バベルの薫り
1991年10月 早川書房 単行本
1995年06月 早川書房 ハヤカワ文庫(上下)
<内容>
姉川孤悲は己の目的を達成すべく、パートナーの林譲治という少年のみを連れて地球へと降り立つ。そして孤悲は国家の力さえも動かし、目的を達成するべく緻密な計画を練ってゆく。目的となるのは学園都市・井光。その井光学園をの理事を勤めるのは塔家、その党首は美貌の女性・塔あけぼの。地上にて孤悲とあけぼのの死闘がくりひろげられることに・・・・・・
<感想>
野阿氏の作品で最初に読んだのは「ソドムの林檎」。こちらを読んだときに“姉川孤悲”という女主人公の話を読み、これは面白いと思った。では野阿氏の作品で他に何を読もうかと思ったとき、“姉川孤悲”が活躍する長編があるのを知り、早速入手して読むことにした(入手してから読むまでの時間が長かったが)。それが本書「バベルの薫り」である。
野阿氏の本の特徴というと、徹底的に書き込まれる、SF設定やイデオロギーというものだろか。本書ではそういった書き込みがいかんなく発揮され、ハードSFの設定、宇宙と地上における政府間の構図、伝奇的な設定まで幅広く書き込まれている。さらには、学園ものとしての側面まで持っているのだから、非常に濃密な作品であるといえよう。本書はそういった設定の中において一番濃く書かれているのは伝奇としての部分でないかと思う。序盤はSF作品という感じだったのだが、後半は伝奇作品という印象が強くなった。
そして本書の特徴で設定について緻密に書き込まれていると書いたのだが、それゆえに物語り自体は進度が非常に遅く感じられた。全体的にも物語としてはそれほど進展がなかったような気がする。後半の孤悲による作戦行動がほとんどすべてであったという気がしないでもない。
そういう面からして、本書については不満が残った一作といえよう。もう少し、孤悲の活躍を描いてもらいたかった。何にしても、あのラストには納得がいかなかった。
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2013年07月 早川書房 ハヤカワ文庫
<内容>
超情報化対策として、脳に人造の“電子葉”の移植が義務付けられた2081年の日本。その移植により、人々は外部デバイスを持つことなく、ありとあらゆる情報を手に入れることができるようになった。ただし、その情報は階層化され、その人の持つレベルによって情報を得られたり、得られなかったりすることがある。情報庁で働く官僚の御野・連レルは、内閣総理大臣や各大臣に付与される権限“レベル6”に追従する“レベル5”のクラスを有していた。そんな連レルは、14年前に突如姿を消した恩師の遺した暗号を発見し、恩師の行方を追うこととなり・・・・・・
<感想>
野崎氏については、短編はアンソロジーなどで読んだことがあるのだが長編を読むのは初めて。噂には聞いたことのある作家であったので、一度読んでみたいと思い、とりあえず入手しやすかったこの作品を手に取ってみた。
日々、携帯電話(スマホ等)を持って歩きながら操作している人を見ると、いっそのこと端末自体を体に埋め込んでしまえばいいのではないかと考えることがよくある。電子回路自体は元々小さなものなので、体に埋め込んで直接、眼もしくは脳で映像等を見ることができれば、あんな大きなもの(スマホになってから徐々に大きくなっているような)を持つ必要はないだろうと。ただ、電源をどうすればいいかは問題かもしれない。と、そんな考えを実際に実現してしまったのがこの作品。携帯の代わりに“電子葉”というものを埋め込んだ人々が普通の状態として語られている物語。
そこを背景として情報化社会の行き着く先を描くのかと思いきや、個人的な知識欲から進化を描いた作品のように捉えられた。ただし、決して難しい描かれ方はされていなく、ボーイ・ミーツ・ガール系の物語としてやや軽めに描き上げている。取っ付きやすいハードSF。
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2012年08月 アスキー・メディアワークス メディアワークス文庫
<内容>
俳優を目指すフリーター・数多一人(あまた かずひと)は、有名劇団“パンドラ”の入団試験に合格する。同じく合格した新人に課せられた課題は新人のみで公演を創り、新人公演を行うこと。一人を含む新人たちは一致団結し、彼らの舞台を作り上げようとするのであったが・・・・・・
<感想>
なんかすごい内容だった。とにかく読者の予想を裏切る連続であり、全く先を見通すことのできない内容。その予想を裏切る展開がまさか最後の最後まで続くとは・・・・・・
最初は単に演劇関連の作品なのかと思っていた。有名劇団パンドラに入団した新人たち。彼らの挫折と栄光を描くものなのかと思いきや、まさかのっけから、そうした展開をすべてぶち壊してしまうとは!!
それでも演劇に関する話であって、別にこれってSF作品ではないなと思っていたら、またもや後半裏切られることに。まさか、こんな話からSF作品に昇華していくなんて!!
とにかく良い意味で裏切られる内容、ただ読了後何も言えなくなるというか、開いた口がふさがらないような状態に陥ってしまう。この人の作品、これを読んだらもう読むのを辞めようと思っていたのだが、やっぱり他の作品も掘り返してみようかなと、興味を惹かれてしまった。
まだ未読の人は、とにかく何も情報を入れない状態で読んだほうがより楽しめると思われる。
太陽の簒奪者
2002年04月 早川書房 ハヤカワSFシリーズJコレクション
<内容>
西暦2006年、突如として水星の地表から噴き上げられた鉱物資源は、やがて、太陽をとりまく直径8000万キロのリングを形成し始めた。日照量の激減により破滅の危機に瀕する人類。いったい何者が、何の目的でリングを創造したのか?
異星文明への憧れと人類救済という使命の狭間で葛藤する科学者・白石亜紀は、宇宙艦ファランクスによる破壊ミッションへと旅立つが・・・・・・
<感想>
まぎれもなくハードSFたる作品。本来ならばハードSFとなると敷居が高くて、とっつき辛いものというのが相場だが本書では導入を非常に興味深い一般的なものとして掘り下げているため、読み始めたらその世界にぐいぐい引き込まれていった。本書で感心するのはその導入の部分に難解な設定をもってこないで、太陽にさす影が大きくなっていくことで地球に危機がおとずれるという分かり易いアウトラインをまず引いている点である。そしてそのアウトラインにのっとってハードSFを展開していくという構成がうまく成功している。当然、本書の中味ではハードSFならではの難解なる箇所もあるのだが、焦点が明確化されているために、目的を見据えて読み進めることができる。ゆえに難解な箇所などがあっても楽に最後まで読むことができるようになっている。
そうして一度そのラインにのってしまったら、“太陽の日照量を確保するためにどのような方法がなされるのか”とか、“主人公がこの事象に立ち向かって行く道程”、または“地球外生命体がいるのか? もしいるとすればコンタクトは取れるのか?”という興味が尽きぬことはない。なかなか重厚なSFであるにもかかわらず、SF世界への橋渡り的な役目も果たすこともしてくれるのではないだろうか。
女子高生リフトオフ! ロケットガール1
1995年03月 富士見書房 富士見ファンタジア文庫
2006年10月 富士見書房 富士見ファンタジア文庫
2013年11月 早川書房 ハヤカワ文庫
<内容>
女子高生の森田ゆかりは、16年前にハネムーン先で失踪した父親の行方を求め、夏休みを利用してソロモン諸島の島を訪れた。その島では日本人たちが友人宇宙船を打ち上げようとロケットの開発にいそしんでいた。ロケットの軽量化を図るため、彼らは森田ゆかりに目をつけ、父親の行方を捜すのを協力する代わりに、宇宙飛行士になることを要請する。渋々ながら引き受けたゆかりは、宇宙飛行士としての厳しい訓練を受けることとなり・・・・・・
<感想>
もともとはライトノベルズであったものの復刊ということで、ライト系のものだと予想はしていたのだが、ここまで軽い内容だったとは・・・・・・ちょっとその能天気さに驚かされた。書かれた年代が1995年ということであるが、読んでみた印象としては1970年代くらいに書かれたのではないかと思えたくらいのおおらかさ。
とにかくご都合主義が物凄い。宇宙へ行くということに対する数々の障害をほとんど無視して、そのまま宇宙へ直行! さらには、数々の困難もご都合主義によりあっという間に乗り切ってしまう。とはいえ、面白いのは事実であり、ご都合主義ゆえにスピーディ。あっという間に読み終えてしまった。
SF的な宇宙に対する論理的な部分が欠けているかといえば、実はそんなことはなく、それなりにきちんと書かれているのは確か。ただ、そういったことにより物語の流れをとどめないように必要最小限に描いているといったところか。まぁ、こういった作品からSFファンが増えてくるであろうから、SFの導入編としては最適といえよう。ただ、あくまでもライトノベルズでよいとして、わざわざハヤカワ文庫から出す必要はなかったのでは。
天使は結果オーライ ロケットガール2
1996年12月 富士見書房 富士見ファンタジア文庫
2006年11月 富士見書房 富士見ファンタジア文庫
2014年02月 早川書房 ハヤカワ文庫
<内容>
いつの間にやら、史上最年少の宇宙飛行士として、ミッションをこなしつづける森田ゆかりと、その腹違いの妹マツリ。二人は、ミッション後地球に降り立つ際、あやまってゆかりの母校のプールに不時着することに。そこで出会う、三浦茜という天才少女。この出会いが、茜の運命を変えることとなり、彼女は宇宙飛行士になることを決意し、茜と共に宇宙へと旅立つこととなり・・・・・・
<感想>
1作目に続いての緩い作調というか、良い意味でのオフビート感。単なるライトノベルズ的な軽さではなく、作調として表しているところはなかなか。展開はお約束的で、ご都合主義ながらも、宇宙に関する設定や事象について、きちんと書き込まれているところは単なるライトノベルズではないと納得させられる。
前作ではゆかりとマツリという二人の少女宇宙飛行士が活躍していたが、今作ではそれにもうひとり加わることとなる。新たなキャラクターは、今でいう理系女子。前作では全般的に体育会系的なノリであったのが、今回はこの新しいキャラクターにより、ちょっとしたアクセントが与えられたのではなかろうか。起承転結、うまくまとめられている作品であるが、よくよく考えると前作と構成的にはほとんど同じと言ってよいような・・・・・・