<内容>
「主文・−−−−を死刑に処する」元ヌードダンサー漣子は裁判長の判決を聞きながら、杉彦と永遠の愛を誓った日を思い浮かべていた。罪もない人を死刑にすることは、誰にもできはしない・・・・・・彼女の素朴な愛と真実への希求が新しい証言を呼び・・・・・・
<感想>
噂に聞いていた一冊であったのだが新刊では手に入れることができずに古本屋を巡りようやく入手することができた。
なかなかの名作であるとの評判を聞き読んでみたのだが・・・・・・なるほど確かに作者の術中にはまってしまった。だまされたというよりは、“術中にはまる”という言い方のほうがふさわしいかもしれない。だまされたなどといってしまうと、作中の主人公から「あら、だますつもりなんてなくってよ」と軽くあしらわれそうである。
またサプライズ性のみならず、表題となっている“弁護側の証人”という言葉にも重い意味が込められている。たんなるサスペンス小説に終わらず、この薄いページの中に法廷小説としての重みまでさりげなく付け加えている技量には脱帽である。
これは現在埋もれている良書の一冊といえよう。これが新刊で読む機会が失われているというのは惜しいかぎりである。しかしながら私のようにうまく古本屋で見つけて100円で読めてしまうというチャンスでもある。未読の人はぜひとも探し出してもらいたい作品。2003年はこの著者の他の作品を探すことを目標の一つとしたい。
<内容>
「日曜日は天国」
「暗いクラブで逢おう」
「死後数日を経て」
「そして、今は・・・・・・」
「故郷の緑の・・・・・・」
「酒と薔薇と拳銃」
<感想>
前半の作品はミステリというよりは、人間観察的な普通小説。どうも主人公にダメ男が多いように思えた。
「日曜日は天国」は、離婚した後、息子を想う元ボクサーの話。その想いが伝わっているのかどうか・・・・・・
「暗いクラブで逢おう」は、色々な職を経て、クラブのマスターへとたどり着いた男の話。男は、クラブに訪ねてくる様々な人の事を想いながら、クラブでの日々を過ごす。
「死後数日を経て」は、破天荒な女優の話かと思いきや、最後はうだつの上がらない記者の話へと帰結する。
後半の三編はミステリといってもよさそうな内容。最初の三編を読んだ後では何気に読みがいのある作品と感じられた。
「そして、今は・・・・・・」は、これまたダメ男が主人公であるのだが、この作品では珍しく、男のほうが生き生きとし、女のほうがドツボにはまるという内容。
「故郷の緑の・・・・・・」は、何気に意表を突く作品。刑務所に入れられた男の回想が語られるだけと思いきや、そこに意外な事実が隠されている。「弁護側の証人」を彷彿させるような作品であり、本編中ではベストの内容。
「酒と薔薇と拳銃」は、元ヤクザの情人が刑事に恋するものの、その刑事を待つ女のもとに刑務所に入れられたはずのヤクザが! という話。まあ、普通のサスペンスという感じ。舞台劇にしたら面白そうな話かも。
<内容>
アメリカ人の私立探偵ガイ・ロガートはかつての上司の頼みにより日本にやってきた。その上司が言うには妻が麻薬密売に関わっている疑いがあり、詳しく調べてほしいというのである。ロガートは事件を調べていくうちに、その麻薬密売組織が関わる事件の渦中に巻き込まれてゆくこととなり・・・・・・
<感想>
内容はライト系でややコメディ調ともとれるハードボイルド作品。小泉氏の作品については、まだそれほど読んでいないのだが、このような作風のものも書くのかと驚かされる。ただ、あとがきを読むと、この作品は小泉氏の著書のなかでも異色な位置づけとなっており、“交通新聞”に津田玲子というペンネームで連載されたものとのこと。しかもこの連載、読者に受けが良かったらしく、回数を延長してくれと言われたことによりストーリーを引き延ばしたりなどもしたらしい。
これが連載されたのは、小泉氏の処女作とされている「弁護側の証人」が発表される前のこと。よって、正式に作家になる前に書かれたものという事で、変わった作風であるのも致し方ないと言えよう。内容は、ご都合主義のハードボイルドと言ってしまうと、やや乱暴かもしれないが、そのような感じ。昔の作品ゆえに、今読むと違和感があるものの、その当時であれば十分にエンターテイメント作品として受け入れられたのではなかろうか。
また、最後の最後で単なるハードボイルドのみで終わらせずに、探偵小説らしきことをやっていることも見どころのひとつ。ネタとしてはわかりやすいものではありつつ、これもエンターテイメントの要素満載と言ったところ。今、読む作品としてはそぐわないような気もするが、戦後のミステリ作品を楽しむという赴きであれば、十分に堪能できるのではなかろうか。
<内容>
青山墓地で起きた幼女惨殺事件。犯人として捕らえられた男は、奇妙な独白を始める。それは戦前の公使館での外国人の兄妹との交流にさかのぼり、その後の戦時下でのとある出来事へと展開してゆく。事件の影に潜むものとは!?
<感想>
もったい付けている割には、普通であったなと。特に捻りもなかったし。
吸血鬼青年、もしくはそう思い込んでいる男の独白という感じの小説。その青年の独白とは別に、警察の幼女惨殺に対する捜査も入っているのだが、こちらはさらに微妙。何しろ、捜査というか、主となる警官と何となくという感覚で容疑者逮捕にまで至っているのはどうかと。
本書はミステリとして見ると微妙に思えるのだが、ひとりの青年の人生を描いた小説としてみれば、また異なる感覚で読むことができるかもしれない。ただ、それであれば警察のパートはいらないような気も・・・・・・
<内容>
「さらば、愛しきゲイシャよ」
「小さな白い三角の謎」
「握りしめたオレンジの謎」
「藤棚のある料理店の謎」
「流刑人の島の謎」
<感想>
“芸者ミステリ”というような位置付けの作品であるようだが、実際にはミステリっぽい話という感じにとどまっている。
最初の「さらば、愛しきゲイシャよ」から話が始まると思いきや、単なる人物紹介のような流れ。戦時中に起きた、日本で療養中の米兵との邂逅というような物語が語られるのみ。
本作品中では次の「小さな白い三角の謎」が一番ミステリとして成立していた作品か。会社社長の運転手が自殺したという謎を主人公の芸者と若手刑事が真相を探るというもの。“白い小さな三角”というものが、時代性と作品設定の味わいを深めている。
ただ、それ以降はミステリ的な話は少なかったかなと。次の「握りしめたオレンジの謎」は、展開としては「小さな白い三角の謎」と同じなのだが、結末が推理によって明かされるのではなく、単に話の展開によって真実が明かされるという流れ。残りの2作に関しては、事件らしきものを勝手に想像して、勝手に騒ぎ立てているだけの内容のような。
雰囲気や文体・作調などについては、好きな人は楽しめるというようなもの。ただ、作中でミステリ好きというのを公言しているのであれば、もう少しそれなりのものを仕立ててもらいたかったという感じ。
「さらば、愛しきゲイシャよ」 戦時中、日本の病院に収容された米兵の話。
「小さな白い三角の謎」 会社社長の運転手が自殺し、現場には謎の白い三角の紙が。
「握りしめたオレンジの謎」 踊りの師匠がオレンジを握りしめたまま死んでいた話。
「藤棚のある料理店の謎」 レストランで店のマダムが出てこない理由を勝手に夢想する話。
「流刑人の島の謎」 島へ旅行へ行くと、亡くなった俳優が密かに生きているという話を聞き・・・・・・