、本書が社会派推理小説なりの読みごたえがある作品というのは確かであった。3年前に失態とも、はめられたともいえる事態を起こしてしまった事件記者の執念が垣間見える作品である。
本書を読んだだけで高城氏の作風というものを語る事はできないし、また、長編がこれ一作ということは、高城氏の本質は短編群にあると捉えることもできる。とりあえず、この全集(全四巻)を読んで、どのような作品を書く人なのかということを見極めてゆきたいと思っている。
<内容>
「X橋付近」
「火 焔」
「冷たい雨」
「廃 坑」
「淋しい草原に」
「ラ・クラカチャ」
「黒いエース」
「賭ける」
「凍った太陽」
「父と子」
「異郷にて 遠き日々」
「われらの時代に」
「親不孝の弁」
「Martini. Veddy. veddy dry.」
<感想>
高城高氏の作品集、2作目。こちらは短編集となっている。近年、話題となった短編集のタイトルにもなった「X橋付近」も収録されている。
実は“X橋”というものが本当にあるということを知らなかった。“x”ということで、名前が伏せてあるのか、仮の名前なのかと思っていたら、仙台市にある本当の橋の名前。ただし、今では形も変わり、どちらかといえば“Y橋”といったほうが正しいような形になっているそうだ。
その「X橋付近」も含め、北国を背景としている作品が多かったように思える。主には仙台と北海道あたりであろうか。意図して書いているのかどうかはわからないが、印象としては全編、都会から離れた地での様子を描いているように思える。なかには都会をイメージした作品もあるのかもしれないが、退廃的な田舎を舞台にした昔の社会派ハードボイルドというのが本書に与えられる印象であった。
この作品集では「賭ける」から続く4作が同一の人物が登場しているというシリーズ風の作品となっており、高城作品では異色とのこと。それがまとめて読めるだけでも価値ある一冊といえよう。
「賭ける」は、学生らが登場するフェンシングが背景となるミステリとなっており、それまでの作品とはがらりと変わるような内容。それが「凍った太陽」に続いてゆくことによって、なるほど納得と思ったのだが、実際にはシリーズというイメージを著者はそれほどもっていなかったようである。
ただ、そういったなかで「凍った太陽」が作中では一番よい作品と思えた。社会派ハードボイルド作品として珠玉の一編といえよう。それがシリーズ中にあるということで、さらに内容に厚みが出ている。
ということで、なかなか濃い作品が集められていると思うのだが、近代的なハードボイルドを期待して読む人にとっては少々イメージが異なる作品集であるのではないだろうか。最後の3作品は高城氏による評論集となっているのだが、そこで述べられている彼にとって最初に描くハードボイルド作家というものはアーネスト・ヘミングウェイだというのである。その後にチャンドラー、ハメット、マクドナルドと来ているので、そのとっかかりからして今現在のハードボイルドとは異なっているということがわかるのである。
そういうこともあって、ハードボイルド・ファンに進める作品集というよりは、昭和の中期に描かれていたハードボイルとしてこのようなものがあるというのを感じるための作品集という位置づけであると思ってもらいたい。興味のある方はご一読のほどを。
<内容>
「暗い海 深い霧」
「ノサップ灯台」
「微かなる弔鐘」
「ある長篇への伏線」
「雪原を突っ走れ」
「アイ・スクリーム」
「死体が消える」
「暗い蛇行」
「アリバイ時計」
「汚い波紋」
「海坊主作戦」
「追いつめられて」
「冷たい部屋」
<感想>
高城高作品全集第3巻。昭和33年から35年にかけて、さまざまな雑誌に掲載された作品が集められている。ずいぶんと短いスパンで多くの作品を書き上げていたようだ。
もともと高城氏自身が新聞記者であったということにより、新聞記者が主人公となって語られる作品が多い。また、北海道を舞台としてそれぞれの作品が書かれているのだが、当時の時代背景もうかがえるようになっている。今の時代では考えられないような、ソ連に関わるスパイ活動のようなことが現地に住む人にとっても、まるで身近なことのように描かれているところはなんともいえないものがある。
スパイ活動により人生を狂わされた男の過去と現在を描く「暗い海 深い霧」。
犯罪に手を染めてしまった二人の青年の悲哀を描く「ノサップ灯台」。
殺人事件を追う記者の奮闘ぶりを描いた中編「微かなる弔鐘」。
アイヌ民族の近代化への変遷とひとりの青年の事件を描く「雪原を突っ走れ」。
上記の作品が印象に残った。作中の人物からすれば、地域の日常を描いたものに他ならないのだが、どこか遠くの世界と感じられてしまう。そこは地域性なのか、それとも時代性なのか、もしくは両方かもしれないが。そんな印象からか、独自性を感じさせられる作品集となっている。一応ジャンルはハードボイルドということであるが、新聞記者が主人公の作品が多く、基本的にはその職務を遂行させていることから、事件簿というようなイメージが強い。
<内容>
「踏 切」
「ある誤報」
「ホクロの女」
「風への墓碑銘」
「札幌に来た二人」
「気の毒な死体」
「風の岬」
「飛べない天使」
「ネオンの曠野」
「星の岬」
「上品な老人」
「穴無し熊」
「北の罠」
「死ぬ時は硬い笑いを」
<感想>
高城高全集の第4弾であり、最期をかざる作品集。最後と言っても、これ以後も高城氏は作品を書いているので、決してほんとの意味での最後というわけではない。
全体的に警官か新聞記者を主人公としたものが多く、北海道を舞台にさまざまな物語が描かれている。特徴としては、北海道の繁華街ではなく、うらびれたような地域ばかりにスポットを当て、どこか廃頽したような雰囲気のなかでの物語という感じ。その他、スパイものが取り扱われたり、なかにはそういった背景とは別の男女の物語なども見ることができる。
なんといっても衝撃的なのは表題作の「風の岬」。女の亭主と女の不倫相手の二人の男によるぎこちないドライブの情景が描かれている。やがて、サスペンスではなく、ホラーといってもよいような展開が待ち受けることに。これは嫌でも印象に残る作品。
その他、さまざまな物語が描かれているのだが、普通のミステリ、ハードボイルド作品でありつつも、どの作品もが独特な雰囲気を持つ高城作品として仕上げられている。しっかりとした読み応えを感じることができる作品集。