NOVA1
2009年12月 河出書房新社 河出文庫
<内容>
「社員たち」 北野勇作
「忘却の侵略」 小林泰三
「エンゼルフレンチ」 藤田雅矢
「七歩跳んだ男」 山本弘
「ガラスの地球を救え!」 田中啓文
「隣 人」 田中哲弥
「ゴルコンダ」 斉藤直子
「黎明コンビニ血祭り実話SP」 牧野修
「Beaver Weaver」 円城塔
「自生の夢」 飛浩隆
「屍者の帝国」 伊藤計劃
<感想>
ありそうでなかった日本人作家による書き下ろしのSF作品が読める本、それがこの「NOVA」。これはベテランの作家から名前を初めて聞く新人の作家まで、さまざまなSF短編作品を読むことができるという、実に楽しい企画である。また、書き下ろしということで、その時代のSF小説をリアルに体験できるというのもまた素晴らしい。
と、言いつつも発売後から読むのに1年もあけてしまって、すでに2巻と3巻が出版されている始末。せっかくリアルタイムSFアンソロジーなのだから、きちんとその年のうちに読まなければ。
ちなみに、これら作品のなかで伊藤計劃の作品については未完成となった長編作品のプロローグが掲載されている。いや、読んでみるとさまざまな形式のSF作品を読むことができて、大変面白い。冒頭は、いかにも北野氏らしい独特の口調のショートショートから始まっている。
そしていかにもSFらしい設定ながらも、見方を変えれば個人の妄想のようにも思えてしまう小林氏の「忘却の侵略」、ほのぼのとした恋愛小説とガチガチのハードSFを見事に結びつけた藤田氏の「エンゼルフレンチ」、さらには宇宙空間での不可能犯罪を描いた「七歩跳んだ男」と、のっけからすごいSF作品がこれでもかとばかりに並べられている。
「ガラスの地球を救え!」はいかにも田中啓文氏らしい、ひとをくったようなSFっぷりがなんとも言えない作品。
「隣人」は今回の作品集のなかでは一番SFらしくないと感じられ、何ゆえ掲載されたのかが不思議なところ。
その「隣人」に対して斉藤氏の「ゴルコンダ」も普通の日常の風景が描かれているのだが、こちらはうまくSFしているように感じられるのが不思議なところ。今回の作品集の中で、一番価値あるものと思えた作品。
牧野氏と飛氏の作品はどちらもテキスト系SFとして共通のテーマのように書かれているところが興味深い。「黎明コンビニ血祭り実話SP」は戦隊ものとして描かれ、ぶっ飛んだ内容になっている。「自生の夢」は「羊たちの沈黙」をSF化したような作品。
NOVA2
2010年07月 河出書房新社 河出文庫
<内容>
「かくも無数の悲鳴」 神林長平
「レンズマンの子供」 小路幸也
「バベルの牢獄」 法月綸太郎
「夕暮れにゆうくりなき声満ちて風」 倉田タカシ
「東京の日記」 恩田陸
「てのひら宇宙譚」 田辺青蛙
「衝 突」 曽根圭介
「クリュセの魚」 東浩紀
「マトリカレント」 新城カズマ
「五色の舟」 津原泰水
「聖 痕」 宮部みゆき
「行 列」 西崎憲
<感想>
今作のラインナップはすごいことになっている。SF作家と言われる人達以外にも、他のジャンルの作家がどうどう参戦。これでアンソロジーとして厚みを増してきたというように感じられる。その反面、SFとか関係なく、単なる流行作家のアンソロジーと区別がつかなくなりそうという感触もあるのだが、今後どうなってゆくであろうか。
実のところ純然たるSFという作品は神林氏、曽根氏、東氏の3作品くらいのように思えた。それ以外は別のアンソロジーに掲載されていても特に違和感がない。SFとしてのベストは東氏の「クリュセの魚」。火星での少年少女との出会いを描いた秀逸な作品であり、力作でもある。
また、SFとしてのベストというより、法月氏のひねくれた力作として同列にベストとしてあげたいのが「バベルの牢獄」。倉阪鬼一郎氏もびっくりのバカミスならぬ、バカSFが展開されている。必見。
小路氏の作品は少年もののちょっと不思議な話としてうまくできている。
田辺氏はショートショート形式による奇譚を披露。
倉田氏の作品は・・・・・・どういう順序で読めばいいかわからなかった。普通に書いても面白そうだと思えたのだが。
恩田氏と宮部氏はそれぞれが独自の持ち味を出しつつ、うまく作品を描いている。とはいえ、宮部氏のはSFというよりもミステリ色のほうが濃いと思われる。
新城カズマ氏は・・・・・・あぁ、あの「蓬莱学園」を書いた人か! 昔読んだことがある!! というインパクトのほうが作品よりも強かった(あくまでも個人的な意見)。
NOVA3
2010年12月 河出書房新社 河出文庫
<内容>
「万物理論 [完全版]」 とり・みき
「ろーどそうるず」 小川一水
「想い出の家」 森岡浩之
「東山屋敷の人々」 長谷敏司
「犀が通る」 円城塔
「ギリシア小文字の誕生」 浅暮三文
「火星のプリンセス」 東浩紀
「メデューサ複合体」 谷甲州
「希 望」 瀬名秀明
<感想>
怒涛のように出版される「NOVA」。どんどん読んでいかないと、最新刊の発売についていけなくなりそう。これを読む前に、すでに「NOVA4」が出てしまった。
今作はSFアンソロジーとして、ずいぶんと内容が濃かったように思えた。普通に「2010年の代表的なSFアンソロジーです」といって売り込んでも通用しそうな気がする。
「万物理論 [完全版]」
NOVA初の漫画作品。展開は面白いのだが、結末はいつもながらのありきたり。でも展開がおもしろければ、それで十分か。
「ろーどそうるず」
なんと二台のバイクのやりとりのみで構成された作品。そんなので物語が広がるのかと思いきや、予想外に物語が大きく広げられていくことに。バイクがたどる破天荒な人生(車生?)に思わず魅入られてしまう。
「想い出の家」
近未来社会における高齢者問題を扱ったというような作品。眼鏡の機能とノスタルジックな内容がマッチしている。
「東山屋敷の人々」
これも近未来社会を描きつつも、現代的な要素を残し、ノスタルジックな感傷を受けることができる作品。テーマは“親族”。葬式に集まった親戚たちの場面から始まり、“家”というものを近代科学を用いながら描き表している。
「犀が通る」
ごく普通のことを回りくどく、湾曲的に表現している。
「ギリシア小文字の誕生」
ギリシア小文字の誕生をオリンポスの神々の性技により表した作品。よくもまぁ、こんなことを考えるなとニヤニヤしながら読みとおした。
「火星のプリンセス」
NOVA2からの続き。4連作となるらしい。今回は特に続きが気になるところで終わっている。早くNOVA4を読まなければ。いや、全部出そろってから一気に読んだ方が・・・・・・
「メデューサ複合体」
谷氏による土木SFとのこと。昔3作くらい書かれていたらしいのだが、まだ書籍化していないらしい。これを機に書籍化が期待されているようだが。今作を読んだ限りでは、これで終わってしまっていいの? と、疑問が・・・・・・。話は解決したようなのだが、“何故”ということについてはっきりしていなかったような。
「希 望」
面白かったような面白くなかったような。アンドロイドの生を描いた100ページ弱の大作。SF作品を読んでいて、難しい内容をわかりやすく書こうとしているのだが簡潔には表現できずに難しくなってしまったのか、もしくは簡単な内容をあえて難しくわかりずらく書いているか、のどちらだろう考えてしまうことがある。この作品は前者なのだろうか、後者なのだろうか。後者に属する作品というのはどうしても面白いものと割り切れないのだが・・・・・・
NOVA4
2011年05月 河出書房新社 河出文庫
<内容>
「最后の祖父」 京極夏彦
「社員食堂の恐怖」 北野勇作
「ドリフター」 斉藤直子
「赤い森」 森田季節
「マッドサイエンティストへの手紙」 森深紅
「警察庁吸血犯罪捜査班」 林譲治
「瑠璃と紅玉の女王」 竹本健治
「宇宙以前」 最果タヒ
「バットランド」 山田正紀
<感想>
単なる文庫のアンソロジーというよりは、SFの今を読むことができる“雑誌”に変貌しつつあるようなNOVA。他のSF関連の月刊誌等が次々と廃刊されているなか、このNOVAにかけられる期待は大きくなっていくであろう。今後ともどんどんと続けていってもらいたい・・・・・・それよりも、しばらく続くのは確実なのだから、それをリアルタイムで読みこなすべき私自身のほうに問題が・・・・・・あぁ、「NOVA6」がもう出てしまう。
今回はそれぞれの作品のページ数が厚めになっており、それにより作家数が絞られているためか、かなり読みやすく取っ付きやすかった気がした。例によって今回もバラエティ豊かな作品を堪能させてくれている。
「最后の祖父」
京極夏彦氏の幻の初期作品という位置づけ。一人の人間の人生の終焉と空虚感がなんとも言えない味を出している。
「社員食堂の恐怖」
社員食堂に食べられる社員たち。法則性を見つけようと社員食堂に立ち向かう社員たちの奮闘ぶりが面白い。きっちりとした結末をつけないところがあえて北野氏らしいところか。
「ドリフター」
タイトルからドリフターズを連想したが、まさにそのとおりだった。守衛のおっちゃんと僕との会話から、恩返しの幽霊があらわれる。面白い作品であるが、今の若い人には理解できないかもしれない(そういえば、どこがSFだったんだろうか?)。
「赤い森」
新たな古墳を発見した若き研究者の話。とんでも歴史噺。発想が楽しいのだが、こんなことが実際にあっても確かに誰も信じてはくれないであろう。
「マッドサイエンティストへの手紙」
ロボット工場で働く“わたし”とドクターが会社内からの人間消失事件に挑む。ぜひともシリーズ化してもらいたい理系SFミステリ。
「警察庁吸血犯罪捜査班」
こちらもシリーズ化しなければもったいない設定の作品。吸血鬼が現存する世界で、人間と吸血鬼との共存による問題や事件を特殊捜査班が解決していくという内容。主人公や捜査する側の人物造形がもっと奇抜でもいいように思える。
「瑠璃と紅玉の女王」
竹取物語ではなく、アラビアンナイト風の物語。うまくできていると思うのだが、色々な意味で何も残らない。
「宇宙以前」
宇宙の存在が否定された世界での冒険譚。会話が主体という印象の作品なのだが、うまく物語が作られていると思える。ただ、登場人物の性格が煮え切らないと感じられたのだが、そこは現代風というところなのか。
「バットランド」
山田正紀氏のよる中編作品。今のところNOVA誌上では最長の作品とのこと。宇宙の危機から脱するための鍵を握るのは認知症の老人という何とも危なっかしい内容。SF作品としてはこのくらいの長さでちょうど良いのかもしれない。物語を重視するのであれば、老人のパートのみでも十分とも感じられた。
NOVA5
2011年08月 河出書房新社 河出文庫
<内容>
「ナイト・ブルーの記憶」 上田早夕里
「愛は、こぼれるqの音色」 図子慧
「凍て蝶」 須賀しのぶ
「三階に止まる」 石持浅海
「アサムラール」 友成純一
「スペース金融道」 宮内悠介
「火星のプリンセス」 東浩紀
「密 使」 伊坂幸太郎
<感想>
今回は中編8作という構成であるが、作品数が少なかったせいか、はたまた、どれも読みやすかったせいか、すんなりと読めた気がする。全体的に水準の高い作品の中に、さらなる秀作を読むことができ、今回の「NOVA」は実に楽しめた。
「ナイト・ブルーの記憶」
海を感覚的に感じられるという設定は面白いのだが、それだけで終わってしまうのが残念。これはと思えるような伏線がいたるところに張ってあるように見えつつ、いさぎよいくらいに全てスルー。
「愛は、こぼれるqの音色」
“追い出し屋”を生業とする青年と部屋から追い出されようとする年上の女、そして“キネクス”という脳波によるアダルトコンテンツが主題となる内容。ハードボイルド的な内容の作品で楽しめる。“追い出し屋”のみが主題であると普通の話のように思えるが、そこに“キネクス”というSF的設定をうまく用いた作品として仕上げられている。
「凍て蝶」
バーに勤める青年とひきこもり気味の女との奇妙な暮らし。ある日、女は自分の人生と幻の山について語り始める。ファンタジックSF作品とでも言えばよいだろうか。普通の男女の暮らしから、意外な過去が明かされることにより物語は急展開してゆく。難しい内容ではないにもかかわらず、ゴリゴリのSF作品というようにも受け取れる物語。
「三階に止まる」
必ず三階に止まるエレベーターの秘密を暴く作品。いい加減なもので終わらせず、きちんとした解決を付けているところが見事。それにより、SFであり、ホラーであり、ミステリでありと、全てがうまい具合に融合された秀作となっている。
「アサムラール」
今まで読んだ友成氏の作品のなかで一番読みやすかったような気が。ただし、その内容は友成氏がどのように死んでいったのかが描かれるというもの。さらば友成氏! 実物はちゃんと生きているよね??
「スペース金融道」
金融道も語り口によれば立派なSFになるということか。その名の通り近未来の取り立てやを描いた作品。しかも取り立て先はアンドロイド。アクションのみならず中身も濃い、充実した内容。
「火星のプリンセス」
もはや語る必要のない「NOVA」の目玉作品。「NOVA7」に掲載される作品にて完結とのこと。
「密 使」
伊坂氏らしい作品ながらも立派にSFとして成立している。というか、伊坂氏はジャンルに関わらず、何でも書けるということなのか。ラストで全てが明らかになる真相が意表をついていて心憎い。最後まで読むと、途中の過程が実にうまく語られていたということがわかる。
NOVA6
2011年11月 河出書房新社 河出文庫
<内容>
「白い恋人たち」 斉藤直子
「十五年の孤独」 七佳弁京
「硝子の向こうの恋人」 蘇部健一
「超現実な彼女 代書屋ミクラの初仕事」 松崎有理
「母のいる島」 高山羽根子
「リビング・オブ・ザ・デッド」
「庭、庭氏、徒弟」 樺山三英
「とんがりとその周辺」 北野勇作
「僕がもう死んでいるってことは内緒だよ」
「保安官の明日」 宮部みゆき
<感想>
6冊目となるNOVAであるが、今までの中では一番つまらなかったかな。新人作家が多かった分、全体的に不安定な感じがした。
最初の「白い恋人たち」はNOVA4の「ドリフター」で登場した主人公が再登場。これはなかなか楽しめる逸品。微妙な内容とも言えるのだが、その微妙さがなんともうまく表現されている作品。
ガチガチのSF作品と言えるのは「十五年の孤独」。この人は商業作家ではなく、まだ正式にデビューはしていないほぼ無名の人。作品の内容は、軌道エレベータを人力により登るという試みが描かれた作品。これは発想だけでも十分に面白いと言えよう。
それ以外の作品ではベテラン作家である宮部氏や蘇部氏(ベテラン?)あたりが堅実にSF作品を書いていたという気がする。まさか蘇部氏に堅実という言葉を使うことになるとは思いもしなかったが。宮部氏については、むしろ、きっちりとSFテイストで描かれた作品となっているところに驚かされた。内容は普通のように思えたのだが、最後の最後でもう一驚きがある。
その他はSFっぽいものがあったり、明らかにSFとは言い難かったりと色々。上記にあげた以外では特に印象に残った作品はなかったのだが、もうひと押しと言いたくなるものはしばしば。
「リビング・オブ・ザデッド」は近未来的なコミュニケーションと演劇を組み合わせたものなのだが、うまく書けば名作になったような気がして惜しいと思われた作品。
「庭、庭氏、徒弟」は発想は面白いと思ったのだが、“庭園学”というよりも庭氏個人に比重が傾き過ぎていたような気がする。
NOVA7
2012年03月 河出書房新社 河出文庫
<内容>
「スペース地獄篇」 宮内悠介
「コズミックロマンスカルテット with E」 小川一水
「灼熱のヴィーナス」 谷甲州
「土星人襲来」 増田俊也
「社内肝試し大会に関するメモ」 北野勇作
「植物標本集」 藤田雅矢
「開閉式」 西崎憲
「ヒツギとイオリ」 壁井ユカコ
「リンナチューン」 扇智史
「サムライ・ポテト」 片瀬二郎
<感想>
今回も新進の作家が多かったせいか、全体的に小ぶりと感じられた。とはいえ、「NOVA6」よりは、まだ読みやすかったかなと。
「スペース金融道」に続く「スペース地獄篇」は、まだ2編しか読んでいないにも関わらず、安定したシリーズというように感じてしまった。理解しやすいとは決して言わないが、この内容でしっかりハードSFしているところがすさまじい。
小川氏の「コズミックロマンスカルテット with E」は・・・・・・なんでもありかと。
宇宙土木シリーズ「灼熱のヴィーナス」は面白いものの、読み足りなさを感じられた。
「土星人襲来」は終始じれったく話が進まない。
「社内肝試し大会に関するメモ」は、まぁ、こんなものかと。
「植物標本集」は新種の発見に関する情念を感じさせられた。
「開閉式」はホラーっぽい短めの作品。
「リンナチューン」は青春と科学技術が組み合わされた中での残酷さというものを垣間見た。
痛みを感じることのできない少年と、自らの感触を人に体感させてしまう少年との邂逅を描いた「ヒツギとイオリ」は印象的。少年の残酷さ、儚さ、ほとばしく感情が奇妙な設定を通して、見事に書き上げられている。
「サムライ・ポテト」は、微妙と感じられた作品。ロボットに自我が芽生えるというところは良かったのだが、結局長々と何も成さずに終わってしまうのはどうかと思われた。せっかくの設定を生かしきれなかったという印象が強い。
NOVA8
2012年07月 河出書房新社 河出文庫
<内容>
「大卒ポンプ」 北野勇作
「#銀の匙」 飛浩隆
「落としもの」 松尾由美
「人の身として思いつく限り、最高にどでかい望み」 粕谷知世
「激辛戦国時代」 青山智樹
「噛み付き女」 友成純一
「00:00:00.01pm」 片瀬二郎
「雲のなかの悪魔」 山田正紀
「曠野にて」 飛浩隆
「オールトの天使」 東浩紀
<感想>
今回の「NOVA」も色々な作品が盛沢山。新進の作家による作品が面白かった。ベテラン作家や「NOVA」おなじみの作家による作品も半分くらいを占めているが、そちらはやや安定し過ぎという感も・・・・・・
山田氏の「雲のなかの悪魔」は長過ぎ。脱出を企てる作品とのことであるが、化学の合成が延々と続いているというような感じであった。
東氏の「オールトの天使」は火星物語シリーズの完結編。続けて読んだ方が面白そうな気がする。チョイ役であると思われた“L”という人物が意外と存在感を出していた。
飛氏は「#銀の匙」「曠野にて」の2編を掲載。どちらも「NOVA1」に掲載された「自生の夢」に関連する内容となっているので、これまた一冊の本としてまとまったものを読んだ方が面白そう。
「大卒ポンプ」は例の作品のパロディ。パロディとして取り入れるスピードが速い。
「落としもの」は異星における話であるが、話が進むにつれて明らかになる事実が面白い。
「人の身として〜」は昔話的な内容。
「激辛戦国時代」は“激辛”からみた日本の裏歴史。意外としっくりきて楽しめる。
「噛み付き女」はクトゥルフ系ホラー。実在の事件をモチーフとして想像した作品のよう。
「00:00:00.01pm」が一番衝撃的であった。「NOVA7」で「サムライ・ポテト」という作品が掲載されていたが、こちらの話の方が真骨頂のよう。SFとしても面白いが、ホラーとしても衝撃が走る内容。時間が止まった世界で繰り広げられる狂気が描かれている。
NOVA9
2013年01月 河出書房新社 河出文庫
<内容>
「ペケ投げ」 眉村卓
「晩 夏」 浅暮三文
「禅ヒッキー」 斉藤直子
「本能寺の大変」 田中啓文
「ラムネ氏ノコト」 森深紅
「サロゲート・マザー」 小林泰三
「検索ワード:異次元/深夜会議」 片瀬二郎
「スペース蜃気楼」 宮内悠介
「メロンを掘る熊は宇宙で生きろ」 本木雅彦
「ダマスカス第三工区」 谷甲州
「アトラクタの奏でる音楽」 扇智史
<感想>
読んでみると、作品の多くがSFなんだか、SFじゃないんだかわからないのだが、こうしたとりとめのないものをひっくるめて“新SF”というジャンルになってしまっているんだろうなと感じてしまう。
今作は全体的に薄めという風に感じられた。特に強い印象のものはない。すでに、何作かを「NOVA」に書いている人が多くなってきたせいか、その作家らしい作品ばかりという気がした。この「NOVA」というのが、次回の10作品目で終わりにするということであるらしいのだが、そうしたマンネリ化を抑えるためという意味合いもあるのかもしれない。
「ペケ投げ」 道徳を守らない者に×を付けてしまおうという都市伝説。
「晩 夏」 ドアをあけると、“ぱ”による訪問を受ける。
「禅ヒッキー」 電話サポートセンターでの恋愛物語?
「本能寺の大変」 信長、巨人となる。
「ラムネ氏ノコト」 ラムネを発明したという男の偽史。
「サロゲート・マザー」 代理母の進化した形態が描かれる。
「検索ワード:異次元/深夜会議」“深夜会議”が怖かった。
「スペース蜃気楼」 取立人がカジノで罠にはめられる。
「メロンを掘る熊は宇宙で生きろ」 人が熊となり、半人半熊となり、また人に戻る。
「ダマスカス第三工区」 謎の事故を調査するものと、事件を隠ぺいしようとする者との駆け引き。
「アトラクタの奏でる音楽」 音楽による出会いと絆を描く青春小説。
読み終えた後、改めて作品群を見渡してみると、どうしてもあまり読みなれていない新進の作家に注目が行ってしまう。
片瀬二郎氏は2作品掲載しているのだが、そのうちの「深夜会議」が怖くて良かった。ただ、これってホラーだよな。
「アトラクタの奏でる音楽」は、近未来青春小説。これは、SFらしさと青春小説がうまく組み合わせられている。
「メロンを掘る熊は宇宙で生きろ」も、一見馬鹿馬鹿しいながらも、結構ハードSFしてて、面白かった。
9作目となって、マンネリ化という気はするものの、新進作家の作品とベテラン作家の作品を合わせて読むことができる作品集なので、これが無くなってしまうのは、なんとも惜しい気がする。
NOVA10
2013年07月 河出書房新社 河出文庫
<内容>
「妄想少女」 菅浩江
「メルボルンの想い出」 柴崎友香
「味噌樽の中のカブト虫」 北野勇作
「ライフ・オブザリビングデッド」 片瀬二郎
「地獄八景」 山野浩一
「大正航時機綺譚」 山本弘
「かみ☆ふぁみ!」 伴名練
「百合君と百合ちゃん」 森奈津子
「トーキョーを食べて育った」 倉田タカシ
「ぼくとわらう」 木本雅彦
「(Atlas)3」 円城塔
「ミシェル」 瀬名秀明
<感想>
「NOVA」第1期終了の10冊目。もうこのシリーズも読めなくなるのかと思っていたのだが、ひょっとすると今年中に第2期お目見えとなるかもしれなさそう。第2期が出たらどうしようかな? もうここらで区切りをつけてもよいころか。でも、出たら買ってしまうんだろうな。
昨年7月に出たのであるが、その分厚さから読むのをためらい、半年が経過してしまった。分厚いっていっても、一人、瀬名氏の作品が長すぎるだけで、他の作品は普通。しかもその瀬名氏の作品が、小松左京氏の「虚無回廊」のスピンオフ作品とのこと。だったら、別にこの誌面上でやらなくてもいいのではと、それを読んでいるときにも感じずにはいられなかった。
今作で面白かったのは「大正航時機綺譚」。まるで「時の地図」のようなタイムマシン詐欺を描いた作品。こちらはファンタジー色とか、そういったものではなく、真っ向からの”詐欺”。犯罪小説っぽくなるとある意味SFではないのだが、それでもSFっぽく楽しめる。
個人的にはよく知らないのだが、長らく作品を書いていなかった山野浩一氏が「地獄八景」という新作を書いたのは貴重なことだそうだ。SFなのか、脳内ファンタジーなのか、輪廻ファンタジーとでもいうべきなのかはわからないが、なんかそんな内容。
「妄想少女」 少女の心を持つ中年女性が奮闘。
「メルボルンの想い出」 ほぼ旅情小説。
「味噌樽の中のカブト虫」 比喩ではなく、本当に脳みその中にカブト虫?
「ライフ・オブザリビングデッド」 ゾンビがゾンビらしく日常社会を練り歩く。
「かみ☆ふぁみ!」 今どきのボーイ・ミーツ・ガールSF風。
「百合君と百合ちゃん」 実はプラトニックな恋愛?
「トーキョーを食べて育った」 車と一体化した人々の冒険。
「ぼくとわらう」 ダウン症の青年の物語ではなく、あくまでも一個人の物語?
「(Atlas)3」 いろんなところにあるカメラに映されている話。
面白かったのは「大正航時機綺譚」「妄想少女」「かみ☆ふぁみ!」あたりか。結局のところ、わかりやすい話が個人的には好みのよう。
NOVA+ バベル
2014年10月 河出書房新社 河出文庫
<内容>
「戦闘員」 宮部みゆき
「機龍警察 化生」 月村了衛
「ノー・パラドクス」 藤井太洋
「スペース珊瑚礁」 宮内悠介
「第五の地平」 野崎まど
「奏で手のヌフレツン」 西島伝法
「バベル」 長谷敏司
「Φ」 円城塔
<感想>
1年ぶりに「NOVA」が復活・・・・・・って、1年くらいだったら、復活というほどではなく、十分続きでいいじゃないかと。特に多数の積読を抱える身の上としては、1年間が空くくらいは普通であり、“復活”というイメージはまったくわかない。
今作のラインナップを見てみると、豪華というか、まさに今のSF界を象徴するような作家ばかりが集まっているなと。これだけの人たちを集めて、アンソロジーが組めれば大したものだとしか言いようがないであろう。ただ、個人的には、あまり好きな内容のものはなかった。なんとなく、全体的にシリーズ化しているような作品が多い気も・・・・・・
宮部みゆき氏の「戦闘員」は老練な警察モノという感じ。実際には、主人公は警察官とは全く関係ないのだが、余生を送る老人が新たな使命を見出すという内容。月村氏の機龍警察モノは、こういったところでやらずに、普通にシリーズ作品集として出せばようさそうなもの。宮内氏の“スペース金融道”シリーズも、定番化しているので、もはやこういうアンソロジーではやらなくてもよさそう。
藤井氏の「ノー・パラドクス」と長谷氏の「バベル」の2作は読みごたえのある作品。「ノー・パラドクス」は、最近読んだ山野浩一氏のタイムトラベル作品に通じるところがあった。タイム・パラドクス云々よりも、タイムトラベルが始まる時などの特異点を核とする内容。「バベル」は、民族問題を抱える種族の青年が仕事上において抱えるストレスというものに焦点をあてている。一言では言い表せない、さまざまな問題を内包しつつ、さらにそれらについて言及するという内容。非常に中身が濃い。
「第五の地平」は、チンギス・ハーンの世界と宇宙をつなぐというトンデモSF。「奏で手のヌフレツン」は、太陽を生物化して表現するという独特の土着ファンタジー。「Φ」は、文章のみで数学の問題について言及するような論文的な内容。
なんとなく、「NOVA」を読み続けている身の上としては、ややマンネリ化してきたというイメージが強い。特に主要な書き手が同じような人が続いているということもあるからであろう。SF界の“今”を表すうえでは最良の執筆陣ではあるものの、どうにも閉塞感を感じてしまうのは、私だけであろうか。
NOVA+ 屍者たちの帝国
2015年10月 河出書房新社 河出文庫
<内容>
「従卒トム」 藤井太洋
「小ねずみと童貞と復活した女」 高野史緒
「神の御名は黙して唱えよ」 仁木稔
「屍者狩り大佐」 北原尚彦
「エリス、聞こえるか?」 津原泰水
「石に漱ぎて滅びなば」 山田正紀
「ジャングルの物語、その他の物語」 坂永雄一
「海神の裔」 宮部みゆき
「『屍者の帝国』を完成させて」 円城塔
<感想>
今まで“NOVA”といえば、普通のSF書下ろしアンソロジーであったのだが、今回は「屍者の帝国」をモチーフとした統一テーマのアンソロジーとなっている。個人的には、先週「屍者の帝国」を読んだばかりだったので、ちょうど良かった。
「屍者の帝国」の特徴というと、物語の主人公たちや、史実の人物が出てきたりと、さまざまな人々が登場する。しかし、そうした者を登場させる意味があるのかと、読んでいる時は疑問に思ったものの、本書を読んでみると、だからこそこうしたアンソロジーが書きやすいという利点が生まれるのかもしれない。なかなか、各有名作家に統一アンソロジーを書いてといっても難しいところであると思われるのだが、さまざまな登場人物が出ているゆえに、色々な切り口、もしくはそれぞれの作家の得意な切り口から書けるので、こうした一つの作品集として集めることが可能であったのではなかろうか。
「従卒 トム」 元奴隷の黒人トムとサムライの刀の話
「小ねずみ〜」 ドストエフスキー著の登場人物、宇宙へ。そしてアルジャーノン
「神の御名〜」 屍者とイスラム教
「屍者狩り〜」 ジョン・ワトソンの冒険、極めてホームズ的な
「エリス、〜」 森林太郎(鴎外)と舞姫をモチーフ
「石に漱ぎ〜」 夏目漱石と海軍カレー
「ジャングル」 ジャングルブックから熊のプーさんへ
「海神の裔 」 屍者と日本の村民
正直なところ、特にどれ、とか、特に印象に残ったものがないというのが一番の感想。北原氏や宮部氏の話は面白いものの、個人的な作風が出過ぎていたように思える。その他は、物語というよりは、概念的なものが多いような感じがして、あまり楽しめなかった。もしかしたら、それぞれの元ネタを知らないゆえに、自分が楽しめなかっただけなのかもしれない。当然のことながら本書の読むには「屍者の帝国」を読んでおいた方がいいものの、実はそれ以外の文学小説等を多数読んでいなければならないという、敷居が高い作品集であると言えるのかもしれない。