たんぽぽ娘 The Dandelion Girl (Robert F. Young)
2013年05月 河出書房新社 奇想コレクション
<内容>
「特別急行がおくれた日」
「河を下る旅」
「エミリーと不滅の詩人たち」
「神 風」
「たんぽぽ娘」
「荒寥の地より」
「主従問題」
「第一次火星ミッション」
「失われし時のかたみ」
「最後の地球人、愛を求めて彷徨す」
「11世紀エネルギー補給ステーションのロマンス」
「スターファインダー」
「ジャンヌの弓」
<感想>
最近何かと取り上げられている「たんぽぽ娘」で有名なロバート・F・ヤングの傑作選。というか、「たんぽぽ娘」という奇想コレクションの題名自体をずいぶん前から聞いていたのだが、それがなかなか出なかったということが、個人的には一番印象に残っている。
読んでみると、これがまた面白い作品ばかりであり、まさに“傑作選”と言ってよいほど粒ぞろいのものが収録されている。最初のほうの話は、ごく日常的な場面で始まる普通小説のようなのだが、それが徐々にSFの世界が侵食してくるという展開を楽しむことができる。名作として名高い「たんぽぽ娘」もまさに、そのような日常とSF的な世界が合致した話。さらにそこに、ロマンスまでもが付け加わったというもの。また、ロマンスは組み込まれていないものの、同様の内容のものである「荒寥の地より」は非常に味わい深い作品であった。放浪者と善良な家族との触れ合いが心を打つ。
「主従問題」は、SF系小説や漫画でよくあるネタのような気がするが、そのジャンルとしてはよくできていると思われる。どのようなジャンルかといえば、タイトル通りなのだが、それは是非とも読んで堪能してもらいたい。
後半にくると前半とは異なり、最初はSF的な世界から始まり、やがて思いもよらぬ世界へと分け入っていくという前半の作品群とは違った味わいが楽しめる。「11世紀エネルギー補給ステーションのロマンス」などは、まさにそのものであるが、これまた内容を言ってしまうと面白さが半減してしまうという作品。入口と出口の様相が大きく異なるという荒唐無稽な内容。
個人的に一番の出来と思われたのは「ジャンヌの弓」。これはジャンル・ダルクを象徴したような物語であり、さらにはボーイ・ミーツ・ガールのロマンスものなのであるが、思いもよらぬ展開により楽しませてくれる。最初から最後まで、非常にうまく構成された内容の作品。
ジョナサンと宇宙クジラ Jonathan and The Space Whale and other stories (Robert F. Young)
2006年10月 早川書房 ハヤカワ文庫
<内容>
「九月は三十日あった」
「魔法の窓」
「ジョナサンと宇宙クジラ」
「サンタ条項」
「ピネロピへの贈りもの」
「雪つぶて」
「リトル・ドッグ・ゴーン」
「空飛ぶフライパン」
「ジャングル・ドクター」
「いかなる海の洞に」
<感想>
「たんぽぽ娘」で有名なロバート・F・ヤングの短編集。日本オリジナル編纂。
一応、ロマンチックSF作品集というような位置付けとなっているようである。そういう位置付けの通り、直接的ではないものもあるが、互いのつながりを描いた作品集という感じ。ただし、SFゆえに、決して人と人というものではなかったり、互いの感情についても“恋”という一言では言い表せないようなものもある。
印象の残る作品が多い中、
「九月は三十日あった」は、妻子ある中年男性とアンドロイド女教師との邂逅を描いた作品。これは恋なのか、それともノスタルジーなのか、読者に想像させるような内容。
「ジョナサンと宇宙クジラ」は、なんと宇宙クジラの中で創造された世界での出来事を描くというもの。宇宙クジラと宇宙飛行士ジョナサンの邂逅が魅力的というか、なんとも不思議なものを感じてしまう。
「ピネロピへの贈りもの」は、ネコに遭遇した異星人による地球改変の話。といっても、何気にちょっとした話であるところが微笑ましい。
「リトル・ドッグ・ゴーン」は、呑んだくれの俳優とテレポーテーション能力のある犬との邂逅を描く。SFの要素をなくした普通小説として描かれてもおかしくないような内容の作品。展開はあくまでも普通という気もするが、そのオーソドックなところが心温まる。
「ジャングル・ドクター」は、外惑星から来た精神科医とトラウマを抱えた男の物語。精神科医の外見が少女にしか見えないことから、少女と中年男の邂逅のようにも見えるところが何とも言えない。
「いかなる海の洞に」は、遺産相続により金持ちになった男と、海で遭遇した女性との恋を描いた物語。話の展開もなかなかのものだが、そこから生み出されるような献身的な愛に心打たれる。この話って、何気に人魚姫の別バージョン?