SF は行−ほ 作家 作品別 内容・感想

リライト

2012年04月 早川書房 ハヤカワSFシリーズJコレクション
<内容>
 2002年の夏、私はとある瞬間を待っていた。10年前の私が現れ、私の携帯電話を過去へ持っていくという出来事が起こるはずなのである。始まりは10年前の夏、園田保彦という転校生が来たことであった。彼は自分を未来から来たものだと名乗り、その時代にはありえない不思議な道具の数々を見せてくれた。そして、園田と過ごした一夏の思い出。その思い出を完全なものとするために、私は10年前タイムスリップをし、未来の私の家から携帯電話を持ち帰るということを行ったのである。そして10年後の今、未来から来るはずの私を待っていたのだが、時間になっても未来の私が現れることはなかった。まさか、過去が変わってしまったというのか・・・・・・

<感想>
 始まりは、ありがちなタイムスリップが行われる青春SF作品なのかと思っていたのだが、話が進むにつれて、徐々に予想外の方向へと向かうこととなる。過去と現在との矛盾。さらには、10年前の同級生が連続で死亡しているという新たな事実。そして事の真相と未来の行方と、予想だにしない展開で物語は突き進んでいく。

 いや、これはなかなか面白かった。決して厳密なミステリというわけではないのだが、SFミステリ作品といってもよいような展開。ひと昔前であれば、ハヤカワSFではなくて、メフィスト賞あたりでデビューしていたのではないかと思えるような作風。

 ミステリ風に見ればトリックとも言えるかもしれないのだが、SFであるがゆえに見事な“アイディア”で構成された作品と言ったほうがよいのだろう。読者の予想を裏切る展開と、大がかりな仕掛けが見ものである。SFとはいえ、決して読みにくい内容ではないので、SF初心者にも、ミステリ愛好家にも広くお薦めしておきたい作品である。


バビロニア・ウェーブ

1988年11月 徳間書店 単行本
2007年02月 東京創元社 創元SF文庫
<内容>
 銀河系を垂直に貫く、直系1200万キロ、全長5380光年に及ぶレーザー光束“バビロニア・ウェーブ”。この光束の発見により、世界のエネルギー問題は一挙に解決されることとなった。しかし、この光束はいったい何のために存在するのか? 光束の側に建設された送電基地へと積荷を運ぶ連絡船操縦士のマキタはバビロニア・ウェーブの発見者ランドール教授とともに、これらの謎に関わる事件に巻き込まれてゆくことに・・・・・・

<感想>
 物語の始まりは“バビロニア・ウェーブ”という大量のエネルギー源を生かして、未知の生物と接触をはかるということがテーマのように感じられた。しかし、物語の中盤からは“バビロニア・ウェーブ”というものが何か? というテーマになってしまい、物語が初期段階へと戻ってしまうような感覚にいたる。

 このような展開よりは、最初に“バビロニア・ウェーブ”ありきで話を進めていくか、最初から“バビロニア・ウェーブ”とは何か? ということで話を始めていったほうがよかったのではないかと感じられた。

 ハードSFとしての設定はたいしたものだと思うのだが、そこにまつわる物語に関してはうまくできていたとは感じられなかった。結局メインの“バビロニア・ウェーブ”というもの自体もうまく生かしきれなかったように思える。

 また、主人公自身もただの連絡船の操縦士ということで、この物語の核心というよりはただの傍観者でしかなかったように感じられ、そういった面でも未消化という感覚はぬぐえなかった。


遺跡の声

1996年12月 アスペクト アスペクトノベルス
2007年09月 東京創元社 創元SF文庫(ノベルス版に「渦の底で」を追加)
<内容>
 ひとりの遺跡調査員とその助手で結晶生命体トリニティとが遭遇する冒険の数々。
 「太陽風交点」
 「塩の指」
 「救助隊Ⅱ」
 「沈黙の波動」
 「蜜の底」
 「流砂都市」
 「ペルセウスの指」
 「渦の底で」
 「遺跡の声」

<感想>
 遺跡調査員というよりは、緊急救助隊員という気がしてならない。地道な遺跡調査よりも、救援信号を受けてとか、通信が途絶えたとか、そういった地域に派遣されることが多いよう。しかし、そういった派遣先で思いもよらない出来事に遭遇することとなる。

 いろいろなパターンで、異星の生命体を描いたり、滅亡後の文明を描いたりとアイディアにあふれた作品である。ただ、そのどれもが地味すぎていて、印象に残りづらいという側面もある。

 本書で一番印象的なのは結晶生命体トリニティとのやりとり。主人公とトリニティは調査員とその助手という位置づけなのだが、やりとりを聞いていると、主人公の一方的な思いながらも父と子という関係を思い浮かべてしまう。通常であれば、相棒という関係とか恋人であるとか、そういった関係ではなしに、あえて“父と子”のような関係として描かれているところが興味深い。その関係性については、二人の最後の冒険でありながらも、一番最初に書かれた作品である「遺跡の声」のラストへの想いによるものなのであろう。




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