4月発売予定だったはずが、一ヶ月ずれこみ5月の発売となった。その延びた理由というのが、当初の予定よりも100ページほど本が分厚くなったからとのこと。読者としては喜んでよいのだか悪いのだが複雑な気分である。ただ、このペースでは年3回の発行はもう難しくなったであろう。このページが厚くなったことも含めて、全体的な感想はまた最後に書こうと思っている。
ということで、今回の「ファウスト」の目玉はというと、
・“上遠野浩平”特集
・ノベルゲームの最前線
という二つの特集を軸にして構成されている。この特集の特色上、今回はインタビューに紙面の多くをとられている。よって、その暑さの割には文芸誌としての色が薄くなってしまったように感じられた。
と、そういった構成上のことも合わせて感想を述べて行きたい。
上遠野浩平をめぐる冒険
「アウトランドスの戀」
「ポルシェ式ヤークト・ティーガー」
・評論、編集等
上遠野氏の本というと「殺竜事件」を読んだくらい。というわけで、特に何の印象も持たずに短編を読んでみたのだが、これが意外にも(←失礼か)面白かった。なんで短編が2本も載っているのかと思えば、その2つの短編が互いにリンクしているという念の入れよう。どちらか一本の短編だけであれば、さほど心に残らなかっただろうが、この唐突な構成に驚かされて想像以上に楽しませてもらうことができた。
また、上遠野氏のインタビューなどを見て、なんとなくその作品に触れてみたくなり「ブギーポップは笑わない」を買ってきてしまった。まだ、読んでないのだが早々に読むことになるであろう(結構、上遠野氏にはまってしまったりして)。
ノベルゲームの最前線!
竜騎士07/「ひぐらしのなく頃に」特集
最近パソコンゲームはやっていない。といってもここで紹介されている「ひぐらしのなく頃に」というのは同人ソフトらしいので、一般には手に入らないのかな。
以前の奈須氏の時と同様に、このような形で紹介されれば気にはなるのだが、積極的にゲームソフトを手に入れようという気にはならない。ただ、この“竜騎士07”という人についても小説が出れば、率先して読んでみたいとは思っている。
「対ロボット戦争の前夜」「ナオミに捧ぐ」「私のひょろひょろお兄ちゃん」 佐藤友哉
“鏡家サーガ”にまつわる話らしいのだが、“鏡家サーガ”自体の設定をあまりよく憶えていない。それにこのような形で“鏡家サーガ”というものを引きずっていく必要性があるのかどうかという事も疑問に思う。私から見ると佐藤氏はすでにミステリーの舞台から降りて、文学系というジャンルの舞台で活躍している作家であると感じられる。それならば、ミステリーとして始められた“鏡家サーガ”をこのような形で続ける必要はないのではと思えてしまう。なんとなくではあるが、“鏡家サーガ”というものに対する思いよりも、講談社とのつながりという意味でシリーズの続きを書いているように感じられるのだが・・・・・・
と言いつつも、その短編を3つ書くということについては並大抵のことではないだろうということも感じられたりする。
「あなたとここにいるということ」 浦賀和宏
前作の話の続きなんだ! と別な意味で驚かされた作品。続編とは言っても前作とは主人公が異なっている。とはいえ、時間とその舞台背景は継承した内容が繰り広げられている。前作を読み今回の作品を読んでみても、この設定で続ける意味があるのかどうかと疑問に感じられてしまう。予想の範疇に収まってしまうような近未来SFを読まされてもなぁというのが正直な感想。浦賀氏らしいんだか、浦賀氏らしくないんだか、そういう意味でも微妙であったりする。
「新本格魔法少女りすか 鍵となる存在!!」 西尾維新
この一本を読んで、実は思っていたよりも物語がハイペースで進んでいると言うことが理解できた。“魔法少女シリーズ”も“戯言シリーズ”のように結構長く続くのかなと思っていたのだが、著者はそうは考えていないようである。たぶん既にゴール地点が見えていて、それにむかって書き上げているところなのだろうと想像させらる。この分で行けば、多分ノベルス5冊分くらいで完結となるのだろうか、と本題には関係のないことばかりが頭をよぎって行く。
「成功学キャラ教授」「ヤバ井でSHOW」 清涼院流水
まだ続いているらしい「成功学キャラ教授」・・・・・って、一応目は通しているのだが。まぁ、マルチ商法が継続されているなぁ、というくらいにしか感じられることはない。
それよりも、最近「ヤバ井でSHOW」のほうがどうでもよくなってきた。今は編集者の太田氏を引き込んで内輪ネタをやっているだけという印象。最初の趣旨はどこへいったのやら。
「佐藤友哉の人生・相談」
前回の相談で泳げるようになったのかどうかについては・・・・・・なんかどうでもいいことになっていた・・・・・・まぁ、それもどうでもいいか。
と、相変わらず読者の同情を一心に誘うかのように限られたページの中で悩みぬいている佐藤友哉氏。今回は北方謙三氏ばりに人生相談ができないものかと悩んでいるようだ。でも、そんな簡単に人の相談にのれてしまったら、それはもはや皆の佐藤友哉ではなくなってしまうであろう。というわけで、佐藤氏には一生悩みぬいていてもらいたいものである。
佐藤氏よ、北方謙三ではなく法月綸太郎を目指せ!!
<今回のユヤタンの相談>
「『その一言』って、一体どんな言葉なのでしょうか?」
<私からの解答>
「『とりあえず、やらないか?』」
と言うのはどうでしょう。これなら佐藤氏の懐しだいでは、男女問わず(?)使うことも可能でしょうし、全てが解決に至ること間違いないでしょう。
実際に何をするのかは佐藤氏が責任を持って決めてください。
以下、その他いろいろ
その他はインタビューやら漫画やらで特に触れるようなものはない。他の部分で楽しく読んでいるのは渡辺浩弐氏の「Hな人人」くらい。後はどうでもいいと思われるものばかり。さらに付け足して言えば、漫画やらイラストの存在が少々うざったく感じられるようになってきた。「コミック ファウスト」というものを創るというのであれば、それらの漫画やイラストを全て持って出て行ってくれればなぁと思っている。ただ、「コミック ファウスト」によって本家の「ファウスト」誌が遅れることになるのは嫌だなぁとも思っている。
あと、「バトルロワイヤル」の高見広春氏が寄稿していたことに驚いた。元気そうで何よりである。次回作を未だに待ち望んでいるのだが。
今回の「ファウスト」についての感想はと言えば、構成が冗長であるということ。特集を二つ組み、それぞれにトークセッションを二つ入れていたりとか、同じ作家の小説を三本載せたりとか、過剰なまでに漫画を掲載したりとか、その冗長さをあげればきりがない。確かに、今できることは今やらなければならないという考え方がその根底にあるのだろうが、いろいろと掲載することにより発売日が延びてしまうのであればそれは何も意味をなさなくなってしまうのではないだろうか。
特集についてはよく読んでみれば、それぞれにトークセッションが2つ載っているのには、そのセッションの意味合いがそれぞれ違うものになっているからという事はよく理解できる。ただ、それであるならば特集を一つだけにして、その一つにもっとスポットを当てたほうがもっと栄えるのではないかと思われる。
そしてせっかくの文芸誌であるのだから、もっと小説によって読み手を楽しませてもらいたいと感じている。今回は上遠野氏と西尾氏の作品ぐらいしか楽しむことができなかった気がする(といってもそれ以外に掲載されている小説自体が少ないのであるが)。
なんだかんだ言いながらも書き手もそろってきて、今乗りに乗っている文芸誌であるからこそ、もっとストレートに“文芸”というところに力を入れて取り組んでもらいたい。。
ただ、今回の特集やインタビューなどを含めて、本誌の狙いと言うものはよく理解することができた。今回スポットが当てられていたのは“ものを創る”という事についてであろう。今回インタビューを受けていた人達は皆、自分で何かを創ってみようという思いを持ち、そして実際にそれを行動に移している人達ばかりである。その“ものを創る”という意欲には人それぞれいろいろなパターンがあるものの、そのひとつひとつに感銘を受けることができた。
なんか説教くさい感想になってしまうのだが、多くの若い人達が読んでいるであろう文芸誌であるからこそ、こういった企画を立ち上げて若い人たちの創造意欲を駆り立てるということは良いことではないだろうか。特に本誌を読んで、“ファウスト賞”でデビューしてやろうと考える人達が多く出てくれることを望みたい。