世界の中心で愛を叫んだけもの The Beast That Shouted Love at the Heart of the World (Harlan Ellison)
1971年 出版
1979年01月 早川書房 ハヤカワ文庫
<内容>
「まえがき」
「世界の中心で愛を叫んだけもの」
「101号線の決闘」
「不死鳥」
「眠れ、安らかに」
「サンタ・クロース対スパイダー」
「鋭いナイフで」
「ピトル・ポーウォブ課」
「名前のない土地」
「雪よりも白く」
「星ぼしへの脱出」
「聞いていますか?」
「満員御礼」
「殺戮すべき多くの世界」
「ガラスの小鬼が砕けるように」
「少年と犬」
<感想>
この作品のタイトルに関しては、アニメの章題や映画のタイトルなどにも使われていて、多くの人がその存在を知っていることであろう。ただ、作品を見たことはあっても実際に読んだことはないという人も多いのではなかろうか。実は私自身も同様であり、20年前くらいから本書の存在は知っていたにも関わらず、読んでみようとは思わなかった。それが2、3年前になんとなく購入し、その後エリスンの作品が昨年、今年と立て続けに出たことから、そろそろ読んでみようと思うに至ったのである。
読んでの感想はというと、意外とわかりやすく、エンターテイメントにとんだ作品だと驚かされた。ただ、最初の「世界の中心で愛を叫んだけもの」がわかりづらく、ひょっとするとその一編で挫折した人もいるかもしれない。そこであきらめずに他の作品も読み通していけば、なかなか面白い作品集であることに気づかされることであろう。
「101号線の決闘」では、近未来的なカーチェイスが描かれている。「サンタ・クロース対スパイダー」は、ヒーローもののような趣き。「名前のない土地」は、時の牢獄とでも評したくなるような物語。「星ぼしへの脱出」は、まるでアンチヒーローもののような。「聞いていますか?」は、度々“聞いていますか?”と問われることとなるのだが、最後に問われる“聞いていますか?”が重みのある一言となる。「少年と犬」は、良さげなタイトルの割には、混沌とした世界での悪い話が描かれている。
全体的にもっと難解なSF作品なのかと思っていたのだが、決してそんなことはなく、十分に楽しむことができる内容に仕上げられている。ハーラン・エリスンについては作品云々よりも、当人が非常に破天荒な人物でその言動がSF界でも有名となっているらしい。その言動について書かれた、あとがきと共に楽しむことができる作品集。
死の鳥 The Deathbird and Ohter Stories (Harlan Ellison)
2016年08月 早川書房 ハヤカワ文庫
<内容>
「『悔い改めよ、ハーレクィン!』とチクタクマンはいった」
「竜討つものにまぼろしを」
「おれには口がない、それでもおれは叫ぶ」
「プリティ・マギー・マネーアイズ」
「世界の縁にたつ都市をさまよう者」
「死の鳥」
「鞭打たれた犬たちのうめき」
「北緯38度54分、西経77度0分13秒 ランゲルハンス島沖を漂流中」
「ジェフティは五つ」
「ソフト・モンキー」
<感想>
今年になってようやく読んだ「世界の中心で愛を叫んだけもの」に引き続き、ハーラン・エリスンの短編集を読んでみた。こちらの「死の鳥」は、昨年日本で出版されたオリジナル短編集。内容はといえば、「世界の〜」と同じような雰囲気の短編集である。難解過ぎず、しかし、わかりやすいというわけでもない未知の世界での冒険や体験が繰り広げられている。
「『悔い改めよ、ハーレクィン!』とチクタクマンはいった」は、思わず「モモ」という作品を思い浮かべてしまった。時間管理社会を描いた作品。
「竜討つものにまぼろしを」と「死の鳥」は、前短編集の表題作「世界の〜」に似ているような物語であるかなと。まぁ、これがエリスンらしい作品と言えるのであろう。時空を飛び越えつつ、物語が収束もしくは展開されていくのであるが、「死の鳥」については飼犬との邂逅が描かれているところが特徴的か。
「おれには口がない、それでもおれは叫ぶ」は、エリスンの作品のわりには、他のSF作品でもややありがちな話。未知の世界に生きる限られた数の生き物の顛末を描く。
「プリティ・マギー・マネーアイズ」は、スロットマシーンに文字通り取り付かれた男女を描いている。
「世界の縁にたつ都市をさまよう者」は、なんと切り裂きジャックが時空を飛び越える。ただし、本人は意図しない形で。ある意味、切り裂きジャックの解放を表しているような作品?
「鞭打たれた犬たちのうめき」は、恐怖におびえる女性が恐怖を超越していく様子が描かれている。超越し過ぎて、人間を逸脱してしまったようにも思えるが。
「北緯38度54分、西経77度0分13秒 ランゲルハンス島沖を漂流中」は、タイトルからして人間の体の中での冒険を描いているような・・・・・・それとも家系からの解放を目指すような話とも・・・・・・
「ジェフティは五つ」は、5歳から一切年をとらない少年を中心とした物語。ある種、古き良き時代を懐かしむ作品とも言えるかもしれない。と言いつつも、そこに関わっている人は現代へ必死に手を伸ばそうとしているのだが。
「ソフト・モンキー」は、虐げられるものの生きざまを描いたような作品。ただし、その虐げられている者が一番強いように思えてしまったのだが。