「扶桑社文庫昭和ミステリ秘宝」を読もう
「昭和ミステリ秘宝」一覧

「古墳殺人事件」Up!2003/01/12
「三色の家」Up!2003/02/16
「翳ある墓標」Up!2003/04/26
「初稿・刺青殺人事件」Up!2003/06/29


 2002年11月に扶桑社から「昭和ミステリ秘宝」の続きにあたる四作品が出版された。ラインナップは、

『翳ある墓標』鮎川哲也
『初稿・刺青殺人事件』高木彬光
『古墳殺人事件』島田一男
『三色の家』陳瞬臣


以上のとおりのもの。なぜここでこの「昭和ミステリ秘宝」を薦めるのかというと、いろいろなミステリサイトを読んでいる人は知っていると思うが、今回の配本が売れなければこの企画が打ち切りになってしまうからである!!


 そういえば、確かに前配本「小説・江戸歌舞伎秘話」が出版されてからずいぶんと間隔があくなぁとは思っていた。そうしている間にこのような“電波少年”“プロレス”みたいな企画が持ち上がっていたとは・・・


 私個人としては、この企画がなくなってしまうのはとても残念である。私はあまり過去のミステリの事は詳しくないので、これらのラインナップを見ただけでは特に感じ入るものというのはない。しかし、逆にこれらの本によって昔のミステリに触れる機会がおとずれ、昔の作品を知り、興味をさらに広げるチャンスでもある。だからこそこのような企画は非常に貴重だと感じるのだ。
 そしてさらにいえば、手に入らなくなった隠れざる名作がようやく日の目をみるチャンスが訪れたのに、そらがさらに廃刊になってしまうというのもしゃれにならない。


 そこで、ここではこれらの作品を取り上げ多くの人々に読んでもらえるよう紹介していきたいと思う。


 ただし、ここでひとつ重要なのは“誰に対して、これらを読んでもらえるよう薦めるか”ということである。


 ここで「昭和ミステリ秘宝」を薦めようにも、もうすでに買っている人もいるだろう。昭和のミステリに詳しい人や、ミステリ本のコレクター、ミステリ愛好家、といった方々に関してはたぶんここで語るまでもないだろう。逆に、私などが語り始めたら、“いやいやそれはそうでなくて・・・”と逆に詳しく教えられることになりそうである。
 やはりここは薦めるのならば、ミステリは好きだけれども現代の国内ミステリを中心に読んでいるという人たちあたりに焦点を絞って薦めていくべきではないだろうか。


 ここで、「昭和ミステリ秘宝」というもののなのだけれども(全ラインナップはこちらから)、ぱっと見たときに一般読者はどう感じるのだろうか。このラインナップは一見敷居が高そうに見えて、踏み込みにくさという雰囲気をかもし出している。さらにぶっちゃけた話、実際に敷居が高いと思われる本もいくばくかはあるのが事実である。しかし、それらの中にも一読しなければもったいないというような名作、快作が隠れているのである。実際にいくつか取り上げてみると、




「なめくじに聞いてみろ」都筑道夫

 これぞランナップ随一の快作! 読んでみるとタイトルからはまったく異なる印象を抱くこと請け合い。食わず嫌いは止めてさっそく手にとっていただきたい。内容はミステリというよりは、007もしくは山田風太郎忍法帳といった大活劇。ひとりの謎の男が次々と殺し屋達に戦いを挑み続けるという異色作。
 都筑氏の本は今現在でも色々と出版復刊が繰り返されていて、現在でも「退職刑事」シリーズが復刊刊行されている。そういった都筑氏の作品群とはまたかなり違った味の本となっているので都筑氏の既刊を読んだ人もぜひともこの作品も読んでいただければと思う。
「昭和ミステリ秘宝」にて迷ったときは、まず本書から読んでみたらどうであろうか。


「火の接吻」戸川昌子

 これぞ昭和の「永遠の仔」。原点はここにあり!! ・・・と言いたくなる本。実際はそういうわけではないのだろうけれども・・・。
 ただ、私が読了したときにはそのような感想を抱いたのでぜひともご一読。内容は過去の事件と現在の放火殺人がしだいに交錯していくという良質なミステリに仕上がっている。「昭和ミステリ秘宝」なんて古臭さそう、と思っている人にぜひお薦め。何年も前に書かれたとは思えないほどの瑞々しさに仕上がっている。
 極上なサスペンスミステリを手にとりたいと思っている人は、まず本書から。


「妖異金梅瓶」山田風太郎

 近頃の本格ミステリは生ぬるい!! と思っているあなた、こんな本はどうでしょう。故山田風太郎氏の怪作。形態としては連作短編という形をとっている。そしてその一編一編が本格ミステリ仕立てになっており、頑固な本格好きもこれなら満足といえるでき。
 内容は中国における“精力絶倫の快楽主義者・西門慶”を取り巻くハーレムにての天国・地獄の愛憎劇。第一夫人から第八夫人までいれば、そこで嫉妬や愛憎が起こりえないわけがない! そしてそのハーレムの中にて次々と不思議な事件が沸き起こる。
 もういまや山田風太郎といえば、忍法帳だけではなくさまざまな作品を描いているということは知れ渡っているのではなかろうか。そのなかで大きな位置を占めるものこそ“ミステリ”である。最近は“山田風太郎フェア”をやっている書店も多いので手に入りやすい一冊となっているかと思うのでぜひともお薦め。


「どぶどろ」半村良

 これはまず七つの個別の短編があり、それらの登場人物が最後の中編に登場し、一つの話になるという変わった形態の作品。読むときはこのへんをよく踏まえたうえで読んでもらうとなお面白い。いわゆる時代物であるのだが、人情物、感涙物のみならず、嫉妬だとか妬みだとかが感情豊かに表現されている。ミステリというよりも一つの小説として捉えてもらってもよいかもしれない。
 ちなみに、宮部みゆきさんがこの本の解説を書かれているので、宮部みゆきファンの人も買いだ!(ちと強引か?)
 それは冗談としても宮部みゆきさんの時代小説などを好んで読まれている人であるならばこれは手にとる価値が十分にある。たまにはミステリ以外のものも読んでみたいと考えている方などには特にお薦め。




 と、以上4つのラインナップを紹介してみたのだが、このへんから読んでみて興味を持てば他のものもという感じに読み進めていくと良いと思う。特に読書の幅を広げてみたいという方にはお薦めの本が用意されているのでぜひともご一読あれ。


 本当はここで一番最初に紹介した2002年11月に出版されたラインナップを紹介するべきなのだろうが、そちらはまだ読んでいないのでまだ紹介できないという状態。これから随時、このHPでも紹介していきたいと思うので気長に待っていて(あれ、待っている暇はないんだっけ?)もらいたい。


 ちなみに、「昭和ミステリ秘宝」が売れた際の続刊予定のラインナップは次のとおり

 ・山村正夫(『断頭台』を中心に)
 ・城昌幸(『のすたるじあ』を中心に、ちくまと対になる一巻)
 ・大河内常平(『九十九本の妖刀』+『餓鬼の館』)
 ・草野唯雄(『甦った脳髄』を中心に)



 あぁ・・・誰も知らないや・・・・などといわずに、(実際私も城昌幸氏の名前ぐらいしか知らない)未知の作家の軌跡を知るチャンスだと前向きに考えましょう。


 というわけでここを読んで、一人でも「昭和ミステリ秘宝」を買おうと書店へと走る人が現れてくれれば幸いである。ただし、一番の問題は


「このHP、あまり読んでいる人いないんだよなぁ」









ミステリHP“Grand U-gnol”はひそやかに「昭和ミステリ秘宝」を応援しています







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