<内容>
私、椎名耕助は、大学の同僚・乙骨三四郎とともに避暑を兼ねて信州へ旅行することになった。だが、N湖畔に立つ鵜藤家の一室を借りた私たちが、そこで恐るべき殺人事件に巻き込まれることになろうとは! 「悪」そのものを結晶化したような美少年・真珠郎。「血の雨が降る」と不気味な予言を口にする謎の老婆。巨匠・横溝正史が耽美的作風の頂点を極めた戦前の代表長編「真珠郎」登場!
他に由利・三津木コンビが活躍する「蜘蛛と百合」「薔薇と鬱金香」「首吊船」「焙烙の刑」の四篇を収録した怪奇ミステリ傑作選!
<内容>
殺人方法考案の天才だった父が、通信教育で殺し屋を育成していたことを知った青年・桔梗信治は、彼らを消すことで父の「血に飢えた遺産」を清算すべく、東京へと赴いた。教え子達が得意とする奇想天外な殺人方法はもちろん、名前も居場所も素顔すら判らない信治は、どうやって彼らと戦うのか?
<感想>
和風007を意識したという本書であるが、思い浮かぶのは山田風太郎忍法帖!まさに技と技とのぶつかり合い、騙しあい。見事なるアクション巨編。内容からしてこれは、たしかに連載むきのものであったのだろう。今でいえば連作短編といっていいのかもしれない。
<内容>
洋画家宅から出火し、療養中だった画家が逃げ遅れて焼死した。出火の原因は三人の幼稚園児たちの火遊びによるものと思われた。それから二十六年、きまって五のつく日に現れる放火魔、後を追う刑事、パトロールを続ける消防員、三人は意外な形で再会をとげることになる。やがて殺人事件が起こるが、その裏には・・・・・・
<感想>
三人の男が過去に共有するトラウマを抱えているという物語であるが、ついこれを読んで「永遠の仔」を思い浮かべてしまった。内容はまったく違うとはいえ、このような設定の本が先に出ていたとは・・・・・・
展開が最初から見えているかのように思わせて、うまく読者を迷路に誘い込んで行く。そして遂には展開が読めなくなってしまう。奇抜というほどではないにしろ、三人の登場人物の視点からうまく書かれている。そしてラストも読者の予想とはまたかけ放たれたものとなってゆく。まさに技ありの一冊。
<内容>
「後光殺人事件」
「聖アレクセイ寺院の惨劇」
「夢殿殺人事件」
「失楽園殺人事件」
「オフェリヤ殺し」
「潜航艇『鷹の城』」
「人魚謎お岩殺し」
「小栗虫太郎エッセイ集」
<内容>
「二十世紀鉄仮面」
「国なき人々」
「悪 霊」
「小栗虫太郎小品集」
「付 録」
<内容>
「完全犯罪」
「幽霊事件」
「温室事件」
「失踪事件」
「電話事件」
「眠りの誘惑」
「湖畔事件」
「赤い靴」
「女か西瓜か(A riddle story)」
「サンタクロースの贈り物(A X'mas story)」
「地球を遠くはなれて」
「素人探偵誕生記」
「作者を探す三人の登場人物」
「エッセイ集」
<内容>
果たして“処女懐胎”は有り得るのか? ある女性の過去に秘められた謎がスリリングに解明されていく傑作「斜光」
ある人形師の家に嫁いだ女性が、次々と不審な死を遂げる。人形に取り憑かれた人々をめぐる禁断の世界「黒き舞楽」
泡坂妻夫が第三長編「湖底のまつり」以来、一貫して描きつづける「愛(エロス)」をテーマにしたミステリの中から、絶品とも言うべき二作を収め、ボーナストラックとして単行本未収録の暗号ミステリ「かげろう飛車」を加えたファン待望の愛蔵版。
「斜光」
「黒き舞楽」
「かげろう飛車」
<内容>
童話作家・相良直樹の部屋に突然現われたその少女は、果たして何者なのか? 「裏の顔」を隠すために直樹たちと“魔婦”未知子との虚々実々の駆け引きが始まった。その果てに、恐るべき破局が待ち受けているとも知らず。
飽くなき情熱を持って原始世界への郷愁とそこに躍動する女性たちの美しさを描きつづけた香山滋の代表的長編「魔婦の足跡」、全集のみに収録の幻のレズビアン・サスペンス「ペット・ショップ・R」、著者独自の境地を示す二作を一挙に収録。
「魔婦の足跡」
「ペット・ショップ・R」
<内容>
「真夜中に唄う島」(1962年05月 雄山閣出版 YZミステリー)
五人の男と一人の女は快速船に乗り、とある島を目指していた。昨日、彼らが輪姦した女性が殺されるという事件が起きた。彼らは強姦はしたものの殺してはいなかった。疑いをかけられてはと、富士一郎という謎の男に誘われるまま船に乗り、一路逃亡を図る。その富士一郎がいうには、彼はユートピアともいうべき楽園を孤島に築き上げたのだという。その島では皆が裸で暮らし、働くこともなく、好きなように暮らすことができるのだという。彼らが辿り着いた島で待ち受けていたものとは・・・・・・
「蜻斎志異」(全十二話)
(幻影城 1976年1月号〜12月号掲載)
<感想>
「真夜中に唄う島」
エロチシズム・ミステリーの境地ともいうべきか。いや、とうよりはエロチシズム・サスペンスというところに留まっているようにも思える。ミステリーというべき事件は起こるものの、ミステリーというべき解決はなされていない。どちらかといえばエログロ風「パノラマ島綺譚」とでもいうべきか。
ミステリー的な観点から見ても、物語としてみても、ラストにもう一山欲しかったというのが正直なところ。せっかくあれだけ道具立てをしたのに、あっさりと終わらしてしまうのはもったいないような気がするのだが。
結局のところ、”楽園”を築き上げた段階で著者は満足してしまったのかもしれない。
「蜻斎志異」
これでもかというように、いろいろな話がつまっていてなかなか楽しめる。ミステリーではなく風俗(単にやらしい意味ではない)小説とでもいえばいいものなのだろうか。ミステリーではないのだが、どれも最後に必ずどんでん返し(かなり唐突なのだが)があって、それぞれが楽しませてくれる作品となっている。
読み終えたときには女性が怖くなるような近代的ホラーのような味わいもある。
<内容>
「花の旅 夜の旅」(1979年出版)
新人作家の鏡直弘の元に編集者から原稿の依頼が舞い込んできた。撮影班らとともに各地名所をまわり、そのイメージにより花を題材にした小説を書いてもらいたいというのである。鏡はその依頼を受け、取材旅行に加わるのであったが・・・・・・
「聖女の島」(1988年出版)
その離れ小島には犯罪を犯した少女達の隔離施設があるという。そしてその施設にて事件が起こり、一人の修道女が島に派遣されることになったのだが・・・・・・
<感想>
皆川博子氏というと幻想小説の書き手というイメージがあり、なんとなくとっつきにくいイメージがあった。そんなこんなで、昭和ミステリ秘宝のラインナップのなかでは最後に残してしまったのが本書である。それが読んでみると良い意味で思い描いていたイメージと違い驚くこととなった。本書に収録されている「花の旅 夜の旅」「聖女の島」の2作品ともが昔に書かれたとは思えない先鋭的なミステリーとなっているのである。しかし、これは当時では受け入れられなかった作風だろうと思いつつ、あとがきを読むと、やはりな、ということが書かれていた。もしも私と同じような理由で敬遠していたひとがいるならばぜひとも一読をお薦めしたい作品である。
「花の旅 夜の旅」
小説のパート、現実の旅行のパート、手記のパートと分かれており、それらが交互に配置されている。出だしを読んだときはとまどったが、パートが変わったときにその構成に気づかされ、そのミステリーの仕掛けに引き込まれてゆく。そして事件が進むにつれて、その交互のパートにも変化がつけられ、読む側を決して飽きさせないような展開となっている。
ミステリー的な内容というよりは作りそのものがミステリーというべき作品である。そしてその書き分けに作者の力量がいかんなく発揮された作品といえよう。
「聖女の島」
この作品を読んだとき、最近読んだデニス・ルヘインの「シャッター・アイランド」を思い出した。そのものという雰囲気ではないのだが、この作品には何か通じるものがあるような気がする。しかし、この作品が80年代に書かれていたのだから驚きといえよう。
ただし、内容に少々不満がある。できれば修道女の視点のみで通してもらいたかった。これが視点が変わることによって、突如、神の目の視点から一般世界へと落とされたかのような気分になった。
とはいえ、この作品はなんとなく不完全と思えるところに魅力があるのではないだろうか。そのあえて書かれていない部分に想像力をかきたてられ、まだまだ魅力が隠されているように感じられるのである。
<内容>
「薫大将と匂の宮」
新釈雨月物語
「妖奇の鯉魚」
「菊花の約」
「吉備津の釜」
「浅芽が宿」
「青頭巾」
新お伽草子 「竹取物語」
「変身術」
「異説浅草寺縁起」
「艶説清少納言」
「コイの味」
「『六条の御息所』誕生」
「エッセイ」
<感想>
著者が平安時代の紫式部の書物に深い思い入れがあるということがよくわかる。特に本書の表題作の「薫大将と匂の宮」はミステリーならず研究所といってもよいのかもしれない。ただ、逆に平安時代や“源氏物語”あたりに思い入れがないと読むのがきついようにも思える。特に私の場合はその時代の書についてはほとんど知識がないので、平安時代の書物に忠実な書き方をしているような部分がかえってまわりくどく感じられもした。“源氏物語”に思い入れがある人にはお薦めといったところだろうか。
本編でミステリーといえるのは最初の「薫大将と匂の宮」くらいで他のものは物語といった内容。しかしそちらのほうが私には面白く読むことができた。新釈雨月物語は原典については知らないものの、小説としてすぐれたものが書かれている。また、「竹取物語」については、あの有名な物語を極めて現実的に書き下ろした内容がとても興味深い。そして「変身術」にての鼠小僧の物語がユーモアにあふれて、ばかばかしくも感じられながらも楽しめる内容となっている。
本書はミステリーというよりはさまざまな物語を楽しむことのできる一冊となっている。さらに源氏物語や雨月物語といったものの原典を知っている人であればもっと楽しむことができるであろう。
<内容>
精力絶倫の快楽主義者・西門慶は、八人の夫人と二人の美童を侍らせて、日夜、酒池肉林ともいうべき法悦の宴をひらいていた。この屋敷で、第七夫人・宋恵蓮が両足を切断された無惨な屍体で発見される。はたして誰が? 何のために?
日本小説史上に残る名作「赤い靴」をはじめ、天才・山田風太郎が中国四台奇書の一つ「金瓶梅」の世界に材を採った超絶技巧の連作ミステリ全15篇!
さらに単行本未収録の異稿版「人魚燈籠」を加えたファン待望の「妖異金瓶梅」完全版!
<内容>
魔が差して掛け取りの金に手をつけてしまった莨問屋の手代・繁吉の苦悩。(「いも虫」)
亭主に先立たれ商売敵の囲い者となった女房。その子供たちに乞食が放った痛切な台詞とは?(「おこもさん」)
本所で発生した夜鷹蕎麦殺し。山東京伝の従者・平吉は、その謎を追ううちに、意外な真相に到達する。(「どぶどろ」)
天明末から寛政の世を舞台に、名手・半村良が市井の人々の哀歓を細やかな筆致で謳いあげる大江戸人情世話ミステリー。
<感想>
最初に並べられた七編の短編が後の中編「どぶどろ」につながっている。つい、切り離された別の話だと思いながら読んでいたので、「どぶどろ」を読んだとき、慌てて前項をめくり返しながら読むこととなった。
もう、これはうまく書かれているとしかいいようがない。短編ひとつひとつを取っても味がでている。そこに描かれているのが江戸の華やかさだけではなく、その現実的なきたなさまでが描かれている。そこで生きているひとりひとりにスポットがあびせられつつ、最後に平吉の元にそれらが収束され、平吉がそれらを一身で浴びるかのような状態となる。
ある種これは平吉の成長の物語でもある。彼がいままで見てきたものが、それを異なる見方をすることによって、まるせ違うものに見えるということを皆から教えられる。それは川の水面と水面下を両面から見るように違う景色が平吉に展開されてゆく。それでも少々平吉の身分に対して物語の核が大きすぎるようなところもあるが、これはうまいとしかいいようがない。
<内容>
「車引」の場で、梅王丸、松王丸、桜丸の三兄弟は赤い襦袢を着て登場する慣わしであったが、松王丸を演じた五代目団十郎はある時白い襦袢を着て皆を驚かせた。その理由は何か?(「座頭の襦袢」)
「忠臣蔵」の四段目、主人との別れの場面で大星力弥が悲しそうに首を振る型がある。これを工夫したのは誰か?(「美しい前髪」)
劇評家として一家を成しながら江戸川乱歩の勧めによって推理小説を書き始め、直木賞、推理作家協会賞を受賞した戸板康二。本書はその著者にして初めて書きえた、歌舞伎ミステリの傑作である。
<感想>
歌舞伎の題材をベースになぜ歌舞伎の舞台にてこういう仕掛けや芝居がおこなわれるようになったかという由来のいわれが物語によって明かされるという形式の短編集。といってもこれが実話であるというわけではないようである。歌舞伎にて著者が疑問に思った点などを自分流に解釈したというところではないだろうか。とはいっても、よほど歌舞伎というものに興味がなくては書くことのできない作品集である。
というふうに書くと、なにか研究書のようなものを思い浮かべる人がいるかもしれないが、そうではない。あくまでも一つの時代物の物語として読むことができるようになっている。内容は各短編バラエティにとんでおり、人情や嫉妬などさまざま歌舞伎における舞台裏の人間模様が彩られている。
それと読んでいてふと気づくのは、物語の中に女性が結構出ているような印象を受けたのだが、よくよく考えれば歌舞伎というものは男しか出ていないはずである。そういったなかでこの作品を特徴付けるのは歌舞伎における“女形(おやま)”という存在。これが男性のはずなのに、あたかも女性のように振る舞い物語に変わった色を添えてくれる。男のみの舞台を描いたとは思えない作品集である。