年末に本当に間に合うのかと心配していたのだが、きちんと出してきたところはさすが。“SIDE-A”にて世界進出と銘打っていたわりには台湾だけかなどと思っていたのだが、今度は韓国でも出版されるというのだから、もはや世界進出という言葉も大げさでなくなりつつある。ただ今後、この国際論調みたいなものでページをとられてしまうような事があるのは嫌だなと考えている。とはいえ、これにより台湾や韓国の作家の作品が紹介されるようになるのであれば、おもしろいことであろう。まぁ、いっそうの事、韓国あたりで“ファウスト 韓国版”を一冊丸々創ってもらって、それを訳してもらうというのが一番よいと思えるのだが。
<特集企画>
「熟した柿が落ちるとき」 Editor×Agent
「『ファウスト』世界進出記念 特別寄稿 from 韓国」宣政佑
この「熟した柿が落ちるとき」の村上達郎氏の紹介と著作権エージェントというものの仕組みについてはとても興味深く読むことができた。私自身、ハードボイルドエッグの受賞作「本格推理委員会」を読んでいるのだが、このハードボイルドエッグというものがこのようなシステムになっていたという事は全くしらなかった。また、村上氏が滝本氏の生みの親であるというエピソードについても初めて知ったので、そのてん末について楽しく読ませてもらった。
ここで書かれている村上氏と各作家たちのエピソード(三浦しをん氏と滝本氏の寄稿文も含めて)を読んでいると、こういった編集者に関わって仕事ができるという事をうらやましく思えてしまうほど、すばらしいと感じられた。とはいえ、だからこそ大変だ(書くほうも、編集者も)と思うこともあるだろうが。
「from 韓国」のほうは、韓国の出版事情や現状が簡潔に書かれていて、読んでみてとても新鮮であった。こういった情報についてしらない私のような人間にとっては事情を知るための格好の入門となるものである。
「DDD Hands」 奈須きのこ
これは“SIDE-A”の前半分でものの見事にだまされてしまい、あわてて“SIDE-A”の感想に追記を書かせてもらった作品。前半を読んだときは、あれやこれやと色々と考えて、その結論として別に何も仕掛けられていないと判断を下してしまい、その結果見事に撃沈してしまった。まさか、もうひとつさらに裏をかかれていたとは・・・・・・
そんなわけで、ものすごく私自身にとって印象に残った作品であった。ただ「DDD Hands」のこれから続くのであろう一連の物語としては前述譚という位置付けになるのであろう。今後、今回関わったキャラクターが再び登場することがあるのかもしれない。
「怪談と踊ろう、そしてあなたは階段で踊る」 竜騎士07
普通に読めて、普通に楽しめた一作。前半を読んだときはホラー的な帰結をするのか、それともミステリーとして締めることができるのかと気になっていたのだが、うまくミステリーとして終わることができたようである。その分、これといったカタストロフィもなく、普通の作品となってしまったような印象があるものの、それでも綺麗にまとまっていたのではないかなと思われる。完全なライトノベルス系の作品。
「コンバージョン・ブルー」 錦メガネ
あぁ、これ続いていたのか。“SIDE-A”に掲載されただけの物語と思っていたら続編のような形で今回も掲載されていた。前作と直接的な物語の続編というわけではないのだが、登場人物の視点を変えて別の話が語られることとなる。また前作の設定を覆すかのような真相も付けられている。“SIDE-A”の作品と“SIDE-B”の作品を比べれば今回のほうが良かったかなと思える。ただ、“SIDE-A”の作品を読んでいなければわかりにくいと思えるので注意。
「リゲル」 浦賀和宏
魅力のない設定、魅力に欠ける登場人物、印象に残らない展開等々・・・・・・何ゆえ、このような内容の小説を掲載しなければならないのかとしか言いようがない。しかも、ページ数が一番長いし。
結論、浦賀氏はライトノベルスを書くには向かない作家であろうという事。
「糸の森の姫君」 北山猛邦
今回の作品の中で一番楽しみにしていたのがこの北山氏の作品。・・・・・・ではあったのが、内容はミステリからは少々脱線してしまっていると感じられた。今作は二人の少女をめるぐ友情の物語といったところ。とはいえ、物語として良くできていた作品だと思えた。
「めくるめく」 舞城王太郎
なんと舞城氏の新作は、高校生の男子が“魔法少女”のバイトをするという内容のもの。これはどんな風に書かれているのかと気になったのだが、読んでみたら普通の舞城氏の小説であった。結局また家族の物語になっているし。もう、どのような設定であろうが、なにがどうであろうが、舞城氏の作品は舞城氏の作品以外の何物でもないという事であろう。困ったことにそれが私の好みの小説からはかけ離れてしまっているのである。
「新本格魔法少女りすか 夢では会わない!!」 西尾維新
読んですぐに、どういう内容のオチなのかという事はすぐにわかった・・・・・・というよりも、わかるように書かれているというか。まぁ、サブタイトルに“夢”と書いてあるので解説はいらないであろう。今回はキズタカと、その義理の母親の物語と言ったところか。ラスト近くになって、ページが少なくなり、今回は決着が付かず持ち越しになるのかと思いきや、あっという間に決着が付いてしまった。・・・・・・って、それはちょっと反則じゃないかという展開。
「零崎軋識の人間ノック2 竹取山決戦(後半戦)」 西尾維新
前作では相対した3組の戦闘に結末がつけられた作品。なるほど、そうきたか・・・・・・と、いっても“戯言シリーズ”以前の物語ゆえ、ある程度先は見えなくもないので意外性は感じないものの、これらが“戯言シリーズ”の中で語られる“零崎一族”についての補完となっているのだろう。“戯言シリーズ”の裏の歴史が描かれている作品として見逃せないシリーズ・・・・・・って、結局“戯言シリーズ”って終わってないってこと??
「佐藤友哉の人生・相談」
“SIDE-A”から“SIDE-B”へと続くことによって、何らかの動きがあるのかと思いきや、ほとんどない。ただ、今回でこれまでの佐藤氏が人生を相談するという形式は止めにして、これからは読者からの相談を受けるという形にするらしい。
ようするにVol.6までが佐藤氏が覚醒するまでの壮大なプロローグであったという事なのであろう。
以下、その他いろいろ
渡辺浩弐氏の「Hな人人」は“SIDE-B”にも連載されている。しかもきちんと3作品。“SIDE-A”との掲載数を考えるとページ数のバランスをとるために使われているような気がしないでもないが、実はこの作品こそが「ファウスト」の目玉のひとつとなっていると言っても過言ではないだろう。
また、「ファウスト賞」に関する座談会も掲載されていたが、いまのところはまだ該当者なし!、という結果のようだ。早いうちになんらかの形で見てみたいものである。そうしなければ、今度は80年代どころか90年代の作家が台頭してきたりして・・・・・・
“Vol.6”になり「ファウスト」は皮肉にも作家を抱えすぎたという問題が生じ始めたように思える。“Vol.1”“Vol.2”のころは舞城氏、佐藤氏、西尾氏くらいしか固定メンバーがいなかった事を考えれば、これは大きな前進といえるであろう。しかし、それが作家を抱えすぎたことにより、今回のように2冊に分冊しなければならないという事が起こったわけである(しかも、その分冊した量でさえもが膨大なページ数となっている)。
今後、これらにどのように整理を付けていくかということは大きな問題となるのではないだろうか。特に、西尾氏や奈須氏のように連載ものの形態をとっているのであれば、毎号掲載しなければならないであろう(特に年に2冊の刊行となのであれば)。
それならば、いっそのこと今のノベルスの形態を止めてしまったほうが大量の原稿を掲載するには有利と思われるのであるが、どうだろう。このへんもまた色々と動きがあるのではないかと思っている。
また、海外進出というのは魅力のある動きともいえるのだが、それが母体である「ファウスト」自体の停滞につながらなければという事だけは心配している。というか、既に年2冊の刊行になってしまったという事こそが“停滞”と言えなくはないと思うのだが。