ファウスト   Vol.3



2004年07月 “ファウスト Vol.3”発売

「ファウスト」年3回発行決定!
 前回、読んだときはこの先どうなることやらと思ったのだが、これからは定期的に読めることが決まり一安心といったところ。
 ただ、一安心とはいえ、今後「ファウスト」自体がもっと面白くなってゆかなければ、今度は続けて行く意義が問われることになるだろう。これからどのような様相を見せてくれるのか楽しみにしながら追ってゆきたいと思っている。

 さて、では今回の「ファウスト」の内容に目を向けてみると、どこに注目すべき点があるだろうか。いくつかあげてみると、
 ・西尾氏の新作が読める。
 ・舞城氏の新作が読める。
 ・奈須氏の新作が連載される。
と、いったところだろうか。もちろん、人によっては佐藤氏や滝本氏のファンもいるだろうが、一般的に言えば上記に挙げたところくらいなのではないだろうか。ただ、そういった利点があるにしても、今回は全体的に作品のできがどうかといえば微妙なところであったように思える。
 では、それぞれについて詳しく述べてみたい。




感 想

「新本格魔法少女りすか 敵の敵は天敵!」 西尾維新
「零崎軋識の人間ノック」 西尾維新
 西尾氏の作品は安定していて、安心して読むことができる作品である。既存のシリーズを違和感なく読むことができるならば、今回の作品も楽しんで読むことができるであろう。
「りすか」の新作は、これは新キャラ登場? と思わせる人物が出てくる。なにせ表紙に出てくるのだから、そう考えてしまうのもしょうがない。それがどうなるのかは読んで確かめてもらいたいところ。しかし今回の挿絵はちょっとグロテスク。
「零崎」のほうは、“戯言シリーズ”から少し時間を遡った話となっている。つまり、「零崎双識の人間試験」の後ではなく、ずっと前の話となっていて、いわゆる外伝という位置付け。この作品には“零崎一族”だけでなく、“戯言シリーズ”に登場した人物も出ているので、シリーズを通して読んでいる人には必見の作品。


「駒月万紀子」 舞城王太郎
 舞城氏の新作は、“奈津川家サーガ”の続編へ、つなぐ話となっている。最近の文学のほうへ傾倒した舞城作品は肌に合わず、読む気がしないのだが、“奈津川家家サーガ”であれば読みたいと思っている。しかし、今回の作品を読んだ限りでは、買うのをどうしようかなとためらいたくなってしまう。ようするに、今回の作品は最近の舞城氏らしい作品そのものとなっているわけである。


「ECCO」 滝本竜彦
 前回の続編。前回ではかなりぶっ飛んだ話となっていたのだが、今回はやや落ち着いてしまったかのように思える。でも、それなりに面白く読むことができた。
 今回の作品で感じたことは、“おたく”や“ひきこもり”のキーワードの一つとして、“自分だけのもの”という事が描かれていたようである。他の人と共有するのではなく、“自分だけのもの”でなければ嫌だという思いが表れている作品であると感じられた。と、そのような事を考えさせられた物語。


「虹色のダイエットコカコーラレモン」 佐藤友哉
 もはや物語性はなく、フィクションをからめた私小説という方向へ突っ走っているように感じられる。こういうのを文学作品というのだろうか。昔、法月氏のミステリー作品のなかで、著者の分身ともいえる主人公の苦悩が描かれていた部分に否定的な意見が多くあげられたように思える。では、ミステリーでさえないこの作品において、主人公の苦悩のみが描かれた小説というものが一般に受け入れられるのだろうかと疑問を持たずにはいられない。


「DDD JtheE.」 奈須きのこ
 期待の新進作家であり、今回の「ファウスト」の目玉的な作品。内容はどうであったかというと、まぁ普通といったところ。最初読み始めたときは、やけに読みづらい小説だと感じられた。しかしそれは、最初に主人公をとりまく世界の設定の説明を一気にしないで、小出しに説明がなされてゆく構成のゆえだということに気づかされる。
 また、その構成ゆえに感じたのか、もともとゲームの脚本を書いていたということから来たのかもしれないのだが、この作品が極めてゲーム的な印象に感じられた。どちらかといえば、本作品は小説よりも漫画化したほうが面白いかもしれない(実際になったりして)。


「サウスベリィの下で」 原田宇陀児
 これを読んだときは思わず「なに?」と問い掛けたくなってしまった。今回は、奈須氏、原田氏、元長氏という3人の伝奇を書く作家を集めたはずではなかったのだろうか。それなのに、伝奇ですらないこの作品をよく掲載することをOKしたなと感心してしまう。
 最初はミステリー風な物語が展開されていくようなのだが、いつのまにやら“メタ化”してしまう。なにやら“探偵対教授”という構図らしいのだが、読んでいてもよくわからなかった。何が書きたいのかも、これから何を書かんとするのかもよくわからない。しょっぱながこの作品でいいのだろうか??


「ワールドミーツワールド」 元長柾木
 これは、奈須氏の作品と同様漫画的。しかし、その設定が長々と説明されているために、漫画にはあまり向かないかもしれない。これを漫画で描いたら、ただのアクション作品というだけになってしまう。しかし本作品では、アクションシーンだけを描きたいというわけではなく、その世界設定に重きが置かれているようだ。
 この作品がこの先続くのかどうかはわからないが、何か楽しませてくれそうな作家だと感じさせてくれた。次回作に期待。




「Hな人人」 渡辺浩弐
 ショート・ショートのような感じで挿入されている作品。気をつけなければ、読み飛ばしてしまいそうな作品であるが、完成度としては実は本書の中で一番高かったりするかもしれない。お見逃しなく。


「西尾維新スーパーインタビュー」
 本書には作家・西尾維新氏と編集者宇山氏のインタビューが掲載されている。そのインタビューの内容には別に問題ない。西尾氏のファンである人には、必見な情報が含まれていると思う。また、新本格推理小説を読んできた人にとっては、新本格の生みの親である宇山氏のインタビューは聞き逃せないものといってもいいだろう。
 しかし、これらのインタビューで感じるのは、インタビューする側がやたらと相手を持ち上げすぎなのである。このスタンスにはどうも興ざめしてしまう。これは今までの「ファウスト」誌に共通していえることなのだが、変に相手を持ち上げながらのインタビューは止めてもらいたいものである。冷静な第三者による視点からが望ましい。


「成功学キャラ教授」「ヤバ井でSHOW」 清涼院流水
 まだ続いている2作品。ほとんどゲームブック化しているのが「成功学キャラ教授」。真剣に取り組めば取り組むほど、馬鹿を見そうでこわい。これぞ“マルチ商法”ならぬ“マルチ読法”とでもいったところか。最終的に読み通したものが時間を大損するというような。
「ヤバ井でSHOW」はいつもどおり、というか相変わらず“ヤバイ”。たぶん。


「佐藤友哉の人生・相談」「滝本竜彦のぐるぐる人生相談」
 同じような企画を並べて連載してどうするんだかとおもわされるような相も変わらず“ぬるめ”なコーナーである。
 これを見て引きこもり作家の二人の行動を比べてみなさいということなのだろうか。それとも、こういった行動を基準と考えて、あなたはまだまだ大丈夫ですよということを確認しなさいということなのだろうか。
 とか何とか言いつつも、何故か放っておけないコーナー。佐藤氏に関しては、掲載作品よりもこちらのほうが面白かったりするかもしれない。

 <今回のユヤタンの相談>
 「運命の女性と出会うには、どうすれば良いのでしょうか?」
 <私からの解答>
 「とりあえず、人と関わることのできる課外活動に手をそめてみてはいかがでしょう(例:バイト、ボランティア、等々)」




「メタリアル・フィクションの誕生 第3回」 東浩紀
 今回は終始「九十九十九」という作品についての言及であったようだ。「九十九十九」という作品はそれほど世に何らかの影響を与えたのだろうか。それとも、あくまでも“メタ”としての作品という事で取り上げられているだけなのだろうか。
 ということを感じただけ。何しろ「九十九十九」という作品自体が読み取りにくいものであったから。



最 後 に

 今回の作品の中味を読んだ限りでは、とても“おもしろい雑誌”であるとはいえないと思う。もっともっと作家陣の方達には奮闘してもらわなければと感じられた。とはいえ、今回から雑誌に特徴付けるためか、伝奇作品に絞って内容を濃くしてみたという試みはよいことではないだろうか。その伝奇作品のラインナップが成功していれば問題はなかったのだが、何でもかんでも順調にというのは難しいことなのであろう。これからどういう作家を集めてゆくかに期待したいところ。

 ただこの先、固有の作家に縛られずに人気のある作家、人気のない作家とふるいにかけてゆく事は必要ではないかと思う。そうでなければ、単なる「メフィスト」の下請けとか、マニア系作家が集う“はきだめ”になりかねる恐れがあると思う。

 この「ファウスト」には、これからどのような作家が出てくるのかという楽しみや期待があるので、もう少し読み続けていこうと思っている。しかし、この先も今回くらいのレベルの内容が続くのであれば読み続ける必要はないように感じられた。
 とにもかくにも、早く“ファウスト賞作家”が出ないかなと期待するのみである。




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