ファウスト   Vol.6 SIDE-A



2005年11月 “ファウスト Vol.6 SIDE-A”発売

 年3回の「ファウスト」発行予定であったはずが、Vol.5 が5月に出たきりでどうなることやらと思っていたのだが、Vol.6 のほうはなんとか年内の出版にこぎつけたようである。ただこの Vol.6 がくせもので2冊分冊、SIDE-A とSIDE-B に分かれての出版になるとのこと。この辺はどうとらえるかは微妙なところである。はっきりいって単行本ではなく、あくまでも雑誌であるのだから Vol.6 と Vol.7 として期間をあけて発行すればよいだけの事だと思うのだが。まぁ、こういうところにおいても、いちいち微妙な事をやってくれるところは「ファウスト」らしいとも言えるのだが。

 今回の大きな目玉となるのは「『ファウスト』世界進出記念インタビュー・セッション」にあると思う。ただこれはあくまでも「ファウスト」という雑誌に対してのことで、これから先、読者にどれだけ関わり合いが出てくるのかは不明である。
 また、今回は作品自体に大きな目玉はないとはいえ、執筆陣はずいぶんと豪華になったという気がする。「ファウスト」誌上の執筆陣も増えたことにより、文芸誌としては安定してきたのではないだろうか。




感 想

<特集企画>
「『ファウスト』世界進出記念インタビュー・セッション」
「Editor × Editor」
「ファウスト」が世界進出するとの事。世界進出といってもとりあえず台湾のみと言う事だが(その後韓国進出も決定したようだ)とりあえず「ファウスト」という雑誌そのものが飛躍を遂げたと言ってよいのであろう。
 とはいえ、「ファウスト」という雑誌が世界で訳されたからといって日本の読者には直接関係はないだろう。これから読者に直接影響してくることといえば、この先台湾版「ファウスト」のような雑誌が日本に輸入されてきたときに大きな関わり合いが出てくるのではないだろうか。今は、台湾やアジアの若い作家たちがどのような内容の本を書いているかという事はとても興味深い。特に私的にはアジアの本格推理小説というものを味わってみたいと考えている。

 また、今回のインタビューで感じたのは、第三者が入るとインタビューが安定していて読みやすいということ。従来「Editor × Editor」などで交わされるインタビューは「ファウスト」誌上の著者同士の会話であったりするので、なんかやたらと互いを持ち上げているように思え、読んでいてあまり気持ちの良いものではない。それが今回のように、台湾の編集者が入ることにより、いつもより落ち着いた雰囲気でのインタビューがなされていると感じられるのである。
 これからは海外進出という事もあるようなので「ファウスト」外部の人に対するインタビューとか、またはその逆で「ファウスト」外部の人からの質問という事が増えてくるであろう。そうしたインタビューであれば今までよりも、違う視点で色々なことを知ることができると思え、よりいっそう充実してくるのではないかと楽しみにしている。

 ただ、こういう動向の中でひとつ懸念しているのは、色々な分野に手を出すのはよいのだが肝心の「ファウスト」自体がおざなりにならないかという事である。何せ、年3回発行予定だったものが、2006年からはもう年2回の発行というように変わっている。これだけ多くの執筆陣を抱えているにも関わらず、出版数が減るというのはもったいない事ではないだろうか。




「DDD Hands」 奈須きのこ
 奈須氏は「ファウスト」二度目の登場となるのだが、前作についてはもう忘れてしまっている(なにせ、「空の境界」を読んだもので話がごっちゃになってしまっている)。まぁ、今回の話も“SIDE-B”へ続くとなっているので、ここへ結論を出す必要もないのだが、読んでいてひとつ気になる点があった。それは、今回の話では前半部と後半部に分かれて、視点を変えて語られているのだが、そのメリハリが全くないために視点が変わっているということが非常にわかりにくいのである。最初は、同じ人物で名前をかたっているのかと思ったほど。これはきっちりと書き分けてもらいたいところである。

(↑↑↑↑↑追 記↑↑↑↑↑)
 この感想をUPした後に“SIDE-B”を読み始めたのだが、なんと上記の感想が的外れであった事に気づかされる。どうやらまんまと著者にはめられてしまった。
 最初、確かに読んでいておかしいなと思っていたのだが、“カリョウ”との出会いや、最後に出てきた名前からてっきり後半の主観は石杖のものと思い込まされてしまった。しかし、実際は裏の裏を書かれてしまい・・・・・・詳細は“SIDE-B”のほうにて書き改めたい。



「怪談と踊ろう、そしてあなたは階段で踊る」 竜騎士07
 この作品が今回の中で一番面白かったかもしれない。民俗学的な分野をわかりやすい物語にして描いている。また、これも“SIDE-B”へと続くので判断できない部分もあるのだが、ひょっとしたらミステリー的な内容になっているのかもしれない。
 これは後半を読むのが楽しみである・・・・・・のだが、このくらいの分量であれば話を分けないでもらいたい。


「コンバージョン・ブルー」 錦メガネ
 鼻に付く中学生の話。クールな主人公を描きたかったのかもしれないが、ここまでくると鼻に付くうえに気持ち悪い。ただ、この著者の年齢が若いのであれば(たぶん若いのであろう)これくらいは許容範囲内であろう。


「すずめばちがサヨナラというとき」 上遠野浩平
 前回の作品がツボにはまり、思わず「ブギーポップ」を買って読んでしまった。今作は単発の作品と言うわけではなく、主人公を変えた前作の続きという位置付けである。前作のインパクトが強かったせいか、今回はごく普通という印象。まだまだ世界設定が広がっていくようで、これは単行本化されたときに続けて読んだ方が面白いだろうと思える。


「窓に吹く風」 乙一
 乙一氏の作品にしては今回はちょっと外したかなと感じられた。なんとなく昔、角川スニーカー文庫にて書かれていたもののような作風の小説。ある種の恋愛小説であるのだが、そこは乙一氏らしい工夫が組み込まれたものとなっている。ただ、その工夫がいまいちはまらなかったという印象がある。
 とはいえ、乙一氏と作画の小畑氏とのセッションという事ではよい効果が出されていると思える作品。


「憂い男」「愛らしき目もと口は緑」「レディ」 佐藤友哉
 この感想を書く前に“vol.5”の佐藤氏の作品ではどのような感想を書いていたのかと見てみたら、今回思ったのと全く同じことが書かれていた。よって、割愛。
 ただ一つ付け加えておくと、会話を中心にした小説にしてしまうとさらに安っぽさが強調されるように思える。


「新本格魔法少女りすか 部外者以外立入禁止!!」 西尾維新
 最近、だんだんと“ツナギ”の立場というか地位が低くなってきているように思えてきているのだが・・・・・・。
 話の展開はいつもと変わりないが、今回は創士とりすかの関係に新たな展開が見えてくるものとなっている。最近この作品を読んでいて思うのは、これは小学生男女の精神的なSM小説なのかと・・・・・・。


「零崎軋識の人間ノック2 竹取山決戦(前半戦)」 西尾維新
 戯言シリーズ完結編の「ネコソギラジカル」に直結する話かと思っていたのだが、時代設定はそれよりも前の事件を描いたものらしい。ただ、登場人物ではお馴染みの面々が多々出てきている。後半戦はさらにアクション色が強くなりそうである。


「佐藤友哉の人生・相談」
 佐藤氏が自分の苦悩を切々と書き綴っている。
 あげくの果てに“SIDE-B”に続く。


以下、その他いろいろ
 評論に関しては東浩紀氏の「ゲーム的リアリズムの誕生」のほうは、もはや着いて行くことができなくなったので挫折。
 福嶋亮大の「小説の環境」もやたら例えが多く、内容がいまいち頭に入ってこない。ただ、「コミュニケーションは決して失敗しない」と書かれているあたりの文章に対してはなるほどと思えた。それくらい。
 他に森川嘉一郎氏が書いた「おたくの男女関係」というものがあったのだが、このように3ページくらいにまとめて、わかりやすく説明してくれるとこちらもとっつき易い。

 その他の作品では「Hな人人」が6作も書き上げられている。今回一番健闘した作家であろう。

「ヤバ井でSHOW」はもはや単なる内輪ネタ。

 漫画に関してはここに掲載されている「夢水清志郎事件ノート」を読んで、講談社青い鳥文庫のはやみねかおる氏の作品を5冊くらい一気に買って読んでしまった事を報告しておきたい。




最 後 に

 前述した事ではあるが、今回のVol.6 になって執筆陣が豪華になりつつあるという事は誰もが認めることであろう。当初は舞城氏、西尾氏、佐藤氏くらいがレギュラー陣という印象だったのが、今ではそれに加えて奈須氏、上遠野氏、乙一氏、また今回初参加の竜騎士氏、そしてSIDE-Bにて執筆している浦賀氏、北山氏と本当によくこれだけの数がそろったものである。この調子ならば、どんどん新進の作家が参加してくることは間違いなく、若手作家達による他には類を見ない文芸誌という位置付けになる事は間違いないであろう。そういう意味では十分期待がもてる文芸誌である。

 ただ、今回のVol.6 はSIDE-AとSIDE-Bに分けられているのであるが、これは個人的には良かったとは思えない。こういった文芸誌でわざわざAとBに分けて小説を書いてどうするんだろうという気持ちが強い。できれば、こういう雑誌では読みきり作品は一気に読み通してしまいたい。それがたいした意味もなく前半と後半に分けられてしまうというのは読みづらいだけである。
 というような不満を除けば今回の内容は充実していて良かったのではないかと思える。また、この先については予想がつかないが、海外進出することによって「ファウスト」本誌がどのような変化を遂げてゆくのかという事は興味深いところである。




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