<内容>
尾崎千鳥は2014年1月に交通事故に遭い、両親を亡くし、千鳥自身は記憶に障害を持つこととなった。その障害とは、交通事故に遭った日にちが近づくと、1年分の記憶を喪失してしまうというものであった。2015年、2016年、2017年と記憶を失い、2014年のあの日に記憶が戻ってしまう。そうしてまた、それまでの記憶を取り戻す日々が続く中、尾崎は小説家だと名乗る天津真人と出会う。天津は千鳥のことを知っているようであるのだが、何故か彼女に賭けを持ち掛け・・・・・・
<感想>
これまた買い逃していたメフィスト賞受賞作。講談社タイガから出たのは初という事であるが、今後は単行本よりもこちらの形態で出てくることが多くなりそう。まぁ、基本的には講談社ノベルスからではあると思われるのだが。
内容については、タイトルからもわかるように、いかにも最近の恋愛物語的なもの。サスペンスというほどのものでもなく、ちょっとした謎が秘められた恋愛物語というような感じ。
ページ数もさほど多くなく、読みやすい作品であった。さらに言えば、内容もさほど悪くない。というか、後半にとある真相が明らかになると、物語の捉え方が180度変わるように描かれている。楽し気な内容と言うよりは、苦難の末に希望を見出すというようなものであるが、切実さは十分に身に染みるものとなっている。
<内容>
“ヒトデナシ”という怪異が存在する異世界の話。怪盗・無貌によって顔を奪われた探偵・秋津は、押しかけの探偵助手となったばかりの少年・望を連れて、ヒトデナシに狙われているという鉄道王の館まで出向くことに。そこで秋津らは、鉄道王・榎次郎の孫である霞の警護にあたる。しかし、探偵の存在をよそに榎家の人々が次々と殺害されてゆく。そして犯人の魔の手はしだいに霞へと・・・・・・秋津と望は怪事件の謎を解き榎家を守る事ができるのか!?
<感想>
ファンタジー系のミステリ作品である。むしろファンタジーと呼ぶよりは、伝奇系ミステリと言ったほうがしっくりとくるかもしれない。
本書の世界は“ヒトデナシ”という異形の力が存在する世界。そのなかでも特に、人の顔を盗む“無貌”というものが世間を騒がせているという背景の中で探偵が活躍すべき事件が起きてゆく。
基本的には横溝正史系の事件が起き、その謎を主人公らが解き明かしてゆくというもの。そこに背景となる伝奇の世界が入り込み、ミステリの論理的な設定のなかに割り込んでくるように造られている。
結論から言えば、思っていたよりもよくできていると感じさせられた。これはなかなかうまい具合に仕上がっているといえるのではないだろうか。探偵とその助手が抱く、それぞれの葛藤といい、その他のキャラクター造形もそれなりにうまくできている。また、本書は普通に探偵小説としても充分に堪能できる内容にもなっている。本編中にちりばめられた数々の伏線がきちんと回収されており、その出来栄えには感心させられてしまった。
とはいえ、気になったのは伝奇的な設定が本書のトリックのためのだけの設定のように感じられてしまうこと。よって、用いられているトリックの基本的なところは想像がつきやすいものとなっている。
ただ、今後この作品の続編ということでシリーズ化していくようなので、次回作でどれだけ伝奇的要素をうまくとりこんでゆくことができるかにかかっているといえよう。秋に出る予定らしい続編を楽しみに待つとしよう。
<内容>
神出鬼没の“ヒトデナシ”無貌が逮捕された。その報を受け、「夢境ホテル」に集められる三探偵。三探偵の一人、秋津承一郎の弟子である古村望も一緒にホテルへと行き、「夢境ホテル」で毎年起こる1週間の“夢”を体験することとなる。望は夢のなかで孤立するものの、ホテル探偵を命じられ、次々と起こる怪異の謎を解かなければならなくなる。そうこうしているうちに死体が発見されることとなり・・・・・・
<感想>
なんとなく、どうこう言えないのだがとにかくメフィスト賞受賞者らしい作品・作風だなと。
本書は一応、ミステリっぽく書かれているものの、厳密にミステリとは言いがたい。というのも、謎があらかじめ提示されるわけではなく、不可解な場所で不可解な出来事が次々と起こり、それらをただ追っていくという内容だからである。よって、ミステリというよりも、どこかファンタジー風の設定の群像小説とでも言ったほうがふさわしい気がする。
作中には、正体不明の人物が多々出てくる。主人公を取り巻く、シリーズキャラクターらしい人たちはともかくとして、今回初登場となる秋津以外の三探偵の二人の目的も終盤までは不可解なまま。それ以外にも、夢の世界で誰かを殺害しようとする暗殺者、その暗殺者よりも凶暴な蒐集者、痴呆気味の老婆、その老婆をさらって身代金を取ろうとする詐欺師、患者の体内に置き忘れてきたものを秘密裏に奪い返そうとする医者と看護師、等々。
こうした正体不明の人が集まり、それら全てがどのような真の目的をもって、何をしようとするのかを追っていくのが本書の主な展開となっている。
これら一つ一つの事象が複雑に組み合わされるのかと思っていたのだが、終わってみればさほど関係ないという事柄ばかりだったように思え、若干拍子抜けしてしまった。一応、本書のメインとなるミステリパートはあったものの、そこにもう少し味付けするような内容であってほしかったというのが率直な意見。
さまざまな物語が展開されたものの、結局のところ平行線のままで終わってしまっている。このへんのあいまいさというか、あえてミステリ的に濃くならないところというか、こういう作風が最近のメフィスト賞らしいというか、結局ライトノベルス程度に収束してしまっているという感じである。
来年にはまた続編がでるようだが、次回作を読んでから、今後このシリーズを読み続けるかどうか検討しようと思っている。
<内容>
秋津承一郎は「人形を見せてあげる」という岬遥の誘いにより、彼女の実家へと連れられてきた。そこは湖に浮かぶ島であり、数多くの“ヒトデナシ”が封印されている特別な場所であった。秋津は遥の姿を見失い、そこに住む人形をかかえた5人の男たちと出会う。彼らは皆、遥の父親であるという。この奇妙な館の中で秋津は奇怪な体験をすることとなり・・・・・・
<感想>
「無貌伝」というタイトルの作品が既に2冊出ているが、本書はそれらの前譚の話であり、秋津承一郎の過去が書かれた作品のようである。一応、シリーズとして続けていく作品のようではあるが、登場人物の過去などを持ち出して話を進めるならば、もうちょっと短い期間で出版してもらいたいところ。これだけ期間が空いてしまうと“秋津承一郎の過去”とかが書かれていてもいまいちピンとこなかったというのが正直なところ。
今回の作品はずいぶんとミステリからかけ離れていると感じられた。ミステリっぽいところはあるものの、全部読んでみれば幻想譚と言った方がふさわしい内容であった。ある程度ミステリっぽく書かなければならないという制約があるかもしれないが、あえてミステリ的な要素を入れたことによって、かえって作品が薄っぺらくなってしまったように思える。話としては連続殺人事件を描いたようにも思えるものの、真相が明らかになると、“事件”のように舞台構築する必要があったのかと疑問を感じる内容であった。
と、この「無貌伝」も3作読んできたものの、だんだんとミステリとしての濃度は薄まりつつあるようだ。今後も続編が書かれるようだが、このシリーズを追うのはもうこのへんで十分かなという気分である。
<内容>
「月まで」
『モルグ街の殺人事件』を論じながら、架空の地図の謎を解く。
「壁と模倣」
『黒猫』を論じながら、学生の自殺騒動の謎を解く。
「水のレトリック」
『マリー・ロジェの謎』を論じながら、川から薫る香水の謎を解く。
「秘すれば花」
『盗まれた手紙』を論じながら、失踪した准教授の謎を解く。
「頭蓋骨のなかで」
『黄金中』を論じながら、詩人の行方の謎を解く。
「月と王様」
『大鴉』を論じながら、部屋に閉じこもった老研究者の謎を解く。
<感想>
端正に仕上げられている作品といってよいのであろうか。それでも、決して取っ付き易いとはいい難く、ポーの作品に対する考察もうまくできているのかそうでないのかよくわからず、ミステリとしては物足りなく、キャラクターの造形もやたらと甘いと感じてしまう。何か、いろいろと微妙な点が多いものの、これ以上難しくすれば読み上げにくく、分量を増やせばさらにとっつきにくくと考えてみると、意外と絶妙な配分で構成されている作品と言えるのかもしれない。
基本はエドガー・アラン・ポーの作品をモチーフとし、そこに日常の謎を取り入れつつ、主人公と探偵役が会話を交わしながら謎を解いていく。ミステリ部分が薄目というか、やけにせまい範囲のみで収束しているとか気になる点はありつつも、きちんとできているとも思えなくもない。
決して強く印象に残る作品というわけではないのだが、軽い当たり口でほのかに他の作品とは異なる印象を残す作品。
<内容>
24歳という若さで大学教授となった“黒猫”とその助手の“私”は劇場オーナーの関係者の誘いにより、若きプリマドンナが演じる「ジゼル」を鑑賞しにいく。しかし、第一幕の最後でハプニングがあり、そこで急きょ閉幕。この「ジゼル」には曰くがあり、5年前にプリマドンナの姉が「ジゼル」を演じた時に舞台上で死亡するという事件が起きていたのである。今回のハプニングは5年前の事件に関係があるのか? 事件が気になった私は単身調査を始めるのだが・・・・・・
<感想>
昨年「アガサ・クリスティー賞」を受賞した著者により、2作品目。前作の続編でもある。前作は連作短編であったが、今回は長編に挑戦している。
読み終えてみれば、全体的にうまくまとまっており、よくできているという印象。過去の事件と現在の事件、そして事件を取り巻く二人の女性と一人の男、それらの屈折した関係がうまく表され、見事な出来栄え。
ただ、読んでいる最中は事件性も薄く、物語の動きをさほど多くないので、やや退屈。黒猫教授による文学講義や、物語全体をとりまく独特な雰囲気を楽しむことができる人にとっては、そう退屈と感じられることはないかもしれない。好みは人好き好きといったところ。
<内容>
本人は平凡な実力しかないと思っていたが、新しく来たコーチの夏陽子によって、ダイヤモンドの瞳を持っていると実力を見出された中学生の坂井知季。かつでダイバーであった祖父から教わり、津軽の海へとダイブし続けていた沖津飛沫。飛び込みの選手であった両親を持つ、サラブレッドの富士谷要一。飛び込みに青春を懸け、オリンピックへ挑む三人の選手の姿を描いた青春スポ魂小説。
<感想>
ミステリーではないのだけれども、本屋でこの文庫を見かけ、しかも森氏が直木賞をとったということもあって興味を持ち、購入してさっそく読んでみることにした。すると、これが面白いのなんのって、とにかく一気に読んでしまった。簡単に感想をいえば、よくできた青春小説であると。ちょうど、今読み続けている、あさのあつこ氏の「バッテリー」に似たような雰囲気を持っている・・・・・・と思って読んでいたら、文庫の上巻のあとがきは、あさの氏が書いていた。
と、ダイビングに青春を燃やす少年達を描いた作品であるのだが、これがとにかく面白かった。書き方も面白く、上巻の前半は素直な中学生・坂井知季の章、上巻の後半は気難しい青森の高校生・沖津飛沫の章、下巻の前半は優等生の飛び込み選手・冨士谷要一の章と分けられている。そして、最後の章では、競技を通して主人公の三人のみならず、彼らにかかわった人々にもスポットが当てられ、話がまとめ上げられていくというもの。
読んでいて感じたのは、少年達が素直だなぁー、と思えたところ。自分であれば、こんなこと言われたり、こんな目にあったら、とっくにひねくれてるよなぁと感じずにはいられなかった。それとも、私自身も若い頃はこんな素直なときがあったのかなぁー、などと目を細めて考えてみてしまう。
ただ、本書にひとつ注文を付けるとするならば、多視点にせずにもうちょっと、坂井知季にスポットを当てて書いてもらいたかったなぁというところ。ラストの章では多視点にした事による効果もあったとは思うのだが、最後はもっと三人の選手に着目してもらいたかった。特に一番素直だと感じ入ったお気に入りの知季がもっと活躍してくれればなと思わずにはいられない。
まぁ、このくらいの注文はちょっとした愚痴にすぎないということで、とにかく楽しめることは間違いのないこの本。ミステリーや難しい本ばかり読んでいて、頭を休めたいという方は是非とも読んでもらいたい。手に入りやすい今がチャンス!
<内容>
人間に化けることができる化けネコのウィリー。彼は窮地に追い込まれていた。人間に化けて、飼い主の狼森ユキとその他二人でバカンスに島へとやってきたのだが、そこでは同じ化けネコのプルートが人間カンヅメ工場にて、新鮮な人肉ミンチを作ろうと待ち構えていたのだ。ウィリーはユキを殺されまいと、プルートの隙をついて逃げようとする。プルートのほうは、島にやってきた4人のうち、どれがウィリーかわからない状態。プルートは、ウィリーの正体を突き止め、他の三人をミンチにしようと試みるのであったが・・・・・・
<感想>
森川氏の作品を読むのはこれが初。この作品の続編である「スノーホワイト」が第14回本格ミステリ大賞を受賞したとのことで興味を抱き、森川氏の処女作であるこの「キャットフード」を買ってみた。さっそく読んでみたのだが、これがまた予想を超える怪作であった。
物語の語り手たちは、人間ならぬ、人間に化けることができるという化けネコたち。その化けネコの一派が、人間をカンヅメにして食するためのカンヅメ工場を作り、そこへ人間を追い込もうとする。そして、別の化けネコが、自分の飼い主を守ろうと、知力を駆使してバカンスに来た孤島から逃げようとする。コンゲームと言えないこともない、二つのサイドによる騙し合いが繰り広げられるという内容。そこに名探偵と名乗る三途側が出てきたり、予想だにせぬ別の人物が出てきたりと、最後の最後まで油断のできない内容。
一見、論理的な内容のようにも思えるのだが、“論理的”と言えるほど厳密でもないような。むしろ、次の展開が読めない、サスペンス小説のようにとらえたほうがよいのだろうか。予想だにせぬというよりも、予想できないのが当たり前という展開が次々と繰り広げられる騙し合い、化かし合い。ミステリというよりも、一風変わったゲーム小説というような感じで楽しむことができる作品。ただ、この続編が本格ミステリ大賞を受賞したというのは興味深い。それが、どのような内容の作品になっているやら? 決して、この作品を読んだだけでは想像もつかないようなものになっているのではと考えると、興味がつきない。
<内容>
魔法の鏡の力を借りて探偵の仕事にいそしむ12歳の襟音ママエ 。そんなママエを心配しながらも暖かく見守る小人のグランビーイングラム。さまざまなちょとした事件を解決していく中、ママエはふしぎの国で次の女王を目指すダイナから命を狙われることとなる。ダイナはママエさえいなければ、女王になることができるのであった。この世界に不慣れなダイナは、ママエの存在をうとましく感じていた探偵・三途川理に目を付け、協力を依頼するのであったが・・・・・・
<感想>
第14回本格ミステリ大賞を受賞した話題作。シリーズ前作である「キャットフード」を読んだときも一筋縄ではいかないミステリ小説と感じたのだが、本書はそれをうわまわる内容の作品。
推理小説も変わったなと思うのだが、本書の設定について。この作品のなかで、小人がでてきたり、不思議な鏡が出てきたり、不思議の国が存在していたりするのだが、それに関する説明というものは一切ない。まるで、それらがあるのが普通であるかのように物語は進められてゆく。20年くらいまでにこういった作風のものが書かれてもとうてい受け入れられなかったであろうが、今の世であれば不思議と素直に受け入れられるのだから不思議なこと。それだけ、世の中も変わってきているということか。
内容は、謎を解くというよりは、とある陰謀に対して、それを成し遂げようとするものと防ごうとするものの戦いを描いた作品と言えよう。それが単なるバトルモノではなく、事細かに論理を展開しながら行っているところが本書の特徴であり、そのきめ細やかな論理こそが本格ミステリ大賞を受賞した要因であろう。
一見、全てが語られているように見えつつも、しっかりと読者に伏せられている部分もあり、最後まで読んでみれば、なるほどと思わされるところもある。また、史上最悪のキャラクターともいえる三途川理の存在が突出していて面白い。軽めながらも理屈っぽい、独特の世界観を楽しむことができる新しい推理小説。
<内容>
本を読むのが好きな小学6年生の芙美子は、学校帰りの公園の砂場にて、南エリカ博士と出会う。その博士が言うには、ゴーレムを完成させたというのである。芙美子は博士に連れられ、実際のそのゴーレムを目の当たりにすることに。そして数日後、芙美子が同級生で少年探偵団の一員の古沢君と一緒に学校から帰る途中、再び憔悴した南エリカ博士と出会うことに。その博士曰く、ゴーレムから脅迫され、いやいやもう一体のゴーレムを作っているというのである。3人は協力して、ゴーレムを破壊することを計画する。しかし、その計画を聞きつけたゴーレムによって反撃を受ける。そして、大きな危機を迎えたとき、古沢君が所属する少年探偵団を率いる名探偵・三途川理が登場する!
<感想>
今作では“フランケンシュタインの怪物”に挑戦している。作中に登場する“ゴーレム”の創生や悩みに関してはまさしく“フランケンシュタインの怪物”であるのだが、能力に関しては、はるかにそれを
上回るものとなっている。その特殊能力を持つ怪物と、少年探偵の知恵比べが語られることとなる。
ただし、当然のことながらそれだけで終わるものではなく、中盤から名探偵・三途川理が登場することによって物語はさらにかき回される。彼の登場によって、何がどうかき乱されることとなったのかを、読者は推理していかなければならない。
今作は、大きな謎を解くというよりは、その場その場での出来事を細かい推理によって、相手を行為を先読みしつつ行動していく、というような展開で描かれている。ゆえに推理小説というよりは冒険小説という趣が強い。また、今回も最終的な探偵役は誰になるのかが注目されるところであるが、これはある意味意外といえよう。最初の登場時は添え物っぽいような役割なのかと思っていたのだが、徐々に力を発揮し始め、最後まで駆け抜けていってしまうところは、その人物の成長を表しているようでもある。
細かい推理をいちいち考えながら、というよりは、スピーディーな話の展開のまま一気に楽しんでいった方が面白いのではなかろうか。一気読み必至の“少年探偵対怪物”系の冒険ミステリ。
<内容>
人の記憶を宝石に変えてしまう魔法の指環を持つ青年・カギノ。カギノはその力により、人々の思い出を盗むことを仕事としている。ある日、依頼によりひとりの男の記憶を盗むことになったのだが、そこに現れたのが名探偵・三途川理。三途川に魔法の指環を奪われ、窮地に立たされるカギノ。カギノは助手のユイミと共に指環を奪還しようとするのであったが・・・・・・
<感想>
名探偵・三途川シリーズが復活! といっても、私はこのシリーズ文庫本で読んでいたので、つい最近「踊る人形」を読んだばかりであり、むしろ続けてシリーズ作品を読むことができている。ただし、シリーズといってもそれぞれの作品に関連性はほとんどないので、どこから読んでもよいと思われる。ただ、このシリーズにおける名探偵・三途川理の特異性というものがあるので、講談社文庫から出ている作品から読み進めていった方が、取っ付きやすいかもしれない。
今回の作品であるが、内容については、やや不満が残るものとなっている。というのは、ミステリ的な要素は少なく、探偵対怪人のような冒険ものという赴きが強かった。まぁ、正確にいえば怪人対怪人という雰囲気であるのだが。見どころは、三途川が何度も思い出を失いつつも、何度もカギノの存在を暴くやりとりくらいか。
また、今作は話がきっちりと完結されていなかったような。シリーズでは初の続編というか、同じキャラクターが二つの作品にまたがるのかな?
<内容>
“黒髪の乙女”に恋する男は、ただひたすら彼女の姿を求めて、その後を付回す。一方、当の“黒髪の乙女”はそんなことは露知らずと好奇心の向くまま夜の町を、古本市を、学園祭を、流行風邪のなかを闊歩してゆく。
<感想>
読み始めてすぐに「おともだちパンチ」にやられてしまった。やられてしまったというか、惹きつけられたというか、萌えたというか、なんかそんな感じである。
一見、無垢の女の子を追い求めるストーカーの話、というだけで終わってしまいそうなのだが、よく考えてみてもそれだけの感想で終わってしまいそうな気がする。
本書が面白いのは“黒髪の乙女”が好奇心の趣くまま歩き続ける道中で出くわす数々の珍事件と、個性的な人々。それらの人々と邂逅しつつ、事件が収まったり、収まらなかったりしながら話が進められてゆく。一見、能天気なロード・ノベルともとれないこともないのだが、この“黒髪の乙女”の無邪気な個性が物語り全体を一切いやみのない場所へと導いている。
とにかく何がどうとも言う事はできないものの、何かほのぼのとして楽しい作品と相成っている。老若男女関係なく、広い世代の人々に手にとってもらいたい作品である。あと、学校の夏休みの読書感想文を書くための推薦図書として、こんな本が挙げられていれば面白いと思うのだが。
<内容>
「山月記」
「藪の中」
「走れメロス」
「桜の森の満開の下」
「百物語」
<感想>
上記の<内容>に記した有名な文学作品5作を森見登美彦氏が現代作品として書き表した作品集。
実は私は、これら5作のうち読んだ事のあるのは「走れメロス」のみ。それも教科書で読んだ事があるというだけである。
というわけで、読んでもそれほど楽しむ事ができないかなと思われたのだが、それでも従来の森見氏らしい小説となっており、十分楽しむ事ができた。むしろ、これを読んだことにより原作の方も手に取ってみようかなと思えたほど。アプローチの仕方は逆であるが、現代の若い人にとってはこのような逆の読み方で楽しんでもらった方が、昔の文学作品への手軽なアプローチの方法になると言えるかもしれない。
それぞれの作品については、当たり前のことながら一番楽しく読む事ができたのが「走れメロス」。想像していた以上に無茶苦茶な内容になっており、誰もが楽しんで読めること請け合い。なんだったら、この作品だけ立ち読みしてくれてもかまわないと思う。
ただ、この「走れメロス」、全体の作品群の中から見ると、これだけが浮いているようにも思えてしまう。他の作品はある程度の落ち着きがあるので、やたらとドタバタ劇が目立つメロスのみがちょっと違う作品と感じてしまうのである。
とはいえ、楽しめる作品であるのは確かなので、是非とも手にとってもらいたい作品である。文学小説に興味のない人も森見氏の作品に触れれば、多少興味が持てるようになるのではと思えてくる。
<内容>
「きつねのはなし」
「果実の中の龍」
「魔」
「水 神」
<感想>
過去に読んだ森見氏の作品は、どことなく人をくったようなユーモアに満ちたものであったが、この作品はホラーといってもそん色がないような雰囲気の作品となっている。森見氏の新境地とも言えそうな作品。
京都という場所を中心に語られる四編の奇譚。そのどれもが暗さと重い雰囲気に彩られ、奇譚集・ホラー作品集として綺麗に仕上げられている。そういったなか、全編にわたって、もどかしさが感じられるのもまた特徴といえよう。
四編のどれもがはっきりとした解を示さず、どこかに謎を残したまま終えている。さらには、四編それぞれが芳蓮堂という古道具でつながっていそうでありながら、つながってなさそうであり、そういったところにも、もどかしさを感じてしまうのである。
当然のことながらミステリ作品ではないのでわざわざつながりや伏線を付ける必要はないのだが、なんとなく読んでいるほうとしては、そういったところに期待してしまうのである。
ひょっとすると、そういうもどかしさを読者に与えることこそが、著者の狙いであったというのはうがちすぎであろうか。ようするに奇譚集としては実にうまくできた作品だということなのであろう。
<内容>
狸の名門と呼ばれた下柳家であったが、偉大な父親が狸鍋にされて亡くなり、その後残された四人の兄弟は問題児ばかり。まじめで融通がきかない長男・矢一郎、蛙に化けたまま井戸にこもりっきりの次男・矢二郎、まだ幼く臆病者の矢四郎。その中で、三男・矢三郎は天狗の師匠や、天狗になりかけの人間・弁天らの元を訪ねながら、一人(一匹)気楽に街を駆け回る。しかし、四兄弟にやがて父親を襲ったのと同じ、試練の時が訪れ・・・・・・
<感想>
たぬきファンタジー。特にこれといった理由もないまま、普通に狸やら天狗やらが街をかっぽしている。とはいえ、狸らは一応人間に化けているようで、当の人間達はまさかタヌキやら天狗やらが共存しているとは気が付いていないよう。
そんな中、四人の狸兄弟らがのほほんという雰囲気ながらも、骨肉の争いを繰り広げる。争いと言いつつも、さほど切迫感はなく(実際には狸鍋にされる瀬戸際なので大変な事態なのだが)終始のんびりとした雰囲気で彼らの生活ぶりが紹介されるといった物語。
いつもながらも森見氏らしい作調で語られているので、ファンであれば十分に楽しめる内容であろう。初めて読む人にとっては、狸が普通に生活しているのだから、あっけにとられると思うが、読んでいるうちに細かいことは気にならなくなってしまう。時代設定は現代だと思われるのだが、どこか昔話のような雰囲気があり、懐かしさを感じ取ることのできる内容になっている。何も考えず、力を抜いて気楽に楽しむことのできる小説である。
<内容>
小学校四年生のアオヤマくんは、将来えらい人間になろうと、日々の出来事や研究をノートに記録している。友人のウチダくんと一緒に研究をしたり、歯科医院のお姉さんとチェスをしたり、自ら課した課題を研究したり、充実した日々を過ごしていた。そんな彼が住む町に、突然ペンギンが現れた。そのペンギンはどこからともなく現れ、いつの間にか姿を消すということを繰り返していた。アオヤマくんは、そのペンギンを出しているのは、歯医者のお姉さんであることに気づく。そして、彼はお姉さんとペンギンの研究を始めるのであったが・・・・・・
<感想>
森見氏によるSF作品・・・・・・ということで、小難しい内容のものを想像していたのだが、そんなことはなく読みやすい内容。というよりも、小中学生の課題図書になってもおかしくないくらいの内容であったかなと。実のところ子供向きの作品か。
主人公の小学4年生のアオヤマ君が自身の研究を通して不思議な事象に立ち向かっていくこととなる。このアオヤマ君は普通の小学生と言うよりも、一風変わった小学生。むしろ友人のウチダ君のほうが、ごく普通の小学生といえよう。オアヤマ君はクラスのガキ大将にからかわれても怒らず、小学生として不遇なことが起きてもひたすら怒らず、常に冷静に状況を分析していく。
ただ、このアオヤマ君、老成した小学生ゆえに、恋心や嫉妬心といった普通の感情を理解できないのが玉にきず。また、彼の心はひたすら歯医者のお姉さんに傾いているので、余計に周囲の感情に気づくことができなかったりする。
そんなアオヤマ君の周辺事情は、ある種微笑ましい状況と言えるのであるが、彼が住む小さな町に、そのお姉さんを中心とした奇怪な出来事が起き始めることにより徐々に変化していくこととなる。その出来事によって、アオヤマ君自身が変わってゆき成長を遂げたようにも感じられるのだが、実際には彼の愚直な思いは決して変わることなく、大きな事件が起きてもアオヤマ君はアオヤマ君のままで居続けているというようにさえ思えてしまう。
単なる子供の成長物語ではなく、例え子供であっても変わらず持ち続ける思いというものも存在するということを痛感させられるような作品。
<内容>
秋庭市の行政政策上、とんでもないはずれの原っぱに建てられた秋庭市立秋葉図書館。利用者の少ない中、文子をはじめとする図書館員らは熱意を持ちながらも、日々のんびりと働いていた。そんな図書館にも、やがて少しずつ町の人々が訪れてくるようになるのだが、それとともに一風変った数々の事件に巻き込まれる羽目に。
閉館後の図書館に居残ろうとする小学生達、本を並べることにより作られた暗号、貸し出しリストが外部に漏れる事件、等々。
<感想>
題材としては魅力的だと思われるものの、全体的にちょっと微妙だったかなとも感じられた。ミステリーとしては“日常の謎系”というジャンルに属すると思えるのだが、そのわりには文章に堅さが感じられた。この著者にとっては2冊目の本であるのでしょうがないことだとは思えるのだが、やはり“日常の謎系”を書くのであれば、もう少しやわらかい筆致で書いてもらいたいところである。
また、内容もミステリーとして読むのにも物足りなさが感じられた。伏線であるとかそういったものがあまり感じられず、解決なども唐突な推理のように思われた。特に本書では探偵役を登場させているのだから、そのへんをもう少しうまく生かしてもらいたかった。
また、最後のほうの短編では、図書館外での話になってしまったり、変に女としての生々しさが描かれていたりと、流れの上でも違和感が感じられた。あくまでも図書館ひとつの出来事としてまとめてしまったほうが良かったのではと思われる。
少々きつめの意見となってしまったが、こういった作風のものは最近多々描かれているし、なんといっても北村薫氏、加納朋子氏といった2台巨頭が存在するのでどうしてもそれらの作品と比較せずにはいられないのである。“日常の謎系”で勝負していくのであれば、もうひと工夫欲しかったと言うところ。
<内容>
大学生の秋月昌平はテコンドーを学ぶ大学生。昌平はテコンドーの修行のため韓国を訪れようとしていた矢先、瀕死の男に遭遇する。その男は韓国人であるらしく、「これを大統領に渡してほしい」と昌平は何かの鍵を託される。この出来事によって昌平は日本と韓国の関係を揺るがす国家の陰謀に巻き込まれてゆく事に・・・・・・
<感想>
スパイ小説、謀略小説という事なのであろうが少々微妙に感じられた。確かに内容はそれなりに簡潔にまとめられており、うまくできているとは思える。ただ、その分これといった特徴もなかったのも事実である。
この作品には主人公が存在するのだが、どうもその影が薄すぎたように思える。内容上細かい事を説明するためにどうしても多視点の小説にならざるを得ないことはしょうがないのであろうが、それによって個々のキャラクターの印象が薄まってしまっている。また、とってつけたかのようなヒロインなど必要のなさそうな人物なども目立っていたと感じられた。
また“韓国”という国を強調しているにも関わらず、中味的には日本よりというか、いかにも日本人が書きましたという内容もどうかと思えるところ。
こんなところにも日韓ブームの余波が現われたのかと思うとげんなりだが、少なくともメフィスト賞で出さなければいけない小説ではないだろうと感じられた作品。
<内容>
飛行機のハイジャック事件、新興宗教による信者大量消失事件、市役所の福祉部門での身元不明死体が消えていく謎、建築物を見学に来た学生達が発見した白骨死体。これらの事件を結びつける秘められた謎とはいったい・・・・・・
<感想>
門前氏は鮎川賞受賞作家であり、今作が2作品目となる。
本書を読んで感じたのは、惜しいという一言。この作品は300ページ強という長さの作品なのだが、もう少しページ数が多いほうがよかったのではないだろうか。前半に多くのエピソードが紹介されるも、そのそれぞれの細かいところまではほとんど消化しきれずに終わってしまったという感じがした。せめて、飛行機事故のエピソードくらいはもっとページ数を割いて物語を展開させてもよかったのではなかろうか・・・・・というか、飛行機事故のパートがメインでもよかったくらいと思われるくらいである。
そんなわけで、メイントリックやラストで明らかにされる陰惨な事実など、さまざまな事が書き込まれているも、やや未消化気味で終わってしまったという感じ。着想としては面白いと思われるので、今後も本格ミステリを書き続けてもらいたい作家である。
<内容>
美島教授の死後、改築され、その妻の手によって完成された館。そこには生前、美島教授が集めたさまざまなコレクションが収められていた。そのコレクションのなかには数多くの拷問道具が含まれていた。
その館に、教授と親交のあった6人の男女が招待された。6人が館に集まったものの、当の美島教授夫人は姿を現さず、客たちだけでくつろいでくれとの書置きが残されていた。そうして6人が館ですごすことになったのだが、次々と殺人事件が起こることに!
<感想>
面白かった。面白く読むことができたし、ミステリ作品として十分楽しめた。“雪の山荘”ものの作品で、これだけ楽しめた作品というのも久々かもしれない。
6人が集められた館の中で、次々と殺人事件が起きていくという内容。そうしたなかで“そして誰もいなくなった”ばりに、事件が進行してゆく。最後の方では、どう考えても犯行を行えたものがいないという不可解な状況のまま、事件は集結してしまう。事件後にようやく探偵が登場し、全ての謎を解き明かすこととなる。
ひとつひとつの謎については、かなり強引なものもあるのだが、全体的に見ればよくできている作品といえよう。島田荘司ばりの奇想があり、倉阪鬼一郎ばりの遊びも付け加えられている。メインのネタとしては、過去に似たようなものを見たことはあるのだが、閉ざされた山荘の中でうまく使いこなされていたと思われる。
大味で、これぞ本格ミステリと称賛したくなる作品。
<内容>
空調機メーカーに勤める鈴木慶四郎は島根県と山口県の県境にある鳴女村へと向かった。差出人不明の手紙に、自分の出生に秘密を知りたければ鳴女村の灰王家へ行けと書かれていたのであった。幼少の頃の記憶がない慶四郎は手紙の内容が気になり、実際に灰王家を訪ねることとなった。そこは元は温泉宿であったものの、現在は閉鎖され、灰王家には女将とその娘、一人の使用人のみの3人が住んでいた。この灰王家では昔、座敷牢にて奇怪な密室殺人事件が起きていたのだという。そして、同様の事件がまた現代にも甦ることに・・・・・・。慶四郎のピンチを救うべく、親友の雪入が助けに来てくれたのだが、その雪入が犯人の魔の手にかかり・・・・・・
<感想>
今作もまたやってくれている。練りに練った内容、凝りに凝ったミステリ作品となっており、本格ミステリファンを楽しませてくれること必至である。まさに新本格ミステリの系譜を継ぐ作品と言うことができる内容。
ただ、今作で気になったのは、メインとなるトリックというかネタがあるのだが、それがやや分かり易いということ。大雑把なところが中盤までにはだいたいわかってしまうので、サプライズという面ではやや印象が薄くなってしまっている。
それでもメイントリックのみだけでなく、全体的に細部にわたってミステリのネタを事細かに張り巡らせているところには感心させられた。最後の最後まで予断を許さない作品である。
というわけで、メイントリックがわからなければ、結構驚愕できる作品ではなかろうか。ちょうど最近とあるテレビ番組でこれに関連する内容のものを見てしまったので・・・・・・
<内容>
結婚式場を経営する男が書く“殺人計画書”。そこには、独立を計画する四人の社員を殺害する計画が事細かく記されていた。
蜘蛛手建築&探偵事務所にて、共同経営者として働く宮村達也は、建築現場で作業所長の平松と会っていた。そこは新たな結婚式場を建設する予定であったが、施工内容の変更により工事がストップしていたのだった。大雨の中建設現場を確認しようとする宮村と平松は、密室と化した倉庫のなかで大斧をふるう首無し男を目撃する。その地は昔、刑場であったため首無し男の伝説が残っていたのだった。鉄砲水により現場が荒らされ、警察は二人の目撃証言を信用してくれなかった。しかし、新たな死体が発見されたことにより、事態は急展開を見せることに! 遅れて現れた蜘蛛手により事件の調査が進められ、蜘蛛手は驚愕の真相を口にする。
<感想>
本格ミステリらしい作品であるのだが、いろいろと気になるところが多かった。事件が全て起きてから、それを推理するというものではなく、事件の状況というか、死体発見に至るまでの展開が小出しに流れていくので、メリハリが付けづらい。なんか話全体が流動的というか、不可能犯罪を強調するべきところがわかりにくかったように思われた。
ミステリとしてのポイントは、懇切丁寧に書かれた“殺人計画”の存在、首無しの加害者と首無し男の伝説、殺人事件が実際にはどのようにして成され、どのようにして死体が隠されたのか、さらには発見された死体の不可解な姿勢、など。そして事件全体の真相が探偵役である蜘蛛手によって徐々に明らかにされてゆく。
この作品の一番のポイントというか、見るべき点は不可解な姿勢で拘束された死体の状況にあるといってよいであろう。実際にはメイントリックというわけではないのであろうが、ここが一番印象に残った。むしろメインと言ってもよい“殺人計画書”のほうは、わかりやすかったような気がする。
本格ミステリとしてのコード満載で、見どころも色々とあるものの、何となく見せ方に難があったかなと。もう少し面白い作品にできたようにも思えるが、むしろ“殺人計画書”の存在が枷となってしまったのかもしれない。