<内容>
フォト・ジャーナリストの梅川勝子は旧知の友人が亡くなり、その遺品から彼女がかつて所属していた教団の存在が明らかになる。友人の死には、教団が関わっているのだろうか? その教団は20年以上昔に大きな事件を起こしているのだが、そのときの事件が今回の友人の死につながってゆくのか!? 勝子は単独で事件を調査し始めるのだが・・・・・・
<感想>
タイトルにつられて買ってみたのだが、“数学的帰納”なんていうものにつられてしまうと、期待はずれとなることであろう。今年買った本のなかで一番の失敗だったかもしれない。
数学的帰納などといいながら、展開はB級サスペンスのような様相。中年女性カメラマン(フォト・ジャーナリストというらしい)が昔の教団跡地へ行き、あれやこれやと探し回る。しかも何故か、2回も同じところへ行って、同じことをしている。それ以外は暗号らしいものについて考え続けるというくらい。
起きている事件や、かつて起きた事件は大きなもののはずなのだが、何故か大掛かりな騒動にはならず、内側に閉じたところのみで話が進んでゆく。そういったバランス的な面でも納得しづらいところがあり、さらには物語が主人公のみに収束していくという展開についても納得しづらかった。
ということで、数字が出てきたのは憶えているのだが、数学的帰納が成されたのかどうかまではよくわからなかった始末である。
<内容>
私立城翠大学にある特殊な学部“魔学部”。そこは魔法を学問として学ぶ事ができる数少ない場所である。さらに今年は世界に6人しかいない魔術師の1人が魔学部に教師として来るということもあり、大変な数の受験者数となっていた。
そんな中、“ぼく”こと天乃原周は新入生として城翠大学の魔学部に入学する事となった。偶然なのか必然なのか、ぼくは学園にやってきた魔術師・佐杏冴奈のゼミに入ることができた。ゼミに入るメンバーが告げられたとき、校内に何者かによる放送が響き渡る。“ゲームを開催し、生贄を選定し、処刑する”と・・・・・・。魔術師・佐杏とぼくを含めた佐杏ゼミのメンバーはその事件の渦中に巻き込まれることとなり・・・・・・
<感想>
本書はライトノベルスであるのだが、いくつかの書評サイトで取り上げられ、そこそこ評判もよかったようなので読んでみたしだいである。それで読んでみてどうだったかといえば、「なるほど!」というような感嘆符付きで楽しめた作品であった。ただし、本格推理小説という観点からはやや外れたものであると思われる。
この作品は“トリックスターズ”というタイトルが示すとおり、読んでいるものを騙すための作品という気がした。いくつか論理的に語られるところもあったり、伏線を張ったりしているところもあるのだが、それらはあまり親切なものとはいえない。
また、この作品の主題のひとつでもある“魔法”という存在が語られるものの、読んでいる身の上としては、この“魔法”がどの程度の範囲のものなのかがわからないのである。一応、作品上では“魔法”は決して万能ではないという位置付けになっているものの、それでもその“魔法”でできることも数多くあり、その効果をあらかじめ全て記すということは無理であるので、フェアな推理小説にはなりようがない。
ということもあり、読んでいる側が真相を探るということを楽しむ小説ではないと感じられた。本作品はアンフェア気味に仕掛けられたさまざまな“騙し”について、無茶な感じで真相を披露するという破天荒振りが売りのものと言えよう。タネのわからない手品を楽しむような作品と言ってもよいかもしれない。
人によって好き嫌いがわかれてしまうかもしれないが、魔術とか推理小説っぽいような、といった雰囲気は楽しめる作品になっているので、ぜひとも続編も読んでみようと思っている。
<内容>
周と凛々子と魔術師の佐杏冴奈は郊外に建つ魔学部の研究所へとやってきた。そこで佐杏と同じ魔術師のサイモン・L・スミスクラインによる、とある実験が行われることになったからである。その実験を行うにあたって、スミスクラインが佐杏に協力を依頼したのだ。周らは現地で魔術師のサイモンと介添え人であり、サイモンの妹であるジュノーと合流する。その後、サイモンと佐杏による実験が行われるものの、結果は失敗。そして、次の日、閉ざされた実験場でサイモンの死体が発見される事に・・・・・・
<感想>
前作に比べればミステリとして、それなりにフェアに出来ていると思われる作品であった。結末を聞けば、前作のように理不尽にだまされたと言うような印象はなく、誰もを納得させる事の出来る終わり方がなされていると思える。
ただし、そこに至る物語の背景としては、かなり首をかしげたくなるところがある。まぁ、だからといってライトノベルの作品に対してあまり重箱の隅をつつくような発言をすることのないのだろう。
本書は、ミステリを読み始めたばかりの人が読めば素直に感心できる作品なのではないかと思える。実際、そういう層を狙ったシリーズなのだろうと思えるし。
<内容>
城翠大学の一大イベントである学園祭。ぼくと凛々子ちゃんはミス研のイベントに誘われ、参加することになった。当日、イベントが行われるはずの建物へと行くと・・・・・・
何かの力によって、建物の中に閉じ込められてしまったぼくと凛々子とミス研のメンバー達。なんとか脱出を図ろうとするものの、何者かの手によって一人また一人と消えていってしまう・・・・・・いったい事の真相とは? そして、犯人の目的とは!?
<感想>
おぉー、今度はメタ・ミステリできたか。シリーズ一作目はアンフェア気味の作品。二作目は一作目よりはフェアではあるが、その分地味な作品になってしまった。ということを見越しての(なんと作中でもこのことについて触れている)三作目ではメタ・ミステリを用いてのアクロバット風ミステリが展開されている。
これは好き嫌いあるかもしれないが、個人的には面白く読むことができた。動機とか、誰がとか、必然性とか、細かく考えれば弱く感じられるところもあるものの、おおむね綺麗にまとめられていたのではないかと思われる。
魔法によって閉ざされた空間で起こる事象や真相を読み解いていくという構成はうまく創られているといってもよいのではないだろうか。少なくとも1作目や2作目に比べれば“魔法”という要素をうまく使いこなしていると感じられた。
3作目にして、シリーズにおける要素をうまく使いこなし、シリーズならではの設定をいかんなく発揮することができた作品に仕上げられている。これは残りの作品を読むのがますます楽しみになってきた。
<内容>
天乃原周は不吉な夢を見た。その夢は予知夢となり、実際に起こることだと天乃原は知っていた。自分の身近にいるものの誰かが、何者かに襲われる! 天乃原は自力で起こりうる事件を解決しようと学園祭の出し物“マスカレード”が行われている現場へと出向くのだが・・・・・・
<感想>
今回の趣向は“被害者を捜せ”。天乃原が見た予知夢の惨劇を起こさせまいと単独で奔走することになる。
という、趣向はそれなりに楽しめたものの、物語に深みがない・・・・・・というより、話の流れがあまりにもそのまんま過ぎる。今回物語の中で中心となるのは、魔学部の氷魚(ひお)と同じく魔学部の扇谷いみなの兄で唐突に帰国してきた元魔学部の扇谷諡(おくりな)。その諡の過去の話と氷魚の諡に対する憧れの想いが描かれてゆくのだが、それだけなのである。要するに他に挿話がなく、諡の話だけしか語られていなければ、物語の誘導も誤誘導もあったものではないということ。
最終的な話自体のまとめかたや、その真相のための伏線とかは色々と張られているので、きちんとできているとは思えるものの、もう少し物語に厚みをもたせてもよかったのではないだろうか。特に今回はページ数が薄かったし。
ということで、楽しめはするものの、やや淡白だったかなという印象であった。
<内容>
城翠大学、学園祭最終日。学園祭実行委員会本部に“挑戦状”が届けられた。「学園祭の成功に不可欠なものを奪う」と。差出人は4月に事件が起きたときと同じ人物で、アレイスター・クロウリーと書かれていた。そして、実際に学園祭の倉庫として使用していた教室から不可解な方法で、キャンプファイヤーのときに使用するはずの“願いシート”が盗まれてしまう。実行委員会の面々はなんとか事件を解決しようとする。そのとき、天乃原周は自宅でアレイスター・クロウリー三世と対峙していた・・・・・・
<感想>
これはなかなか楽しめる内容であった。最初読み始めたときは、不必要に多くの登場人物を出しすぎではないかと思っていたのだが、最終的にはそれらをうまく収束させている。別に大掛かりなミステリ・トリックが使われているというわけではないのだが、学園祭という場を用いたミステリとしてはうまい具合に仕上げた作品といえるのではないだろうか。
ただ、これがシリーズ最終作であると考えると若干不満も残される。この内容では肝心の魔術師である佐杏冴奈の存在が生かしきれてないように思われる。というか、むしろ魔術師の存在が邪魔でさえあるようにさえ感じられてしまう。
できれば学園祭は学園祭として終決させて、魔術師の物語に幕を引く作品は別に作ってもらいたかったところである。それに個人的には主人公がとる最後の行動もあまり納得がいくものではなかった。
とはいえ、それなりにこの“トリックスターズ”という一連の物語を楽しむことができたと思う。もう少し、それぞれのキャラクターを生かしてもらいたかったと思わないでもないが、ミステリ風の内容はよかったように思える。今後、主人公を含む魔術師たちの再登場とパワーアップした内容を期待したいところである。
一応、次の作品として既に「ミステリクロノ」という作品が出ているので、しばらくはこちらのシリーズで楽しませてくれることであろう。
<内容>
アメリカで巡回医師の仕事をする加藤盤は、参加していた“スターゲイザーズ・フォーラム”からセントグレース島での集いに招待された。その島は、年に1度隕石が落ちてくることから奇跡の島と呼ばれていた。その島にひとりで住むサラ・ディライト・ローウェル博士は、年に1度、フォーラムに参加する人の中から、数名を島へ招待し、隕石が落ちてきたときには、招待客のひとりに隕石をプレゼントしていたのだった。今回、島に呼ばれた6人の男女。同じ趣味の者達が集う平和な集いのはずが、ひとりの者が、死体となって海に浮かぶこととなり・・・・・・
<感想>
久しぶりに読む久住四季氏の作品。以前、電撃文庫から刊行された「トリックスターズ」というシリーズ作品を読んだことがあるのだが、それ以来。その久住氏がミステリ・フロンティアにて作品を書き上げたので、さっそく読んでみた。
内容は孤島で起こる殺人事件。隕石が定期的に落ちてくると言われる奇跡の島で起こる殺人事件。事件は、“どうやって”よりも、“何故”という動機について強く問いかける内容となっている。
設定をうまく生かしたミステリ作品という感じであった。ただ、個人的には犯行における論理的な解釈にちょっと納得ができないことがあったためか、少々微妙に感じられてしまった。参考までにネタバレであげておくと、
ネタバレ↓↓↓↓↓↓
殺人を行う手段が確実なものではなく、成り行き任せというのは確実性がないのでは?
↓
これについては、繰り返し行い、犯行が成功するまでやり遂げればよいということ。
↓
ただ、それでは1度失敗してしまうと、相手に警戒されてしまうのではないか?
↓
それならば、真の犯人自身の手で犯行を行った方が確実ではないかと考えてしまった。
ここまで↑↑↑↑↑
と、こんなところが疑問に思ったところ。これ以外についてはよくできていると感じられた。ストーリー、展開といい、きれいにまとまったミステリ作品といえるであろう。登場人物らの再生の物語でもあり、星を見るというロマンスと共にマッチした内容。
<内容>
高校生の布津美涼は幼いころ、両親が新興宗教に入信したため離れ離れとなった。後に両親が死亡したことを聞かされることになるものの、彼には6歳になる妹が残されていることを知る。涼は新興宗教崩壊後の跡地である御乃呂島へと向かい、幼い妹を連れ戻すことを決意する。しかし、島へ渡った後、船を操作してきた船長が死亡し、船で渡ってきた一行は島に取り残されることに・・・・・・。不吉な神話が影を落とす島にて次々と起こる怪事件。涼は船で知り合った青年、笹礼とともに事件の解明に乗り出すのだが・・・・・・
<感想>
上下段組で365ページと長大な作品であったが、ページ数を感じさせない読みやすい作品に仕上がっている。本格ミステリというよりはサスペンスフルな内容となっており、ページをめくる手を止められなくなるようなスリリングな小説であった。
一応、話の背景としては“閉ざされた孤島”で起こるミステリということができる。ただ、この物語のなかで起きる事象の全てが計算された人為的なものというものではないために、本格ミステリという趣とは異なったものとなっている。
むしろ、閉ざされて脱出できない島で起こる数々の事件がホラー的な要素として登場人物らに恐怖として襲い掛かってくるというような内容。よって、ミステリ的な謎を含みつつも、雰囲気的にはパニック・サスペンス風という印象の作品。
とはいえ、夏に読むサスペンス小説としてはもってこいの作品かもしれない。これは一見の価値のある作品といえるであろう。もし、この著者がまたミステリ作品を書くのであれば、ぜひともそちらも読んでみたいものである。
<内容>
作家、磯村貴子の周辺で連続して殺人事件が起こる。犯人は幼女を狙っているようであるが何を意図しているのかはわからない。貴子は自分の周辺の者達がこの事件に関わっているのではないかと怖れ、事件の真相の推理を始める。被害者に共通しているのは難しい苗字をしているということぐらい。そしてとあるアイドルの面影・・・・・・。最初の被害者が手に持っていたダイイングメッセージを含めて貴子は推理を進めていくのだが・・・・・・
<感想>
ミステリというよりはホラーといったほうがいいような薄ら寒さと生々しさを見事に表した本書。もしそこに本当にミステリまでが融合していたならば傑作に仕上がったのだろうが、そこまでは到達しなかったようだ。
一応本書でこだわっているというか、中心となっているのは“ダイイングメッセージ”である。しかし、“ダイイングメッセージ”といいうのは不確かなものでそれだけで読者を納得させると言うのは難しい。そこで本書は、著者の意図とはまた異なるかもしれないが、“ダイイングメッセージ”という柱をすえて、その周りに肉付けをしていき、その柱をうまく利用して話が進められていく。という採り方がよいのではないだろうか。そして最終的にその柱自体にはさほどこだわる必要はない(なんじゃこりゃ?)ということで。
しかしそれでもラストはもうひとひねり欲しかったというのが素直な感想。途中はその生々しさを感じさせるホラー調で惹きつけられただけにラストがあまりにもあっけなく着地してしまったという感じがぬぐえない。もう一歩先に進んでもらいかった。
<内容>
引きこもりの者達が突如かかる病、“異形性変異症候群”。それは引きこもっていた者が、一夜にして人間ではない姿となってしまう奇病。特に対策はなく、その奇怪な姿のまま、他人と碌なコミュニケーションもとれないまま過ごさねばならなくなってしまう状態に置かれる。息子や娘がそのような奇病にさらされたとき、果たして家族は・・・・・・
<感想>
メフィスト賞受賞作ではあるが、ミステリではなく、社会を変わった目線から見た問題作となっている。ひきこっもっていた若年層の男・女の姿が異形となってしまうという奇病が発生した社会を描いている。
途中、一部ミステリっぽい展開になりそうな部分もあったので期待したのが、結局それもそういった展開にはならず、あくまでも奇病騒動に巻き込まれた家族の問題を描く話に終始している。内容からして読みにくそうな話だと思いつつも、意外と内容に引き込まれ、あっという間に読み終えてしまった。その中身からして、面白い作品とは決して言えないのだが、いろいろと考えさせられる作品であることは確か。
よく家庭で引きこもりが発生したりすると、息子や娘が何を考えているのかわからない、まるで虫になったよう、などと表現するのを聞いたことがあるが、それをまさしく実際の出来事にしてしまったのがこの作品。そのような現象が実際に起きた時、それぞれの家庭において人々がどのように行動するのかが描かれている。
読んでいて色々と考えさせられるものの、何が正解なのかは全くわからない。本書の主人公は奇病にかかった息子の母親であり、女性目線故に、読む人の立場によって共感、反感さまざまなものとなるであろう。ただ、本書はその結論を問う作品ではなく、そこへ至るディテールに、どのようなものがあるかを想像することが大事な事のように思われる。ただし、いくらシミュレーションしたところで、現実世界において、皆が正しい道へと進むことができるわけではないのであろうが。