ベータ2のバラッド The Ballad of Beta-2
2006年05月 国書刊行会 <未来の文学>
<内容>
「ベータ2のバラッド」 サミュエル・R・ディレイニー
「四色問題」 バリントン・J・ベイリー
「降誕祭前夜」 キース・ロバーツ
「プリティ・マギー・マネーアイズ」 ハーラン・エリスン
「ハードフォード手稿」 リチャード・カウパー
「時の探検家たち」 H・G・ウェルズ
<感想>
60年代から70年代にかけての“ニューウェーブSF”とよばれるものを中心に編纂された短編集。ただし、<未来の文学>シリーズらしく、それぞれちょっと癖のある作品が収められている。
「ベータ2のバラッド」
ひとりの学生が担当教官より、昔なんらかの大事故にあった星間船の謎を調べるようにとの課題を出される。渋々その課題を受ける学生が見た真実とは!?
というような内容であるのだが、導入部分はかなり面白く思え、かなり夢中にさせられたのだが、後半はやや尻つぼみであったかなと。今まで誰も調べなかった割には起きていた事が大事だったりと、現在発見されている事象と比べて過去に起きた事と矛盾する気が・・・・・・などと、納得のいかない点が多々感じられた。
ただ、その星間船の中で起こった、人種の“形”というものに対する論争はなかなか興味深く読むことができた。これは長編にしたほうが面白く読めそうな題材。
「四色問題」
結構、有名な問題であったような気がするのだが、地図を書き上げるときに、隣り合った国の色を変えるという条件であるとき、最低何色で地図を作ることができるかというもの。その“四色問題”にまつわる事柄を、知的なユーモアで仕上げた作品。ただし、あくまでも“知的なユーモア”であるがゆえに、必ずしも誰もが笑えるとは限らない。
あとがきを読んで驚かされたのは、この作品が“四色問題”にきちんとした解答がなされる前に書き上げられた作品であるという事。
「降誕祭前夜」
変換された歴史の一ページが書き上げられた作品。という設定のみがSF的で、あとは一将校の視点から幻想的に物語が語られていく。ちょっと分かりづらいサスペンス小説というような印象くらいしか残らなかった。
「プリティ・マギー・マネーアイズ」
これはSFではなく、カジノので起きた出来事を幻想的に描いたというような作品。幸運(?)のルーレットに魅入られた人物のてん末が変わった感じで書かれている。
「ハードフォード手稿」
タイムマシンものではあるのだが、あまりそのような感じをさせないという、これも一風変わった小説。あくまでも小説の成り立ちとしてはタイムマシンの存在が前提になっているものの、あとは、そこで起きた出来事が手稿の中で描かれているのみ。アイディアには感心するものの、それだけで終わってしまうところがなんとなく残念に思われる。
「時の探検家たち」 H・G・ウェルズ
H・G・ウェルズの代表作「タイムマシン」の原型、もしくは別バージョンともいえる作品。とはいうものの、「タイムマシン」自体とは全く異なる内容になっているとのこと。ウェルズ・ファンならば必見というところか。
グラックの卵 The Egg of the Glak
2006年08月 国書刊行会 <未来の文学>
<内容>
「見よ、かの巨鳥を!」 ネルスン・ポンド
「ギャラハー・プラス」 ヘンリー・カットナー
「スーパーマンはつらい」 シオドア・コグスウェル
「モーニエル・マサウェイの発見」 ウィリアム・テン
「ガムドロップ・キング」 ウィル・スタントン
「ただいま追跡中」 ロン・グーラート
「マスタースンと社員たち」 ジョン・スラデック
「バーボン湖」 ジョン・ノヴォトニイ
「グラックの卵」 ハーヴェイ・ジェイコブズ
<感想>
タイトルが「グラックの卵」ときて、最初の作品で“鳥”が出てくるから統一したテーマで描かれた作品集なのかなと思いきや、そういうわけではなかったようだ。とりあえず、未訳のちょっと変わった作品が選ばれたということくらい。作品集としてはなかなか面白く読めたものの、前半はきっちりとSFしていたと思えるのだが、後半にいくにつれてSFとは言えないような作品ばかりが出てくるのはどうかと思えた。そんなわけで、個人的には「ちょっと」と思えるところが多々あった作品集であった。
「見よ、かの巨鳥を!」
大味でわかり易く面白い作品。恐怖心をあおる小説になっている事から、SF版ヒッチコックの「鳥」・・・・・・とは言い過ぎか。
「ギャラハー・プラス」
酔っ払いながらも偉大な発明をしてしまう男の話。しかし、その酔いがさめると自分が何をしたのかを全て忘れてしまうのが欠点。ハードSFながらもコミカルな流れで話が進められており、楽しめる作品。
「スーパーマンはつらい」
人間の進化の可能性と科学の発展を比較するかのような作品。しかし、このように結論を付ける作品というのは珍しいかもしれない。
「モーニエル・マサウェイの発見」
タイムスリップを描いた作品なのであるが、ブラック・ユーモアのようにまとめられている。事件の当事者ではない主人公がその状況にうまく適応していくのが面白いところ。
「ガムドロップ・キング」
異性人とのコンタクトが気楽に書かれすぎている作品。しかし、このようなことが実際にないとは言い切れないかもしれない。
「ただいま追跡中」
このへんの作品からSFっぽさがなくなってくる。この作品では機械と愛称の悪い探偵が尾行をし続けるというもの。最後の機転は見物であるが、全体的には単調であった。
「マスタースンと社員たち」
この作品集の中で一番長いながらも、一番微妙な作品。SFというよりは、企業やその企業の中で働く人たちを皮肉ったような風刺的な作品のように感じられた。
「バーボン湖」
湖の液体がバーボンで出来ているという話。まぁ、面白くはあるのだが、ここに加えるべき作品なのかというと疑問。
「グラックの卵」
友人の遺言によって、謎の卵を孵化させようという話。数々の困難を乗り越えて卵を孵化させようとしているのはわかるが、その孵化自体にあまり意味がなかったような気がする。なんとなく、微妙な悪ふざけが書かれているだけのような気が・・・・・・。ただ、話の冒頭の主人公と教授の友情にはじんと来るものがある。
地球の静止する日 SF映画原作傑作選 A Matter of Taste and Other Stories
2006年03月 東京創元社 創元SF文庫(中村融編)
<内容>
「趣味の問題」 レイ・ブラッドベリ (「イット・ケイム・フロム・アウタースペース」原作)
「ロ ト」 ウォード・ムーア (「性本能と原爆戦」原作)
「殺人ブルドーザー」 シオドア・スタージョン (「殺人ブルドーザー」原作)
「擬 態」 ドナルド・A・ウォルハイム (「ミミック」原作)
「主人への告別」 ハリイ・ベイツ (「地球の静止する日」原作)
「月世界征服」 ロバート・A・ハインライン (「月世界征服」原作)
「月世界征服」撮影始末記 ロバート・A・ハインライン
<感想>
有名(?)SF映画作品の原作で、特に未訳のものを取り上げた作品集。私自身はどの映画も見たことはないのだが、それぞれの作品をSF小説として純粋に楽しむことができた。
「趣味の問題」は、かなり毛色の変わった作品と言えよう。最初の導入部は今となっては、ありがちな気もするのだが、“生理的嫌悪感”というものをここまで推し進めた作品は珍しいのではないだろうか。皮肉も効いてて、かなりの傑作。
「ロト」と「殺人ブルドーザー」の2作はスティーブン・キングを思い起こさせるような作調。といっても、これらの作品の方が先か。「ロト」はパニック・ホラー、「殺人ブルドーザー」は機械の反乱を描いた作品。
特に「殺人ブルドーザー」に関しては、キングが同じくトラックの反乱を描いた作品を書いていて、それを読んだ時にはこのような基軸の作品は初めてだと思っていたのだが、すでにこのようなものが出ていたとは。しかも、スタージョンが描いたということもあり、さらに拍がつく。ただ、これに関しては小説より映像で見た方が面白そうな気がした。
「擬態」に関しては、SFというまでには至らない、ちょっとしたホラー作品という感じ。この短い短編作品を特殊効果を駆使して映像化したらしい。たぶん、内容はかなりかけはなれたものとなっているのだろう。
「主人への告別」は巨大な宇宙船に乗った宇宙人がやってくるという話。しかも宇宙人が地球人と接触しようとしたときに、地球人により殺害されてしまうというショッキングな内容。その後、地球に残された宇宙船と、静止したままの巨大ロボットを巡って、地球人たちが右往左往する。
この作品もアイディアにあふれたかなりの秀作。どのような展開になるの見当もつかないまま、宇宙人による奇天烈な行為が推し進められてゆく。そうしてラストで宇宙人がもらす一言が気の利いたものとなっている。
「月世界征服」はタイトルそのもののリアル・フィクションとなっているのだが、実際に月面着陸がなされている現代においてはさほど感銘を受けることはない。しかし、月に人類がたどり着く前の世代であれば、夢のような一作。歴史をうかがわせる作品であり、映像化することにも価値があったのであろう。
千の脚を持つ男 怪物ホラー傑作選
2007年09月 東京創元社 創元推理文庫(中村融編)
<内容>
「沼の怪」 ジョゼフ・ペイン・ブレナン
「妖 虫」 デイヴィット・H・ケラー
「アウター砂州に打ち上げられたもの」 P・スカイ・ミラー
「それ」 シオドア・スタージョン
「千の脚を持つ男」 フランク・ベルナップ・ロング
「アパートの住人」 アブラム・デイヴィッドスン
「海から落ちた男」 ジョン・コリア
「獲物を求めて」 R・チェットウィンド=ヘイズ
「お人好し」 ジョン・ウィンダム
「スカーレット・レイディ」 キース・ロバーツ
<感想>
“怪物ホラー”というお題をいかんなく楽しむことができる、まさに傑作選。しかし、こうして選ばれた10作品を読んでみると、決して“怪物もの”という一ジャンルに収まりきらず、そのなかでもさらにいくつかのジャンルに分けられそうである。恐竜、創造物、大型、小型、虫、吸血鬼、機械などなど。
そう考えると10編に絞るということがいかに難しいかがよくわかる。そういった中で、ここに収められたものはジャンルの中で幻の作品や未訳作品というものにこだわったとのこと。
「沼の怪」
海で生まれたアメーバー状の怪物が沼地に棲みついたことにより起こる悲劇。パニックサスペンス・ホラーとして逸品。無敵と思えた怪物が徐々に人間に追い詰められてゆく様を描いたエンディングは圧巻。
「妖 虫」
人里離れた快適な家に、犬と共に住む男に起こる悲劇。天災レベルの出来事なのだが、無力な男ひとりの力で立ち向かおうとするところに、とてつもない悲壮感が漂う。
「アウター砂州に打ち上げられたもの」
これは砂浜に打ち上げられた残骸のみで話を作った方がよかったのではないだろうか。後に海から上がってきたものたちについては、余計と感じられてしまった。
「それ」
意思もなく、悪意もなく、しかも常識もないものの前進ほどやっかいなものはない。“それ”が人型ゆえに余計にやっかいさを増している。
「千の脚を持つ男」
「沼の怪」と共に、何故このような怪物ができあがったかが描かれている作品。ただしこちらは自然発生ではなく、人為的な怪物。歪んだ天才の迷惑なてん末が描かれている。
「アパートの住人」
アパートに住む奇妙な住人の話、もしくは酔っぱらいの幻のようにもとれる作品。住人の老婆がおかしいのか? 彼女が飼っているものがおかしいのか? それとも見た者がおかしかっただけなのか??
「海から落ちた男」
大海蛇を捜しに船で出かけた者達が遭遇する奇譚。とある島で一人の男を押し付けられることとなった乗組員たち。その男が迷惑この上ない男であり・・・・・・。この作品集の中では異色作。怪物よりも人間の方にスポットが当てられた作品。いや、ひょっとするとこの人間の方が怪物というわけか!?
「獲物を求めて」
吸血鬼の変異型が登場する作品。暗闇の中に迫りくる恐怖がまざまざと描かれている。あいまいな話で終わらせず、具体的な事象として締めくくられるラストが見事。
「お人好し」
蜘蛛を収集する夫を持つ女が経験する奇譚。ある日女は、どこからともなく声をかけられ・・・・・・。ブラックユーモアが光る作品。ラストの展開は読者の予想を上回る。陰惨な物語のはずなのに、どこかにくめない作品。
「スカーレット・レイディ」
自動車修理工を営む男のもとに、弟がいわく付きの車を修理に持って来て、その後弟は徐々に車に取り付かれ始める。日本であれば、日本刀を題材に同じような話が書かれそうである。車をモチーフとするところがなんともアメリカらしい。呪われた車という題材はありそうな気がするのだが、修理工を主人公として第三者的な目線から描くことにより、一味違った作品となっている。
時の娘 ロマンティック時間SF傑作選
2009年10月 東京創元社 創元推理文庫(中村融編)
<内容>
「チャリティのことづて」 ウィリアム・M・リー
「むかしをいまに」 デーモン・ナイト
「台詞指導」 ジャック・フィニイ
「かえりみれば」 ウィルマー・H・シラス
「時のいたみ」 バート・K・ファイラー
「時が新しかったころ」 ロバート・F・ヤング
「時の娘」 チャールズ・L・ハーネス
「出会いのとき巡りきて」 C・L・ムーア
「インキーに詫びる」 R・M・グリーン・ジュニア
<感想>
タイムトラベルを利用した形での、さまざまな恋愛模様が集められた作品集。その様相にもさまざまな形があり、色々な意味での多種多様な内容を楽しめる。それぞれの作品の完成度が高く、アンソロジーとしてうまく編纂された作品選である。
「チャリティのことづて」はファンタジー風にまとめられた作品。特別な機械などはつかわずに、病気になった時代の異なる男女の意識をつなぐというもの。物語の展開も、“時間もの”にふさわしいものとなっている。
「むかしをいまに」と「インキーに詫びる」は技巧的な部分が光る作品。「むかしをいまに」は、走馬灯のように現在から過去を逆にたどるというものなのだが、描き方に工夫がなされている。「インキーに詫びる」は、少々わかりづらい話なのだが、現在と過去を交えることにより、贖罪と救いの物語が展開されてゆく。
「台詞指導」と「かえりみれば」はノスタルジックな作品。「台詞指導」は情景的なノスタルジーであり、「かえりみれば」は青春ノスタルジーというようなもの。「かえりみれば」は、もし過去に戻ることができたならという、人の願望をうまくあらわしている。
「時が新しかったころ」と「出会いのときは巡りきて」は冒険譚。「時が新しかったころ」は、機械的な恐竜を模したタイムマシンにより、幼い男女を助けるというもの。意外な展開が目白押しで、結末でもう一度驚かされる。「出会いのときは巡りきて」は、蛮族の勇者のような男がタイムトラベルに出かけるという物語。主人公の造形に似合わず、時を駆け巡る恋愛というものがうまく書き表されている。
「かえりみれば」はタイムトラベルならではの過去を改変しようという物語なのだが、やけに現実的過ぎる結末が待ち受けている。
「時の娘」は、これぞ時間SFというような作品。読んでいるうちに結末が見えてくるのだが、それを読者に明かそうという力加減が絶妙と感じられた。
冷たい方程式 トム・ゴドウィン他 伊藤典夫 編・訳
1980年02月 早川書房 ハヤカワ文庫
2011年11月 早川書房 ハヤカワ文意子(再編集した新版)
<内容>
「徘徊許可証」 ロバート・シェクリイ
「ランデブー」 ジョン・クリストファー
「ふるさと遠く」 ウォルター・S・テヴィス
「信 念」 アイザック・アシモフ
「冷たい方程式」 トム・ゴドウィン
「みにくい妹」 ジャン・ストラザー
「オッディとイド」 アルフレッド・ベスター
「危険!幼児逃亡中」 C・L・コットレル
「ハウ=2」 クリフォード・D・シマック
<感想>
SFといいつつも、宇宙を背景としたものは「冷たい方程式」のみで、他は奇譚、超能力、ロボットとバラエティにとんだ内容の作品集となっている。
作品集中一番のできとしては、SF短編として名作とも言われている「冷たい方程式」。最低限の積み荷と血清を持って、人命救助に向かう宇宙船内に、密航者である少女の存在が判明する。このままでは重量オーバーとなり、目的地に到達することができず、パイロットは無情な選択を迫られるという内容。ある種「たった一つの冴えたやりかた」につながる作品と言えるかもしれない。なんともいえない余韻を残す小説。
「徘徊許可証」は、人類との接触が数百年途絶えていた星にて、人類らしく振舞おうとする者たちの様子が滑稽に描かれている。
「ランデブー」は、恋人の呪いを描いたかのような物語。ゴシックホラー小説のような感触。
「ふるさと遠く」は、プールにくじらが現れるという冗談のような話。なぜ現れたかという理由も、まさに冗談っぽい。
「信念」は、何故か空中浮遊ができるようになった物理学博士の話。その現象を他に認めさせようとするやり方が、学者らしいものであり、その途上の苦悩がなんともいえないものとなっている。
「みにくい妹」。これは、何の話かと思えば、誰もが知っている物語のスピンオフ。彼女の言い分に聞く価値あり。
「オッディとイド」は、ある種の神を描いたもの。ただし、それが災厄の神であり、本人は全く自覚していないからこそ手におえないものとなっている。
「危険!幼児逃亡中」も非常に印象的な小説。超能力を持った幼児が施設を脱出し、町へ出てしまうという内容。これもまた、非情な選択を迫られる物語。
「ハウ=2」は、試作品のロボットを偶然手に入れてしまった男の顛末。こういう展開のロボット小説もあるのだなと、うならされる。ただし、無情なる恐怖さえも感じさせられる。
SFカーニヴァル フレドリック・ブラウン編 Science-Fiction Carnival (Fredric Brown, Mack Reynolds)
1953年 出版
1964年11月 東京創元社 創元SF文庫
<内容>
「タイム・マシン」 ロバート・アーサー
「ジョーという名のロジック」 マレー・ラインスター
「ミュータント」 E・F・ラッセル
「火星人来襲」 マック・レナルズ
「SF作家失格」 ネルスン・ボンド
「恐竜パラドックス」 フレドリック・ブラウン
「ヴァーニスの剣士」 クライブ・ジャクスン
「宇宙サーカス」 ラリー・ショー
「ロボット編集者」 H・B・ファイフ
「地球=火星自動販売機」 ジョージ・O・スミス
<感想>
ユーモアSFを好んで書くフレドリック・ブラウンが編集を務めた“らしい”作品集。どの作品も一筋縄ではいかない絶妙な展開によって読み手側を魅了する。
「タイム・マシン」は、その名の通りの作品ではあるのだが、バイクに乗る酔っぱらったチンパンジーとの大活劇が繰り広げられる。
「ジョーという名のロジック」“ジョー”というのはパソコンの発展形のようなものなのだが、それによる近未来の世界を風刺したような内容。
「ミュータント」は、しゃべる牛が繰り広げる奇譚。
「火星人来襲」 実は宇宙人は既に地球に来ていたのかもしれない。ただし、どこに降り立ったか? それが問題。
「SF作家失格」 未来人のジョークのセンスの話?
「恐竜パラドックス」 学校の教室で突如異次元に舞い込む話。しかし、これこそ“タイムマシン”っぽい展開。
「ヴァーニスの剣士」 ファンタジー的に始まった話が、唐突な展開で終わりを告げる!?
「宇宙サーカス」 宇宙の嫌われ者が、いかにして魅力的なサーカスを作り上げたのか? という話。
「ロボット編集者」 作品のみならず、人生までがロボット編集者の手の中でもてあそばれる。
「地球=火星自動販売機」 新たな宇宙旅行の可能性。どこでもドア?
「火星人来襲」「宇宙サーカス」「地球=火星自動販売機」あたりが非常に楽しめた。どの作品も何が起こるか予想できないので、それぞれに見どころがある。中には「ヴァーニスの剣士」のような、この作品集だからこそ取り上げられるようなものも見られるのが特徴と言えよう。なかなか他では見ることのできないSFを堪能することができた。
折りたたみ北京 現代中国SFアンソロジー ケン・リュウ編
Invisible Planets: Contemporary Chinese Science Fiction in Translation (Translated and Edited by Ken Liu)
2016年 出版
2018年02月 早川書房 新・ハヤカワSFシリーズ5036
<内容>
序文 中国の夢 ケン・リュウ
陳楸帆(チュン・チウファン)
「鼠 年」
「麗江の魚」
「沙嘴の花」
夏茄(シア・ジア)
「百鬼夜行街」
「童童の夏」
「龍馬夜行」
馬伯庸(マー・ボーヨン)
「沈黙都市」
*景芳(ハオ・ジンファン)
「見えない惑星」
「折りたたみ北京」
糖匪(タン・フェイ)
「コールガール」
程*(チョン・ジンボー)
「螢火の墓」
劉慈欣(リュウ・ツーシン)
「円」
「神様の介護係」
エッセイ
「ありとあらゆる可能性の中で最悪の宇宙と最良の地球:三体と中国SF」 劉慈欣
「引き裂かれた世代:移行期の文化における中国SF」 陳楸帆
「中国SFを中国たらしめているものは何か?」 夏茄
<感想>
中国SFというと、あまり耳慣れないものと感じられるものの、アジアンSFというと、それなりに目にする作品は多いような気がする。一応、そんなアジアンテイストの作品が描かれている。
読んでいて感じたことは、SFの割にはやけに貧乏くさいものばかりが描かれているなという事。しかも、その貧乏くさい部分ばかりにリアリティを感じ取れるようなものばかりなのである。この辺は、著者たちが今まで経験した人生に基づいたものでもあるようで、それらに関しては巻末にあるエッセイに詳しく書かれている。ただ、SFでわざわざこのようなものを書かなくてもよいのではと思えてならなかった。もう少し、明るい未来というものを描けないのかと。
そうしたなかにも、良いと思われる作品は多々見受けられた。
「沈黙都市」は、ジョージ・オーウェルの「1984年」をモチーフとした作品であるのだが、もうちょっと工夫が欲しかったところ。救いようのないとろこまでも別に真似しなくてもと。
「見えない惑星」は短編のなかにさまざまなアイディアが込められており、ここで書かれているひとつひとつの惑星をひとつの作品で描いても良いのではないかと思えるほど。
「円」は、単なる戦国史かと思いきや、中国らしき壮大なる人間コンピュータを描いた作品となっている。
「神様の介護係」は、これが人間を創ったものの成れの果てなのかと思うと嫌でありつつも、いろいろと考えさせられる作品となっている。妙に所帯じみている割には、物凄く壮大な内容でもある。