は行 ひ  作品別 内容・感想

イッツ・オンリー・ロックンロール   

2007年07月 光文社 単行本
2010年02月 光文社 光文社文庫

<内容>
 博多に住むロッカーの青木満。かれは“ロウ・マインズ”というバンドを組んでいたが、一行に売れる気配がないまま34歳を迎えていた。しかし、連続爆破事件の現場に彼らが出したインディーズのCDが置いてあったことから、一躍有名になることに。刑務所に入っていたベースのべっさんが出所したのをきっかけにさまざまなライブハウスで活動を始め、新たなCDも出した“ロウ・マインズ”。メジャー・デビューを夢見る彼らの行く末は!?

<感想>
「このミス」大賞で大賞とは別の賞を受賞し、作家デビューした東山氏。ただし、私はそのデビュー作は読んでいない。しかし、その後本屋では東山氏の作品をよく見かけていた。「このミス」大賞から出た作家で活躍し続けている作家というのは今のところ少ないように思える。そうしたなかで本を書き続けている東山氏に注目はしていたのだが、なかなか触手は動かず、今まで読まないままでいた。今年になり、この「イッツ・オンリー・ロックンロール」が文庫化されたのをきっかけに初めて読んでみることとなった。

 東山氏の作品は今まではミステリ作品を主体に書いてきたようであるが、この作品前後から作風の異なるものも書き始めるようになったとのこと。本書は中年たちの青春小説とでもいうような内容の作品になっている。感覚的には荻原浩氏あたりを連想した。

 30を超えて、ようやくロッカーとして認められ、成功の道を歩み始めようとする男の人生が描かれている。ただし、成功と言っても決して華々しいものではなく、ちょっとしたきっかけで、少し有名になったという程度。それを足がかりになんとかメジャー・デビューへとつなげようと四苦八苦する様子が描かれている。

 とはいえ、それらが決してうまくゆくわけではなく、苦労してのぼりつめようとしても現実的なギャップに打ちのめされることとなる。こう書くと普通のサラリーマン小説のような気がするかもしれないが、そこはロックンローラーの人生を描いているということもあり、かなり破天荒な人生の浮き沈みが描かれている。

 そうして彼が最終的に手にするものは何か? 夢と現実のはざまを描いた良作と言えよう。


本格推理委員会   6点

第1回ボイルドエッグズ新人賞受賞作
2004年07月 産業編集センター

<内容>
 俺、城崎修は小中高一貫の木ノ花学園に通う生徒で、今日から高等部に進級することに。その高校生活をだらだらと過ごそうと思っていた俺は突然理事長から呼び出しを受ける。呼び出された内容はというと、理事長じきじきに“本格推理委員会”へ入会するようにと命令されるのだが・・・・・・
 いやいやながらも俺はいつしか学園の噂になっている音楽室の幽霊事件を調べることになり・・・・・・

<感想>
 ミステリーというよりは著者があとがきにて述べているように、ライト系のノベルスまたはキャラクター小説というような位置付けの本になるのだろう。実際、数多く登場するキャラクターの設定が面白く、憶えやすく、話の中にのめりこみやすくなっている作品である。出版の形態は別として、本当にライトノベルスらしい本といえるのだが、普通にライトノベルス系の出版社から出ていたほうが多くの人に読まれたのではないかとつい邪推したくなってしまう。

 本書はミステリーの内容としてはいまいちだと思う。何よりもミステリーとして進行している部分が少なく、事件自体もただ単に音楽室に出る幽霊の正体をとくというもの。しかも、その結末も純粋にミステリーとして解かれるというよりは、とあるキャラクターのためだけの事件というようにもとらえることができる。

 本書がもしもこれから続編が出るとするならば、その一連のシリーズの中での一冊丸々のオープニングといったところだろうか。ここから物語が始まり、次回作に期待してくださいといわんばかりの内容という感じである。

 といいつつも本書は、とある少年の青春小説として堪能できる物語となっているので一冊の本としても十分楽しむことができる。また、ちょっとしたミステリー的な仕掛けも心憎いばかりである。

 本書をライトノベルスとするならば2冊分くらいの読み応えはあるといえるだろう。


ユーディット ⅩⅢ   6点

2012年05月 東京創元社 ミステリ・フロンティア

<内容>
 将来を嘱望されていた日本人青年画家の不破はパリの美術館で一枚の絵画と出会う。それは“ユーディット ⅩⅢ”という作品。この作品を見た時に不破は、これを超える作品を書くことはできないと絶望し、絵を描くことを止め、ヨーロッパを放浪する。堕落した生活を送り続けている不破は、とある特殊部隊の将校から誘われることとなり、美術品の奪還作戦に関わることとなる。その美術品のなかには、ナチスドイツに略奪された“ユーディット ⅩⅢ”が含まれており・・・・・・

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<感想>
 スパイ冒険小説。第二次世界大戦中、一枚の絵によって運命を狂わされた画家が己の運命を変えるために、絵画の奪還作戦に乗り出すという内容。そこにヒトラーの暗殺計画が加わってくる。

 まぁ、普通にスパイ小説というか、冒険小説をしているという作品。別に悪い内容ではないと思うのだが、複数起きている事項やそれぞれの登場人物の背景などが、きちんと重なり合うことなく、単純に話が進められてしまうのが微妙なところ。

 絵画奪還計画がメインであり、そこにヒトラー暗殺計画という路線も加わってくるのだが、この2つが全くと言っていいほど混じり合わない。ヒトラーを登場させたところが物語上どこまで効果をあげているかが微妙。また、絵画奪還計画に加わっている面々の紹介もいくつかされるのだが、その後その紹介が全く生かされていないのはどうしたものか。これでは、単にページ稼ぎであるかのようにしか感じられない。

 絵画奪還計画のみをもっと中心に配置し、他はもっと薄口に描いてもよかったのではないかと思われる。そうした細かなエピソードが絡み合わなかったところが、腑に落ちないと強く感じられた作品。


独白するユニバーサル横メルカトル   6点

2006年08月 光文社 単行本

<内容>
 「C10H14N2(ニコチン)と少年−乞食と老婆」
 「Ωの晩餐」
 「無垢の祈り」
 「オペラントの肖像」
 「卵男(エッグマン)」
 「すまじき熱帯」
 「独白するユニバーサル横メルカトル」
 「怪物のような顔の女と溶けた時計のような頭の男」

<感想>
 本屋で表紙を見て、その異様さからなんとなく手に取ってしまった作品。後に各界隈で取り上げられていて話題になっている作品であるという事を知る。それで読んでみた印象はというと、あまり目新しさは感じられなかったなと。

 このような作風であれば、角川ホラー文庫の作品を読んでいると結構目にすることができる。有名なところでは小林泰三氏の短編などをあげることができる。ゆえに平山氏独自の特徴をあげるというのは難しい。読了後に残るのはそのグロさと、やりきれなさ、などとそういったモヤモヤとしたものが残されることとなる。

 面白かったのはやはり表題にもなっている「独白する」であろうか。これは地図が主眼となって、その身に起きた事件を独白するというもの。“もの”が語るミステリというのは、さまざまな作品で使われている手法であるが、この作品の地図はかなり自己主張が強く、まさに“独白”という雰囲気があっており奇妙な世界を創り出すことに成功しているといえよう。

 その他にもSF的な設定がなされた「卵男」や原住民の言葉を不思議なリズムで語り継いでゆく「すまじき熱帯」、人を喰い続ける男の末路を描いた「Ωの晩餐」などとそれぞれが注目すべき作品となっている。

 この作品集はグロテスクさにあふれているので、いろいろな人にお薦めできるとは言いがたい。そういったのを気にしなければ、なかなか読まされる短編集であるということは間違いない。私自身もあれこれと文句をつけながらも、一作品目を読んでからは作品に惹き込まれ、一日で読み通してしまった。


ミサイルマン   6点

2007年06月 光文社 単行本

<内容>
 「テロルの創世」
 「Necksucker Blues」
 「けだもの」
 「枷」
 「それでもおまえは俺のハニー」
 「或る彼岸の接近」
 「ミサイルマン」

<感想>
 前作「独白するユニバーサル横メルカトル」により、一気に有名作家となった平山氏。そんな期待を負いながらの前作に続く短編集が本書となる。

 最初の「テロルの創世」を読んだときは、やられた! と思った。町レベルでの話が徐々に世界レベルへと展開して行き、そして最後には途方もないところまで飛び出してしまうという結末が待ち構えている。これは、何が飛び出すかわからない作品集であり、今回もやってくれるなと期待させられた。

 ただ、そんな期待をさせられたのは最初の一作くらいであったかなと。

 吸血鬼の話か、はたまた究極のSMの話なのか!? 究極の醜男の恋と嫉妬を描いた「Necksucker Blues」
 家族レベルで、変身する怪物の苦悩を描く「けだもの」
 とある制限を設けたコレクターの先行きを描いた「枷」
 ぐうたらと淫売の行く末を電話の音を響かせながらノワール風に描いた「それでもおまえは俺のハニー」
 スティーブン・キング風のミュータントに襲われる家庭の情景を平山氏風に味付けした「或る彼岸の接近」
 平山氏が青春小説を描くとこんな風になる「ミサイルマン」

 と、それぞれ要約すればこんな感じ。ある程度面白く読めたのは「枷」と「或る彼岸の接近」くらいであろうか。あとは、前作とそう代わり映えのしない内容といったところ。すでにマンネリ化してしまったのかと思いつつも、そう考えるよりはこういうものこそが平山氏の作風であると捉えたほうがよいのであろう。一時期メジャー化したのがおかしな話で、基本的にはアンダーグラウンドで活躍する作家という感じがするので、前作のブレイクなど関係無しにどんどん作品を描いていってもらいたいところである。そんなこんなで、次回作が出ればまた読んでみたいとは思っている。


DINER   

2009年10月 ポプラ社 単行本

<内容>
 普通のOLであるオオバカナコはふとしたことから携帯闇サイトで募集していた怪しげなバイトに応募してしまう。すると、命の危険にさらされたあげく、ボンベロという男がひとりで働く食堂に売られる羽目に。その食堂は当然のことながら普通の食堂ではなく、殺し屋たちが集う特殊な食堂であった。

<感想>
“ダイナー”というのは、ハンバーガーなどを提供するアメリカナイズされた食堂のことらしい。その“ダイナー”風の殺し屋が集まる食堂にて、非日常的な出来事がつづられている作品。

 ただ、読んでみると“殺し屋”というよりは、単にサイコな変態たちという印象のほうが強かった。どう見ても殺し屋という感じには思えなかった。平山氏の作風というとどうしても“グロ”が先行してしまうせいもあり、その描写から“殺し屋”というものをイメージさせるのは難しいように思える。

 最初はいつもの平山作品らしく、グロテスクさが先行する怪しさのみの内容かなと思って読んでいた。しかし、実際にはハードボイルド調のちょっと良い話にだんだんとなりつつあった。これは、この描写にふさわしくない内容。決してこの描写は、ハードボイルド風のものとは相いれないものであると思われる。そんなわけで、違和感ばかりが先行する作品であった。

 こうしてみると平山氏の作風は短編向きなのかなと。もしくは、もっと救いようのない内容こそが平山氏らしいエンターテイメントではないかと勝手に思い込んでいるのだがどうだろう?




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