SF は行−ひ 作家 作品別 内容・感想

ノルンの永い夢

2002年11月 早川書房 ハヤカワSFシリーズJコレクション
<内容>
 SF新人賞を受賞し、晴れて作家としてデビューすることになった兜坂亮は、ハイネマン書房の編集者・時田から数学者の本間鐡太郎をモデルにした小説の執筆を依頼される。その依頼を引き受けた後から兜坂は徐々に己の知らない大きな陰謀の中に巻き込まれていくことに・・・・・・
 その依頼された数学者の本間鐡太郎とは第二次世界大戦中、留学生としてドイツに渡り、工学者としても力を発揮していた。そしてあるとき彼のその実力は、学術都市の司令官であったヘルマン・ゲーリングの目に留まることになる。本間はゲーリングに自分は時空を超えることができると話すのだが・・・・・・

<感想>
 平凡に始まる出だしから、「これはSFらしくない作品なのかな?」などと思ったがとんでもない。タイムスリップからドイツ帝国までを巻き込むとんでもない国家陰謀SF小説であった。

 主人公が徐々に陰謀に巻き込まれていくパートと、50年前の戦時中のドイツのパートとに分かれて物語りは始まる。この部分での戦時中のパートがなかなか面白いと。本間鐡太郎が新発明をしていくパートには興味をそそられた。この部分だけ抜き出して一冊の本としてみても面白かったかもしれない。

 そしてその後、二つのパートは徐々に一つへと近づいていくのだが、後半の物語の収束の仕方はどうであっただろうと感じてしまう。序盤におけるタイムスリップについては、ある程度法則性みたいなものがあり、物語のつじつまも合わせられていたと思う。しかし、後半のタイムスリップに関しては、もはや法則やつじつまが崩壊してしまったとしかいいようがない。著者としてはこのタイムスリップによるカタストロフィをドイツの崩壊を通して描きたかったのかもしれないが、できれば整合性を保ったまま結末へと進んでもらいたかった。タイムスリップというものを題材にしたのだから“崩壊”よりは“影響”を書いてもらいたかったのであるが、ひょっとしたら、この“崩壊”というパートでさえもタイムパラドクスの一部でしかないのかもしれない。

 なかなか変わった味わいを残す内容であり、非常に興味深い一冊であった。なんだかんだというものの一気読みさせられてしまった。


壺 空  聖天神社怪異縁起

2004年06月 光文社 カッパ・ノベルス
<内容>
 日高町苫丑の遺跡で奇妙な形の壺が発見される。世紀の発見に調査員たちは心躍らせるのだが、この遺跡には不穏な気配がつきまとっており・・・・・・
 遺跡で発見された壺に魅入られる地主、その地主に復讐を誓う老婆。遺跡に不穏なものを感じ取り、発掘のアルバイトとして働き始めた神主の息子・聖天弓弦(しょうでんゆづる)。彼らの思惑が入り混じり、遺跡の壺の全てがそろったとき、壺の中の暗黒が世界を飲み込もうとし・・・・・・

<感想>
 平谷氏の本はハヤカワからのSF作品「ノルンの永い夢」を初めて読み、今回カッパ・ノベルズから新刊が出ていたのを機に本書を手に取ったしだいである。単発の作品かと思っていたのだが、前に「呪海」という作品が出ていて、本書はその続編となる作品であった事に読んでいるうちに気づく。とはいえ、物語自体はこの作品のみのものなので、本書だけ読んでも十分に楽しめる内容となっている。キャラクター造形を深めたいのであれば、前の作品から読むべきといったところ。

 本書は普通の“伝奇”作品である。呪術系とでもいえばよいだろうか。主人公は神主の息子ということで、簡単に言ってしまえば悪霊祓いといったところであろう。それをもっと大掛かりな敵と大掛かりな呪術で対戦し、敵を葬っていくというもの。この手の作品でよくあるように、変に美形キャラを強調したりしないところには好感がもてる。また、今作は町レベルの遺跡発掘がテーマとして語られていて、それについても丁寧に描かれていてそれなりに興味深い作品として出来上がっていると感じられた。

 全体的に地味な印象もあるのだが、丁寧に書き込まれた読みやすい伝奇小説として好感が持てる作品ではないだろうか。また、本書では主人公の行く末というものがこれからどうなるかということも興味深く描かれており、また脇役の空木という男の造形も面白く、キャラクター小説としてもなかなかなのではないかと思う。この作品が世間一般でどう評価されているのかはわからないのだが、もう少し注目されてもいい作品ではないかなとも思える。




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