近所の本屋でハヤカワミステリの新刊、きちんと置いてくれるのか不安であったのだが、しっかりと「寝た犬を起こすな」が置いてあった! もちろん即購入。それとならんでケン・リュウの「母の記憶に」もあったので、こちらも即購入。揃って、置いてあったのはうれしい。特にランキンの新作は読み逃すわけにはいかないので、買えてよかった。
又吉氏の「火花」を読んだものの、ミステリではないので感想を書くかどうか迷ったのだが、とりあえずここに書いてみることにした。
ご存じ、お笑い芸人である又吉直樹氏のデビュー小説であり、153回芥川賞受賞作。2015年に出た作品であるが、私は文庫化を待ってから読もうと思い、2017年2月に出た文春文庫を購入。
内容は、お笑い芸人である徳永が、先輩芸人・神谷と出会い、共に過ごしてゆく中で、“笑い”というものについて考える日々を綴っている。お笑い芸人、もしくは漫才師を題材にした小説というものは、過去にもあったのではないかと思われる。ただ、本書はエンターテイメント作品ではなく、文学小説ということのようであるが、ではその違いとはなんだろうと考えながら読んでいった。
読んでいて気づいたのは、この作品とエンターテイメントとの違いとして、決して本書が読んでいる人を楽しませようとか、なんらかの形で誘導しようとか、そういった思いで書かれたものではないということ。ひたすら、お笑い芸人として生きていくうえで、自信の苦悩や挫折を書き表したものとなっている。私個人としては、ほとんど文学小説というものに触れていなく、読んでいるものはほぼミステリとSFくらい。そうしたなかで、こういった個人の思いや考えのみを表していく小説というものを新鮮にとらえることができた。個人的な苦悩を描いた小説というと、なんとなく法月氏や浦賀氏の小説と思い起こすが、そういったものとはまた異なるものを感じとれる。
では、本書がそういった個人的な思いのみを描いた小説というものではつまらないのかというとそんなことはなく、題材が漫才とかお笑いというものであるからなのか、意外と内容にのめり込むことができた。実際に著者自身の苦悩と重なりそうな部分がありそうだと感じたり、現実的な部分とはちょっと異なるのではなどと考えつつ読み進めていくことができた。また、お笑いとか、それに対する個人的な思いというものが真面目に文章で描かれてゆく様を堪能することができた。
と、そうこう考えながら読みつつ、文学とはこういうものかと思ったのだが、最後の最後でなんとなくエンターテイメントっぽい色になってしまったのはどうかと感じてしまった。お笑い芸人という題材らしい終わり方ではあるのかもしれないが、そこまでの現実的な流れの中で収束してもよかったと思えたのだが。