SF タ行−ト 作家 作品別 内容・感想

ユナイテッド・ステイツ・オブ・ジャパン   United States of Japan (Peter Tieryas)

2016年 出版
2016年10月 早川書房 新・ハヤカワ・SF・シリーズ5029
2016年10月 早川書房 ハヤカワ文庫(上下)
<内容>
 第二次世界大戦にて、日本とドイツが勝利し、アメリカが日本の統治下におかれて40年が過ぎた。陸軍帝国の石村大尉は、特高警察から六浦賀将軍の消息について尋ねられる。六浦賀将軍はアメリカ人抵抗組織に協力をしているらしく、今や特高警察から追われる身となっているとのこと。石村は六浦賀家と以前、懇意にしていたこともあり、また昨日奇妙な連絡により六浦賀将軍の娘クレアが死亡したという話を聞いていた。石村大尉は特高警察の槻野課員と共に六浦賀将軍の消息を突き止めようとするのであったが・・・・・・

<感想>
 新・ハヤカワSFシリーズ版と文庫版との同時発売という事で、早川書房が力を入れて出版してきた作品。フィリップ・K・ディックの「高い城の男」の21世紀版とも称されている作品のよう。それで実際の中身はというと・・・・・・

 なるほど、確かにディックの「高い城の男」風という気がしなくもない。表紙絵にロボットを入れた派手な装丁となっており、あらすじにも“ロボット兵器”を示唆するような記述があるのだが、実際にそのロボットが活躍する部分というのはほとんどない。どちらかと言えば、地味な内容の物語であると感じられた。

 終戦の後の40年後、日本に支配されたアメリカを描くというもの。基本的にその背景の説明は少なく、物語が進んでいく中で、世界観を実感してもらうというように感じられる。1988年の世界を描いていると言いう事もあり、決して近未来ではなく、戦後と現在とのはざまの混沌とした様相を描き出している。現代であればスマートフォンが多用されるところを、電卓をその代わりのアイテムとして使用しているところが妙に印象に残る。

 全体的な物語としては微妙なような。一応、最初から最後までつながった話であるのだが、どこかぶつ切りの細かいエピソードをつないで作った話という感じがしてしまう。石村大尉が主人公でありつつも、途中でその主人公が特高の槻野に代わり、その後再び石村が登場するのだが、前半と後半で石村の人となりが変わったような気がしてならなかった。そんなこともあり、物語としては色々と微妙に感じられた。

 混沌としたグロテスクな世界を構築しつつも、どこか未消化という印象も残ってしまう。過去のSF作品や、日本のアニメーションなどに影響を受けたようであるが、その様々な要素を色々と取り入れようとしすぎたのではなかろうか。ただ、わざと様々なものを取り入れて、あえて混沌とした世界を作り上げたかったという意図であるのかもしれないのだが・・・・・・


メカ・サムライ・エンパイア   Mecha Samurai Empire (Peter Tieryas)

2018年 出版
2018年04月 早川書房 新・ハヤカワ・SF・シリーズ5037
2018年04月 早川書房 ハヤカワ文庫(上下)
<内容>
 世界大戦で日本が勝利し、アメリカを統治する世界。1994年、アメリカ西海岸の“日本合衆国”で巨大ロボットのパイロットを目指す不二本誠。成績がおぼつかないどころか、士官学校の試験にまで失敗し、パイロットの道は閉ざされた・・・・・・と思いきや、思わぬ幸運からかすかな希望の道が! その後、様々な困難に見舞われる中で、少しずつロボット・パイロットとしてのキャリアを積んでいく誠であったが、アメリカとドイツの間で密かに進む陰謀劇に巻き込まれ、苛烈な戦闘が繰り広げられる中、出撃することとなり・・・・・・

<感想>
「ユナイテッド・ステイツ・オブ・ジャパン」に続いてに2作目。前作は、表紙にロボットが用いられている割には、内容にロボット要素が薄く、少々詐欺っぽいって感じてしまった。ただ、今作は表紙に偽りなしで、ロボットが主題となった物語となっている。

 本書は、青年の成長物語にもなっている。ロボットパイロットであった両親を亡くし、孤児となりつつも、なんとか士官学校へ行き、ロボットパイロットを目指そうと考える主人公・不二本誠。しかし、成績は振るわず、さらには友人の不正行為に巻き込まれ、パイロットの道は閉ざされたかに・・・・・・というなか、さまざまなトラブルや偶然が重なり、パイロットを目指すための細くはかない道が希望として残される。

 主人公はそうした境遇のなかで、さまざまな仲間達と知り合い、困難を乗り越えてゆくこととなる。基本的には一介のパイロットゆえに、自分で人生を選択するという立場ではなく、ただただ戦乱の成り行きに翻弄されてゆくという状況。それでも、徐々にロボットパイロットとしてのスキルを身に付けながら、戦線を越えて主人公がなんとか生き延びてゆく様には心打たれる。

 作品自体の背景や、政治的な流れとか、複雑な部分もありつつも、基本的にパイロットを目指す主人公目線の物語ゆえに、読みづらいという事はない。また、この作品を読んでいると、外国人の著者が書いたものとは思えず、日本人が書いた作品ではないかという錯覚にさえ陥る。どうやら、著者は日本のさまざまな作品に触れていて、そういったものに影響を受けているようだ。そういう面でも、日本人が取っ付きやすいロボットSFになっているといえよう。




著者一覧に戻る

Top へ戻る