<内容>
後に著名な画家となった柳楽糺(なぎら ただす)の一代記。彼は少年時代、戦火から逃れるために疎開していた刀掛温泉郷でひとりの少女と出会い、ひとつの事件に遭遇することとなる。彼が恋焦がれる少女が進駐軍の大尉に目を付けられていたのだが、当の大尉が何者かに殺害されることに・・・・・・進駐軍は事を穏便にすませようするのだが、実はその事件には秘密が隠されており・・・・・・
その後も柳楽の人生にはさまざまな事件が付きまとい、2300キロ離れたところにあるナイフによる殺人事件や、完璧なアリバイのなかでの殺人事件などに関わる事に。そして、それらの事件の裏には隠された真実が・・・・・・
<感想>
昨年話題になりながらも、完全にノーマークであった作品である。この著者はあとがきで名前を明かしているので別に言ってしまっても大丈夫だと思うが、ベテラン作家の辻真先氏である。牧薩次はアナグラムとなっている。
さて、ベテラン作家によるミステリ作品とのことだが、これはうまいの一言。うまく物語をつむぎ、そこに実にうまくミステリを関わらしている。
本書はある種、“完全犯罪”というタイトルを付けてもおかしくない内容であると思われる。しかし、“完全犯罪”といってしまうと本書の内容からすればやや安っぽくなってしまわれたであろう。そこをあえて“完全恋愛”として主題をずらしたことによって、ミステリ作品として許容され、物語としての幅を持たせることに成功している。
この作品のなかではいくつかの不可能犯罪が扱われている。ただし、そのどれもが目新しいようなものではなく、ごく普通のトリックが扱われているに過ぎない。しかし、そのトリックを物語の幅を持たせるという意味合いで効果的に生かし、タイトルとなっている“完全恋愛”というテーマをいかに強調させたかが、本書の大きな特徴と言えよう。
この作品がトリック重視の本格ミステリ作品ということを前面に押し出してきたら、正直言ってトリックのネタについては受け入れられない部分もある。ただ、そこをメインに持ってきていないゆえにそれらのトリックが許容できてしまうのである。そういったところが、ベテラン作家たる辻氏のあざとさであり、うまさと言えるであろう。
とにかく良い作品を読めたの一言。これは読み逃さずにすんで心から良かったと思える作品である。
<内容>
矢住鼎(やずみ かなえ)は介護ヘルパーとして働く35歳。矢住は元々は漫画家を目指していたのだが、その夢も挫折しつつあり、しぶしぶながらも今の仕事を続けているという状況。そんななか、矢住は夢か幻か、奇妙な世界で目を覚ますこととなる。そこは彼が忘れてしまったはずの故郷のようであり、初恋の相手がそのときのままの姿で矢住の前に姿をあらわす。その世界で、彼は温泉旅館に宿泊することとなるのだが、殺人事件を目の当たりにすることとなり・・・・・・
<感想>
柳の下に二匹目はどじょうはいなかったようだ。と言っても、著者自身は“牧薩次”名義での作品を書こうとは考えていなかようなのだが、「完全恋愛」が賞などを受賞し、有名になってしまったことにより、別の作品を書かざるを得なくなったというのが事実のようである。
夢のような不思議な舞台のなかでのミステリ絵巻となるのだが、その舞台が何故に構築され、何故このような幻を見ることになったかという意味付けは、うまくできていると思われた。ただ、そこで起こるミステリとしての部分があまりうまいと言えないところが本書の欠点であろう。さらに、物語全体の意味づけはうまくできている中で、温泉旅館で最初に殺害されるカップルに対しての意味合いがきちんと付けられていなかったところも惜しい点であろう。
舞台の意味合いがうまくできていると感じられる反面、夢オチと言ってしまえばそれまでのようにも思えるので、その点を消化できるかできないかで、本書に対する意見は色々と変わってくるのではないかと思われる。読んでいて、最初は「罪と罰」的な話かと思いきや、まるで「オイディプス」のような(あれは父親殺しか)内容のようでもあり、さらにはとあるSF小説のようにも展開していくという変わった作品でもある。こういったそれぞれの要素がしっかりと結びつけられていれば大作になったのであろうが、今作はさらっと書かれたような短めの作品であり、全体的に軽めに感じられたところも、もったいないと思われた。
<内容>
夏休みに入って間もない月曜日の朝。生徒会の仕事で朝早く来た生徒が校舎の窓から中庭に転落したとおぼしき学生を発見する。遺書らしきものも見つかり、どうやら自殺のようだということに落ち着いた。しかし、本当に自殺なのだろうか? 自殺した生徒を知る者たちが推理を巡らせ、たどり着いた真相とは!?
<感想>
出版された当初、ひそかに話題になっていたようだが全く知らず、これを文庫で購入したのもライト系のミステリ小説であろうと思ってのこと。
実際に読んでみると、これがまた難解(中身がというよりも書き方が)で、なんとも内容を理解しにくい小説であった。これは新人作家ならではのデビュー作にふさわしい、デビュー作だからこそ書ける、イタイ青春小説であると結論付けた。しかし、あとがきを読んでみると、これは単なるイタイ小説ではなく、考えられた上で描かれた作品であり、見えにくい中に真相が隠されているものであるということを知る。
そんなわけで、私にしては珍しいことだが、読み終えた後すぐに始めから終わりまで読みなおしてみた。
すると、初読ではあれほどまでに読みにくかった小説が嘘のように内容を理解できるようになった。ところどころに隠されていた妙な言動や謎の行為がそれぞれきちんとつなげられていることに気づかされる。
確かに本書は純粋なるミステリ作品とは言い難いものの、伏線を張り巡らした見事なエンターテイメント小説ということが言えるであろう。再読してみて、ようやくその内容が理解できるという試みはまさしく心憎い限りである。
本書は10年前の本であり、文庫が出てからも半年以上も経っているので今更ながらであるが、ここに自分なりの結論を書きとめておこうと思う。
○今更ながら「ヴィーナスの命題」について考えてみる(ネタバレ注意!)
一読したときは、どうでもいい小説と結論付けてしまったので、これは再読を試みて正解だった。もう一度読まなければこのカタルシスは味わえなかったであろう。
<内容>
二浪の末に京都大学に入学し、新入生となった安倍を待ち構えていたのは、とある怪しげなサークル。怪しいとは思っていても、ついつい誘いに乗ってしまい、そのサークルに入ってしまうことに。安倍と同じく、10名の新入生達はいつの間にか京大青竜会に入り、“ホルモー”と呼ばれる競技に参戦することとなったのだが・・・・・・
<感想>
ミステリではないのだが、話題になっていた作品であったので一読してみたいと思っていた。それがようやく文庫化されたので、これを機にとさっそく読んでみた。するとこれが何とも言えず面白い。
本書は簡単に言ってしまえば、とある大学生の恋愛模様を描いた作品である。それを現代的なユーモアになぞらえて書かれているので、似たような作風の作家をあげれば森見登美彦氏をあげることができる。
ただ、本書には普通の恋愛小説と異なるところがある。それがタイトルにもある“ホルモー”というものである。
この“ホルモー”というのは著者の万城目氏が創作した競技である。それがどのような競技なのかは是非とも読んで確かめてもらいたい。読み始めたときは、この作品は基本として全て現実的なものだけを用いて描かれる作品だと思っていたのだが・・・・・・そこに読み手の想像を超えるような奇怪なモノを用いてきている、ということだけ付け加えておきたい。
ということで、その変てこりんな“ホルモー”という競技と、主人公を中心とした恋愛模様と、ユーモアによって彩られた作品がこの「鴨川ホルモー」である。何はともあれ楽しめることは確かなので、是非とも一読をお薦めしたい作品である。4月から映画のほうも上映されるようなので、映画の前に手にとってみてはいかがか。
<内容>
「きみは神経衰弱だから」。その言葉を教授から告げられ、一時的に大学の研究室から追われた“おれ”は奈良の女子高へと赴任することとなる。赴任して早々に遅刻してきた堀田という生徒と険悪の仲になり、頭を悩ませつつもなんとか学校生活を無難にこなしてゆくこととなる。しかし、そうした平凡な日々もある日突然、鹿から話しかけられたことにより一変することに!
<感想>
話題となっていた「鴨川ホルモー」を読んで多いに楽しむことができ、その次にはこれも話題となった「鹿男あをによし」も文庫化したら読もうと考えていたのだが、今年文庫化されたのを機に購入し、ようやく手をつけることができた。こちらもまた、非常に楽しませてくれる作品であった。簡単に言えば、現代版「坊ちゃん」というところなのだが、いろいろと意表を突かせてくれる展開もあり、次に何が起こるかわからないという意味でも楽しませてくれる小説である。
物語は大学で研究員を務めている青年が女子高で教鞭をとるというもの。本人は気づいていないものの、やや神経衰弱気味の兆候がみられる。そうした状況からのどかな地域、のどかな学校の雰囲気に触れつつ再生していく様子を描いたもの・・・・・・というだけでなく波乱万丈な展開も待ち受けている。何しろ鹿にしゃべりかけられるのだから。
個人的にはもう少し生徒との邂逅の様子が描かれていてもいいのではないかと感じられた。特に主人公にとっての問題児となる堀田とのエピソードはもっと付け加えてくれてもよかったのではないだろうか。生徒との邂逅よりも、動物たちとの邂逅のほうがやや多すぎたように思えたところが唯一の難点か。
と、そんな不満は抜きにして、とにかく楽しめる作品であることは確か。これぞ現代風文学(?)といってもよいような内容。こういう作品って何十年か後には平成の文学作品として紹介されるようになるのだろうか(夏目漱石みたいな感じで)。ただ文学というには、ちょっとファンタジーしすぎているような気がしなくもない。
<内容>
舞台は大阪。東京から来た会計検査院の調査官三人は大阪府にて、いつものように厳しく監査を行っていた。そんななか、監査物件で35年前に行われたきり手つかずのものがあることが判明する。その件を調べていくと、大阪に隠されたとんでもない秘密に遭遇することとなり・・・・・・
<感想>
まさにファンタジー、ここまでくるとSFか! と言わんばかりの大がかりで大げさな内容。壮大な設定にも関わらず、その大がかりなものが守るべきものは下町に伝わる大切なものであるということが徐々に明らかになる。これは何とも、都心である東京から離れた大阪らしい人情味ある話と言えよう。実にうまくできている。
また、この物語では三人の調査員だけではなく、大阪に住む二人の中学生にもスポットが当てられて描かれている。そのうち一人の中学生は、自分の生きたいように生きることができないという大きな問題をかかえ、とある大きな決断をすることとなる。しかし、それは彼にとって苦難な人生の幕開けにすぎなかった。
そのままで過ごせば生きているとはいえず、生きたいように生きれば蔑まされと、自分らしく生きることの難しさを感じつつ、中学生は大阪における大きな秘密を知ることとなる。
正直、物語上この中学生のパートは余分のようにも受け止められる。物語に込められる信念というものは感じられるのだが、その問題が決して消化し切れているようには思えなかったのである。ひと口に語るにはちょっと重い問題であったか。いっそのこと、話を分離させ、別に物語として語った方が良かったのではないだろうか。
<内容>
女子高生探偵・美智駆アイは、捕らえた犯人に暗示をかけられ、突然推理することができなくなった。助手である取手ユウは推理することができなくても探偵が活躍するミステリ世界を創ろうと、アイが望まない奮闘(?)を続け・・・・・・
「プロローグ 女子高生探偵物語のエピローグっぽいやつ」
「第一話 日常の謎っぽいやつ」
「第二話 アクションミステリっぽいやつ」
「第三話 旅情ミステリっぽいやつ」
「第四話 エロミスっぽいやつ」
「最終話 安楽椅子探偵っぽいやつ」
<感想>
推理小説っぽいが、推理小説ではないというような内容。プロローグにて、探偵が推理をできなくなる暗示をかけられるところから始まるわけで、その後は推理無しで物語が流れてゆくという展開。
深読みすれば、軽めのミステリに対しての痛烈な批判ともとれなくはないのだが、実際にはそこまで深いメッセージが込められているわけではあるまい。最終話にて、ちょこっと推理小説っぽい盛り上がりを見せるものの、そこは著者のこだわりなのか、あえてグダグダに幕を閉じている。
正直言って、デビュー作からこういったものを書かれても、と思わずにはいられない。普通の作品をいくつか書いたのちに、こういったものを書けば、また評価は異なるだろうになと。小説として描くよりも、漫画にしたほうが楽しめそうな感じの作品。
<内容>
「マグノリア通り、曇り」
「夜にめざめて」
「復讐の花は枯れない」
「階段室の女王」
<感想>
2013年に短編「マグノリア通り、曇り」が第35回小説推理新人賞を受賞し、その後「小説推理」に書かれたものと書下ろし一編を含めてまとめたのがこの作品。これが著者にとってのデビュー作となるものである。
それで読んでみた感想であるが・・・・・・いや、これは個人的には合わない作品集であったなと。内容は本格ミステリというよりは、ホラーサスペンス的なもの。どれも“イヤ”な内容のものであり、読んでいて全く楽しさは感じられなかった。よく、これが賞を受賞したなと感じたのだが、よく考えてみれば近年“イヤミス”と呼ばれるものが出回っており、その流れを受けてということなのかもしれない。
どれもそれぞれの作品の主人公が理不尽な出来事に遭遇するというもの。ただし、それぞれの主人公が理不尽な出来事にあうのには理由があり、決して同情できるようなものではないのだが、そこまでの目に合わせる必要があるかと感じずにはいられない。また、事件を起こす者たちの方が、より同情できないような描かれ方をしているので、なんか全体的に救いようのないイヤな話を聞かされたという感じで終わってしまう。
意外な真相が待ち受けているというようなものではなく、次々に意外な展開が繰り広げられるというようなサスペンス系の作品。読む人を選ぶ作品集であると思われるが、“イヤミス”好きという人であれば、受け入れられるのではなかろうか。
「マグノリア通り、曇り」 男が娘を誘拐された理由は、男が飛び降り自殺を目撃した時にとった行動にあったと・・・・・・
「夜にめざめて」 通り魔の容疑をかけられた男は徐々に窮地に追い込まれ・・・・・・
「復讐の花は枯れない」 男は過去に起こしたいじめが原因で家族ともども命を狙われるはめとなり・・・・・・
「階段室の女王」 マンションの階段で重傷者を発見した女は・・・・・・
<内容>
格闘技を通して、仲間となった5人組。彼らは大学の卒業旅行にと孤島へと出かけることにした。ただし、ひとりは参加することができなく、結局4人のみとなってしまっう。たどり着いた島にあった宿は驚くほど立派であった。しかし、その宿は奇妙なつくりをしており、とても宿泊施設として作られたものとは思えなかった。そんな奇怪尽くしの旅行の中で、殺人事件が起こることに・・・・・・
<感想>
うーん、タイトルからして、もっとバカバカしいミステリを期待していたのだが思っていたよりもまじめな内容であった。というよりは、この設定でまじめな内容にしてはいけないんじゃないかと強く感じた。
主人公らが格闘家というのは明らかに著者の趣味であろう。それはいいのだが、そういった趣味的要素が多い中でヒューマン・ミステリみたいな展開をなされてもどこかちぐはぐであるとしか思えない。この人物設定、建築物の設定であれば、もっとぶっ飛んだものにしてもらいたかったところである。
ミステリとしての内容自体はそこそこ良かったのではないかと思える。それぞれ起こる事件もうまくできているし、流れとしても不自然ではなくきちんとしたミステリになっていたと感じられた。
ただ気になったのは、建物の設定が中途半端であったこと。建物全体の設定がきちんと決められていなかったのは大きなマイナス点だったのではなかろうか。もう少し、細部までも練られていれば、ミステリとしての評価はもっと高くなったであろうと思えたので、非常に残念に感じられた。
といたところで、それなりに気楽に楽しめるミステリではあったものの、それだけに終わってしまったという印象でしかなかった。新本格推理小説が多く書かれていた時代のB級作品というような感じ。
<内容>
元警察官で現在は探偵事務所に勤めている梓凪子。彼女の育ての親でもある姉の未央子の中学生であるひとり息子が亡くなった。警察は飛び降り自殺と判断したものの、親の未央子は納得いかず、凪子に調査を依頼してくる。仲が悪いといってもよいほどの姉から頼まれた、気の乗らない依頼であったが、結局凪子は調査を引き受けることに。凪子が甥の生前の状況を調べてゆくと、やがて驚くべき事実が浮き彫りとなり・・・・・・
<感想>
設定が取っ付きにくいというか、苦手な内容。何が苦手かというと、女探偵が事件解決の為に奔走するというハードボイルド系の作品。この内容のものが個人的に取っ付きにくく、あまり好きになれない。しかも、あつかう事件が学校で起きたいじめに関するもの。そんな陰鬱な事件をこれまた訳ありの女探偵が捜査するというもの。
ただ、読んでみると、その内容の好みは別として、意外と読みやすかった。これは書き手の力量を感じ取れる作品。そして、中盤以降は事態が大きく動き、俄然読みやすくなっていった。
単なるいじめ事件かと思いきや、そこから思いもよらぬ背景が現れ、徐々に探偵は事件の真相へと迫ってゆくこととなる。しかも本当に最後の最後まで予断を許さぬ展開となっており、ラストまで気を抜くことができなかった。
これはなかなか面白い作品に仕上げられている。あまり女探偵が活躍する作品って言うのは読みたいとは思わないのだが、この作品の続編が出たら読んでしまうかもしれない。
<内容>
アメリカ、マサチューセッツ州に廃墟と化した屋敷があった。そこはかつてガラス製造業で財をなした富豪が住んでいたのだが、何故か全てのガラスが取り払われているという奇怪な屋敷であった。ある日、その屋敷の中にひとり入り込んでいた11歳の少年コーディ。彼はそこで不審人物が死体を運び込み、死体を燃やそうとする現場を目撃することに。彼は後に、そのときに見たことを警察に証言することになるのだが、コーディは以前事故に会い、人の顔を認識できないという障害を抱えていたのであった。州警察から依頼を受けた心理学を専攻する学生のトーマは、事件の真相を探り出すことに。
<感想>
島田荘司氏が中心となることで静かな話題となった「ばらのまち福山ミステリー文学新人賞」。その第1回受賞作がこの「玻璃の家」である。いや、これは第1回にふさわしい作品と言えるのではないだろうか。たぶん、こういった新人賞を行うに当たって、色々と不安はあっただろうが、このレベルの作品が来てくれれば賞としては申し分ないであろう。本作は、他のミステリ系の賞に応募したとしても十分大賞をとれる内容だと思われる。
内容は、かつて富豪が建てた謎の屋敷と、その富豪が晩年にとった謎の行動というものがメインの謎といってよいであろう。そして現代において、その富豪の屋敷で人の顔を認知できないという障害を持つ少年が死体遺棄事件を目撃するというもの。
話の展開のメインとしては少年が持つ人の顔を認識できないという障害に費やされることとなる。話の流れ上しかたがないとはいえ、そこにメインを置かれるとミステリ的な展開としてはやや退屈とも感じられる。ただ、そういった捜査から浮き彫りになって行く事件の真相はかなりすごいものとなっている。
正直、読んでいる最中は、それほど登場人物も多くなく、事件の真相といってもさほどたいしたものではないだろうと高をくくっていた。しかし、ラストでそれらの真相が明らかになるにつれ、実は単純と思われた事件や過去が複雑な背景と因縁を持つものであり、そこから明らかにされた真相に驚かされることとなった。
いや、これはミステリ作品として良く出来ていると言わないわけにはいかないだろう。認知症による障害についても犯人を特定するのに劇的な効果を狙ったものとなっており、うまく創られている。ただ、その認知症に関する部分はかなり抽象的(にならざるを得ないのだろうが)に感じられる部分もあり、わかりづらいと思えたところも多々ある。また、物語を魔女狩りの時代にまで幅を持たせる必要はなかったのではないかとも感じられた。
とはいえ、基本的にはこれだけうまく出来ていればミステリとして十分であろうと思われる。間違いなく今後も「ばらのまち福山ミステリー文学新人賞」の中での代表作といえる作品であり続けるであろう。この著者の今後の作品のみならず、「ばらのまち福山ミステリー文学新人賞」の第2回の受賞作にもますます期待したいところである。
<内容>
東京で医者をしている桂木優二は、祖父が死亡したとの知らせを受け、葬儀に出席するため信州へ帰京する。亡くなった祖父の息子であり、桂木の叔父にあたる新羽宏平が当主を務める新羽家は製材会社をしており、地元では名家である。すぐに通夜が行われるかと思いきや、祖父の死は毒による自殺とみられ、不穏に思われるところもあり、日延べされているとのこと。そんな折、桂木は宏平の後妻の妹の夫で、画家である滝見伸彦と出会う。彼は妖精を描くという不思議な作風の画家だという。その滝見伸彦が崖から転落死し、さらに宏平の後妻である佳織が失踪するという事件が立て続けに起こる。不審なものを感じた桂木は事件の真相を探るべく捜査に乗り出す。そして、画家の滝見のことをボストンにて暮らす心理学者トーマに頼み、滝見が言う“妖精”の件について調べてもらうこととなるのだが・・・・・・
<感想>
第1回ばらのまち福山ミステリー文学新人賞を受賞した松本氏の2作品目。4年経って、ようやく新作が刊行されたということになる。
島田荘司氏が審査員を務める賞の新人賞を採っただけあり、島田氏の奇想というものを継いだ作風である。ただ、惜しく感じられるのは事件性よりも病理学的な部分の方が比重が大きいように思えること。今作も全体的にうまくまとめられているのだが、肝心の事件自体が地味な印象にとどまってしまうところがミステリとしてはパンチ力が足りないと感じられてしまう。
事件としては自殺とみなされる毒殺事件、崖からの転落死、失踪事件と事故なのか故意なのかあいまいなものばかり。もう少し、読者の興味をひきつける大きな事件を起こしてもよかったのではなかろうか。それよりも強い印象が残るのは、画家が“見える”という妖精というものと、それに関するメカニズム。これこそが専門分野であるということなのか、きっちりと描かれていたという感じ。
なんとなく、この作品を読んでいると、柄刀氏のデビュー当時の作品を思い起こさせる。面白いものを描く力はあるのだが、作風が地味すぎるというところ。柄刀氏のように今後、そうした課題も払しょくしてくれるだろうと思われるのだが、書きあげる作品数が今後も少なめのような気がするので、このままという気もしなくはない。できれば、1年に1作くらいは書きあげてもらいところ。内容の濃い作品を描いているだけに、このまま地味に埋もれてしまうのは惜しいことである。
<内容>
高校入学を控えた春休み、ぼく(城坂論語)が居眠りをしていて、ふと目を覚まし、携帯電話に手を伸ばすと、見知らぬ誰かの手を握ってしまった。その人はルージュと名乗り、しばらく僕と話した後に、僕の前から消え去った。その出会いにより、僕がまさか祖父殺しの容疑にかけられることになろうとは・・・・・・
<感想>
講談社BOXの作品は、非ミステリ系の作品が多いようなので、さすがに新人作家についてまでは把握しきれていない。そんな中、昨年末のランキングで話題になったのがこの「丸太町ルヴォワール」。気になったので、さっそく購入し、読んでみることとなった。
これはなかなか面白い。読んでいる途中は、ちょっとくどいというか、ミステリっぽくない部分もあったので、少々飽きそうになったところもある。しかし、全体的にみれば、要所要所で山場を用意し、先の展開の見えない楽しめる内容となっている。第1章の最初が少々まわりくどいように感じられるのだが、この章の最後まで読めば、物語に納得ができ、さらには先の展開も気になり、本を読むペースも速くなって行くことであろう。
ボーイ・ミーツ・ガール系のミステリとして、ありそうでなさそうな新しい系統の作品。ところどころで、読者の裏をかくような要素が詰め込まれ、楽しませてくれること間違いなし。ただ、章ごとに主人公をたてて、3人の主軸となる人物を用意しているのだが、それぞれの個性が生かしきれなかったように思える。探偵の役を割り振られた人物も“すごい”と言われているようでいながら、さほど“すごい”人物には見えなかったのが残念なところか。
と、気になったところもあったのだが、良い作品を読むことができたと素直に感じられた。この作家の2作目の作品が出れば是非とも手に取ってみようと思っている。
<内容>
京都に伝わる謎の書「黄母衣内記」。その所有者が変死を遂げた。「黄母衣内記」を巡り、被害者の弟二人が所有権を争う。その争いは私的裁判・双龍会にて行われることに。弟のうちの一人から依頼を受けた龍樹落下。彼女は瓶賀流、御堂達也、城坂論語らの力を借りて双龍会に臨もうとする。しかし、瓶賀流は双龍会の敵方となる、ささめきの山月に誘われ、龍樹落下らと対決することとなる。双龍会の行方は!?
<感想>
「丸太町ルヴォワール」に続く2作目。2作品目にして、双龍会という仮想裁判を舞台とする独特の作風が既に根付いていると言えよう。他では見られない独特の円居ワールドを体現することができる作品。ちなみに今作も前作に負けず劣らず良い作品となっている。
ただし、前作に比べると双龍会での迫力に欠けるかなと。ささめき山月という謎の人物に対して、前作に登場した若き龍師たちが挑戦するという内容なのだが、その裁判の中身がやや薄かったと思われる。今作では駆け引きというところまでは感じられなかった。
と言いつつも、実は本書に見どころはそこではなく、作中にとあるものがうまく隠されている。第1章の時系列に関わる話はその前奏であったということなのか。読み終えた後に思わず前のページをめくって確かめてしまうような秘密が隠されている。
独特の作風ゆえに、人によって好き嫌いがあるかもしれないが、独自の世界を創り込んだ傑作といってよいであろう。今後もどのような世界を描いて行くのか、目が離せない作家である。
<内容>
京都・河原町今出川にある曰く付きの寺、大怨寺。そこで殺人事件が起きた。容疑者とされたのは、現場に居合わせた龍樹家の龍師・御堂達也。達也は死体と共に、現場に閉じ込められていたのである。また、達也自身が大怨寺に恨みがあり、復讐を果たすと公言しているのもまた不利な状況。彼の処遇を巡って私的裁判“双龍会”が開かれる。そして裁判はいつしか、大怨寺に関わる者達全てが参加する大々的な賭博“権々会”へと発展していくこととなり・・・・・・
<感想>
“ルヴォワール”シリーズの第3作。いつもながらの法廷ミステリ(というよりも法廷ファンタジーか?)が初っ端から繰り広げられることとなる。今回の物語の中心人物、御堂達也を巡って、どのように話が進むのかと思いきや、今回はなんとサバイバルゲーム・・・・・・というよりも、ずばり“賭博”。
実際のところ、読んでみて面白くはあったのだが、“賭博”を小説で描くのは難しいことなのだと感じられた。結局のところいかに大団円やどんでん返しが待ち受けていても何でもありの“賭博”であれば、誰がどうすることもできるようであり、終局においてもあまり感じ入ることはできなかった。一応は、きちんと賭博の“行為”に関して補足というか伏線の回収のようなものはしているのだけれども、単に後付けというくらいにしか思えない。
また、今作の大きなポイントである御堂達也の復讐というものがあるのだが、いまいちその復讐について感情移入できなかった。どうも達也に関する相関図というか、それぞれの感情的な部分をやたらと複雑化してしまっていて、それがむしろ話をすっきりとしにくくしているようである。
まぁ、それでもシリーズの一作としては十分に面白かったので、続編が出れば必ず読みたいと思っている。今回は、非常に気になる終わり方をしたところだし。
<内容>
龍樹家の長男で姿を消していた大和。彼に呼び出されて河原へと出向いた龍樹落花。その河原で洪水に飲み込まれ、落花が死亡するという事故が起きる。新たに龍樹家を継ぐこととなった落花の妹の撫子。彼女の最初の仕事は双龍会で、兄の大和と元恋人の論語と、落花の死亡の件で対決することであった。一見、単純と思われた事件の陰に意外なものが見え始め・・・・・・
<感想>
ルヴォワール・シリーズ4作目にして最終巻。今までの作品と比べると短めであるので内容について心配したのだが、思いのほかよく出来ている作品と感心させられてしまった。
今作も今までと同様、双龍会という裁判のような場面を中心に物語が進行していく。その双龍会で取り上げられる議題がなんと、シリーズの中心キャラクターの一人といってもいい龍樹落花の死亡事件を取り扱うというもの。しかも、シリーズのなかで最も頼りなく見える龍樹撫子が、シリーズのなかで厄介なそんざいである龍樹大和と城坂論語の二人を相手にしなければならないというもの。
実は双龍会が行われている中盤くらいでは、新たに出てきた事実とか、屁理屈によって、事件をひっくり返したり戻したりとしているのみで、あまり意味のある内容ととらえることができなかった。しかも、徐々にパラレルワールドめいた方向へまでも行ってしまう。ただ、それらが核心へと近づき始めた時、全体的な構想が見え始め、大きな驚きがもたらされることとなる。
あとがきにて、著者の言葉が書かれているのだが、最初の構想ではこのシリーズを10部作として描こうとしていたようだ。それがもろもろの事情というか、現実的に考えることにより4部作となったようであるが、これくらいでちょうどよかったかなと。そのおかげでか、今作がページ数が短い割には、内容がぎっちりと詰まっていたように感じられた。
著者の円居氏は、デビュー当時は兼業作家として作品を書いていたようであるが、今では専業作家となったようである。よって、色々な意味で今後の作品が期待できるのではなかろうか。どのような作品が描かれるのか想像すらつかないので、次作を読むのが楽しみである。
<内容>
プロローグ
第一章 学園裁判と名探偵
第二章 暗号と名探偵
第三章 密室と名探偵
エピローグ
<感想>
円居氏の作品を読むのはルヴォワール・シリーズ以来。新潮文庫nexにより新シリーズということなのであるが・・・・・・なんか、ルヴォワール・シリーズと変わらないような。舞台も設定も異なるものの、中編三本立てという構成で、双龍会に似たような裁判風の対決まで行われれば、似たようなシリーズだと感じられてしまうのもいたしかたない。
特殊な探偵養成学園を舞台に主人公・剣峰成(つるみね なる)が活躍する。第一章では、学園裁判にて生徒会長と対決し、第二章では、剣峰と高名な探偵・鬼貫重明との出会いを描き、第三章では、鬼貫と因縁のあるザマボマーと呼ばれる殺人鬼と対決する。
ミステリというよりもエンターテイメント小説として面白い。主人公である剣峰成は、学園に入学したばかりであるので、探偵というよりは探偵見習というような位置づけ。しかし、本物の探偵顔負けの活躍を見せる。その活躍ぶりは推理というよりも、情報をあらかじめ蓄積し、そこから論理を組み立てるという感じ。第二章、第三章では、その情報をあらかじめ蓄積する余裕がないので、その場その場で事態をしのぎ切るというような活躍を見せる。
物語の流れからか、探偵というよりもスパイ小説のような感じがした。ミステリ風の設定でありつつも、事件が起きてから、それをじっくりと捜査するというものではなく、その場その場で急場をしのぐというアクション的な内容。ミステリ小説風ではない故に、ミステリとしての評価は微妙なのであるが、エンターテイメント小説と見なせばそれなりに面白いと思われる。個人的には、ルヴォワール・シリーズとは異なる、本格ミステリ色の強い内容のものを読んでみたいと思うのだが。
<内容>
「レフトオーバーズ」
「一歩千金二歩厳禁」
「維新伝心」
「幾度もリグレット」
「いきなりは描けない」
<感想>
“ルヴォワール”シリーズやシャーロック・ノートなどを書いている円居挽氏の新作。創元推理文庫から出たという事もあって、興味を持ち手に取ってみた次第。読んでみると、今までの作品とは全く異なる内容。ミステリ色は薄めで、4人の女子中学生の成長を描いた作品となっている。
主人公となる4人の女子中学生は、それぞれ異なる学校に通っており、地域のカルチャーセンターで出会うこととなる。それをきっかけに4人で示し合わせて、週末ごとにカルチャーセンターで同じ講座を受けるようになってゆく。その講座でちょっとした事件が起こり、それを解決しながら、4人が互いを知り、そして成長してゆくこととなる。
ミステリ的な要素はあるものの、本当にちょっとしたという感じであり、4人の少女の物語といったほうがしっくりくる。語られるひとつひとつの短編のなかで「幾度もリグレット」というものがあり、その内容はカルチャーセンターの講座で出された課題として、テーマで与えられた作品の続きを書くようにというもの。この作品こそが本書のなかで著者が一番書きたかった内容なのではないかと感じられた。それは少女たちの成長を描いたものというだけではなく、著者自身の作家としてのスタンスや苦しみを描いているようにも捉えることができた。
なんとなく米澤穂信氏あたりが書きそうな内容だなと感じられた。これは是非とも中高生あたりの年代の人に読んでもらいたい内容。大人であっても、作家志望の人や何かを成し遂げようとしながらつまづいている人は共感できる内容であるかもしれない。また、女子中学生としての人生の生き方の難しさというものも痛感させられる。ミステリとしてよりも、小説として楽しめる内容の作品。
<内容>
「その絆は対角線」
「愛しき仲にも礼儀あり?」
「胎土の時期を過ぎても」
「巨人の標本」
「かくも長き別れ」
<感想>
「日曜は憧れの国」に続くシリーズ2作目。カルチャーセンターで出会った四人の女子中学生の成長を描く作品。興味がある人は、前作から読むことをお薦めしたい。
ミステリというよりも、現代的な道徳の教科書という感じ。ミステリとしての謎ではなく、少女たちの葛藤や心の在り方を問う内容となっている。
同級生に対するアドバイスの方法、マナーというものの在り方、偽者と本物の定義等々、こうしたことに少女たちが向かい合ってゆく。本書における一番のメインテーマと感じられたのは、“偽者と本物”について。小説家として力を付けたいと思う者や、自信の身の置き方について悩む者たちが“本物”になるには、または“本物”として認められるにはということについて問いてゆく。
そして、最後の最後でミステリらしい見せ場を設けているところも見どころのひとつ。今作の重要登場人物であるエリカ・ハウスマンのタブレットが盗難されるという事件が起こる。ラストで待ち受ける予想外の顛末はなかなかのもの。
<内容>
1894年のロンドン。日本人の遊佐藤十郎は途方に暮れていた。主人の鷲見新平がろくに金を残さないまま旅立ってしまったために、住んでいたアパートを追い出されるはめになったのだ。しかしそのとき、広場でため息をついていた藤十郎に話を持ちかけてきたものがいた。
そしていつしか藤十郎は<十二人の道化クラブ>の怪事件に巻き込まれてゆく事に・・・・・・
<感想>
これは今年の注目本かと思い、初めて真瀬氏の本を読んでみたのだが期待していたものからはずいぶんと外れていた作品であった。一応、この作品はミステリーという肩書きで出版されているようではあるが、本書がミステリーであるとは思えなかった。
一応、事件たるものは起きるものの、特にこれといった謎が提示されないまま話が進んでいく。背景に“魔女”という存在があり、それが謎の一端になっているのだろうかと思いきや、別にそれを期待させるような展開にもならなかったし、結局のところ最後の最後まで何を描きたいのかがよくわからなかった。
ホラーともいえないし、歴史ミステリーというようにもとれないし、結局は昔のロンドンを背景に描いた、ちょっとした物語という程度なのであろうか。そんなこんなで、読み終えるまでに非常に長い期間がかかってしまった。
初めて表紙を見たときの印象から本格ミステリーとして大きな期待を抱いていただけに、その反動は大きかった・・・・・・
<内容>
長谷部麻美は夫が一流企業に勤め、賢い娘を持ち、駅前のマンションに住むという恵まれた主婦であった。しかし麻美はそうした日常生活とは裏腹に、別にアパートを借りて、出会い系サイトで会った3人の男と情事を交わすという裏の生活も持っていた。そんな麻美に徐々に危機が迫りつつあった。その予兆として麻美は虫の蠢くような音を耳にするようになり、そしてある日自分の体に異変が起きていることに気づき・・・・・・
<感想>
これはメフィスト賞よりも角川ホラー大賞に送るべきだろうというような内容。
ジャンルでいえば、あくまでもホラーなのだろうが、読んでいる最中には桐野夏生氏の「OUT」や「グロテスク」を思い起こした。なんとなくだが、ある種の主婦のアウトロー小説というようにも部分的にはとれるように感じられた。
と、そんな例を一つとして、他の意味でも色々な癖を感じられる小説であった。特に性について赤裸々に語られており、こういう所はメフィスト賞作品を読む若い読者が好みそうな内容ではないだろうと思われる。さらには、その“性”というものに“虫”というホラーが付け加えられれば、もはや読み手を選ぶ内容であると言うほかはないであろう。
ただ、本書で驚いたのはただ単にホラー小説だけでの終わり方をしていないというところ。そこはわざわざメフィスト賞受賞作として出されているだけあって、最後はミステリーとしての終わり方で締めている。つじつまの合わせ方としては強引であるようにも思えるが、それなりにうまくまとめたなとも採る事ができる。
作品自体の評価云々は別として、この著者自体にそれなりの力量を認めることができる作品である。
<内容>
始皇帝時代の中国、商家・西王の屋敷で起きた家宝の盗難事件。これをきっかけに港町・琅邪で奇怪な事件が次々に起こる。町の治安を守る救盗の役職につく希仁であったが、事件のあまりの不可解さに“徐福研究所”の人たちに相談する。果たして事件の謎を解くことはできるのか!?
<感想>
伝奇ミステリとして、まぁまぁといったところか。舞台設定はともかくとして、なんとなく最近よくありがちな作品という気がしなくもない。
さまざまな事件が起き、それらの謎が後半には一気にとかれるものの、その事件が起きている途中の過程がわかりにくかった。中盤があまりにもドタバタ気味であったので、そこが整理しきれてなかったように思えたのが残念なところ。本書は意外と読みやすかったので、中盤の構成がよければもっと良い作品になったのではないだろうか。
また、登場キャラクターが多すぎた。“徐福研究所”というところに数々の個性的なキャラクターがいるようなのであるが、そのほとんどが個性を発揮しないまま終わってしまっている。そこはもう少し登場人物を絞るべきであっただろう。よって、キャラクター小説という面でも少々残念に思えてしまった。
そんなわけで、全体的にありきたりで突出したところがない小説という印象しか残らない。しかし、小説としては読みやすかったので十分力のある作家であると思われる。色々とうまくというよりも、とりあえず何か突出したところが出てくれば今後化けるのではないだろうか。