ふたりジャネット The Two Janets (Terry Bisson)
2004年02月 河出書房新社 <奇想コレクション>(日本独自編集)
<内容>
「熊が火を発見する」
「アンを押してください」
「未来からきたふたり組」
「英国航行中」
「ふたりジャネット」
「冥界飛行士」
「穴のなかの穴」
「宇宙のはずれ」
「時間どおりに教会へ」
<感想>
この作品集は私にとっては、作品によって好き嫌いはっきりするものであった。しかし、トータルで考えればSF作品初心者でも楽しめるものになっているのではないだろうか。なかなか楽しませてくれる作品集である。
「熊が火を発見する」
のっけからびっくりさせられ、そして思わず吹き出しそうになってしまう作品。でもよくよく最後まで読んでみると哲学的な物語でもあることに驚かされる。
「アンを押してください」
これは軽SFというかショートショート的な物語である。ATMを用いた、科学的なちょっとしたいたずらというような感じがする。当事者にとっては冷や汗ものであろうが。
「未来からきたふたり組」
これはタイムスリップものというか、未来人との遭遇とでもいえばよいのか。設定はともかく、普通の内容であると思う。未来人といえども、ごく普通の人間であると感じさせられる結末には笑ってしまう。
「英国航行中」
英国がアメリカまで航海をする。スケールの大きさとは裏腹にほのぼのと語られる物語。
「ふたりジャネット」
一つの村に有名な作家が次々と押し寄せ、住み込んでしまうという話。“ふたりジャネット”というタイトルと何をかけているのかがわからない。アメリカの作家について含蓄があれば楽しめるのかもしれない。
「冥界飛行士」
打って変わって、モダンホラーともいうべき作品。雰囲気としては岡島二人氏の「クラインの壺」を思い起こされる。
「穴のなかの穴」
これは大人の冒険というか、夢のある話である。車好きの男が求めるものは、なんとスクラップ工場の穴の中にあった。その穴はなんと“月”に通じており・・・という荒唐無稽な話。しかし、それでもあきらめずに、捕獲作戦を行ってしまうのだからたいしたものである。これが一番お薦め。
「宇宙のはずれ」
この作品は「穴のなかの穴」の続きの作品。といっても別の話。前作に比べると、こちらは私的にはいただけない。どうも私の嫌いな最近の英米風の文学作品のような香りがする。つまり、薬でラリってとりとめもない方向へ話がいってしまうというもの。といっても、本編では“薬”ではなく“科学”にラリってゆくのだが。
「時間どおりに教会へ」
これまたさらに「宇宙のはずれ」の続き。しかし3作品目となれば、慣れてきたのか本編は楽しむことができた。SFと日常的な話が見事に融合して、ちょっと変ったコメディタッチの作品をつくりあげている。なかなかよい作品だと思う。
平ら山を越えて Over Flat Mountain (Terry Bisson)
2010年07月 河出書房新社 <奇想コレクション>(日本独自編集)
<内容>
「平ら山を越えて」
「ジョージ」
「ちょっとだけちがう故郷」
「ザ・ジョー・ショウ」
「スカウトの名誉」
「光を見た」
「マックたち」
「カールの園芸と造園」
「謹啓」
<感想>
「ふたりジャネット」に続いての、テリー・ビッスンの作品集。今回の趣向なのかテリー・ビッスンの作風なのかわからないが、いかにもSFという設定を用いながら、そのなかでいかにも現代的で普通のやりとりがなされている作品が多いように思われた。
特に「光を見た」などは月への旅が描かれている作品にも関わらず、どこか日常的な展開のようにさえ思われる物語となっている。「平ら山を越えて」「カールの園芸と造園」「謹啓」といった作品は近未来の特殊な世界を描きつつも、現代的な日常から逸脱しないようなやり取りがなされているように感じられる。
「マックたち」という作品も同様の趣向が感じられるものの、これはかなりの異色作。テリー・ビッスンの代表作に挙げられるようだが、特にこういった作品ばかり書いているというわけではないだろう。
また、「ジョージ」という翼の生えた子供について描かれた作品があり、この作品は特に異色と思われた。それもそのはず、どうやらこの作品こそビッスンの処女作であったようだ。
今回の作品のなかで一番のお気に入りは「ちょっとだけちがう故郷」。少年少女が偶然見つけた飛行艇により、パラレルワールドへとたどり着き、ちょっと異なる世界と自分に遭遇するという話。この作品は特に終わり方が印象に残った。あとがきを見ると、著者のとある実体験を元に描かれた話だそうだ。それを聞くと、著者が何を描きたかったのかなんとなく納得させられた。
ズー シティ Zoo City (Lauren Beukes)
2010年 出版
2013年06月 早川書房 ハヤカワ文庫
<内容>
南アフリカの大都市ヨハネスブルグ。その一角に犯罪者たちが住む吹き溜まり“ズー・シティ”が存在していた。そこに住む者たちは、兇悪な罪を犯したことにより、一体の動物と共生関係となり、奇妙な能力をひとつだけ身につけることとなった。ジャーナリスト崩れのジンジ・ディッセンバーは、ナマケモノと共生することにより、紛失物を見つける能力が芽生えた女。彼女はその能力を生かし、探偵まがいのことをしながら身を立てていた。ある日、彼女の元にミュージシャンである少女の捜索依頼が来るのであったが・・・・・・
<感想>
帯に書かれている“ハードボイルドSFミステリ”という言葉に惹かれて購入したのだが、期待ハズレというか、見当違い。内容に関しては、おおざっぱに言えば国書刊行会から出ている“未来の文学”を少しばかり読みやすくしたような内容。よって、SFと言っても物理的・構造的というものではなく、設定や精神的な面がややぶっ飛んでいるというようなもの。
上記の内容については、中身を読んでもそういった設定がわかりやすく書かれているわけではない。そのような情報は、あらすじやあとがきの方が詳しく書かれている。この変わった設定による町並みの中をナマケモノを背負った女、ジンジ・ディッセンバーと共に、彼女の人生を駆け抜けていくこととなる。
一応は、探偵らしき生業を持ち、失踪人捜しを行うのであるが、それがメインのようでメインでないように思えてならなかった。結局は、主人公ジンジ個人にまつわる話のほうが大きいように思え、ハードボイルド小説としては中途半端。と言っても、著者は別にハードボイルドのつもりで描いたわけではないのだろうが・・・・・・
ハードボイルドのような活動をしている間はまだ話がわかるのだが、後半に入るとどんどんとぶっ飛んだ描写が多くなり、内容がつかみにくくなる。わけわからなくも、たくさんのワニが出てきたりして、なんか凄いことが行われているようであるのだが、さっぱり。最後の最後で新聞記事2ページ分でその内容がまとめられているのだが、これはまたまとめすぎ、わかりやすすぎ。ただ単に、これだけで終わってしまったのですかと、呆れるというか、ぐったりさせられるというか。
結局のところ、ぶっ飛んだ小説と言いつつも、外国のSFに関わる何々賞を受賞した作品というものによく見られるような作風とも言えよう。読む人を選ぶ小説ということは間違いない。