な行 な  作品別 内容・感想

教 場   6.5点

2013年06月 小学館 単行本

<内容>
 「職 質」
 「牢 間」
 「蟻 穴」
 「調 達」
 「異 物」
 「背 水」
 「エピローグ」

<感想>
 2013年の話題作。警察官になるための警察学校での生活を描いた作品。ただ、読んでみると警察学校というよりは、柳広司が描く「ジョーカー」ゲームのような内容。まるでスパイを育てているかのような虚偽あふれるサバイバルゲームのような世界が描かれている。

 「職質」は、風間という教官の登場と、同僚から仕掛けられるとある罠が描かれる。
 「牢間」は、とある事件を告発する手紙と、その行末。
 「蟻穴」は、白バイ警官を目指す、聴覚にすぎれた男に降りかかる難題。
 「調達」は、元ボクサーで警官を目指す落ちこぼれ気味の男の奮闘ぶり。
 「異物」は、車の知識はあるものの、周囲からつまはじきにされる男に課せられる課題。
 「背水」は、同期で一番優秀と目された男の脱却振りが描かれる。

 最初の作品から、思いもよらぬ展開が待ち受けており、その後もそれが怒涛のように繰り広げられる。圧倒的なリーダビリティーがあり、一日で一気に読みほしてしまった。ただ、面白くはあるのだが、本書の内容が警察学校を描くといううえでは理解できないところも多々ある。いくら振るいにかけるとはいえ、これでは警察に悪意を持つものを過剰に育てているようにさえ感じられてならない。少々人を貶めすぎのようにさえ感じられてしまう。ただ、フィクションと割り切って読めば、十分に面白い内容の小説ではある。


一週間のしごと   5.5点

2005年11月 東京創元社 ミステリ・フロンティア

<内容>
 開沢恭平は進学校へ特待生として入学し、日々勉学で忙しい高校生活を送っていた。そんな生活のなか、恭平を悩ませるのは隣に住む幼馴染の青柳菜加の存在。彼女はしょっちゅう色々厄介なものを拾ってきては恭平と菜加の弟の克己を困らせるのであった。そして、今回菜加が拾ってきたのはなんと“子供”。母親と喧嘩別れした子供を見て、放っておけなくなり連れて来たのだという。すると、テレビでその子供の母親が集団自殺をしたというニュースが流れ・・・・・・

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<感想>
 読んでみて感じたのは、“子どもっぽい”という印象。といっても、内容が“子どもっぽい”というわけではなく、登場人物らの行動がどうしても幼稚に思えてしまうのである。どうしても必然から起きた事件というよりは、勝手にややこしくしていったという印象が抜けきれなく、最後まで話にのめりこむことができなかった。

 また、犯人側の視点も含めて物語が描かれてはいるものの、それが何かの効果をあげているとは思えなかった。ゆえに、ミステリーというよりは、事件の展開をただ追っていくだけのサスペンス小説という風に感じられた。

 と、あれこれと文句ばかり付けてはいるが、実際には読みやすい小説であったことは確か。ちょっと大人向けのライトノベルスといったところだろうか。とはいえ、この物語についていけなくなったということは私の年齢に問題があるのではないかとも・・・・・・


Kの流儀   5点

第10回メフィスト賞受賞作
1999年02月 講談社 講談社ノベルス

<内容>
 転校生・逢川総二が通うこととなった学校は暴力がはびこり荒廃しきっていた。陰湿ないじめにあいながらも逢川は身に着けた極真空手の技により、相手をいなし、学校生活を難なく過ごす。そんな毎日に退屈しきっていた逢川であったが、やがてひとりの少女と出会う。さらには学校を統括するグループに目を付けられることとなり・・・・・・極真空手vs.中国拳法、剣道、ボクシング、少林寺拳法、柔道、空手。異種格闘戦の幕が開ける。

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<感想>
 メフィスト賞受賞作で感想を書いていなかった作品を再読し、感想をコンプリートさせようと進めている。そうしたなか、再読するかどうか迷ったのがこの作品。何故迷ったかというと、内容が古臭い。20年前の作品ゆえに古臭いのは当然だと思われるかもしれないが、実は発売当時に読んだときに既に古臭いと感じていたのである。昭和後期というよりも、戦後の作風と言うか、何と言うか。

 内容は極真空手を学んだ少年が、不良少年たちをバッタバッタと打ち倒すというもの。しかも単なる不良少年ではなく、それぞれが別々の格闘技を身に着けているゆえに異種格闘戦の様相をていすこととなる。

 ただ、改めて読んでみると、設定が物凄く適当だなと。もはや格闘小説というよりもファンタジーというか、ヒーロー小説というような感触。リアリティを求めすぎるものではないと思いつつも、もう少しどうにかならないものかと。何しろ主人公の少年は数年極真空手を学んだだけで、とてつもない強さを身につけたというトンデモ設定。

 この小説、極真空手のすばらしさを広めるために著者は作品を描いたと思えるのだが、この内容ではとてもそんな風に捉えることはできない。講談社ノベルスの裏表紙に極真会館の館長による書評が掲載されているのだが、この内容でよく名前を出したなとしか・・・・・・


ハイブリッド・アーマー/人形はひとりぼっち

2004年02月 角川春樹事務所 カドカワ・ノベルス(ハイブリッド・アーマー)
2004年02月 富士見書房 富士見ミステリー文庫(人形はひとりぼっち THE DOLL HUNTER)

<内容>
 結核の療養のため郊外のサナトリウムに入院していた高校生の滝川龍はススメバチに襲われて重症を負う。その彼を助けたのが<ゲノムクラフト>研究所の矢作弘美であった。その際、彼女は滝川をスズメバチと人間のミュータントとして改造してしまう。滝川は超人的な能力を手に入れるが、そのせいでミュータント同士の抗争に巻き込まれていくことに・・・・・・(ハイブリッド・アーマー)

 人間のクローンを禁止する法律ができたと同時に、そのクローンを抹殺する“ドールハンター”という組織が生まれた。女子高生の唯は友人の久美子とともに、担任教師がクローンを抹殺する現場を目撃してしまう。担任の雑賀(さいが)はドールハンターであったのだ。その事件を目撃したことから二人は雑賀の仕事を手伝わされるはめになり・・・・・・

<感想>
 中島望といえば、メフィスト賞作家であり、講談社ノベルスから3冊の本を出している。そしてそれ以来、音沙汰がなかったのだが、とうとう他の出版社から立て続けに本が出版された。中島氏はメフィスト賞作家ではあっても、けっしてミステリーを書く作家ではない。ジャンルはといえば格闘物、もしくは伝奇小説に近いといえるだろう。

 そんな背景の中で出た2冊の本であるが、読んでみてこの2冊は対照的であると感じられた。それをふまえて今回は2冊同時の感想ということにした。

「人形はひとりぼっち」であるが、こちらはクローン人間というものを社会的背景として取り扱い、その中で少年少女の葛藤を描いている。この作品での主題はあくまでも少年少女の葛藤が主になっていて、クローン人間の背景というのは付け足したものと感じられる(あえて言うならば別にクローン人間というものでなくてもいいような気はする)。とはいえ、あえてクローン人間という背景については必要以上に詳しく説明せずに簡潔にそれなりの物語としてまとめ上げていると思われる。ただ、設定が複雑になってくると粗が見えてくるというのが欠点か。

「ハイブリッド・アーマー」では昆虫と人間が複合したミュータントというものを背景に描かれた伝奇小説である。こちらも背景についてはあまり複雑に語らずに主人公の少年の爆走ぶりを主として描いた作品となっている。なんとなく仮面ライダーものといった趣のある、そこそこ爽快な小説である。

 この2作品を比べると軍配は「ハイブリッド・アーマー」にあげたい。ようするにこの作者の小説は話が単純なほど面白いのである。どうも必要以上に背景を書き込んだり、登場人物の心の葛藤を描いたりすると、そこに粗が見えるようになってくるのである。それは講談社ノベルスの時の3作品にも同様の傾向が見られた。

 結局のところ、中島氏は小難しい設定や感情を極力省いた、単純な男が突っ走る爽快に感じられる小説を書くのが一番いいと思う。そういう小説をこれからもどんどん書いていってもらいたい。


百瀬、こっちを向いて。

2008年05月 祥伝社 単行本

<内容>
 「百瀬、こっちを向いて。」
 「なみうちぎわ」
 「キャベツ畑に彼の声」
 「小梅が通る」

<感想>
 この作品が出た時は全く知らなかったのだが、昨年(2009)末にこの作家の第2作品が紹介されているのを見て、興味がわいたのでこちらから購入してみた。中味は青春恋愛短編集である。

 読んで感じたのは、実に現代的な主人公を扱った作品であるなと。ようするに時代にあった恋愛小説だと感じられた。人見知りのモテない少年、家庭教師の女子高生、国語教師に興味を持つ女子高生、内向的な美人女子高生といった主人公達がそれぞれの物語を繰り広げている。

 ただ、現代的とか言いつつも、それは私が恋愛小説というものを読みなれていないだけで、実際にはこういった内容の作品に登場する主人公というのは似たり寄ったりの性格なのかもしれない。

 読み慣れないようなジャンルの作品であったのだが、楽しく読めたのは確かである。どの作品も、前向きなのか、後ろ向きなのはかよくわからないのだが、ひたむきさ加減は十分に伝わってきた。

 新しい短編集も出ているようであるが、そちらは文庫になってからでもよいかなという気分。というよりも、この作品もハードカバーなどではなく、ライトノベルス系の文庫で出した方がよかったのではないだろうか。どちらかというと少年少女向きの本だと思われるので、そういう方向で売ったほうがもっと知名度が上がったのではないかと感じられるのだが。


ロンド・カプリチオーソ   6.5点

2007年11月 東京創元社 ミステリ・フロンティア

<内容>
 バーにて、ピアノ弾きと雑用の仕事をこなしながら生活するタクト。そのタクトの友人であるコウジが何かの事件に巻き込まれ、やがて死体となって発見されることに。自殺らしい状況ではあるのだが、どこか不審なものが残る死。タクトと友人のアキラ、そしてタクトの彼女であり予知能力を持つ花梨は事件の謎を解こうとするのだが・・・・・・

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<感想>
 小説のタイプとしては石田衣良氏の“IWGP”や、同じくミステリフロンティアの「インディゴブルー」のように、都会の街中で暮らす少年少女が活躍するという内容の作品。ただ、こういった最近よくありそうな作風の中で、本書の長編としての完成度はかなり高いのではないかと思われる。

 主人公のタクトはトラブルメイカーとも言える存在で、自らさまざまな厄介ごとに顔を出さずにはいられない性格。そんな性格ゆえに、友人が謎の死を遂げたとあっては、だまっていられるはずがない。また、その事件だけではなく、自分の父親から頼まれることとなった事件や、タクトに近づく怪しげな女などと、ひとつの事件を機にさまざまな出来事がタクトに襲い掛かる。そして、周囲の協力を得ながら、やがて全ての事件の謎へとたどり着いてゆく。

 事件自体はそれほど印象に残るほどというものではないのだが、全体的に見て数多くの謎や出来事をうまくまとめあげて、ひとつの物語を創り上げ、それなりの着地点に到達させたところはなかなかの手腕であると思われる。これは、今後も期待できそうな作家ではないだろうか。

 今作では、昔ピアニストを目指していた青年で、現在はトラブルメイカーという、繊細なのか単純なのかわかりづらい、難しい人物造形にチャレンジしていたようである。これが、もう少し味のある人物造形ができるようになったら、もっと作品に厚みが出て、シリーズ化できるようになるのではないだろうか。何にせよ、次回作に期待といったところ。


模倣の殺意   6.5点

1971年 第17回江戸川乱歩章応募作(「そして死が訪れる」)
1972年 雑誌「推理」連載(「模倣の殺意」)
1973年 双葉社(「新人賞殺人事件」)
1987年 徳間文庫(「新人文学賞殺人事件」)
2004年8月 東京創元社 創元推理文庫

<内容>
 作家の坂井正夫が青酸カリによる服毒死を遂げた。しかし、その死を不審に思った恋人の中田秋子は真実を突き止めようとする。すると、その死の数日前から坂井と連絡を取り合っていた女性の存在が見え隠れし始め・・・・・・。また、スポライターの津久見は取材として坂井の死を調べ始めたのだが、そこには思いもよらぬ盗作疑惑が浮上し・・・・・・

<感想>
 これは従来ある“アリバイ崩し”モノをトリッキーにした作品といえよう。通常、アリバイ崩しに重点が置かれるミステリーというのは、犯人はある程度確定していて、その犯人がどのようにして犯罪を行ったのかという事に焦点が置かれる。よって、アリバイ崩しというものは“誰が”という点においては謎になりにくいという欠点をはらんでいる。

 それに対し本書はひとつの事件を2面から捜査していくという方式で書かれている。とある事件に対して、2人の主人公が別々に捜査を行い、それぞれ別の容疑者を追っていくようになっている。それがラストにおいて、この2つの捜査がどのように交わっていくのかという点もポイントとなり、面白みが増すように書かれている。

 そしてさらに付け加えておくと、本書はそれだけでは終わらずに、驚愕の展開までもが用意されている。いや、ストレートなアリバイ崩しの作品であると思っていただけに見事に驚かされてしまった。ちょっと整合性の面において気になるところはあるものの、なかなかの力作であるといっても過言ではないだろう。

 今回、創元推理文庫にて復刊という形でなければ手に取ることのなかった作品であろうと思えるので、こういう機会が与えられて本書に触れることができたことを感謝したい気持ちである。名作とまではいかないものの、隠れた佳作というものはまだまだころがっているものなのだなと考えさせられてしまった。


天啓の殺意   6.5点

1982年06月 徳間書店 トクマノベルズ(「散歩する死者」)
1989年10月 徳間書店 徳間文庫(「散歩する死者」)
2005年04月 東京創元社 創元推理文庫

<内容>
 編集者の花積明日子はここ最近売れなくなってきたミステリー作家の柳生照彦から原稿を読んでくれと依頼される。その柳生の話では、この作品はリレー小説形式にしてもらいたく、これから渡す原稿の部分は問題編として掲載してもらい、解答を尾道由紀子という作家に頼んでもらいたいというのである。もちろん柳生自身も書いた原稿に対する解答を付けるという。花積はとりあえず、柳生から渡された原稿を読んでみたのだが、それは実在の事件をそのままなぞるものであったのだ!

<感想>
 本書を読んでいた途中では、容疑者らしき人物が浮かんでは殺され、さらにまた殺されと、同じ事が延々と続くサスペンス小説というようにとらえられた。このような展開では別に誰が犯人であっても驚かされる事はないだろうと思いながら淡々と読んでいた。

 しかし、この著者は意外なところに落としどころを隠しこんでいた。いや、なるほどど、これは確かに騙されてしまう。とはいっても、決してアンフェアだとは言えなく、ある意味律儀なくらいフェアであると言っても良いのであろう。こういった作品は今まで読んだ事がないというわけではなかったので、途中で気がついてもよかったのだろうが、そんな事に気づく間もなく騙されてしまった。

 なるほど、この様な構成であれば、“誰が”“どのようにして”ではなく、また別のところへスポットが当たるようになるというわけか。そう考えれば、これもなかなかの作品といえよう。本書の文中でも書いているように、その目的がわかればとある外国の有名作品が脳裏に浮かび上がるようになっている。

 これまた、こういった地味な良書を復刊してくれたおかげで、本書を読むことができて本当に嬉しい限りである。


空白の殺意   6点

1980年12月 徳間書店 トクマノベルス(「高校野球殺人事件」)
1989年02月 徳間書店 徳間文庫(「高校野球殺人事件」)
2006年02月 東京創元社 創元推理文庫

<内容>
 宝積寺恵子は以前にあげた猫の様子を見に行こうと友人の角田恵理子を訪ねた・・・・・・そして恵子は恵理子が自宅で自殺しているのを発見する。その少し前、恵理子が勤務する高校の女性とが何者かに殺害されるという事件があった。恵理子の死はその事件に関わりがあるのではと、警察は捜査を進めていくことに。すると、高校野球の出場校を巡る影での策謀が見え隠れして・・・・・・

<感想>
 今回の作品を読んでみて感じたのは、少し前に読んだ鮎川哲也氏の作品と展開が似ているなということ。事件が起き、まずは警察が捜査をする。その捜査がいきずまってきたときに、登場人物のひとり(女性)であり、事件の関係者でもある人物が警察に変わって真相に迫っていくという展開。

 この作品は1980年に書かれたものであるのだが、その当時はこのような展開のミステリーが量産されていたのではないかと考えられる。そして、その似たようなミステリーのなかに埋もれてしまったのが本書といえるのではないだろうか。

 と、そのような通俗的な展開は見せるにしても、本書の内容はかなりよくできていると感じられた。高校野球の出場を巡る様々な思惑。その三つの高校の舞台裏が描かれていて、互いの利害関係が絡み合うという設定はなかなか考え抜かれてると思われた。

 その利害関係のなかで事件が起きるため、単純な事件が複雑に見えたり、または実際に複雑な面を要していたりという色々な事象を最終的にうまくまとめ上げている。上に記したように、展開があまりにも平凡というか通俗的なミステリーとなっているので、印象に残りにくいのだが、丁寧に組み立てられた良質のミステリーであるということは間違いない。

 これまで中町氏の作品が創元推理文庫にて復刊されているが、これらにシリーズものとなる探偵を配すればもっと作品として知名度が上がったのではないかと思うのだがどうであろうか。まぁ、その当時はそのような作風はあえて敬遠されていたのかもしれないのだが。


三幕の殺意   6点

2008年01月 東京創元社 創元クライム・クラブ

<内容>
 強請で金をもうけている男、日田原が住む尾瀬沼の湖畔にある朝日小屋。その宿泊施設に日田原に恨みを持つものが多数集まっていた。そして雪が降る夜、殺人事件が起こる!! 日田原が殺害されたのは何時なのか? 日田原を殺害した者はいったい??

<感想>
 なんと昭和43年に掲載された短編作品を長編化したものとのこと。そのゆえあってか、作調がかなり古臭かったりする。ただ、そのレトロ調の雰囲気を楽しむことができ、意外とミステリ作品としてはいい味を出したものになっていると思えた。

 元もとの原案が古い作品のためか、さほど新しいことは成されてはいない。一応読者への挑戦がついた作品となってはいるものの、ストーリーに沿った消去法で犯人が自然と浮かび上がってくるので、シンプルな本格ミステリ作品といえるであろう。

 とはいえ、本書における見所は犯人当てよりも、本書の探偵役となる刑事が事細かに登場人物らの犯行が成された時間付近の行動を暴いていくところではないかと思える。また、さらには著者なりに最後の最後でちょっとしたひねりを加えたとの事なので、それはそれでまた楽しめたりもする。

 普通のミステリという感はぬぐえないものの、それなりに楽しめるアリバイミステリ作品として仕上げられている作品。でも個人的には文庫で読むくらいがちょうど良かったとも思えなくもない。


異セカイ系   

第58回メフィスト賞受賞作
2018年08月 講談社 講談社タイガ

<内容>
 自分の小説世界に入ることができるようになった作家は、小説投稿サイトでトップ10にランクインし続けるために・・・・・・

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<感想>
 ミステリではなかったなぁ。メタ小説というようなジャンルなのであろうか。主人公なのか、著者なのか、そのような人物が自分語りをしているような感じの話。

 全体的に主題がバラバラとなっており、結局何を言いたかったのかわからなかった。まぁ、いろいろな事を語りたかったのかなという気がしなくもない。

 これって、書いている方は満足することができるのであろうが、読む側にとっては満足することができるものなのであろうか? と、考えながら読んでいた。


空の境界

2004年06月 講談社 講談社ノベルス(上下)
(2001年12月に同人誌として出版されたものを加筆・訂正)

<内容>
 2年間の昏睡から目覚めた少女・両儀式は死を視ることのできる“直死の魔眼”を手に入れていた。しかし、式は自分が昏睡にいたる直前の出来事の記憶を失っていた。そして失っていたものはそれだけではなく・・・・・・

<感想>
 奈須氏の作品は先に「ファウスト Vol.3」での短編を読み、それからこの作品を初めて読むこととなった。つまり、その2作品にしか触れていないのだけれども、その2作品は構造としては似ているように思える。

 本書を読み始めたときにはどこか読みにくいという印象を受けた。それは物語の中の設定がまばらにちりばめられており、最初から明らかにされない事がらが多い中で話が進んでいくからであろう。そしてそれぞれ謎となるピースが徐々にはめられてゆき、一つながりの物語として構成されてゆくように描かれている。ファウストに掲載されていた「DDD JtheE.」という小説もこのような書かれ方がなされていた。

 読む前はライトノベルスという印象であったので、簡単に読み終えるだろうと思っていたのだが、実際のところそういった事によりなかなか読みにくく、上下巻読了するまでには長い時間がかかってしまった。同人誌で出したということであなどっていたようなのだが、そんなレベルではない書き込み量であった。というよりも、ここまで書いてあるからこそ話題になったのであろう。

 本書はいわゆる“セカイ系”とか“君と僕系”などと言われるものに終始した内容と言ってよいであろう。二人の主人公以外にも多くの登場人物が出ているにもかかわらず、決してその世界は外へと広がろうとせずに、常に内側へと収束し続ける。そしてこの作品のラストではそれが行き着くところまで収束してしきっている。それが物語として良いか悪いかという事ではなく、何かこの作品が“象徴”的なものとして捉えられるのである。何の象徴であるのか、と聞かれると困るのだが、現代社会というか、同人、インターネットその他もろもろひっくるめて何かを象徴している世界であるというように変に納得させられてしまうのである。

 というわけで、本書は面白いとか面白くないとかいうよりも、むしろ書ききったなとか行き着いたなとか(むしろ収束したが正しいだろうか)そう感じさせられる本であった。この作品が今後のライトノベルス界やこれからの伝奇作品などにどういった影響を与えるのかということが興味深いところである。

 また、奈須氏は今でもゲームのシナリオという部分では活躍しているようだが、一小説家としてはどのような作品を書いていくのかという事が非常に気になるところである。


DDD2

2007年08月 講談社 講談社BOX

<内容>
 オリガ記念病院から退院した、左腕を失い昼間の記憶をなくしてしまう男、石杖所在。所在は退院後、生活費をかせぐために両手両足がなく、類まれな美貌を持つ迦遼海江の世話をすることとなる。さらに海江からは不思議な義手を貸してもらえることに・・・・・・
 所在は退院して早々、昔野球部でチームメイトだったキリスやツラヌイと出会うこととなり、いつしか巷で流行しているSVSというゲームの渦中に巻き込まれることに・・・・・・

<感想>
 あれ? 「DDD1」の感想って書いてなかったんだ・・・・・・

 ようやく「DDD1」のプロローグまでの時系列が当てはまってきた。前作までではツラヌイとかキリスといった人物についてあまりにも不透明であったのが、ようやくここにきて補完されることとなった。ここからは安心して時系列順となった物語をそのまま楽しんでいけばいいのだろう(と思ったところにまたトラップが仕掛けられていたりして・・・・・・)。

 今作はなんと高校野球を題材とし、その野球から考案された賭けゲームSVSを巡っての物語となっている。とはいっても、あくまでもSVSというゲーム自体は背景のひとつでしかなく、主題となるのは高校時代、さらにはその前から培われた友情と野球に対する想いが詰め込まれた小説となっている。まさか、この作品でこういったスポコン小説が読めるとは思わなかったので意外な意味で驚かされ、その思わぬ展開で存分に楽しむことができた作品であった。

 そして後半というか最後のほうのページでは次の事件へとつながっていく予告編のような形で物語が終えられている。今作で謎の不死身の男(表紙の人)が登場し、所在の妹についても新たな展開が描かれている。

 かなり長いページの本となっているので、読むのに時間がかかりそうだと思っていたのだが、すらっと一気に読むことができてしまった。講談社BOXの作品はほとんど買っていない中で、このシリーズとはまだまだ付き合っていくことになりそうである。


七つの海を照らす星   6.5点

第18回鮎川哲也賞受賞作
2008年10月 東京創元社 単行本

<内容>
 北沢春菜は保育士として、児童養護施設「七海学園」で働いていた。その学園内で児童たちが噂する“学園七不思議”。実際にそれらの話にまつわる事件が次々と起きてゆく。しかし、春菜が児童相談所の海王さんに事件について話すと、彼は瞬く間に謎を解き明かしてゆき・・・・・・

 「今は亡き星の光も」
 「滅びの指輪」
 「血文字の短冊」
 「夏期転住」
 「裏 庭」
 「暗闇の天使」
 「七つの海を照らす星」

<感想>
 本書のあらすじを一読したときは、これはライトな日常の謎系の話なんだなくらいに思っていたのだが、いざ読んでみると思いの他、濃いミステリ作品として成り立っていることに驚かされた。これは今年の意外な収穫の一冊といえるかもしれない。

 ミステリのネタとしては珍しいものはないのだが、このトリックがこんなところに使われているなんてと、意外性のある話の展開に驚かされた。特に「滅びの指輪」という話では、ありがちなネタながらも実際にはありそうもない話を、それなりにリアリティを持った内容としているのだからたいしたものである。

 その他にも児童養護施設という場所と、そこで起こる少年少女たちのミステリが瑞々しく描かれており、小説としてもミステリとして充分堪能できる作品に仕上げられている。また、それらひとつひとつの話から最終話で明かされるひとつの真実へと結びつくという連作短編集としても完成しているのだから、本当にたいした作品である。

 とはいえ、全面的に肯定的な意見ばかりではなく、否定的に思えた点もいくつか見られた。

 ひとつは、児童養護施設というものや、その周辺事情に対して著者の思い入れが強いためか、説明が冗長になり、小説としての流れを損なっていると感じられた。むしろそのへんをシンプルにして、もっとライトな感じにまとめれば、かなり取っ付きやすい作品になったのではないだろうか。

 また、主人公の保育士・北沢春菜という人物の特色があまり出し切れていなかった気がする。短篇のなかの多くの逸話が過去の話で、それゆえに現在に行動している春菜の存在意義が薄くなってしまったように思われる。探偵役の海王という人物も薄いと感じられるものの、それはまだよしとしても、主人公にはもうちょっと全編にわたって活躍してもらいたかったところである。

 とはいえ、新人でここまでの作品が書ければ申し分なしであろう。次回作はどのような設定で、どのような作品を書いてくれるのか、期待して待つこととしよう。


アルバトロスは羽ばたかない   6点

2010年07月 東京創元社 単行本

<内容>
 児童養護施設「七海学園」、そこで働く保育士の北沢春菜。春菜は最近この学園に入ってきた高校二年生の鷺宮瞭(さぎのみや りょう)という少女のことを心配していた。瞭は過剰に過保護な母親の元を離れるため学園へとやってくることとなったのだが、彼女は誰とも打ち解けようとせず、心を閉ざしたままであった。なんとか彼女の心を開こうと奔走する春菜であったが、春菜がよく相談を持ちかける児童相談所の海王さんは、そんな彼女の仕事ぶりの危うさを指摘する。そうしたなか、七海学園に住む子たちが通う高校の文化祭当日、屋上からの転落事件が起きることとなり・・・・・・

<感想>
 文化祭当日に起きた転落事件が誰によって、何故起きることとなったのか? それを解決するために少し前に起きた4つの事件を回想しつつ、徐々に真相へと迫って行くという展開で描かれている。

 著者の七河氏は前作「七つの海を照らす星」で鮎川哲也賞を受賞してデビュー。本書は受賞後の第一作であり、作品の設定は前作に続くものとなっている。本書は前作を読んでいなくても普通に読める内容ではあるが、前作を読んでいた方が読了後の感慨も深くなると思うので、まだの人は是非とも一読しておくことをお薦めしたい。

 連作となる四つの短編では、少年と母親との絆の真実について、競技場からの集団消失事件、学園にあたらしく来た子の寄せ書きを巡る騒動、刑務所帰りの父親が娘に会いたいと強引に学園を訪ねてきた事件、こうした謎に主人公が挑む・・・・・・というか、巻き込まれたりもする。そして、こうした事件が伏線となり、本題とも言える転落事件につながって行くこととなる。

 それぞれ起こる小さな事件もよくできていると思うのだが、それよりも全体にまつわる大きな事件の方がインパクトが俄然強く、ショックでもあった。ミステリとしてはうまくできていると思えるものの、物語としてはあまりにも暗くなってしまったのではないかと心配してしまう。特にシリーズ作品ということであればなおさら。

 と、ネタバレになってしまうので詳しく語ることはできないものの、うまくできているというか、それよりも何よりも強烈な余韻を残す作品であることは確か。でもやっぱり後味の悪さがどうしても・・・・・・


空耳の森   6点

2012年10月 東京創元社 ミステリ・フロンティア

<内容>
 「冷たいホットライン」
 「アイランド」
 「It's only love」
 「悲しみの子」
 「さよならシンデレラ」
 「桜前線」
 「晴れたらいいな、あるいは九時だと遅すぎる(かもしれない)」
 「発音されない文字」
 「空耳の森」

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<感想>
“どんでん返し”というか、最初読み始めたときの印象と異なる結末が待ち受けていると、そんな内容の短編を集めた作品集。

 最初の「冷たいホットライン」では、山で遭遇した男女の想いと行動を描いている。二人は吹雪のなか、離れ離れになってトランシーバにて行動を伝え合うのだが、彼らに忍びよる別の人間の気配が見え隠れする。そうしたなかで、二人の男女は意外な結末を迎えることとなる。

「アイランド」は無人島のような場所で暮らす幼い姉弟の生活を描いた物語。これは、まるで島田荘司張りの本格ミステリが描かれたような作品。このあたりで、この短編集が一筋縄ではいかない内容になっているなと感じさせられる。

「It's only love」は“あたし”と“俺”というパートが交互に繰り返される物語。何か騙されているんじゃないかと警戒しながら読みすすめ、色々と想像を巡らせるのだが、やや肩透かし気味の予想だにしなかった展開で終わる。肩透かし気味とはいえ、むしろホッとさせられ、この作品集のなかでは一番好きな内容と言えるかもしれない。

「悲しみの子」は、離婚をしかけた両親の狭間でゆれる姉妹の様子が描かれているのだが、ある程度予想通りの内容・・・・・・であったのだが、細部までには気付かなかった。予想通りと思い込んでしまうと、むしろやり込まれてしまう作品。

 と、こういった内容の作品が続くのだが、「さよならシンデレラ」以降になると、ここに掲載されている作品がバラバラのものではなく、ひとつにつながって行くのではないかと感じさせられてゆく。徐々にそれぞれに登場していた人物が次第につながっていくこととなり、驚きは二倍となる。

 ただ、個人的は“つなげ過ぎた”のではないかと感じられる。それぞれの物語の出来がよいので、むしろつなぎ合わせなくても十分ではなかったかと。さらには、この物語だけではなく、著者が以前に書いた<七海学園>のシリーズにまでつなげてしまうのは、まさに“つなげ過ぎ”と言えよう。今まで書かれた他の作品群を読んでいなければ全貌が理解できないというのは、ハードルが高すぎると思えてならない。


わたしの隣の王国   6点

2016年09月 新潮社 単行本

<内容>
 高校を卒業したばかりの杏那は、恋人で研修医の優と、人気テーマパーク“ハッピーファンタジア”でデートすることとなった。杏那はこのテーマパークのファンで、日ごろ忙しい優と是非とも一緒に行きたかったのである。しかし杏那はテーマパーク内にあるホテルのエレベータ付近で道に迷い、突然別世界に迷い込むこととなる。一方、優は杏那を捜そうと歩き回っていると、室内で死体を発見することとなり・・・・・・

<感想>
 現実の世界と、架空の世界を舞台に繰り広げられるミステリ作品。ただ、架空の世界のパートのほうがなぁ・・・・・・

 一応ミステリではあるのだが、架空の世界で繰り広げられるものは、冒険という趣が強い。この架空の世界のパートはいらないのではとさえ思えたのだが、最後まで読むとそれなりの必然性があるということはわからないでもない。ただ、この架空の世界が何がなんだかごちゃごちゃしていて(ディズニーなのか、USJなのか)背景が実にわかりづらい。もうちょっと単独の背景と、限られたキャラクターに収めてもよかったように思われた。

 ミステリとしての要素は、現実の世界での死亡事故。主人公のひとりがその死体を発見することとなるのだが、一見犯人がどこからも入ることができないという不可能犯罪の状況。それをどのように解決していくか、というところが焦点となる。これに関してもきちんと解決がなされているのだが、この書き方だと短編くらいのネタのようにしか思えなかった。

 全体を通してみれば悪くない作品のような気はするのだが、どこか無駄だったり、どこか冗長に思えたりと、バランス感に欠けていたような。テーマパークのネタが、実在のものを扱えなかったというところが一番もったいないところだったのかもしれない。




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