あなたの人生の物語 Stories of Your Life and Others (Ted Chiang)
2002年 出版
2003年09月 早川書房 ハヤカワ文庫
<内容>
「バビロンの塔」
「理 解」
「ゼロで割る」
「あなたの人生の物語」
「七十二文字」
「人類科学の進化」
「地獄とは神の不在なり」
「顔の美醜について」
<感想>
8つの物語が語られているのだが、特に統一性はなくバラバラに書かれたものが集められた作品集というところである。とはいっても、ただ単に色々な話が集められたと言ってしまうのが申し訳ないくらい趣きは異なりながらもそれぞれが濃厚なハードSFとなっていて、短編を読み進めるごとに驚かされる内容となっている。わかりづらく読み取りにくいところも多々あるのだが、SFをこれから読んで行きたいという人には是非とも読んでもらいたい一冊であり、かつSFファンにはいまさら薦める必要もないくらいの傑作品。
「バビロンの塔」
これはいわゆる“バベルの塔”を描いたものではあるのが、その塔を建てる過程を職人たちの観点による物語となっている。結末はなんとなく予想しうるものであったものの、この内容を書こうと思いついたところがすごい。
「理 解」
読み始めたときは「アルジャーノン」を思い描いたのだが、その到達する先がすごかった。いつの間にやら、サイバー・アクションものへと変化してしまう。“理解する”という事をここまで飛躍させた発想は見事。
「ゼロで割る」
数学の公式の成り立ちについて描いた作品と思いきや・・・・・・ひょっとして男女の痴話げんかを数学によって表した作品なのでは!?
「あなたの人生の物語」
異星人とのコンタクトを描いた作品。異星人とのコミュニケーションの取り方(特に言語系)について言及している。その副産物として主人公にひとつの挿話が与えられている。感動の話のようではあるのだが、少々わかりづらかった。二度読むことをお薦め。
「七十二文字」
これは魔術的な体系を用いて、ファンタジー世界の観点からロボット三原則に挑戦する内容かと思いきや、ホムンクルスから遺伝子工学の方向へ進む作品となっていた。これは長編にしてもらったほうが読み応えがあったかも。
「人類科学の進化」
ショート・ショートなのであろうが、一般的な科学記事にしか見えない。というか実際科学記事なのだろう。
「地獄とは神の不在なり」
これはSFというよりはファンタジーというべきか、神々しい内容といったら洒落になってしまうのかもしれない。人々の宗教に対するスタンスを描いた作品。つまりは人それぞれであり、結論が出るようなものではないということ。
「顔の美醜について」
人の美醜についてをドキュメント・タッチで描いた作品。これまた難しい題材を取り上げたなと、ある意味感心してしまう。こういった内容のものに対して、結論を出すということよりも、考えることこそが大事だというスタンスであるならば、それはまさに科学者的な発想といえるだろう。この著者は作家というよりは、科学者・実験者とでも言った方がふさわしいのであろう。