SF や行−よ 作家 作品別 内容・感想

パンツァークラウン フェイセズ Ⅰ

2013年05月 早川書房 ハヤカワ文庫
<内容>
 西暦2045年、大震災により崩壊した東京は、行動履歴解析と情報層付与を組み合わせた制御技術により、層現都市“イーヘヴン”を構築した。そのイーヘヴンへと仕事により久々の帰郷を遂げることとなる青年・広江乗。彼が所属するDT小隊は民間の機甲実験小隊であり、世界中の戦争・紛争地帯を駆け巡ってきた。そんな彼らが、イーヘヴンへと迎え入れられることとなったのだ。乗はかつて、イーヘヴンに住んでいたのだが、何らかの理由でそこから放逐された過去を持つ。その理由が何だったのか、乗は調べようとする。そんな彼の前に現れたのは、乗が身にまとう黒い強化外骨格と対になる白い鎧を身に付けたピーターと名乗る男であった・・・・・・

<感想>
 説明が多い割には、その内容や世界観がわかりづらかったというのが一番の印象。

 登場人物が少ないので、物語全体がわかりやすそうなものであるが、それが結構わかりにくい。特殊な都市を構築したことにより、それに対する説明が長々と描かれているのだが、順序良く簡潔に描かれていないのでこれもまたわかりにくい。

 主人公が黒い鎧のようなものを身にまとう、ヒーローもののような外観と設定を持っているのだが、できればまずはその小隊が普通に活躍する場面を描いてもらいたかったところ。そうすれば、もっと彼らの活躍がわかりやすかったと思われる。いきなり、ライバルめいたものが登場して、特殊な戦闘が繰り広げられても何が何だか・・・・・・という感じであった。

 細かく説明するならばわかりやすく、もしも細かい説明をはぶいて物語に特化するのであれば、一層のこと読者を置き去りにするぐらい話をどんどんと進めていってもよいと思えるのだが。どうもどこにポイントを置いているのかがわかりにくい作品である。

 本書は新人作家による作品で、3か月連続刊行という早川書房が力を入れてお薦めしている作品のよう。出だしは決して印章の良いものではなかったのだが、せっかく一冊目を読んだのだから続きも読んでいこうと思っている。今後、話を盛り上げることができるのかな?


パンツァークラウン フェイセズ Ⅱ

2013年06月 早川書房 ハヤカワ文庫
<内容>
 黒い強化鎧をまとう広江乗の前に現れたのは、白い鎧をまとったピーターと名乗る謎の男。ピーターは自分を含めた7人によって、都市“イーヘヴン”の破壊を宣言する。姿をくらましたピーターらの行方を追う中、広江乗は3年前に何故自分が都市から追放されたのか、その理由を探ろうとする。そうしたなか、乗と知り合いになった少女、識常末那が3年前の乗と同じように都市から追放者扱いされてしまう。そんな彼女がたどり着いたのは、ピーターのもとであり、末那は彼らに身をゆだねることとなる。3年前の事件とイーヘブンの暗部が徐々に浮かび上がる中、再び乗とピーターが対峙することとなり・・・・・・

<感想>
 3か月連続刊行シリーズの2作品目。前作に比べると説明よりも動きが多く、読みやすくなった感がある。

 3部作というよりは、ひとつの物語を三分冊したという形式なので、今回は物語の中盤。きちんと考え抜かれたうえで物語の流れは作られており、徐々に明らかになる真相という部分ではよくできていると思われる。

 細かい点について言ってしまうと、突っ込みどころがあまりにも満載なので、いちいち指摘していても始まらない。ここまで微妙に感じてしまう世界設定であるならば、懲りすぎないよう作ったほうがシンプルでよかったと思われるのだが、それは著者なりのこだわりなのであろう。

 あとは、もう少し戦闘のパワー・バランスを考えて、戦闘方法について何でもアリと思わせないように書ききることができれば、もっと全体が締まってくると思われるのだが。


パンツァークラウン フェイセズ Ⅲ

2013年07月 早川書房 ハヤカワ文庫
<内容>
 白い鎧をまとうピーターに敗れた乗。<co-HAL>を乗っ取り、イーヘヴンを蹂躙しつくそうとするピーター。一切の武装が使用不能となり、追いつめられるDT小隊。そうしたなか、乗は伊砂リューサらの手を借り、新たな黒い鎧を身にまとい復活を遂げる。乗とDT小隊らの巻き返しがはかられようとするなか・・・・・・

<感想>
 3巻の完結編まで読みとおしたのだが、結局1巻を読んだときから感想は変わらないまま。もう少し、印象が変わってくれればと思ったのだが、3巻連続で刊行ということは、一気に書き上げた小説ということで、その間に何か変わるということはありえないか。

 普通のヒーローもののような話を複雑化したという印象が残ったのみ。複雑化したことにより物語に厚みが出るというのであればよいのだが、単にわかりにくくなっただけという感じであった。結局、それぞれの登場人物の目的がたいしたことのないまま終わってしまうのもどうかと。都市を一つ、壊滅するほどの内容なのかと。

 まぁ、新人作家がここまで長い話を書きあげたというだけでも称賛に値することなのであろう。とはいえ、この作品によって著者の評判が高まるようには思えない。むしろ、もう少し短編とか、普通の長編で腕を磨いてから長大な作品を書きあげたほうが良かったのではなかろうか。


ペロー・ザ・キャット全仕事

第2回日本SF新人賞受賞作
2001年05月 徳間書店 単行本
<内容>
 大いなる犯罪者パパ・フラノが支配する、欺瞞と安寧の街<パレ・フラノ>。その夜の裏側をすり抜け、暗闇の中のすべてを観察する一匹の猫がいた。
 ペローが偶然手に入れたのは、サイボーグ動物に人間の意識を転移させ、自在に操れるというエジプト秘密警察が開発した新システムだった。のぞきと強請りの喜びに耽るペロー。しかしそれは長くは続かなかった。パパ・フラノの部下、組織幹部のシムノンに目を付けられ、自由の身から一転、組織に忠誠を誓う「犬」の役割を強要されることに・・・・・・
 近未来フランスを舞台にした、スピーディー&スタイリッシュ、クール&テクニカルな新感覚SFノワール。文学の芳香と娯楽小説の魅力が共存した第2回日本SF新人賞受賞作。

<感想>
 SFということで派手な内容を予想していたのだが、読んでみたらまったく違った。スーパーマンではなく、ひたすら境遇に悩む主人公。サイボーグ動物に意識を転移させるシステムを手に入れて、それに心惹かれて行動しつづけるのではあるが、自分の存在に疑問を抱きつつも猫に身をゆだねて行く。SFというよりはハードボイルド調であり、文学的でもありながら、読者を惹きつけてゆく内容、書き方には目をみはるものがある。


ボーイ・ソプラノ

2001年09月 徳間書店 単行本
<内容>
 その日、探偵ヴィッキーを訪ねてきた依頼人は二人。ひとりは聖歌歌手の少年。そして、もうひとりは血の匂いをほのかに漂わせた謎の男。依頼は同じ、ある失踪した神父を捜しだすこと。
 調査を始めた彼の目前で、事件は起きた。異形の猿人がおこなった狂気の犯行。頭部をねじ切られ、指を食いちぎられた無残な死体。  この街があるかぎり、わたしは不死であり、無敵であり、この街を呪い続けるだろう。<クトゥルフの呼び声>と名乗り、探偵の元に届けられた警告の手紙。それは、快楽の街に君臨する大いなる犯罪者パパ・フラノへの挑戦なのか?

<感想>
 前作「ペロー・ザ・キャット」に続き、同じ近未来のフランスを舞台にした作品。今回は前作よりも探偵を主人公にしたせいか、ハード・ボイルド色の強い内容になっている。

 権力に逆らうかのように生き続けようと、あがく探偵。狂気にかられ、あえて街の神たる男に挑戦しようとする神父。そしてその彼のみを慕う、少年。さらには神父を狙うフラノの犬を自称する男。

 狂気に駆られ、異形の姿をまとい、<クトゥルフの呼び声>の主と自称しながら破滅へと進む男。その男を捜し、止めようとする男たち。そして、そこにはそんな事件とは裏腹に何も変わらない街がただそこに君臨する。SFの色をとどめながらも、伝奇とハード・ボイルドの色をまとう作品。これは異色小説である。


ギャングスターウォーカーズ

2004年02月 光文社 カッパ・ノベルス
<内容>
 近未来の中国・上海。治安は極右政治結社<聖ヒラム騎士団>という団体により統治されている時代。その時代をひとりの謎の殺し屋が闊歩する。彼はルーク・ギャングスターウォーカーと呼ばれている。その殺し屋を含めて、聖ヒラム騎士団を打倒する反対勢力が入り乱れる事件が次々と起き、僕、護堂・マクシミリアン・渉もなぜかそれらの事件の渦中に巻き込まれていくことに・・・・・・

<感想>
「ベロー・ザ・キャット」のシリーズが近未来のフランスを描いた作品であるのに対し、本書は近未来のアジアを描いた作品となっている。「ベロー・ザ・キャット」の作品とリンクしているところもあり、本書は同時代での物語りとして進行しているようである。

 で、読んでみての感想なのだが・・・・・・正直いって「あれ?」という感じである。私がこの本を手に取ったのは著者である吉川氏が以前に書いた作品、「ベロー・ザ・キャット」のシリーズが面白かったので、他の作品も手にとってみようと思ったのだが、本書は考えていたものとは全く違った印象の本であった。

 私が前に読んだ著者の本では、落ち着いた雰囲気とそこから感じ取れるけだるさが独特の味を出しており、それが心地よいと感じられた。しかし本書にはそういった心地よさを感じ取ることができなかった。本書では必要以上に多くのキャラクターが登場し、それらがきちんと生かされる前に別のキャラクターが登場しと、何か妙に落ち着かないのである。それがまた書き込まれた重厚な物語の背景と相反するように感じ取られ、バランスを欠いているように思えた。

 本のカバーからすると一般受けを狙った作品であるかのように感じられたのであるが、それがうまくいかなかったのではないかなどと邪推してしまう。この著者には落ち着いた文学的な香りのする作品のほうが似合っていると思うのだが。たとえ一般受けしなくとも。


マザーズ・タワー

2008年10月 早川書房 ハヤカワSFシリーズ Jコレクション
<内容>
 西暦2038年、スリランカとインドを結ぶ巨大な橋を拠点とするマザーズ教団。その教団は難病の子供達の最後を看取るためにつくられた組織であった。しかし、その組織の存在を否定するものの手により、橋は軍隊の襲撃を受けることに。そのとき居合わせた4人の男、医師デニス・ノートン、密輸により巨額の利益を得る飛鷹昭人、ハッカーのイスマイル・ナンディ、傭兵ジェルジンスキー。橋は敵に奪取されてしまったものの、4人の男達は教団の巫女のため、そして大いなる目的のために軌道エレベータを造る事を約束する。

<感想>
 なかなか面白い作品であった。最初はいきなり教団の崩壊から始まり、物語がどこへ行くのやらと思ったのだが、4人の男たちが協力して巫女を護りながら軌道エレベータを造ることに奔走することとなる。展開といい、キャラクター造形といいよくできた内容である。

 ただ、そうしたなかで物足りなかったのが敵役の造形について。敵の存在があまりにも安易であり、なおかつ主人公達を阻む存在となるのかがよくわからない。どう考えてもラストでの軌道エレベータで交戦となる部分に関しては物語上の必然性というものが感じられなかった。適役はもっと組織立ったものの方がよかったのではないかと思われる。

 と、適役の造形に関するところ以外はよくできた作品ではないかと思われる。楽しんで読むことができるエンターテイメントSF作品。あと、個人的なことだけどSF作品でよく出てくる軌道エレベータのイメージが未だにつかめない。どこかに図入りで簡潔に説明してあるものはないのだろうか。




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