ファウスト   Vol.4



2004年11月 “ファウスト Vol.4”発売

 ようやく季刊としての流れに順調に乗り始めたようである。今のところ年3回の予定のようなので、来年も4ヶ月置きに読者を楽しませてくれることであろう。

 さて、今回の「ファウスト」の注目作はというと、
 ・文芸合宿
 ・ミステリーフロントライン

という2本柱であろう。あとは連載されている作品を読むことができるようであるが、Vol.3で登場した新伝奇作品が今回は含まれていない。特に奈須氏の作品は連載かと思っていたので、掲載されていないのは残念なことである。ひょっとしたら、伝奇作家は一巻置きとか、なんらかの執筆ペースが設けてあるのだろうか。もっとも本書はそれでなくとも分厚いので、掲載しきれないということもあるのだろうが、それであるならば、編集者にとってはうれしい悲鳴といったところか。

 とりあえずは、今回は上記の2本柱に注目しながら詳しく述べていきたいと思う。




感 想

ライブ競闘小説“五つの上京物語”
「子供は遠くに行った」乙一
「こころの最後の距離」北山猛邦
「地獄の島の女王」佐藤友哉
「新世紀レッド手ぬぐいマフラー」滝本竜彦
「携帯リスナー」 西尾維新
 なんといっても「ファウスト」は乙一氏の作品が入ると引き締まるという感じがする。五十音順で偶然にも一番とはいえ、乙一氏の作品を一番最初に置くことができるのはこの雑誌(またはこの企画)の強みになるであろう。
 北山氏の作品はよくわからないままというか、どうでもいいような感じの中、メタに終始してしまった作品。逆にそれで全て通してしまったことを評価すべきか?
 佐藤氏と滝川氏の作品はいかにも彼等らしい作品に仕上がっている。たぶん2人ともマゾの属性を持っているのだろうと思うのは私だけではあるまい。佐藤氏の作品はユヤタン流「豚の島の女王」、滝沢氏の作品は「ひきこもり的神田川風」といったところ。
 そういえば、今までの西尾氏の作品でひとりしか主要人物が出てこない作品というのは初めてではないだろうか。知らずに読めば乙一氏の作品と思ったかもしれない。これも西尾氏が最後の締めとなってちょうどよかったのかもと思われる。


ライブリレー小説
「誰にも続かない」
 これは最初の定義づけがはっきりしていないので、書き進めるほうも難しかったのではないだろうか。そもそもリレー小説というものを成立させるにはミステリー的な内容にならざるを得なくなり、文学とは違った路線になってしまうのは当然のこと。そういった意味でも、本来予想していたものができたのかどうかは微妙なところだと考えられる。

 物語の提示にあたる乙一氏の出だしと、その続きを書いた北山氏への流れは話としては完璧といえるのではないだろうか。他の人が書いたというにも関わらず、ここまでは全く物語に違和感なく読むことができた。
 しかし、話の流れにおいて“転”にあたる佐藤氏のパートにおいては少々無理があったのではないかと思う。話を急展開させるという試みは理解できるのだが、整合性がだんだんと怪しくなっていってしまった点は残念といえよう。
 そしてその後の滝川氏、西尾氏のパートにおいても全体がまとめられたという印象にはほど遠かった。特に“妹”と“アキヒロ”という両者の存在をうまく生かせなかったことは残念に感じられた。
 では、このうまくいかなかったと考えられる原因が話をきちんと転じさせることができなかった佐藤氏にあるかといえば、そういう風に言ってしまうのもかわいそうな気がする。このリレー小説という企画自体が文学系なのかミステリー系なのかというややこしい側面も持ち合わせている中で、むしろ短い時間の中でよく書いたといえるのではないだろうか。一作品としては評価できるものではないのだが、この企画の中でリレー小説を書き上げたということで健闘賞をあげたいという気分である。





ミステリーフロントライン
「廃線上のアリア」 北山猛邦
 物理トリックがメインの作品。いや、それだけでなく、“何故に”ということも案外重要なテーマになっているのかもしれない。
 文芸合宿での会話の中で北山氏が「物理法則自体に限りがありますからね。そこを島田氏荘司さんみたいにうまく見せていくのは匠の技ですよね」と言っていたが、まさにその通りのことをこの作品の中でやってくれればなと感じてしまう。にしても、今回のファウストの中では北山氏の名前が売れつつあるということが一番の収穫なのかもしれない。それでもまだ作風は固定されていないのだが、今のところは物理トリックの書き手という肩書きになるのだろうか。あと、この作品の主人公の造形はなかなか良かったと思う。


「ポケットに君とアメリカをつめて」浦賀和宏
 久々の浦賀氏の新作、しかも“ファウスト”初登場ということで期待していたのだが・・・・・・なんだこの作品は? ミステリーフロントラインという名目は何処へ行ったのやら?
 本編の内容はなんと“近未来SF”。しかもミステリーという名目は全く見えず、ただのSFである。これは今回の趣旨に全く合っていないだろう。編集者のほうもこれを載せてもいいのかどうかもう少し考えたほうがよいと思われる。さらに付け加えれば、そのSFの内容も目新しいものではなくて、どこかで聞いたことのあるような話でしかなかったし。


「夜中に井戸がやってくる。」舞城王太郎
 舞城氏がミステリーを書くということで少し期待して読んでしまったのだが、相変わらず最近の舞城氏でしかなかったというところ。もともと普通のミステリーの書き手ではなかったとはいえ、もう少しなんとかならないものかなと感じてしまう。
 というわけで、なんか普通(舞城氏にしては)の青春小説だった。読みやすかったけどね。








「ECCO」 滝本竜彦
 あれ? この「ECCO」って前回で終わってたんじゃないの? と思ったのは私だけ? まさか連載だったとは思っていなかった。とはいえ、一応今回でこの作品は終わりであり、この後の話を書き下ろした新作として出版されるようである。
 で、今回の作品はというと、あまり前作までのストーリーと関係ないところに走っているというか、付け加えただけでしかないように感じられた。なんかちょっと性格の異なる女の子が出てきただけでやってる事はほとんど変わってない。


「新本格魔法少女りすか 魔法少女は目で殺す!」 西尾維新
 一応、この「ファウスト」誌上では一番楽しみにしている作品である。それだけ安定したシリーズものとなっている。
 今作では前回登場した女の子といつもの主人公の2人で敵と闘うという話になっている。よって“りすか”は一回休みである。ともあれ、やっている事はいつもと変わりなく、いつもどおり楽しめる。まさに“ファウストの看板番組”といえよう。


「成功学キャラ教授」「ヤバ井でSHOW」 清涼院流水
 相変わらず続いている・・・・・・もしかしてこれもファウストの看板??
 内容は相変わらずなのだが、今回は不覚にも「ヤバ井でSHOW」を読んでいて吹きだしてしまった。とはいえ、「ヤバ井」くらいの見開きの短さなら耐えられるのだが、「キャラ教授」は長すぎる。


「佐藤友哉の人生・相談」
 前回の質問にて「課外活動でもしれみれば」と書いたのだが、佐藤氏は合コンに挑戦したようである。まさか、ここに書いていることが目に触れたという事はないであろうが、佐藤氏もなかなかの行動派であると関心。

 <今回のユヤタンの相談>
 「簡単に泳げるようになるにはどうしたら良いでしょうか?」
 <私からの解答>
 「水に浮いて、少しでも進めば泳げたことになるだろう。ということで、まず水につかって、足を浮かせることからやってみよう!」


以下、その他いろいろ
 その他に何が書かれているのやらどうか分らない作品の中で楽しませてくれるのが渡辺浩弐氏の「Hな人人」。これは短編というよりもショート・ショートに近いと思うのだが、きっちりと世界を成立させてくれる。

 また、「新潮」の編集者との対談はなかなか興味深かった。今まで「新潮」を読んだことはないのだが、これで少し興味がわいてきた。機会があれば、とりあえず本屋でパラパラとめくってみよう。
 でも、本誌の編集長もすごいと思うが、「新潮」の編集長も佐藤氏らを褒め上げながら作品を書かせて作家を育て上げていくという姿勢は見事であると思う。面白い人を連れてくるのではなく、面白い作家を創り上げるという考え方なのであろうか。

 あと最後に、今までの「ファウスト」の一番最後についていた漫画はつまらないと思っていたが、今回は書く人が変わって面白くなったと思う。



最 後 に

 今回行われた“文芸合宿”という試みはそれなりの成果を上げたのではないかなと感じられた。そこそこ有名な5人の作家を集めたこともすごいが、その作家5人を連れてカンヅメにして作品を書かせるという企画がとにかく面白かった。そしてそれぞれの作家が各作品を書き上げたのだから、これはもはや言う事はないであろう。
 こういう事をやってくれると、これからも「ファウスト」がどんな妙な企画をやってくれるのかと期待せずにはいられなくなってしまう。

 そしてもひとつの柱たる“ミステリーフロントライン”であるが、こちらは明らかに失敗であろう。というよりも失敗もなにもミステリーではない作品を掲載して、フロントラインも何もない、と言いたくなる。やはりこの雑誌には“文芸”であるよりも、“ミステリー”という部分に期待して読む人も少なくはないのだろうから、もう少しなんとかしてもらいたかったというのが正直なところである。

 本誌を読んで強く思ったところは、「乙一氏もレギュラーとして加えておければな」という事。「ファウスト」のレギュラーといえば、西尾、舞城、佐藤の三氏であると思うのだが、舞城、佐藤の2人は一般受けするかは微妙なところだと思う。特に舞城氏は今やライトノベルス系のカラーではなく、もう少し重たい文芸誌のイメージがぬぐえなくなってきていると思われる。であるならば、ライト系の2枚看板として西尾、乙一と立てることができれば強みになるのではないかと考えられる。
 しかし、そこを裏切ってとんでもない作品を平気で載せて、読者をいろんな意味で裏切ることこそがこの雑誌のよいところであるのかもしれない。そもそも安定した事をやろうとはしてないようなので、例え大きくすべったとしてもこの雑誌なら許されそうなのが強みといえよう。
 次はどんな妙な事をやってくれるのかと考えるだけでも楽しめるという奇怪な雑誌であり続けてもらいたいものだ。




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