SF ま行−も 作家 作品別 内容・感想

からくりアンモラル

2004年04月 早川書房 ハヤカワSFシリーズ Jコレクション
<内容>
 「からくりアンモラル」 (小説すばる:2002年10月号)
 「あたしを愛したあたしたち」 (小説NON:2001年4月号)
 「愛玩少年」 (小説NON:2001年12月号)
 「いなくなった猫の話」 (SFオンライン:1999年10月25日号)
 「一卵性」 (ホラーウェイブ:1999年3月号)
 「レプリカントの色ざんげ」 (SFマガジン:2002年2月号)
 「ナルキッソスの娘」 (小説すばる:2003年2月号)
 「罪と罰、そして」 (問題小説:2002年6月号)

<感想>
 最近読んだSFの本の解説に、以前SFでは“性”についてはタブー視されていたというようなことが書かれていた。その後、時代は移り変わり、そのタブーを打ち破る本というのは多々出ているであろう。

 そういった中にあっても異色ではないかと感じれるのがこの本「からくりアンモラル」である。本書を読んで強く感じたのは、SFの中で“性”というものを描くというよりも、“性”を描くのにSFというものを利用したというような印象が強い。とにもかくにもSFであることを抜きにしても、ここまであからさまに“性”が描かれた小説というものも珍しいのではないのだろうか。

 とはいえ、作品の中には少々異なる趣のものも含まれている。「いなくなった猫の話」と「ナルキッソスの娘」の2編は、この短編集の中にあっては異色(異色といっても、逆に言えばそれらの内容が普通のものであるということになるのだが)。この2編に関しては普通に感動させられるような物語となっており、アンモラルな気分からハッと現実に引き戻される事となる。

 結論を言えば、この短編集は人と人との結びつきが描かれていると言っても良いのだろうと思う。“性”についてと前半ではうるさく描いたが、必ずしもそれが主というわけでなく、作品全体からすると“人と人”というつながりに主体性があるように感じられた。ただし、必ずしもそこは“人と人”というわけではなく、“自分と自分”であったり、“人とアンドロイド”であったりと、そこにSF的な要素が取り入れられている。要するにSF的な設定をもとに、“人とのつながりというもの”を描いた作品というようにまとめるのが一番しっくりとくるような気がする。


四畳半神話体系

2005年01月 太田出版 単行本
2008年03月 角川書店 角川文庫
<内容>
 私はパッとしたところのない冴えない大学3年生。これというのも悪友の小津にあったことが全ての原因とも言える。その出会いにより、どうしようもないキャンパスライフを送る事になったのだが、あのときの選択を間違えてなければ、こんなことにはならなかったのではないだろうか?
 入学当時、私は映画サークル「みそぎ」、「弟子求ム」、ソフトボールサークル「ほんわか」、秘密機関<福猫飯店>の四つの貼り紙が気になり、そのうちのひとつを選ぶこととなるのだが・・・・・・

<感想>
 本書をSFのくくりにいれてしまうのも、どうかと思えるのだが、全くSFではないともいえないので、あえてこの感想のページにおいておくこととする。この作品はパラレルワールドを体現させた文学小説というような作品である。

 一応、長編というくくりに入るのかもしれないが、4つの中編から成り立っている作品というのが妥当であろう。この作品のなかで主人公は大学入学当時に選ぶ四つのサークルのうちどれを選んだかによって、異なる展開となる4つの物語が語られるという構成になっている。

 とはいえ、本書の面白いところは、人生における重要な分岐点とみられたものが、その実、それほど大きな役割を果たしているというほどのものではなく、基本的に主人公は同じような学生生活を送ることとなるのである。

 よくパラレルワールドとして語られたり、もしくはあの時に違った選択をしていればと思ったりするような事象をあざ笑うかのように、人生の大筋なんて大体決まっているのだよと言わんばかりの内容の小説となっている。

 私は森見氏の作品を読むのはこれで2作目なのだが、この人の作品は内容云々というだけでなく、独特なユーモアのある語り口も楽しむことができる。普段はあまり文学系の作品は読まないのだが、このように楽しく読める作品も多々存在するのであれば、もう少し読書の間口をひろげてもいいかなと考えてしまう。

 意外と、昔に書かれた夏目漱石の「坊ちゃん」のような作品も発表された当時からすれば、この森見氏の作品のような受け入れ方をされていたのかもしれないなどと、つい、考えてしまう。




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