<内容>
藤島秋弘は刑事であったが、妻の不倫相手を叩きのめし懲戒免職となり、現在では警備会社で勤務していた。ある日、別れた妻から電話があり、娘の加奈子が失踪したとの知らせを受ける。藤島が元住んでいた家へと戻り、娘の部屋を調べると覚せい剤を見つけることになる。いったい娘に何が起きたというのか。
一方、三年前、中学生の瀬岡尚人は同級生からのイジメにあい、深刻な状況におちいっていた。そんなとき、瀬岡は藤島加奈子に助けられ、イジメから逃れられるようになる。しかし、それはさらなる地獄への第一歩であった・・・・・・
<感想>
これは本当に“大賞”にふさわしい一作といえるのではないだろうか。かなりリーダビリティの高い本であり、一気に読み干すことのできる強烈な作品であった。
ただ、内容自体が目新しいものであるかというと、そういうわけではない。いわゆる、最近流行のノワールものの一冊という事でくくられてしまうだろう。しかし、その作品の中で描かれている執念というか情念が圧倒的で、そのすさまじさに惹かれて、ページをどんどんめくらずにはいられなくなってしまうのだ。これはもう描き方の勝利ともいうべき本であり、よくも処女作で書けたものだと感心するほかない。
帯に書かれている“男たちの狂気の物語”にふさわしい内容の小説。これは今年のダークホースとでもいうべき本となるであろう。
<内容>
「オーブランの少女」
「仮 面」
「大雨とトマト」
「片想い」
「氷の皇国」
<感想>
「オーブランの少女」 庭園の管理人である老姉妹が、身元不明の何者かに殺害された。手記が語る庭園にて起きた出来事とは・・・・・・
「仮 面」 医師が元患者の妻を殺害することとなった顛末とは・・・・・・
「大雨とトマト」 うらびれた食堂で雨降りの日に起きた一幕。
「片想い」 寄宿舎に住む、資産家のお嬢様の抱える秘密とは・・・・・・
「氷の皇国」 とある村に流れてきた死体を見て、吟遊詩人が語る物語。
読んで思い出したのだが、「オーブランの少女」は既読であった。これは読んだときに、なかなかインパクトの強い小説だと感嘆させられた作品。長編として描いてもよいのではないかと思えるくらいのネタの要素がつまっている作品でもある。
この作品集全体で、特にこれといったつながりやテーマはないのだが、女同士の友情や愛憎を描いたものが多かったという気がした。そういったなかで、「オーブランの少女」を超えるか、それに並ぶような作品がもう一編くらいあればよかったのだが、他の作品はそこまではおよばなかった。全体的には、ミステリよりにするのか、イヤミス系のほうへ行くのか、物語よりにするのか、どこか中途半端な印象。今後、どのような方向へと進んでいくのか期待したい。
<内容>
雑貨屋の息子として生まれ育ったティモシー・コール。1942年、17歳のときに志願兵として戦争に参加することとなった。料理好きの祖母の影響から、ティモシーは特技兵管理部付きコックという役職で戦線へ赴くこととなる。戦場で過ごすうちに、さまざまな事件と遭遇することとなるが、仲間のエドワード・グリーンバーグがありとあらゆる謎を解き明かす。そうした日常を過ごしながら、戦線は佳境へと向かうこととなり・・・・・・
<感想>
一応、ミステリという位置づけではあるようだが、基本的には戦争小説と言い切ってよい内容。ゆえに、創元クライム・クラブやミステリ・フロンティアからの出版ではないのであろう。
若きコック兵が経験する第二次世界大戦の様子をまざまざと描き上げた作品。主人公のティモシー・コールは、志願して第二次世界大戦へと参加し、訓練で知り合った仲間たちと共にヨーロッパ戦線へと送られることとなる。そこから終戦まで、彼らが経験する様々な様子が語られる。
その様子が語られる中で、戦場でさまざまな不思議な事件が起きることとなる。パラシュートを集める兵士の目的とは?、一晩で消えた600箱の粉末卵の行方、地下室で亡くなっていた夫妻の謎、深夜雪原を漂う幽霊の正体とは? これらの事件をティモシーの同僚エドワードが解き明かしてゆく。
こうした謎が語られつつも、戦線が拡大し、主人公たちは仲間を減らしながら、より激しい戦場へと送られてゆく。この作品で語られる謎は、戦闘中の一時の休息のようにも思え、決してメインの内容というわけではない。ただし、そうした経験を経て、最後の章で語られるティモシーらが起こす事件と、エピローグへとうまい具合に話が継がれてゆく。
個人的に戦争小説というものはあまり好きではないのだが、この作品に関しては素直によくできていると称賛を送りたい。途中の話の展開から、そこから引き継がれる最後の物語までへと実にうまく創られていると感心させられてしまった。ページ数は350ページとそこそこの厚さであるが、2段組となっており、なかなか読み応えがある作品。ミステリ以外でお薦めの小説は? と聞かれたら今年真っ先に薦めたくなる作品である。
<内容>
高校生の日高浅葱は、2年前に亡くなった友人の基(もとい)の三回忌に出席した際、彼の祖母から遺品となった日記を譲り受ける。浅葱はノートに記述されていたことをヒントに、新たに友人となったクラスメイト八女(やめ)と共に基が死なずに済んだ可能性を探ることを試みる。基が生前どのような行動をとったのかを調べてゆくと、いつのまにか新興宗教団体の活動に巻き込まれてゆくこととなり・・・・・・
<感想>
「オーブランの少女」でデビューし、「戦場のコックたち」で一躍有名になった深緑野分氏の新作。今作はノストラダムスの予言が噂された1999年を舞台としたミステリが描かれている。
と、ミステリと表現したものの、実際のところはミステリというよりは、冒険譚という印象。ボーイズ・ミート・ガールズ系の冒険作品。この著者の作品に対する印象は前2作で判断するしかないので、もう少し濃いというか重い作品を期待していたのだが、本書は非常にライトな作品で少年少女向けのものであった。ゆえに、個人的にはちょっといまいちという感じであったかなと。
高校生の女の子が、友人の三回忌を機会に、かつて好きだったその男の子のことを調べ始める。偶然知り合った人の助言により、彼が残したノートから、並行世界を創造し、彼の死の原因について考え始めるという展開。ここまではSFチックな感じがしたのだが、その後は並行世界はどこへやら、通俗の冒険譚のような感じの話になっていってしまう。
普通の女の子が、事件をきっかけに知り合いとなったクラスの男子の手を借りて、非日常的な事件に関わってゆくことになるという物語。カルト教団という大きな組織に狙われつつも、友人となった男の子の手を借りて窮地を脱しつつ、真相へと近づいてゆくというもの。まぁ、ベタな物語としては良いのかなという感じ。ただ、ミステリ色の強い内容を期待して読んでしまうと、肩透かしをくらわされてしまうかも。
<内容>
リサイクルショップでバイトをしている美哉は事務用机のひきだしから「助けてくれ カンキンされている 警察にれんらくを」と書かれたメモを見つける。そのメモが気になった美哉は単独で調査を進めていくのだが・・・・・・
独身寮に入りながら会社に勤めていた泰夫は喧嘩をして職場から飛び出してしまい、行く当てもなく街をうろつき、公園でひもじい思いをしながら暮らしていた。そんなとき、公園でひとりの老婆と出会い、相談を持ちかけられる。なんでもその老婆は身内に命を狙われているというのだ!
義人と棗は結婚するために、棗の両親にもきちんと挨拶をしておこうと話し合っていた。しかし、棗の両親はアル中とギャンブラーというとんでもない親であった。それでも疎遠となっていた棗の両親の元へと行ってみるのだが、彼らは行方知れずになっており・・・・・・義人と棗は行方を捜すことにしたのだが・・・・・・
進行していく三つの事件から浮き彫りになっていく、監禁事件の真相とは!?
<感想>
3つのパートにて話が進められ、それらの話がどこで交錯し、どこで結びつくのかということを想像しつつ読み進めていく作品となっている。それなりにうまくまとまっており、読みやすく楽しめるミステリ作品に仕上げられていると感じられた。なんとなく、一昔前の新本格ミステリがはやっていた時期によく見られたようなミステリ作品という気がして、なつかしく読むことができた。
ただし、細かいところを見ていくと不満もそれなりにあげられる。中でも登場人物らの物語への関わり方については弱いと思われた。特に机の中から紙片を見つけた少女に関しては、その後の事件の関わりかたにしろ、真相との関わりかたにしても、ずいぶんと弱すぎるのではないかと思われた。
確かに最後まで読めば、読者が読み取れるものと、著者自身との狙いがうまくずれるように書いているというのはわかるのだが、もう少し真相が明らかになったときに話の全てがぴったりと収まるように書いてもらえればなぁ、と感じられるのも事実である。
とはいえ、こういった作風のミステリは嫌いではないので、これからもどんどんと書いてもらえればと思っている。それなりに堪能できたサスペンス風ミステリ。
<内容>
バイトをしながら大学生活を送る苦学生の晴也に友人がバイトを持ちかけてきた。なんでも知り合いの女学生がストーカー行為をされているというのだ。そのストーカーの正体を暴き、二度とストーカー行為をしないように約束させてほしいというのである。報酬のよさにつられて晴也は仕事を引き受けることに。すると、その仕事をしている最中に、次から次へと別の事件が晴也に降りかかってきて、それら全ての事件を収集させなければならない羽目に・・・・・・
<感想>
これは良かった。とても面白く読めた作品であった。同時期に出版された「監禁」のほうを先に読んでしまったのだが、どちらかといえば、こちらの作品のほうをお勧めしたい。
本書の特徴はなんといっても、軽快でスピーディーな作品であるということ。便利屋のまねごとのようなことをする、ある種、世話焼きともいえる学生の主人公がひとつの事件から派生するさまざまなトラブルをあっという間に解決していくという作品である。
似たような作品が多々出ている中で、これは頭ひとつ飛びぬけて面白いといえるのではないだろうか。なんといっても変な人生の重さがなく、それぞれの事件が軽妙な雰囲気で進められてゆくのがよいところだと思える。ただし、ラストに関しては若干重くなりがちと思えてしまった。ラストにいたるまで軽快にきていただけに、もう少し能天気なハッピーエンドで終わってくれてもよかったのではないかと思われる。
何にしても、これこそ軽く手に取れ、手軽に読める学生ハードボイルド・サスペンスといった作品である。続編が出れば、ぜひとも読んでみたいところ。
<内容>
「春の駒」
「五月の神隠し」
「ミートローフ・ア・ゴーゴー」
「供養を終えて」
<感想>
本書の語り手となるのは高校2年生の鷺澤葉太郎。家族構成は、料理のうまい祖母、マラソンが趣味の父、機械いじりが好きな母、大学生でぐうたらな兄と部活に勤しむ弟の6人家族。家族仲が悪いということはなく、むしろ友好的な家族生活を送っているほうだと思われる。そんな鷺澤家の周囲に降りかかる謎を解いていく作品集。
探偵役となるのは、葉太郎が所属している将棋部の顧問である女教師。探偵役といっても、全ての謎を解くわけではなく、葉太郎から話を聞いておおまかに解決をつけるというだけ。その後の始末は、きちんと葉太郎が行っている。この全てを教師にまかせるだけでなく、きちんと主人公が考えて行動し、そして最終的な解決に導くというスタンスは好感が持てる。日常の謎系の作品として良くできていると感じられた。
「春の駒」では、葉太郎が苦労して作ったかぶり物を誰が汚したのか? 「五月の神隠し」では、祖母が一時的に消失した謎を解く。「ミートローフ・ア・ゴーゴー」では、車両事故に秘められた裏を解き明かす。「供養を終えて」は、葉太郎がトイレに閉じ込められた真相にせまる。
全編それなりに楽しめたものの、そこは“日常の謎”系らしく、あっさりしていて印象が薄い。読者の印象を深めるのであれば、何かもう一味ほしいところである。例えば、家族の誰かを物語の邪魔にならない程度にエキセントリックにするとか。
続編が出るのを予感させるようなタイトルになっているので、続きが出れば読んでみたい。鷺澤家のさらなる活躍を期待したい。
<内容>
五百年の歴史を持つ十津川村の名家・天主家。その庭にある巨大な岩“千曳岩”。人為的に動かそうと思えば、何十人もの人手をかりなければ動かない岩が一晩のうちにいつの間にか移動していた。この岩が動いたときには不吉なことが起きると伝えられているのだが・・・・・・。その凶兆をきっかけに、天主家に殺戮の嵐が吹き荒れる!! (血祭りの館)
天主家の悪夢の惨劇から14年後、今度は“不鳴鐘”が天主家に鳴り響く。これも凶兆の一つといわれた鐘の音をきっかけに、再び惨劇の幕があがる。なんとか悲劇を食い止めんと、盲目の探偵・朱雀十五が呼ばれるのだが・・・・・・
<感想>
「陀吉尼の紡ぐ糸」「ハーメルンに哭く笛」に続く朱雀十五シリーズ第3作。軍部が暗躍する昭和初期の時代が背景となるシリーズであるが、今作は前作、前々作と場所を違えて、人里はなれた怪しい館の中のみで数々の事件が起こるものとなっている。
今作ではとにかく書き込みの量がすごいのひと言。大雑把に言ってしまえば神秘学という事になるのだろうが、とにかくさまざまな知識が総動員で創られた作品である。ただ、読んでいるほうにしてみれば総動員しすぎというようにもとれないことはない。
読むほうとしてみれば、あくまでも館もののミステリーとして読みたいところなのであるが、著者としてはとにかく神秘に埋め尽くされた館というものを書きたかったようで、そのへんに温度差を感じてしまった。とはいうものの、著者はどうやら小栗虫太郎の「黒死館」を描きたかったようなので、そういう意図であればしょうがないのかなと思えないでもない。
ただ、ミステリーとしてのできがなかなか良かったので、その辺の説明をあっさりと流してしまったところはもったいなく感じられた。特に「血祭りの館」と「暗夜行路」での動機の工夫については見所といっても良いであろう。
神秘学や、館の秘密に固執することなく、あくまでも一作のミステリーのみとして終始してくれればすばらしい作品になったと思うのだが・・・・・・まぁ、そのへんも好みの問題なのかもしれない。
<内容>
朱雀家の養女となった律子は、“鬼界ガ島”へと向かっていた。二十年ぶりに行われる祭事に生神役の身代わりとして参加するためである。さまざまな因習が古くから残る島にて、その祭りが行われたとき、陰惨なる事件の幕が開けることに。
神罰を受けたという光る死体、一夜にして現われる像、人体発火、カマイタチ等々・・・・・・。不可思議な出来事に彩られた連続殺人事件に朱雀十五が立ち向かう!!
<感想>
おお、これは以外によく出来ている本格作品ではないか。このシリーズは文庫で読んでいるので、リアルタイムでは読んでいないのだが、本書が出た年にはそれほど話題にはなっていなかったように思える。でもこのシリーズは結構良い内容の本格ミステリが書かれているので、知名度が低いというのはもったいない気がする。京極作品の二番煎じだなどとは考えずに、是非とも多くの人に手にとってもらいたいシリーズである。
この作品では様々な不可能犯罪がなされているのだが、中には“バカミス”と褒めたくなるような内容のものも含まれている(作品自体はもちろん大真面目でやっている)。そして、その大味なトリックを島の因習の中ではぐくまれた動機を用いて、うまく味付けした内容になっていると感じられた。
不可能犯罪が繰り返され、探偵が登場してきて謎を解き、真犯人を巡る人間関係が明らかになりと、これほど本格ミステリづくしの作品というのもなかなかお目にかかることはできないのではないだろうか。惜しげもなく色々な要素を詰め込んだこの作品、これは読んでおいて決して損はしないミステリといえよう。
<内容>
養父の後をついで探偵となった浜崎順一郎。彼のもとに来た依頼は、母親である引退した女優を捜してもらいたいというもの。浜崎はその依頼を受け、女優の行方を突き止めるが、娘と合わせる前に女優が何者かに殺害されてしまう。さらには、依頼人が行方不明に。これらの件の真相を見出そうと行動する浜崎であったが、やがて養父が生前調査をしていた現金輸送車強奪事件と繋がりがあることが見出され・・・・・・
<感想>
昨年出版された作品であるが、舞台は1970年代前半。古き時代を舞台としたハードボイルド作品。
前半は結構面白かったかなと。元有名女優の行方を捜すところから始まり、やがてその事件が殺人事件に発展し、さらには、過去に起きた現金輸送車強奪事件へと繋がりを見せてゆく。予想だにしない展開が続き、事件の行く末はどうなることかと白熱していくこととなる。
ただ、中盤以降はだれていってしまったかなと。探偵自身の行動による動きはあるものの、基本的に関係者のもとへ行って話を聞く、というものの繰り返し。事件はそれなりに複雑ではあるものの、そこまで真相を先延ばしにしなければならないほどではなかったと思われる。ラスト近くになってから、真犯人と思しきものがおぼろげになってからも、だらだらと話が続けられていったという感じ。
“喝采”というタイトルに込められたラストシーンは実に効果的で見事であった。それだけに中盤以降の冗長な展開が残念だったかなと。ただ、古き良き時代のハードボイルドという作調は存分に堪能することができた。
<内容>
ゴルフにいく約束をしていた上司と早朝待ち合わせをしていたものの、その上司はいつまでたっても現われない。どうやら、その上司は突然失踪してしまったようなのだ。尊敬する上司をなんとか見つけようと日下部は仕事をしながらも、その合間に上司の行方を追おうとする。
上司の失踪、謎の銃声、ストーカーの常習犯、謎の消防自動車、失踪した人力車引きの老人、生き別れの娘、次々とあらわになる数多くの謎。これらは上司の失踪と関係しているのか??
<感想>
とにかく“だまされた”という感じの小説。といっても、トリックに騙されたとか、ミステリー的なものではない。なんというか、物語の流れと言うか、人は見かけによらないというか、とにかくなんか様々なものに騙されたという気がする。読者のミス・リーディングを誘うというか、なんとも凝ったつくりであると言える小説に仕上がっている。本格推理小説という内容ではないのだが、意外性のミステリーという小説であった。入り組んだ物語の中で、ひとつひとつと謎が解かれ、最終的な真相に到達したとき、タイトルの“ギブソン”という言葉が格別のいろどりを添えることとなるだろう。
<内容>
相良蒼司はテレビ番組で超能力探偵として活躍している有名人であった。相良は画商の仕事もしていて、ある日彼の元に謎めいた“絵”が持ち込まれた。その絵は一輪の白菊が描かれたもので、ひょっとするとロシアとのつながりのある貴重な作品かもしれないというのである。歴史的なものであれば、早めに発表したいので相良の元に持ってきたというのだが・・・・・・。相良がその絵を調べていくと、何者かに命を狙われる事になり、さらには依頼人が失踪するという事件までが起こる! いったいその“絵”に隠された秘密とは??
<感想>
事件が解決されたとき、たしかに意外だと感じられはしたのだが、あまり驚きはしなかった。というのも、起きた事件に対して著者が読者にどのような像を描かせるように書きたかったのかということがはっきりしなかったからである。
本書の中では色々と不思議なことが起こる。曰くつきの絵が出てきたり、探偵が命を狙われたり、失踪事件があったり、記憶喪失の女がでてきたりと。ただ、そういう出来事が起きる中で読者をどのように誘導させたいのかという情景が見えてこないのである。であるからして、不思議な事項が出てきても、あぁそう、というくらいに留まり、真相が明かされても、そうなのか、というだけに留まってしまう。
このような作品を書くのであればもう少し見せ方に工夫を凝らしてもらいたかったところ。そうでなければせっかくの本格ミステリ風の作品も、ただのサスペンス小説と変わりなくなってしまうのだから。
<内容>
わたし(作家の大伴駿平)は、友人であり宇宙物理学の権威である海渡欄太郎をモデルにしてミステリ作品を書いている。海渡は探偵としても名をはせていて、さまざまな依頼が彼のもとにやってきて、その体験をもとに私は小説を書いているのである。
今回海渡が解くこととなったのは、正体不明のストーカー事件。何者かが学生のマンションに勝手に入り込んで写真を撮影していったというのである。一見不可能に見える事件も、海渡はすぐに検討をつけ、事件は解決へと向かう。しかし、その事件がもとで、私達は連続首切り事件と、不可解な密室事件に遭遇することに!
<感想>
なかなか凝った作品。首切り連続殺人の謎と、密室殺人の謎を探偵が解くという内容。ただ、こうして書くと密室殺人がメインのように思えるが、読んでみるとそういった内容のようには思えなかった。
本書で見るべきところは、そのプロットにあると思える。事件の展開を追っていくうえでは、その背景というか枝分かれしたかのような数多くの筋道が物語全てを複雑に見せてしまっている。しかし、それらは著者により計算し尽くされたプロットであり、最終的にはきちんとした筋道によってそれら全てが整理され、事件に一筋に光が差すように描かれている。
この作品を読み終えたとき、内容はさほど似ていないかもしれないが、形態としては法月氏の「生首に聞いてみろ」に似ているように感じられた。そんなわけで、複雑に練られたプロットが紐解かれてゆくさまを楽しんでもらいたい作品。密室に関しては、楽しむというほどでもなかったので、そこはあまり強調しなくてもよいのかもしれない。
職人技が光る本格ミステリ作品ということで。
<内容>
新宿・歌舞伎町にて台湾マフィアによる抗争が起き、警官の手によって幹部が射殺された。その事件の後、大鷹恭一郎警部補が失踪し、彼が懇意にしていた情報屋も行方をくらました。大鷹のことを心配する千木良刑事は、単独で彼の行方を捜査してゆく。すると、不可解な連続殺人事件と、凄腕の殺し屋“死龍”の噂を聴くこととなり・・・・・・
<感想>
一風、変わったミステリという感じ。ノワール風の雰囲気を出しながら、台湾マフィアの抗争と、そこに巻き込まれた刑事の失踪事件を追っていくことになるのだが・・・・・・
微妙と思えたのは、群像小説風にしてしまっていること。なんとなく個性が強そうな設定のキャラクタが集まりつつも、それらの個性が出てきていないし、扱いきれていないという感じ。よって、そんなにたくさんの登場人物の視点にする必要はなかったのではと感じてしまう。もう少し、核になる部分をしっかりと書いてもらいたかったところ。
本書の面白いところは、怪奇な事件が多々起きて、そこにさまざまな要素が加わり、どんどんと不可解な様相に陥りつつも、最終的には単純明快に真相が明かされるということ。読んでいる途中では収集がつくのかと思いながらも読んでいたのだが、最後の最後にはきちんと張り巡らされた伏線を回収し、事態が収束されたと感じられた。ただ、前半部やけに強調していたように思えた風俗に関するなんやかやは、さほど意味がなかったように思えたのだが。
そして、最後にもうひとつ付け加えたいことがあるのだが、それは真相に関しての是非。ノワール風の物語から始まって、組織や人の暗部を掘り出すというような暗い雰囲気で物語が進行しつつも、最後の最後に明かされた真相は、まるでコメディのような冗談のよう。別にコメディ調になっているわけではないのだが、よくよく考えたら、真相にてジョークを突き付けられたように感じられないこともない。ひょっとすると、この脱力感満載の真相こそが本書のキモなのであろうか。
<内容>
制作会社で働く藤岡真は社長から仕事を命じられる。今話題となっている謎の歌姫“ドミノ”を探し出せと。雲をつかむような仕事ではあるが、藤岡はなんとかドミノの噂をたどりつつ、ドミノの招待へと近づいていく。すると、謎の連続自殺事件、暗号文章、そしてゲッペルスの贈り物にまつわる陰謀へと巻き込まれてゆくこととなり・・・・・・
<感想>
感想を書いていなかったので再読。どんな内容であったのか、全く覚えていなかったので、初読の気分で読むことができた。
出だしで“ゲッペルスの贈り物”にまつわる戦時中のエピソードが語られ、次には自殺と見せかけて殺害された俳優の話と、物語はどこへゆくのやら。すると主人公・藤岡真が謎の歌姫“ドミノ”を探すというパートが始まり、これが本書のベースの部分として話が展開してゆくこととなる。
基本的にはスパイもののような冒険譚。サスペンス系の作品として普通に楽しむことができる。いくつか並列に進んでいる事象がやがてまとまって一つになってゆくという内容。物語のなかで、ちょっとした仕掛けというかサプライズはあるものの、実は本筋にあまり関係ないような気がしなくもない。サプライズ性に関しては面白くはあるけれども、やや的外れであったような。
<内容>
ハルさんの妻・瑠璃子さんは二人の子供・ふうちゃんが幼いうちに亡くなってしまった。その後、人形作家であるハルさんは家で自分の仕事をしながら、男手ひとつでふうちゃんを育ててきた。そんなふうちゃんもとうとうお嫁に行くことに。挙式の直前、ハルさんはふうちゃんと過ごしてきた時間を思い起こす。
娘の成長を優しく見守ってきたハルさんの体験を綴る、ほのぼのミステリ。
<感想>
あくまでも小説としておもしろかったなと。一応ミステリとして綴られてはいるものの、ミステリのネタとしてはさほど特筆すべきものはなく、ネタとしては結構わかりやすいものであった。よって、ミステリという手法を取り入れつつ、一組の親娘が成長していく様を描いた作品という見方でよいのだろう。
ただ、小説としても亡くなったはずの瑠璃子さんが、ハルさんが困るたびに頭の中に話しかけてきたりと、ちょっと都合がよすぎると思われる部分もいくつか感じられた。とはいえ、ハルさんとともに、ふうちゃんが成長していく様を感動をもらいながら共に見届ける事ができたというのも事実である。
陰惨な事件とかそういったものが含まれるミステリは好きではないという人にもお薦めできる本と言えよう。ひとつの親娘の小説として多くの人に読んでもらいたい作品である。
<内容>
新米刑事の香月七海は殺人現場で死体を見て、思わず嘔吐してしまい、その出来事がもとで新任早々左遷されてしまう。彼女の左遷先は“猟奇事件特別研究室”という見るからに怪しげな部署。その部署のメンバーは室長である美咲嶺、唯一人。この室長の下で働くうちに香月は美咲がかなりの変人であることに・・・・・・そしてさらには美咲が優秀なプロファイラーであることにも気づき始める。二人は、死体から眼球がくりぬかれるという、“眼球蒐集家”事件を追うことになるのだが・・・・・・
<感想>
なんといっても気になってしまうのが、あまりにも“ありがちな設定”ということ。どじで役立たずな女刑事、配属されるのが署の左遷先と呼ばれるような怪しげな部署、そしてそこの担当者が変人であるが実は優秀なプロファイラーであるという、どれもどこかで聞いたことのあるかのような設定である。何ゆえ、いまさらこのような内容の本を? と疑問に思わずにはいられない。
とはいえ、内容に関してはそれなりに面白く読むことができた。犯人の特定の仕方あたりをもう少し工夫してもらいたかったとか、いろいろと注文はあるものの、物語自体はなかなかうまくできていたのではないだろうか。さほど無駄も無く、また読みやすさという点でも評価できると思う。
案外、これ以降出る作品には期待が持てるかもしれないと思わせるものは有ると思う。ただし、できれば本書のシリーズ化はせず、他の内容のものに挑戦してもらえればと思う。このまま行ってしまうと、それではライトノベルス路線となんら変わりがないのでは?
<内容>
相原茅乃は32歳独身のOL。それが結婚を夢見て付き合っていた男から、思いもよらず振られる羽目に。そんなときに彼女の元に届いたのは幼馴染からの結婚パーティーの招待状。茅乃の両親も出席することにより、その場で彼氏を紹介しろと一方的に言われてしまう。茅乃はしかたなくエスコート・サーヴィスという会社から男をレンタルし、急遽仕立て上げた恋人と結婚パーティーへと向かう。しかし、その結婚パーティが行われている中、思いもよらぬ事件が起き、しかも現場は外部から孤立してしまう。不安とどん底の中、急に茅乃は名探偵に目覚め始めるのであるが・・・・・・
<感想>
デビュー作である前作ではいろいろと物議をかもし出したせいか、今作ではがらりと設定を変えてきた。その結果どうなったかというと・・・・・・なんか単なるOLミステリーになってしまったというところ。
本書を読んで感じたのは、とにかくミステリーの濃度が薄いということ。ただ単に30代の独身OLが勝手にばたばたしている様相が描かれていただけという印象でしかない。前半に登場するやたらと濃いキャラクター達は物語に一切関係しないし、事件も物語の半分を過ぎなければ何も起こらなかったりと正直読み通すのがつらかった。
肝心のミステリー部分の出来はどうかといえば、そこそこよく練られていたのではないかと思えるもの。ただ、それを明らかにするうえでの伏線などがろくに張られていなく、ラストだけで一気に凝縮してまとめてしまったという感じであった。結局のところ、全編とおしてミステリーとして物語が描かれていなかったのだから、そうなってしまうのも仕方ないといえよう。そのために冒頭の事件記事の挿入部分がやけに浮いてしまっているように感じられた。
こういう作風であるならば、もっとページ数を薄くして旅情風景などをとりいれれば、違う路線で売れるのではなかろうか。
<内容>
聖遷暦1213年、カイロはナポレオン率いるフランスの軍隊が今にも攻め入らんとしていた。それに対抗せんとしているのはイスラム側の軍事指導者の一人、イスマーイール・ベイ。彼は側近のアイユーブの助言によりひとつの賭けを試すことに。それは“災厄の書”の力を持ってフランス軍を退けようという試みであった。
そして夜毎、不思議な物語が語られてゆく。それは三人の男を主人公とする物語であった・・・・・・
<感想>
いや、なんとも言いようのない不思議な物語であった。主となる話はフランス軍をイスラム軍が退ける、という内容である。・・・・・・のだが、その退ける方法が“書物を用いて退ける”というものなのである。その書物というのが“災厄の書”というものであり、本書はその“災厄の書”の内容に多くのページが省かれている。物語が徐々に語られてゆく中で、徐々にフランス軍はカイロに攻め入ってきて、やがて戦争へとなるのだが・・・・・・はっきりいってこの主たる部分がわかりづらかったというのが正直なところ。結局“災厄の書”がどういう効果をあげたのか、ということもなんともわかりづらかった。
では、本書は面白くないのかというと、そんなことは決してない。なんといってもこの本で圧倒されるのは“災厄の書”の中身について。この“災厄の書”では3人の主人公が登場し、彼らそれぞれの人生が語られて、やがてその三人の人生が交わってゆくことになるというもの。この物語が本当に先が読めないものであり、先行きがどうなるのか気にせずにはいられない内容となっている。
最初は軍事的な策謀めいた話から始まり、それが魔法の話、さらにはRPGのような内容へと次々と異なる展開へと進んでゆく。そして最終的には3人の主人公がどこへ到達するのかというと・・・・・・それは読んでのお楽しみという事で。
なにはともあれ、本書は確かに“長い”小説ではあるのだが、それを理由に読まないというのはとてももったいないほどの出来なので、余裕のあるときにでも是非とも挑戦してもらいたい本である。ファンタジー小説が好きな人には是非とも読んでもらいたい物語。
<内容>
これは、ちょっと切ない小説家もしれない。
つまり僕が終わっている。第二の僕の物語はそこから始まる。
(書籍、帯文より)
<感想>
度肝を抜くようなオープニングでどんな物語になるかと思いきや・・・・・・オープニング以後は普通(?)の展開であった。これは小説というよりは著者の日常を描いた作品と言えばよいのであろうか。ただし、虚構も交えて書いているようなので完全なノンフィクションという事ではないようである。ただ、そういった日常を描くにしても、なんらかの物語というものにからめたいという意思が描かれており、本当に物語になっているかは別として、変わった様相の本となっている。
とはいえ、古川氏の本を最初に読むという人には向かない作品であるかもしれない(えらそうに言っている私自身はというと、これが著者の本を読むのは2冊目である)。
<内容>
省略。
<感想>
内容は省略する事にした・・・・・・というより、何を書いてよいのか、まとめきることができなかった。
これはまさに“犬の世界史”、もしくは“人間の裏世界史”というような物語である。いや、物語というのもそぐわないような気がする。この本を読んでいるときは、物語を読み進めるというよりは、歴史の流れに奔流されるというような感触を受けていた。これはなんとも奇妙な味わいの本であった。
この本に対する強烈な印象とか、よくこういった内容のものを描きあげることができるなとか、そういった感心はできるのだが、その内容自体はあまり評価できるものではない。犬の歴史と並列に人間の構想も描かれているのだが、両者の関連性が希薄であり、さらには人間のほうのパートは何か中途半端なように感じられた。もう少し物語自体にも力を入れてもらいたかったところである。もし、本書がそのような物語性に力を入れるものではなく、あくまでも犬の歴史を描いたものであるというのならば、かえって人間のパートを中途半端にいれなくてもよかったのではないかと思われる。
何はともあれ、本書が印象に残る強烈な一冊であるという事だけは確かである。
<内容>
小学3年生のぼくのクラスでは、マキが女王様となり、教室を支配している。ぼくの幼馴染で学級委員のメグはそんなクラスの状況に心を痛めて、マキに意見するも、益々自身の立場を悪くしている。そんなとき、東京からエリカという転校生がやってきた。彼女はマキから女王の座を奪い、クラスを支配し始める。それを面白く思わないマキとのグループとの間でいざこざが絶えなくなることに。そして、夏祭りの日に大事件が起こることとなり・・・・・・
<感想>
今年の「このミス」大賞の受賞作であるが、子供向けというくらいの作品に思えてならない。舞台が小学校の低学年だからかもしれないが、全編通しても大人向けの小説という感じではないかなと。
物語は二部構成となっている。章のタイトルにもあるように“子どもたち”の章より事件が起き、“教師”の章により徐々に物語を回収していく。そうして、最後の“真相”により、全てが明らかとなる。
物語全体の構造がつかみやすいためか、ミステリとしてのネタ的なところはわかりやすい。また、とある真相に関しては、物語上でも成り立たなそうな感じがして気になったところ。全体的に読みやすい作品ではあったが、あまり読み応えがなかったという印象。
<内容>
省略。
<感想>
新たなるメフィスト賞受賞作であり、そのページの厚さや帯などの推薦文句から、これは久々に新本格として期待できる新人が現われたのではと思ったのだが・・・・・・こちらが考えていたようなものとは違っていたようだ。私的には、かつての清涼院流水氏の作品を読んだような、そんな気にさせられた本であった。
舞台は、現代と軍国主義とを合わせ持つような架空の世界にて、吹奏楽部に所属する者達が殺人事件や陰謀に巻き込まれてゆくというもの。
と、結構複雑な設定や複雑な人間関係を用いて作品が書かれているのだが、これらが恐ろしいほど説明されていない。何か説明の文章が書きつづられているなと思うと、いつのまにかそれが関係のない話となり、結局のところ何がなんだかわからない・・・・・・という形式のまま延々と話が語り継がれてゆく。
序盤は事件がほとんどおこらず、吹奏楽部員による(個人的には話にいまいち乗ることのできない)やりとりで話が進められ、中盤くらいからは少しずつ事件が挿入されてゆく。そして、後半になってようやく推理小説らしい(ただしこれも中途半端と感じられた)展開となる。
まぁ、このような感じで最初から最後まで話に乗ることができずに、物語が終わってしまったというところ。また、推理小説としても何が重要なのか、何を見せんとしたのかをつかめないまま読み終わってしまった。
とにかく、推理小説云々よりもこの語り口に乗ることができるかが一番重要なことであるのかもしれない。次作が出たらどうしようかと思うのだが、最初の作品でミステリの濃度がこれくらいなのであれば、今後はもう読まなくていいかなくらいに思っている。
<内容>
軍部が日本を支配するパラレルワールドの日本。満州に来ていた古野まほろは激しくなってきた戦局から逃れるために、日本へと帰ることに。知り合いが手配してくれたのは、豪華寝台特急“あじあ”。古野は同級生の柏木と共に寝台特急に乗り込み、日本への帰途につくこととなった。しかし、その豪華寝台特急の中で、ある乗客がバラバラ死体で発見される! 事態の収拾をはかるべく、古野や他の乗客たちが犯人を特定しようとするのだが・・・・・・
<感想>
前作「天帝のはしたなき果実」を読んだときには、もうこの作家の作品は二度と読むまいと思ったのだが、思いの他この作品の評判が良かったので、とりあえず一度我慢して読んでみようと思い立った。そして読んでみたところ、確かに前作よりもずっと探偵小説として完成されていて、なかなかうならされる内容となっていた。これは確かに一見の価値がある作品だと言えるものであった。
本書では疾走する寝台車が舞台となり、そこで殺人事件が勃発する。セキュリティによって監視されている中をかいくぐって犯人はいかように犯罪を成し遂げたのかがポイントとなる。また、作中でふたつの殺人事件が起こるのであるが、事件における謎を24項目提示し、それをもとに事件の謎を解き明かしていくという手法がなかなか面白いと感じられた。さらには、最後の推理合戦の際、探偵役を名乗り出たものが7人おり、それらひとりひとりが自分の推理を披露していくという展開も探偵小説らしく、非常に雰囲気のよい作品となっている。
というわけで、なかなか探偵小説としての密度が濃くなっているのであるが、前作と同様の作調で話が展開されているのは賛否両論があるのではないかと思われる。本書の作調の雰囲気に溶け込めることができれば、その人にとっては完全無欠のミステリ小説となるであろう。
ただ、私にとってはその雰囲気に溶け込むことはどうしてもできなかったので、できればあと150ページほど余計な部分をそぎ落としてくれれば、心のそこから本書は名作であると言うことができたのではないかと思える。さらにもうひとつ付け加えれば、事件解決後の最後の50ページはほとんど読み飛ばして終えてしまった。著者にとっては、あくまでも作風なのであろうが、私にとってはその漫画チックな描写は余計にしか思えないのである。
そんなわけで、次回作も無条件に買うということはせずに、評判が良ければ買うというふうに留めておこうと思っている。
<内容>
古野まほろら10名が演劇の合宿として訪れた“天愛島”。彼らが島にたどり着いた翌日、仲間のひとりが死体で発見され、ひとりは行方不明に。その後も次々と彼らを襲う舞台劇の衣装をまとった謎の“死神仮面”。誰が? いったい何のために!
<感想>
今まで出版された3冊の作品の中では一番本格ミステリっぽい作品のような気がする。ただし、あくまでも“本格ミステリ風”としか感じられないのもまた事実である。
一応、わかりにくいながらも、それなりにちりばめられた伏線を回収し、ミステリっぽく解決へと導いている。ただし、伏線といっても独特の作調のなかに埋もれているので、そのひとつひとつを判別するのは難解。また、解決にかんしても論理的のようで無理やりのようなという感じで、あまりふに落ちたという感じはしなかった。
この作調や文体に関しては、もはや作風というものなのでケチをつけても始まらない。とはいえ、もう少しまじめに描いてくれれば作品の印象もがらっと変わるような気がしてならないのは残念なところ。
こういう文体であるかぎりは読んでいてストレスがたまってしまうので、とりあえずここまでの三作品で古野作品は読まなくていいかなと思っている。清涼院氏の作品などと同じで波長が合う人のみが読み続けていけばよいのではなかろうか。
<内容>
大学受験に失敗し、浪人の身となった渡辺夕佳の元に“夢路邸”への招待状が届く。何故自分にそのような招待状が届くのか見当がつかないものの、高校の先輩でピアニストであり、恋人(?)の八重洲家康を引き連れ、館へと向かう。そこに集められた8人の人物+1人。彼らに告げられたのは過去の罪と殺人の予告。そして閉ざされた館のなかで次々と起こる不可能殺人事件。誰がいったい何のために? 夕佳は八重洲家康とともに謎を解こうとするのだが!?
<感想>
久々に読む古野氏の作品。ハードカバーで出ているのが気になり、なんとなく購入してしまった。副題に“Yの悲劇'93”と書かれていたことも気になったのだが、読んでみればどちらかといえば“そして誰もいなくなった”という感じ。
かつて古野氏の作品を読んだ時の印象と比べれば、多少なりとも読みやすくなったという気がする。初期に書かれた3作品と比べれば格段に内容を読み取れる作品となっている。内容はクローズド・サークル・ミステリとなっており、閉ざされた空間で次々と殺人事件が起こるというもの。
作品に関しては、まぁまぁ満足できたかなと。ただ、読む前に少々期待しすぎてしまったようなところがある。動機に関しては凝ったものとなっているのだが、ひとつひとつの不可能殺人に関しては、やや粗いかなという気がした。もう少し、それぞれの犯罪に関して丁寧に作ってくれれば、もうちょっと評価は上がったかもしれない。
まぁ、結局のところ普通のミステリという範疇に収まってしまった作品ということで。
<内容>
二条実房は学生時代は活動家であったにもかかわらず、その後キャリア警察官となり、2ヶ月の制服勤務を終え、刑事課に配属された。自ら指導係をかってでた眞柴警部補にしごかれ、辛くも充実した日々を過ごすこととなるはずであったが、そんな二条の前にかつての親友・我妻雄人が現れる。彼は電車内で恋人である佐々木和歌子を殺害し、自首してきたというのだ。いったい何故、我妻は自分の恋人を殺さなければならなかったのか? 新人ながらも二条は我妻の取り調べを担当することとなり、事の真相を調査するのであったが・・・・・・
<感想>
背景はいつもながらの古野まほろ調の世界観なのだが、今作ではなんとそこで警察小説をやっているのである。
個人的な見解を述べれば、悪くもないが良くもない。そもそも何が良くないかと言えば、本格推理小説用に用意した世界の中で(そもそも本格推理小説としても成り立っているかどうかは微妙であるが)、リアリズム重視の人情ドラマをやってもちぐはぐにしか感じられないのである。
また、事件自体も電車内で人を刺した男が自首をし、その容疑者を元の親友が調べるというのみにとどまるもの。場面の多くが取調室であり、動きが少ない。また、焦点も“何故”という一点だけであり、見せ場も少ないため、話の展開が退屈に感じられてしまう。
決して悪い点ばかりではないと思うのだが、本書を人情ドラマとして許容できるかどうかで作品に対する受け止め方は変わってくるのではないだろうか。ミステリ作品としては、伏線等があまりにも漠然としていたように思え、決して濃い内容であったとは思えない。
古野氏にとって、新機軸と言えるのか、はたまた実験小説であるのか、まぁ新進の作家であるので、色々なことに挑戦してみるというのは決して悪いことではなかろう。